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リアクション
7
「写真屋さんについて、知っていることを教えてほしいのですぅ〜」
メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)がそうクラスメイトに問い掛けると。
「私知ってるよー、前に先輩の写真撮ってもらったし」
「わたしは撮られてしまいまして……でも、やめてくださいと言いに行ったらすぐにデータを消してもらえましたわ」
「悪い人じゃなさそうです、と思いましたけど……」
「えー盗撮って時点でアウトじゃない?」
賛否両論。
その一言に尽きる写真屋の実態が解らなかったので、実際に街に出てみた。
「ヴァイシャリーの街の中で見付けられるかな?」
同行しているセシリア・ライト(せしりあ・らいと)が難しいな、とでも言いたげな表情で唸る。
「けれど、見付けませんと。リンスさんも困っているようですぅ……」
とはいえ犯人の宛てもなく街中を歩くばかりでは到底見つかりそうにはない。
「写真を買った人から訊けないかな?」
「! それはいい考えですねぇ!」
セシリアの提案にぽんと手を打ち、携帯を取り出しメールを作成。先程『先輩の写真を撮ってもらった』と言っていた彼女に、写真屋の外見などを教えてほしいと。
間もなく返ってきたメールには、『名前は紡界紺侍さん。男の人だよ。金髪で、背が高くて……あと、かっこよかったかなー』とあった。
「金髪で背が高い、か」
セシリアがその場で辺りを見渡す。
「居ないね」
「見かけたことはある気がするんですけどねぇ〜……」
金髪で背が高く、カメラを持っている男性。だけど明確には思い出せない。
「どんな人で、どんな意図のもと売り歩いているんだろうね。気になるなぁ」
とにかく人海戦術だと、フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)とステラ・クリフトン(すてら・くりふとん)にも紺侍の外見特徴を転送し、合計四人で街を捜しまわる。
「もしかして、あの人でしょうか」
フィリッパが落ち着いた声で、前方を指差した。
え、とステラはその方向を見る。
金髪、高い身長、遠目ながらもかっこいいと思える外見。それから写真と、アルバムらしき冊子数冊。黒スーツにサングラス、という裏のお仕事を想起してしまう目立つ恰好以外は、特徴にブレはない。
「あの、すみません」
そちらの筋の方だったらどうしよう、という懸念は捨てて、ステラは彼に近付いた。声をかける。
「ハイ?」
人懐っこそうな声。意を決して、
「写真屋さん、ですか?」
問うと。
「そっスよ」
あっさりと、肯定。
フィリッパさん、と振り返ると既に携帯を操作しており、ステラは写真に興味がある振りをして紺侍の足止め役に徹することにした。
フィリッパからの連絡を受け、急行した先。まさしく特徴通りの男がステラに写真を見せていて、
「見付けましたぁ〜!」
思わずメイベルは声を上げる。
「どういう意図があってやっているのかも気になるけど……まずは止めさせてもらおうか」
セシリアも言って、走る。
そこで紺侍は四人の連携プレーだと思い至ったらしく、立ち上がって走り出した。
「こらー! 待てぇー!!」
「待てと言われて待つ奴ァ居ないって誰かが言ってたっスねェー!」
「リンスさんのような人付き合いが苦手な方にとっては、ただ好奇の目に晒されるのは辛いこと……止めていただきたいですわ」
「発注した人形、早くこの手にしたいんですよ……っ!」
各々が各々の言い分を持って、ヴァイシャリーの街で鬼ごっこ、である。
ヴァイシャリーの街を知っている分、見付けられると思ったが。
「おかしいですぅ……」
「あ、あれ?」
「見当たりませんね……」
「どこですかー?」
四人そろって、見失ってしまった。
金髪で、背が高くて、黒スーツで……そんな特徴のある人なんて、居ないのに。
おかしいな、と首を傾げるメイベル達であった。
「スレヴィさん、どーもっした」
紺侍はその場に居ない彼に礼を言って、街中を歩く。
今の恰好は、今日スーツに着替えるまで来ていた服である。
人混みを選んで全力疾走、後にトイレでこそこそ着替えたこの結果。
――あっちの恰好が目立ちすぎて、却って目立たなくなったっスね。
特に、今さっき会ったばかりという相手には、黒スーツの印象が強く残っているだろうし。
なので、なんとかメイベルたちの手からは逃れられたのだが。
「…………そっスよねぇ」
「おにいちゃん! リンスおねえちゃんやクロエちゃんがこまったこまったで、たいへんなんですよー!」
一般的に見てみれば、カメラを持っている時点で相当、変わっているわけで。
ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)にバレてしまったのは、必然。
*...***...*
「OKをもらってないお写真ですかー」
工房を訪ねて行って、ヴァーナーは事の騒動を知り。
「だったら、ボクがダメですーって言ってくるですよ!
OKもらってかわいい写真をとって、OKもらってない人に見せて、OKもらったらもっと、こーんなふうに良い写真になるです! ってお話もしてくるです!」
そして工房を去り、ついたヴァイシャリーの街で。
早速、カメラを持ったお兄さんに出会ったのでびしりと指差して、
「おにいちゃん! リンスおねえちゃんやクロエちゃんがこまったこまったで、たいへんなんですよー!」
言ってやった。
「可愛いお嬢さん、これは穏便なお話っスか? それともオレ、全力で逃げるべきお話っスか?」
「おだやかー、です。みんななかよく、がいいのです」
「じゃあ、あっちで静かにお話しましょっか」
「はいですよ!」
広場のベンチに移動して、並んで座る。向こうから何か言ってくることはなく、最初少しだけ、沈黙。学校帰りの女学生が、変わった組み合わせだわ、といった視線で二人をちらりと見ては通り過ぎて行った。
「これを見てほしいのです」
ヴァーナーは、用意しておいたデジカメを手に、データを呼び起こす。
一枚目は、困った顔のクロエ。
二枚目は、笑った顔のクロエ。
「どうですか?」
「どうって」
「えがおえがお、はかわいいのですよ。こまったかおだと、かなしいですー……」
特にそれが友達だったりすると、心臓のあたりがきゅーっとするのだ。
だから、困っている人は減らしたい。
――写真が好きな人だから、きっと写真で困っているのを伝えるとわかってくれるはずなのです。
「きちんとOKをもらえば、ステキな写真がとれるですよ! かくれてとったり、しなくていいですよ?」
真摯な姿勢で、訴えかけてみたけれど、
――え?
困ったような顔で笑われた。
挙句、ぽすぽすと頭を撫でられて「すんません」と謝られる。元気のない声だった。
「おにいちゃ、」
それから無言で彼は立ち上がって、雑踏の中に紛れて行った。
追いかけることができなくなるくらい、突然で、思いがけない反応だった。
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