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【2021正月】お正月はハワイで過ごそう!

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【2021正月】お正月はハワイで過ごそう!

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第一章 海だ!

「青い空!」
「白い雲!」
「そして――」
「「青いうみーー!キャー!!」」

水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)マリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)の二人は、歓声をあげて、視界一杯に広がるワイキキの海へと一斉に駆け出した。

二人は、このハワイ旅行に気合を入れていた。二人は、去年の夏は海やプールとはほとんど縁のない日々を送っていた。それが、まさか冬にもなって、海水浴ができるとは思ってもいなかったのだ。
ホテルに荷物を置いた二人がまず最初に向かったのは、大型ショッピングモール『アラモアナセンター』。「ハワイで着る水着はハワイで買おう!」という訳だ。二人は事前に下調べしておいた、「ハワイで可愛い水着を買うならココ!」というお店に直行すると、早速水着を選び始めた。

「あ!これかわいい♪」
「えー、ちょっとエロいよー!」
「ちょっと試着してみたら?」
「うん……。!?(ゲ!太った)あ、思ったより可愛くないかも、他にするね♪」

などど言いつつ小一時間。

ゆかりが選んだのは、大人っぽい印象のカラフルな花柄のビキニに、それに合わせたシースルーのパレオ。
一方マリエッタは、パステルピンクのワンピースという可愛さ全開のチョイスである。

そして二人は今、買ったばかりのその水着を着て、海を満喫している、という訳だ。
「えいっ!」
「キャッ!つめたーい!!」
 などと言っていたのもつかの間、思いの外冷たい水温に、二人は15分もしないうちにパラソルの下に戻って来ていた。

「結構、水冷たいんですねー」
「日差しは強いんだけどね」
 マリエッタは、手をかざして太陽を見上げた。冷えた身体に、真夏を思わせる暑い日差しが心地良い。
「その分、ビーチでゆっくりしちゃいましょうか。もしかしたら、誰かにナンパされちゃうかもしれないし♪」
「ど、どうしたの、カーリー?いつもは、ナンパなんてスゴい嫌がるのに。なんだか、キャラ違ってない?」
「え、そうですか?そんなことないですよ♪せっかくのハワイだし、たまには、そういうのもいいかなー、って」
「ふーん、じゃ、どんなオトコが声かけてくるか、楽しみに待ってましょっか♪」
いつになく浮かれた様子のゆかりに、マリエッタも調子を合わせる。
ワイキキの海と太陽に、いつになく開放的な二人だった。



「そういえば……、カムイって、泳げるの?」
カムイ・マギ(かむい・まぎ)と連れ立ってビーチへと来たレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は、ふと思いついてパートナーに尋ねた。
 そういえばこれまで、泳がなければならない状況になったことがない。
「泳ぐ事は出来ます。ただ、しばらく泳いでいませんでしたから……」
 帰ってきた答えは、どこか躊躇いがちなものだった。
「ずっと眠ってたんだものね。じゃ、浅瀬で遊ぼうよ!砂でお城を造ったり、ビーチボールで遊んだりしてさ!」
百合園指定の水着に身を包んだレキは、カムイの手を引くと、水際に連れ出した。カムイは、上はオレンジと白の細かいボーダーのタンクトップ、下は紺の短パンという出で立ちである。いわゆる、タンキニというヤツである。
「ビーチボール……?ビーチバレーではないのですか?」
「ちがうちがう!そんな本格的なヤツじゃなくてさ、ただ単にボールを打ち合うだけ!」
レキは、パートナーのちょっとした勘違いにも、思わず笑みを浮かべる。
「とにかくやってみよう!いくよ、そーーれっ!」
「え?……は、はいっ!」
 大きく空にあがったビーチボールが、照りつける日差しを反射して、まばゆく輝いた。

ひとしきり遊んだ後、二人は、ビーチ沿いのレストランでロコモコやトロピカルジュースといったいかもに「ハワイ!」というランチをお腹いっぱい味わった。

「なんか、久し振りだね、こうやってゆっくりするのって」
「そうですね。ここのところ、争いごとが多かったですから」
足元に散らばる貝殻と、打ち寄せる波に目をやりながら、二人は波打ち際をぶらぶらと散歩していた。
「ここが、レキの生まれ育った『地球』なのですね」
 海の向こうを見つめながら、ポツリと、カムイがつぶやいた。
「どうしたの?急に?」
「透き通るような空と海。まばゆい太陽。見たこともない食べ物。そして何より、幸せそうに平和を謳歌する人々。シャンバラとは違う世界なんだと、改めて感じました。これを感じられただけでも、地球に良かったと思います」
「そっか……。カムイは、地球初めてなんだね。どう、地球、気に入った?」
「もちろん。レキの生まれ育ったところですから」
 よどみなく答えるカムイ。少しかがみこんで、カムイの顔を覗き見ていたレキの顔が、思わず赤くなる。
「そ、そう……。なら、よかったけど……、あ、キレー!」
 どぎまぎして思わず足元に目をやったレキの目に、小さな貝殻が止まった。
 拾い上げて確かめて見たが、どこにも欠けたところがない。
「綺麗だねー。ミア達のお土産にしよっか!」
「そうですね。とても地球らしい、よいお土産だと思います」
 にっこりと微笑み合う二人。
 二人の手の中で、貝殻はキラキラと輝いていた。
 


「大助、ビーチパラソルとチェアの準備をしなさい!あ、ドリンクも買っておいて!私たちは、先にひと泳ぎするから。じゃ、よろしくね♪」
グリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)は、四谷 大助(しや・だいすけ)にそれだけいうと、白麻 戌子(しろま・いぬこ)四谷 七乃(しや・ななの)と一緒に、いそいそと遊ぶ準備を始めた。
「……へいへい」
 一行四人分の荷物を一人で背負い、さらに両手にパラソルとチェアを抱えて、まるで『一人雪山登山』のような状態のまま一人ビーチに取り残された大助は、後ろに倒れこむようにして荷物を下ろすと、のろのろと設営を始めた。

「海に来るのは久しぶりだねぇ。この季節に泳げるとはさすがハワイ……む?大助、サンオイルを忘れているではないかー!ダッシュで取りに戻りたまえー!」
「え?今から取りに戻ったら、時間がもったいないわよ。ほらワンコさん、私のオイル貸してあげるから、先に泳ぎに行きましょ!後で、大助が取り行ってくれるわよ。ね、大助?」
「……おぅ。まっかせろい」
 片時も手を休めることなく、グリムゲーテの更なる要求に応じる大助。
パラソルを立て、シートを敷き、チェアを設置し終わった辺りで三人は海に向かってしまい、後には黙々と作業を続ける大助が一人残された。

「た、楽しくない……。なんか明らかにオレだけが楽しめてない気がする……」
 遠ざかっていく三人の背中をぼぉっと眺めながら、大助は今日何度目かのため息を吐いた。
 元々今回のハワイ旅行は、大助が行きたいと言い出した訳ではない。いやそれどころか、大助自身はどちらかと言えば行きたくなかった方である。とはいえ、みんなが目をキラキラさせて旅行プランを練っているのを見ては、それを口に出す訳にもいかない。
 もちろん、三人が喜ぶ顔を見るのが好きだから、「ハワイになんて来なければ良かった」とまで思っている訳ではない。だが、みんなのはしゃぎようと自分を比べてしまうと、自然とため息が口をついてしまうのだ。

「あの、マスター……?どうかしましたか、どこか具合でも悪いですか?」
物思いにふけっていた大助が呼びかけの声にふと我を取り戻すと、いつの間にか七乃が自分を心配そうに見上げていた。
「え!?い、いや、大丈夫。なんとも無いよ!ほら元気元気!」
 いつの間にか思いつめた表情でもしていたらしい。大助は気を取り直して、精一杯明るい笑顔を浮かべた。
「それよりどうしたの、七乃?みんなと行ったんじゃなかったの?」
「あ……、そう!そうですマスター!七乃、マスターにお願いがあるです。マスター、浮き輪に空気入れてください!これがないと、泳げないですー」
「あぁ、ちょっと待ってて。すぐ膨らますから」
 七乃のおねだりに思わず表情を緩めて、大助は浮輪を受け取った。勢い良く息を吹きこむと、小さな浮輪はあっと言う間に膨らんで行く。
「はい。できたよ」
「わーい!ありがとうです、マスター!!」
笑顔で浮輪を受け取った七乃は、パタパタと駆け出していった。
その背中に、微笑ましい視線を送る大助。

 大助は、ふと、自分に向けられている視線に気づいて、そちらを振り返った。見ると、40代位の男性が自分の方に視線を向けている。彼は、笑顔を浮かべて大助の方に軽く会釈をすると、視線をビーチの方に向けた。
 その視線の先には三歳位の女の子と、その母親とらしき女性が、波を追っかけて遊んでいるのが見えた。
 どうやら、彼は女の子たちのお父さんで、荷物番として一人ビーチに残っているらしい。
大助の脳裏に、先ほどの男性の、意味ありげな会釈が浮かんだ。
「もしかして……、同類だと思われたのか、オレ?」
 大助が、『この歳で四十のおっさんと同じかよ……』とぼやこうとしたその時、大助は、男性が子供たちを、とても楽しそうに見つめている事に気がついた。
 そう、あの男性は、自分とは違う。
 彼は、自分と同じ境遇に置かれているにもかかわらず、それをこれっぽっちも不満に思ってなどいない。むしろ、それを心から楽しんでいる。
「……オレも、負けちゃいらんないぜ」
 両の頬をパァン!と叩いて気合を入れる大助。

「ちょっとー、だいすけー!いつまで準備してるのー!貴方も早く泳ぎに来なさいよー!」
「だいすけー!向こうのブイまで競争しようー!」
「マスター!」
 遠くから仲間たちの呼ぶ声が聴こえる
「おー!もう少しで終わるからー、ちょっと待っててー」
大助は、張り切って設営に取り掛かった。



「スゴーい!ホントに海の色が違うんだー!」
 遠野 歌菜(とおの・かな)は、ビーチから沖に向かうに連れ、次第にパステルグリーンからエメラルドグリーンへと変わっていく水の色に、歓声を上げた。
 歌菜は今、『カタマラン』と呼ばれる双胴船に乗って、ワイキキのビーチから沖合を一周するクルーズに参加していた。
「見て見てー、羽純くーん、ほらあそこ、トビウオだよー!」
「あぁ。ホントにスゴいな」
 楽しそうにトビウオの群れを眺めている月崎 羽純(つきざき・はすみ)の横顔を、歌菜はまぶしそうに見つめた。ハワイの日差しの下で見る恋人の顔は、常にも増して魅力的に映る。

 ひとしきり海を楽しんだ二人は、クルーの奏でるウクレレの弾き語りに耳を傾けながら、ドリンクサービスを楽しむ事にした。ウェイターに、歌菜はトロピカルジュース、羽純はマイタイを頼む。
「……ねぇ、羽純くん。クルーズ、楽しかった?」
「うん?どうしたんだ、歌菜。急にそんなコト聞くなんて?」
「……ううん。羽純くん、初めあんまり乗り気じゃないみたいだったから、ちょっと心配してたの」
 グラスにちょっと口をつけながら、歌菜が言う。
「なんだ、そんなコト気にしてたのか。大丈夫、楽しいよ」
「そんなコトって……」
『羽純くんには、そんなコトでも、私には、大事なコトなの!』
 そう歌菜が言おうとしたその時、羽純が、そっと歌菜の肩に手をかけた。そのまま、自分の方に抱き寄せる。
『え……?』
 羽純の突然の行為に驚く歌菜の耳元で、羽純が囁く。
「歌菜と出会って、俺の世界は変わった。そしてそれは、これからも変わらない」
 そこで言葉を区切る羽純。その目は、じっと歌菜の瞳を見つめている。
「歌菜……。これからもずっと、俺に、違う景色を見させてくれ」
 まるでプロポーズのようなその言葉に、思わず顔を赤くする歌菜。
「あ、当たり前じゃない、そんなの……。これからも羽純くんには、ずっと、私に付いて来て貰うんだからね!」
 恥ずかしさに耐え切れなくなったのか、羽純の胸に顔をうずめる歌菜。
 そんな二人を、ロマンチックなハワイアンが包みこんでいく。クルーの、粋な計らいであった。



「キャッホーー!!」
天王寺 沙耶(てんのうじ・さや)は、ビーチの沖合をジェットスキーで疾駆しながら、歓声を上げた。飛び散る水しぶきの冷たさが、日に焼けた肌に気持良い。
「おーい!クローディアー!」
 沙耶はスキーの機首をビーチに向けると、大声を張り上げながら、パートナーのクローディア・アッシュワース(くろーでぃあ・あっしゅわーす)に向かって、思い切り手を振った。
「ねぇ、シャーリー。沙耶、なんて言ってるのかな?」
アルマ・オルソン(あるま・おるそん)は、砂のお城を作っていたその手を止めて、パラソルの下でくつろいでいるシャーリー・アーミテージ(しゃーりー・あーみてーじ)に尋ねた。何を言っているかわからなくても、取り敢えず沙耶に手を振り返すのは忘れない。
アルマの水着が、フリルの付いたピンクのワンピースという可愛らしい物なのに対し、シャーリーは大人っぽい黒のビキニを身につけ、上から、日差し対策にパーカーを羽織っている。
「どうでしょう……。ちょっと、私にも分かりません。クローディアなら、分かるかもしれませんよ?」
 「あ、ちょうどクローディアが戻って来るよ。ねぇー、クローディア!沙耶、なんだってー!」

アルマの呼びかけに、クローディアは手を上げて答えながら、二人の方に近づいてくる。
クローディアの水着は、チューブトップにホットパンツというスポーティな物ながら、水を滴らせながら歩いて来るその仕草は、健康的な魅力に満ち溢れている。
「そんなに大きな声ださなくても、聞こえるよ。もう少し、沖まで行ってみるってさ。さっきまで『波がなくてサーフィンが出来ない』ってぼやいてたのに、現金なもんね」
シャーリーの差し出したタオルで身体の水を拭うと、クローディアも腰を下ろした。
「冬場は、ワイキキのあたりは、風が吹かないそうですからね」
シャーリーが、ガイドブックから仕入れた知識を披露する。
ワイキキも、サーフィンの出来るビーチとして知られているが、それはあくまで夏場だけの話。ワイキキはサウスショア、つまりオアフ島の南側にあるのだが、冬の間風が吹くのは島の北側だけ。これが夏になると、北側で風が止む代わりに、南のワイキキでサーフィンが出来るようになる。

「私もジェットスキーにしようかな。結構水が冷たくてさー」
「日差しが強いですからね。風を切って走るのは気持いいかもしれませんね」
「クローディア、泳がないんだったら、お城作るの手伝ってよ〜。一人でこれ作るの、大変なんだよ〜」
 作りかけの城……というか、砂の山を指さして、アルマがねだる。
「なによ、お城って、まだちっとも出来てないじゃない」
「だって、おっきいお城つくりたいんだもん!それで、沙耶をビックリさせるの!」
「そんな大きいお城を作るのですか?それは一人じゃムリですね。わかりました。私も手伝います。……クローディア、ちょっと一緒に来て下さい」
 それまで寝そべっていたシャーリーは、立ち上がると、ビーチとは正反対の方向へと歩いていく。
「どこ行くのよ?」
「パラソルを借りたお店行って、スコップを借りて来ましょう。そんな大きなお城を作るのに、アルマの小さなスコップ一つじゃね」
「わー!さすがシャーリー、賢い!」
アルマは、飛び上がって喜んだ。



「キレイ……」
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は、感極まったようにそう呟くと、一面に広がるエメラルドグリーンの海を、魅入られたように見つめた。
 彼女の水着は、南国の花をあしらったシックなビキニに同じ柄のパレオという組み合わせだ。
 セレンは今、恋人のセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)と、オアフ島にあるラニカイ・ビーチを訪れていた。ここは、どこまでも続く白い砂浜『サンドバー』と、エメラルドグリーンの海の美しさから、通称、『天国の海』と呼ばれている。
「来て良かったね、セレン!」
 嬉しそうにサンドバーを裸足で駆けるセレアナ。黒のバンドゥタイプのビキニが、白い砂浜によく映える。
「うん!ねぇ、早く泳ごうよセレアナ!もしかしたら、ウミガメが見れるかもしれないんだって!」
「ホント!?」
その後二人は、並んでサンドバーを歩いたり、水を掛けあってみたり、どこまで見渡せる澄んだ海の中で、小魚ととたわむれたりと、心ゆくまで天国を堪能した。

こうしていると、普段教導団で送っているキナ臭い日々が、まるで遠い昔のように思えてくる。もちろん、それが単なる錯覚であることは二人ともよく分かっているのだが。
「お二人とも、そろそろバーベキューの時間ですよ!戻って来てくださーい!」
手をつないだまま仰向けになって、エメラルドグリーンの海に浮かんでいた二人を、ツアーの担当者が呼びに来た。
「え?もうそんな時間?」
「楽しくって、時間の感覚が全然ないね」
とりあえず“わかった”と手を振って合図を送ると、担当者は帰っていった。
「わたしね、セレン。今、とっても幸せよ」
「わたしもよ、セレアナ」
『ただ今だけは、恋人と一緒に過ごしているこの満ち足りた時間に、酔いしれていたい』
 やがてゆっくりと寄り添い、一つになる影。それを見ているのは、真夏の太陽だけだった。