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【2021正月】お正月はハワイで過ごそう!

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【2021正月】お正月はハワイで過ごそう!

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第五章 ハワイで過ごす、日本のお正月

「先生、久しぶり!元気だったか?」
「泉君!良く来てくれたね!」
 空港についたばかりの泉 椿(いずみ・つばき)を、御上 真之介(みかみ・しんのすけ)が出迎える。
「あれ、先生、今日はメガネかけてないんだ?コンタクト?」
 トレードマークになっている瓶底メガネを、今日御上はかけていない。そのため、すれ違う女性が皆、御上を振り返る。
「いや。今は、円華さんの力で、一時的に視力が良くなってるだけなんだ」
「へー、五十鈴宮 円華(いすずのみや・まどか)ってそんな事も出来るんだ。でも先生、自分の素顔見せるのキライじゃなかったったけ?」
「……キライだよ。でも、円華さんの命令で、彼女と一緒にいる時には、素顔でいないといけなくてね。『仮にも五十鈴宮家の後見人である以上、人に与える印象にも、気を使って頂かないと』だそうだよ」
 明らかに不満があるらしく、御上はぶすっとした顔をしている。
 しかし、そうしていても絵になる辺り、『円華の判断は正しい』と、椿は素直に思う。
「ところで先生、今日の発表会ってもう終わっちゃった?」
「そうだね……。今から急げば、少しは見れると思うけど……。行ってみる?」
「イクイク!あたし、ファッションショーとか、見たこと無いんだ!いっぺん見てみたくってさ」
「それじゃ、急がないと。駐車場は、こっちだよ」

「ねぇ先生?今日の発表会って、どんなの?」
「今日は、水着の発表会だね」
「水着かー。ハワイにぴったりだな。」
「うん。今年の夏向けの新デザインの発表会で、複数のブランドが参加していてね。円華さんと提携している企業さんが今回のスポンサーになってる関係で、円華さんのブランド『マドカ』は最後から二番目なんだ」
『それで、急げば見れる訳か』と椿は一人納得する。
「ふーん。五十鈴宮円華も、水着着るの?」
「いや。人前で乱りに肌を晒すのは、修行の妨げになるので、禁止されているんだ」
「さすがは巫女、キビシーぜ」
『うへぇ』という顔をする椿。
「そう言えば、円華ってテロリストに命を狙われてんだろ、大丈夫なのか?」

 以前、円華を誘拐して孤島に立て篭もった葦原藩の反主流派テロ集団『金鷲党(きんじゅとう)』は、一時は完全に消滅したものと考えられていたが、最近またその残党が活動を開始した事が、確認されていた。一部には、鏖殺寺院の残党と手を組んだという話もあり、未だ予断を許さない状況となっている。
「今のところ、組織だった活動は見受けられないね。個人レベルでの犯行がないとは言い切れないけどが、それは優秀なボディーガードがいるから」
 円華の護衛を務めている神狩 討魔(かがり・とうま)なずなは、かなりの手練である。そこらのテロリスト相手に、遅れをとる心配はない。
「そっか……。先生、ちゃんと後見人やってるんだな」
 どこか感慨深けに、椿は言う。
「あのさ……。ゴメンな、先生。先生が大変だった時に、あたし、助けに行ってあげられなくて」
 しばらく逡巡した後、椿は、思い切って口を開いた。
 椿は、円華の救出作戦の事を言っているのだ。あの時御上は、円華の監禁場所を特定するために敵地に乗り込み、死にそうな目に遭っていた。
「……気にしなくていいよ、そんなコト。君には一度助けてもらってるし、僕も円華さんも、今こうして無事でいるしね。それに君は、僕の事を忘れずに、こうしてハワイまで来てくれた。それで十分だよ」
「でも、でもさ――」
「いいかい、泉さん」
 急に、改まった口調になる御上。
「人間、過ぎてしまった事を悔やんでも、どうにもならない。大切なのは、『これからどうするか。今、何を為すべきか』なんだ。そして君は、それがちゃんと出来ている」
「先生……」
「来てくれて、ありがとう。嬉しかったよ、泉さん。明日まで、よろしく頼むね」
 そう言って、ニッコリと微笑む御上。見るものを、陶然とさせずにはおかない笑顔だ。
「……お、おぅ!アタシに任せてくれよ、御上センセイ!きっと、楽しい正月にしてみせるぜ!!」
 思わず、大見得を切る椿。
 『どうして御上が、いつもメガネをかけているのか』
椿は、その理由が分かったような気がした。



「ここが『神社』ですね……。初めて来ました。清浄な『気』に満ちた、良い所です」
 眼を閉じて、大きく深呼吸する円華。
 たったそれだけの事なのに、キルティス・フェリーノ(きるてぃす・ふぇりーの)には、辺りの空気が、これまでと全く違ったモノになったように感じられた。
『やっぱりこの人は、本物の巫女なんだ……』
 キルティスは感慨深げに円華を見つめた。
キルティス達は、『日本のお正月なら、初詣は外せないよね!』という東雲 秋日子(しののめ・あきひこ)の提案の元、ハワイ出雲大社に来ていた。と言っても、秋日子はハワイの神社などまるで知らないので、御上が上げた候補の中から、秋日子が選んだのだが。
この出雲大社は、今年で鎮座115年を数える、ハワイでも有数の古社である。
「緑が多くて、気持ちがいい所だな」
「なんだか、マホロバを思い出しますね〜」
 円華に同行している討魔となずなも、気に入ったようだ。
「ハワイにあるっていうから、もっとこうハデなのかと思ったけど、ホントにフツーの神社なんだな」
 椿には、少し期待外れだったらしい。
御上の指導の元、手水を済ませた一行は、石段を上がり、社の前へと着いた。
島根の本社を彷彿とさせる立派なしめ縄に感心しながら、皆で参拝を済ます。

 帰りに引いたおみくじの吉凶報告会などをしているうち、自然と話題は、恋愛の話になっていた。出雲大社の祭神大国主命は、縁結びの神として知られる。年頃の女の子としては、当然気になる話題だった。
「円華さんは、好きな人とかいるの?」
 何気なく、秋日子は聞いてみた。男性陣は少し先をあるいているから、聞かれる心配はない。
「私ですか?そうですね……。好き、というか、憧れてる人なら、いますけど……」
 少し考えてから、そう答える円華。その視線は、前を歩く御上の背中に向けられている。
「ふ〜ん、円華はそうなのか〜。でも、『憧れから始まる恋』っていうのもあるらしいぜ〜」
 円華の視線に気づいているのかいないのか、椿が意味ありげに言う。
「椿さんは、そういう経験がおありなんですか?」
「ぜ〜んぜん!あたしは、そういうのガラじゃないから!」
 円華の問いを、言下に否定する椿。
「そうですよ〜、円華さま〜。またコレが、結構ツラいんですよ〜」
『あいたた』という顔でなずなが言う。
「なずなさん、そうなの?」
「なずなは、討魔の事が好きなんです。ね、なずな?」
「ヤダ〜も〜、円華さまったらん♪」
顔を赤くして身体をくねらせながら、『バシィ!』と円華の肩を叩くなずな。
「嬉しいのか恥ずかしいのか、はっきりしろよ」
「両方!」
 椿のツッコミに即答するなずな。屈託のない椿は、会ったばかりの円華やなずな達と、すっかり打ち解けている。
 そんな周りの会話に耳を傾けながら、キルティスは、ある決意を固めていた。



 神社の参拝を済ませた後、一行は、御上の用意した別荘に場所を移し、『日本のお正月』を満喫した。
 まず最初に、御上から全員にお年玉が配られた後(金額は推して知るべし)、御上が実家から携えてきた、御上の祖母手作りのおせち料理を突付きつつ、衛星放送で日本の正月番組を鑑賞。その後は、凧揚げ、羽つき、コマ回し、すごろく、福笑い、そしてかるたと、昭和テイストに溢れる正月遊戯のフルコースを堪能した。そして今、さすがに遊び疲れた一同は、好きな場所で思い思いの時間を過ごしている。

キルティスは今、御上のいるベランダに来ていた。他に、人影はない。
「御上先生、お話があります」
 真剣な表情で、キルティスが言った。
「僕は、決めました。以前先生から、『僕は人を愛せない』って聞いてから、ずっと考えてたんですが……。もう、迷うのは止めました」
 普段と違うキルティスの様子に、御上は黙って次の言葉を待っている。
「先生。僕は、先生が好きです。でも、その気持ちを先生に押し付けたくはありません――」
沈む夕日が、二人の横顔を、赤く染めて行く。
「だから先生、僕と『友人』として、付き合ってもらえませんか?」
「友人として?」
 オウム返しに、御上が言う。
「はい。『先生』と『生徒』ではなく、対等な友人として。そして、あなたの心にある物を、僕に話して欲しい。そのために、あなたと友達になりたいんです」
 押し黙ったまま、じっと何かを考え込む御上。キルティスは、身じろぎもせずに御上の応えを待っている。
「『大切なのは、今、何を為すべきか――』か」
 大きくため息をついて、御上は一言、そう呟いた。そして、ゆっくりと顔を上げる。
「いいよ、キルティス君。君の申し出を受けよう」
 何かを思い切ったように、御上は言った。
「そ、それじゃ――」
「あぁ。たった今から、君と僕は友達だ。よろしくな、キルティス」
 『キルティス――』と呼び捨てにして、右手を差し出す御上。
「こ、コチラこそ、ヨロシクね!御上くん!」
 差し出された右手を、両手で握り締めるキルティス。
この時の、思いの外がっしりとした掌の感触を、キルティスは、後々まで忘れることはなかった。