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第1回魔法勝負大会

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第1回魔法勝負大会

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    ★    ★    ★
 
「第二十二試合、佐伯 梓(さえき・あずさ)選手対、ウルガータ・グーテンベルク(うるがーた・ぐーてんべるく)選手です」
「優勝したり、いいとこまでいったら欲しがってたスマートフォン買ってやるからなー。頑張れー」
 片良木 冬哉(かたらぎ・とうや)が、ウルガータ・グーテンベルクに、声援とも甘言ともつかない言葉を贈る。
 本来なら、この大会にエントリーしているのは彼の方であった。だが、端からやる気がなかったので、直前で参加者の名前をウルガータ・グーテンベルクに書き換えてしまったのだ。
「はーい、全力で頑張るのでございますよー」
 元気にウルガータ・グーテンベルクが手を振って応える。
 こちらもやる気満々と言えば聞こえはいいが、優勝してスマートフォンゲットだという物欲にどっぷりと染まってのやる気であった。
「お、おてやわらかにー」
 ぽてぽてとした足取りで橋を渡りながら、佐伯梓が挨拶した。
「いくでございます!」
 ウルガータ・グーテンベルクが両手を組んで身構える。
「こい!」
 戦いの開始に、佐伯梓が一瞬にして気を引き締めた。
「わたくしの得意技は雷術。裁きの雷(いかづち)でございます。神の名においてどかーん!」
 祈りを捧げるポーズで、ウルガータ・グーテンベルクが言った。天から……ではなく、下から雷光が佐伯梓を襲う。だが、神罰は下らなかったらしい。
「雷なら負けないよー。スリサズ!」
 佐伯梓が護符をもった手で空中にルーンを描いた。浮かびあがった文字が収束して雷球となる。
「ハガラズ!」
 両手を突き出すと、雷光が複雑な幾何学線を描いてウルガータ・グーテンベルクの頭上に落ちた。弾け散る輝くに、ウルガータ・グーテンベルクの姿が明るく照らしだされる。
「ならー、ケーナズ!」
 護符を持った両手の間に、佐伯梓が火球を生み出す。
「ほら、今度は右だ。頑張って正面からいけー」
 片良木冬哉が、ウルガータ・グーテンベルクにむかって適当に声援を送った。
「では、正面から、神の名においてどかーん! でございます」
 右からの攻撃を神の御加護という名のバリアに任せて、ウルガータ・グーテンベルクが、正面から雷球を放った。これがみごと命中する。
「うえー、うんぎゃあ、ぬるぬるはー、ぬるぬるはー……」(V)
 ぽっちゃんとスライムに落ちて気を失った佐伯梓を、二匹のレイスが両腕をつかんで、スライムに下半身をつけたままずるずると救護室にむかって引きずっていく。おかげで、唯一残ったスクール水着が半脱ぎになりそうになっていた。
「おお、勝ったか、よくやったよくやった」
 片良木冬哉が、ちょっと満足気にうなずく。
「やった! のでございます! これでスマートフォンに一歩近づきましたわ」
 武舞台の上で、ウルガータ・グーテンベルクが小躍りして喜んだ。
「勝者、ウルガータ・グーテンベルク選手!」
 
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「第二十三試合、麻上 翼(まがみ・つばさ)選手対、高峰 結和(たかみね・ゆうわ)選手です」
「私が一番ですー、私が一番ですー……」
 隅っこにしゃがみ込んだ高峰結和が、禁じられた言葉を唱えて魔力を高めた。
 貸し与えられた指輪を填めた手を、軽くにぎにぎとしてみる。
 ちゃんと修行したら自力で強力な魔法バリアを張れるようになるのだろうかと考えながら、このさい、障壁を作る感覚を覚え込もうと感覚を研ぎ澄ませていた。
「結和、出番だぞー。キリキリ頑張れー」
「あっ、はい」
 客席から聞こえた椎堂紗月の言葉に、高峰結和があわてて武舞台にむかった。
「よ、よろしくお願いしますー。お手柔らかにお願いしますっ」
 武舞台の上で、高峰結和がぺこりと相手にお辞儀をする。
「開眼します……」
 武舞台の上で静かに目を閉じていた麻上翼が、かっと両目を見開いた。
「燃え尽きてください!」
 魔銃モービッド・エンジェルに込めた火術で作りだした炎の弾を、麻上翼が連射した。本来の銃弾ではないし、装填して発射する意味もないのだが、そこはへクスリンガーとしてのこだわりである。
 赤く輝く目の動きに従って、深緋の火弾が高峰結和の右側のバリアにあたって弾け飛ぶ。
「きゃあ、きゃあ!」
 相手の攻撃の迫力に悲鳴をあげながら、高峰結和が、もっとバリアを強化したいというように、すべての指に防御の指輪を填めた右手を突き出した。同時に、左手を振って凍てつく炎を放つ。
 ぐるんと反時計回りに回り込んだ火炎と冷気が、麻上翼の左側のバリアにあたった。
「次弾装填です。ファイア!」
 魔銃に火術で弾を補充すると、再び麻上翼がトリガーを引いた。魔眼の動きに導かれた火弾が美しい火線を描いて高峰結和の背後のバリアにあたる。
「ひー。えっと、後ろは、お、親指でー」
 大声で騒ぎながら高峰結和が、麻上翼の頭上に炎冷気を吹き下ろす。
「次!」
 麻上翼が、今度は左から攻撃を浴びせた。それを防ぎながら、高峰結和が右から応戦する。
「左は、薬……人差し指、人差し指!」
 騒がしく、高峰結和が火弾を防御した。あわてなくとも自動防御ではあるのだが、本人はなるべく自力で防ごうとしているようだ。
「休息は与えませんよ」
 素早く火弾を火術でリロードした麻上翼が、上へと打ち上げた弾を視線で真下に落とした。
「上、上の指は……、ああ、ない!」
 凍てつく炎を正面に放ってから、高峰結和が敵の攻撃を防ごうとしてパニックになった。
「ほぁ、あ、あああああ!」
 降り注ぐ火弾にあちちと踊りながら、高峰結和が武舞台を踏み外した。
 宮殿用飛行翼を使う暇もなく、高峰結和がスライムにぽっちゃんして、イルミンスール魔法学校指定水着姿になって浮かびあがった。
「ふむ、魔法戦のサンプルとしては、どの試合もいろいろと参考になるな」
 パートナーである麻上翼の試合を冷静に見守っていた月島 悠(つきしま・ゆう)が、満足そうに言った。
「勝者、麻上翼!」
 
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「さあ、いよいよ第一回戦最終試合です。クリムリッテ・フォン・ミストリカ(くりむりって・ふぉんみすとりか)選手対、リン・ダージ(りん・だーじ)選手です」
「うん、たまには競争も楽しそう。このクリムちゃんの最強を満天下に知らしめてあげるわ!」
 駿河 北斗(するが・ほくと)ベルフェンティータ・フォン・ミストリカ(べるふぇんてぃーた・ふぉんみすとりか)との身内競争をもかねているので、クリムリッテ・フォン・ミストリカはやる気満々だ。
「いくわよ!」
 赤味を帯びた紫のマントを翻してクリムリッテ・フォン・ミストリカが片手をあげた。彼女の頭上に六つの火球が生まれてクルクルと回り始める。
「ちょうどいい的よね」
 チュッと光精の指輪にキスすると、リン・ダージがもっていた魔道銃の銃身に細い指先をすべらせた。
「いっけえ!」
 腰撓めに身構えたリン・ダージが、光弾と化した光の妖精を撃ちだした。同時に、クリムリッテ・フォン・ミストリカがすっと指先をリン・ダージの方にむけ、火球の一つに命令した。
 リン・ダージの正面と、クリムリッテ・フォン・ミストリカの頭上でそれぞれの攻撃が弾けた。
「二発目!」
 それぞれが、気合いを込めて次弾を発射する。
 リン・ダージの頭上と、クリムリッテ・フォン・ミストリカの背後でそれぞれの攻撃が弾けた。
「まだ後四発残ってるもん」
 余裕をもって、リン・ダージが攻撃する。
「えーい、面倒よ、それとあれとこれと全部いっちゃえー」
 下から来るリン・ダージの光弾を無視して、クリムリッテ・フォン・ミストリカが残弾の火球を右側からリン・ダージにぶつけた。直後に、クリムリッテ・フォン・ミストリカが光弾に弾き飛ばされて武舞台から落ちる。
「うー、くやしー、本家魔女なのに!」
「ちょっ、ちょっとそっちはだめ!」
 リン・ダージの方は、あわてて光弾で火球を撃ち落としていた。もちろん反則である。だが、それ以前に、弾の数が火球の方が一つ多かった。
 ちゅどーんと、リン・ダージが武舞台から吹っ飛ばされる。
「全滅かあ」
「ええ、全滅ですね」
 マサラ・アッサムとペコ・フラワリーがしみじみとつぶやいた。
「全滅しちゃいましたね」
「あいつら……。後でこの私が直々に特訓してやる……」
 アルディミアク・ミトゥナにまあまあとたしなめられながらも、ココ・カンパーニュが所在なげに拳を握りしめた。その視線の先を、すっぽんぽんになったリン・ダージとクリムリッテ・フォン・ミストリカが仲良く流れていく。
「両者、相討ち!」