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リアクション
第5章 狂気が染み込む武器の研究
その頃、西の塔では真言たちが、魔科学で武器を作ろうと研究に没頭している。
「分量はこんなものでしょうか」
黒い羽がついた器にルビーをカラカランッと入れて火術で燃やす。
器の中が赤々と燃え、炎が消えると宝石の熱を媒体に、術の炎は宝石のように結晶化した。
ルビー色に輝くその中は、オレンジ色の輝きが揺らめいている。
「そろそろ武器を入れる枠が出来そうですね」
溶鉱炉で鉄をどろどろに溶かして容器に入れ、冷えた頃合を見計らって型を外す。
「溶接にはこれを使わせてもらいましょう」
プラグにコンセントをさし、はんだごてで枠をジュジュッと溶接する。
「コードを魔女たちが貯めた魔力炉につなげれば、とりあえずこれでひと段落ですね」
ティティナの方は汚れた服を隣の部屋で洗濯している。
「結構な量がありますわね。ふぅ、終わりましたわ」
ぱっぱと服の皺を伸ばしてハンガーにかけて物干し竿に干す。
「料理は皆様スープが良いのかしら?」
カップに入ったギャザリングヘクスを見ながら研究室にいる者たちに聞く。
「そうね、軽く済ませられるものがいいわ」
「では少しだけ待っていて」
彼女はそう言うとカフェのキッチンを借りて、簡単な野菜スープを作る。
「(ここでも見張りはつくのね)」
傍にいる魔女のちらりと見て、ふぅと肩をすくめる。
「出来ましたわ」
鍋を抱えて西の塔の3階へ戻り、鍋敷きの上へことんと乗せる。
「皆様、どうぞ召し上がって」
お玉で器に注ぎ、並んだ順番にスープを渡す。
「温まるわね〜」
「家事まで手が回らないから手伝ってくれて助かったわ」
「フフフッ、喜んでいただけて嬉しいですわ」
出来立てのスープが鍋の中からなくなり、ティティナは嬉しそうに微笑む。
「お姉様、その調子ならもうすぐ出来そうかしら?」
「えぇ、武器を入れる枠が出来たんで、もうすぐ完成しますよ」
休憩を終えて作業に戻った真言が彼女の方を見て言う。
ナラカの蜘蛛糸を枠の入れて、その上に火術の結晶をパラパラと散りばめてレバーを引く。
魔力に包まれた結晶は武器へ染み込むようにどろどろと溶ける。
「ここの魔女さんに教わった呪力を定着させる言葉を唱えるんでしたっけ」
武器の上へ手を翳し、ぶつぶつと小さな声音で唱え始める。
「zerreiβen Flamme. zerschlangen verbrennen. w’’urgen Gl’’uhen Spinne Ein Faden」
その言葉に反応し、赤々と燃え出した炎が武器に吸収されていく。
「おめでとう、それで完成よ」
「ありがとうございます」
枠からナラカの蜘蛛糸を取り出すと、それはルビー色に変化している。
「炎を使いたい時だけ、そう念じればいいのよ」
「それなら持ち歩きやすいですね」
「まぁ、試作品だから。どこまで効果が持つかしらねぇ」
「もうしばらく研究させてもらいたいです。他にもいいアイデアが浮かぶかもしれませんし」
「えぇどうぞ♪」
「試しに使ってみるんでしたら、私が作った人形に使わせてみて、安全性を確かめてみてはいかがでしょうか?」
真言が開発した武器を衿栖が考えた人形に使わせ、簡単に扱えるものかどうかテストするためにもと声をかける。
「そうですね、お願いします」
「分かりました。まずは小さな飴玉サイズにした魔力の塊と、水と鉄分・・・ケイ素などをマジックフラスコに入れて溶かします」
フラスコを振ると素材が溶けて液体状になる。
「私の髪を1本抜いて・・・もう1度振ると、拳サイズくらいの塊になるんですね」
その部屋から借りた本のページをパラパラと捲り、参考にしながら作る。
使ったフラスコは蒸発するように消え去り、液体と合成された塊がころんとテーブルへ転がる。
「(城に入れたのはいいけど、問題はこれからよ)」
研究に夢中になっている衿栖の傍らで、自分たちを見張っている魔女を朱里がちらりと見て、最も厄介な存在だとため息をつく。
「(今のところ城の人たちに害を与えようとか考えてないけど、いざ実行に移すとなった時が一番危険なのよ。それこそリトマス試験紙じゃないけど、すぐ反応が出るわけだからね)」
ディテクトエビルに反応しないようにこの後のことを考えず、じっと彼女の研究を眺めている。
彼女の心配を他所に衿栖は人形を作り始めている。
「外の方はだいたい縫い終わりましたから、次はシリンダーの中で浸しておいた綿を詰めましょう」
炭素や鉄、リンなどの水に溶かした溶液につけた綿を人形に詰める。
「最後に・・・さっき作っておいた動力源になる塊を心臓部分に入れた後、まだ作業はあるんですよね。えーっとこの本に書かれているモノに命を吹き込む言葉を言うんでしたっけ」
付箋をつけておいたページを開き人形の前へ立つ。
「Die Baumwolle wird das Fleisch. Die Puppe hat vorlaufiges Leben. Der Name Ihres Meisters ist Elisu. Umzug; eine Puppe!」
衿栖の言葉に反応した人形の手足がパタンッと動き、ゆっくりと起き上がった。
詰めた綿はそれの肉のようになり、仮初の命を得た背の高い人形は、彼女だけに従うように立ったまま命令を待つ。
「人と同じ成分の元素で作った溶液が、上手く綿に染み込んで完成したみたいですね♪」
「隣の実験室で試してみない?」
「そうですね、真言さんが強化したナラカの蜘蛛糸の威力を人形で試してみましょうか」
「えぇ、お願いします」
「では人形に命令しますね。あのドラム缶を壊してください!」
人形は衿栖に従い、鉄のドラム缶をバラバラに切り裂き溶かした。
「あら、跡形もないですね・・・。命令によって加減が効くかもしれませんが」
「とっても素晴らしい出来栄えよ♪さっそく作り方を記録しておこうかしら」
実験の様子を見た魔女たちは2人の研究をノートに記録した。
「俺も作ってみたんだが、試してみないか?」
「なぁにそれ」
「各属性同士が干渉し合うよう配置されたエネルギー循環増幅システム五行炉・陽と、エネルギー循環抑制システム五行炉・陰だ」
首を傾げる魔女に唯斗が説明する。
自然界に存在する金属や元素を使い、香炉のような道具から吹き出る魔法の煙で溶かしながら形を整えて文字を彫り、魔道具を作ったのだ。
「陽は自分の魔力を強化し、陰は向けられた魔力を抑制するんだ」
「ふぅ〜ん強化する方はバンクルみたいな形ね?制御する方は手袋っぽいわ。炉のイメージとは違う気がするんだけど」
「とっさに使う時、その方がいいと思ってな。炉と言っても香炉だとか、そういった形のことじゃない。イメージしている炉の形でいいなら作り直すが」
「いえ、この方がいいわ」
「さて試す相手がないだろ?俺が実験台になってやろう」
「あら、いいのかしら。直撃しても知らないわよ♪」
魔女は雷術を放ち、彼を的のように狙う。
「(遠慮なく撃ってくるな)」
実験場の物を盾代わりにしつつ、陰で制御して壁へ弾き飛ばす。
「空から降ってくる雷くらいの威力はさすがに無理だけど。それなりにあるみたいね」
山積みのダンボールが一瞬で塵と化し、彼女は満足そうにニヤリと笑う。
「ほらほら、もたもたしていると感電しちゃうわよ?」
「うっ!五行炉・陰が耐え切れなかったか」
「残念ね、作り直しよ」
「そうだな・・・強度が足りないようだ」
書き込んだメモを見ながら作り直す。
「出来たぞ」
「じゃあ試させてもらうわ。今度は別の術でね!」
氷術で作り出した氷の矢を唯斗に向かって放つ。
「くっ、今度は5回で限界か・・・」
相手の魔力を制御しきれず、凍てつく刃が彼の腕を掠めてしまう。
何度も作り直しては的にされ実験台にされる。
試作品を完成させた唯斗の身体は、魔法で傷ついてしまっている。
「(これでもおそらく15回制御する程度だろうな。向こうの強化回数もそれほどないだろうから、魔女たちには黙っておくか)」
いざという時のために、使用限界について黙っておくことにした。
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