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爆熱鉄塊イロンV

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爆熱鉄塊イロンV

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「まだ、続けますか?」
 ギリギリのバランスで立つイロンVを見上げながら、加夜が縛られている博士に問いかけた。
 特に取り乱す事もなく、博士は微笑を浮かべる。
「ここまでやっておいて、今更だとは思うがね。……止めてくれ、と言ったらどうなるのかな?」
「世の為、人の為に使う、と言うのであれば……これ以上無碍に壊す事もしませんが」
 その言葉を聞いて、博士が更に笑みを深くする。
「私にとって私こそが『世』であり、『人』だ。私が私の為に使うのであればそれは君の言う『世の為、人の為』になる……というのは、どうだろうか」
「……残念ですが」
「フッ……だろうな」
 加夜は博士に背を向け、イロンVに向き直った。
 ――走り出そうとした足を止めて、博士に背を向けたまま、静かに口を開く。
「お金に困っているのなら……貴方が襲おうとしていた村や、困っている人々の護衛になる。というのも選択肢としてはあると思うんですが」
「何かを護る為なら、兵器を使う事も厭わない、と? 結局それは、大義名分を立てる場所が違うだけだとは、思わんかね?」
「違います! 何が悪で、何が正義かを考えて――」
「ここで君達が流した血は、本当に悪の物だったのか? 顔も見ずに、殴り、撃った者達は全て悪だったか?」
「それは……ッ」
 加夜が、振り向いて反論をしようとするが、言葉に詰まる。
 その時、加夜の頭に手を添えられた。目を向けると、そこには涼司が立っていた。
「……涼司くん」
「おいロン毛白衣。テメェのくだらねぇ遊びで、苦しんだり、泣いたりするヤツがいるならな……それはオレにとっての『悪』だ。他の誰がどうとか、そんな事はどうでもいいんだよ」
 涼司が吐き捨てるようにそう言うと、博士は嘲笑を浮かべた。
「単純だな、君は」
 博士の言葉を無視して、涼司は加夜の背中を押した。



「出来損ないのポンコツが……ミーに勝てるワケがないでござる!」
 博士との会話を終えた加夜達が、イロンVの足元まで来た頃――クリムゾンが鉄塊に向かって猛火を放っていた。
 体勢を崩していたイロンVが、クリムゾンの攻撃によって更に大きく傾く。

「うぉ! これはさすがにマズイか!?」
「マズイとか云う問題か! 私は鉄と一緒に消し炭になる趣味はないぞ!」
 崩れそうになるイロンVを見てもなお笑みを消さないニサトに、クリスティーヌが叫ぶ。
 積まれている機銃の弾も、もう既に無いに等しい。
「もう十分だろ、ニサト! 降りるぞ!」
 撃ちつくした機銃を蹴り飛ばし、眼下の人間に向かって落としながら、クリスティーヌが梯子を降り始める。
 それを見て、ニサトがつまらなそうに頭を掻いた。
「仕方無ぇなぁ……まだ面白くなりそうなんだが」
「ブツブツ云ってないで、早く!」
 遊びを中断させられた子供の様な声を上げるニサトを呼びながら、イロンVの背面に設置された梯子を降りていたクリスティーヌが、急にその動きを止める。
「何だ?」
「いや、確かこの中……人が居たな?」
 既にボロボロになった機晶ロボに設置されたコクピットハッチを見ながら、クリスティーヌが眉根を寄せる。
(見捨てていく……のは、夢見が悪そうだ)
 攻撃によって歪んでいたハッチを、力任せに開く。と、中で手当たり次第にコクピット内部のスイッチを入れたり消したりを繰り返していたエヴァルトと目が合った――ような気がした。
 覆面で顔を覆っている為、表情は読み取れないが、それは向こうも同じだろう。
「何だ!? 今、俺は死ぬほど忙しい!」
「もう無理だ! コイツは長い事持たない! そのままだと『死ぬほど』どころか、本当に死ぬぞ!」
「ぬぅ……だがしかし、まだ溶かせば資材としての価値はそれなりに」
「命が有ってこその金だろう! 諦めろ!」

 ――食い下がるエヴァルトに、クリスティーヌが説得を続けている頃。
「……博士さん。大丈夫かな?」
 縛り付けられながら、壊れていくイロンVを見ていた博士に、物陰から声が掛けられる。
 首だけ向けて視線を移すと、暗闇の中で大きな塊のモザイクが蠢いていた。
「君は……54番君。逃げたものと思っていたが?」
「それでも良かったんだけどねぇ。可憐が楽しそうにしてたし……私も、それなりに楽しかったから」
 アリスが笑いながら「動かないでね」と言って、博士を拘束している縄を慎重に切っていく。
 周囲がイロンVに集中しているおかげで、特に邪魔される事もなく拘束を解く事ができた。
「……あれ、もう駄目っぽいねぇ」
 アリスが、壊れていくイロンVを見ながら呟くと、博士は小さく首を横に振った。
 そして、ヒビの入った眼鏡の位置を直しなら、楽しそうに口の端を持ち上げる。
「何、問題無い。こういう時の為のカードは隠してある」
 おもむろに、博士が白衣のポケットから小さな箱を取り出した。
 黒い小箱の蓋を開けると、中に透明なプラスチックで覆われた赤いボタンが見えた。
「それは……もしかして?」
 何となく、この状況でよく押されるスイッチに心当たりがあったのか、アリスが博士の顔を見る。

「あぁ、これが――最後の切り札さ」
 一層、笑みを深めた博士の指が、小箱のスイッチを押した。



「だぁかぁら! こんなガラクタ買い取る所、そうそう無いから!」
「パーツをバラして売ればいいだろう!」
 イロンVコクピット内――クリスティーヌとエヴァルトの論争は、この短い時間の間に『イロンVが売れるかどうか』で停滞していた。
 ニサトは特に何を言うわけでもなくコクピット内部を眺めていたが――やがて何かに気が付いたようで、クリスティーヌの袖を引いた。
「……何?」
「いや、アレってさ。コイツに載る前に話してた『赤いランプ』ってヤツじゃねぇの?」
 ニサトが指を指した先を、クリスティーヌが目で追う。エヴァルトもそれに習うかのようにランプに視線を向ける。
 その時――ちょうど3人が見つめる中で、その赤いランプが派手な音と共に光り始めた。
「ジバクソウチサドウ。バクハツマデ、ニジュウビョウ。ジバクソウチサドウ。バクハツマデ、ジュウキュウビョウ」

「……自爆」
「…………装置」
「………………作動?」

 特に言葉を交わすでもなく、その場に居た3人が同時に顔を見合わせた。
「ジバクソウチサドウ。バクハツマデ、ジュウナナビョウ」
「18秒は何処に行ったんだよ」
 不条理なカウントダウンに、ニサトが冷静にツッコミを入れる。
「入れ忘れたんだろうな、って……馬鹿か! 逃げるぞ! ……貴殿も死にたくなければ、もう諦めろ!」
 慌ててクリスティーヌがコクピットから抜け出して、半ば飛び降りるようにイロンVから離れた。ニサトもその後に続く。
 赤く染められたコクピット内部に残されたエヴァルトは、悔しそうに奥歯を噛み締めた。
(クソ! ジャンクでもそれなりに金になるサイズなのに……)
「ジバクソウチサドウ。バクハツマデ、ジュウヨンビョウ」
「……ッ! 次は、完成前にバラしてから強奪してやる!」
 誰ともなしに吐き捨てて、エヴァルトもコクピットを抜け出し、イロンVから離れた。

「おい、お前! 何しやが……あ?」
 突然の警報音を聞いて、涼司が博士に目を向ける。が、そこに縛られていたはずの博士の姿は無かった。
 かなり距離をあけた場所で、腕を組みながら微笑を浮かべる博士を見て、涼司が眉間に皺を寄せる。
「まぁ、今回は負けを認めよう。だが、次はこうはいかんぞ……山葉涼司」
「次? 次なんか無ぇ! 今ここで終わらせてやる……!」
「威勢が良いのは構わんが……爆発まで、あと10秒も無いぞ?」
 ニヤニヤと笑みを浮かべたまま遠ざかる博士と、カウントダウンを続けるイロンVを見て、涼司は舌打ちをした。
「……動けるヤツは、怪我人連れて離れろ! 爆発するぞ!」

 ――涼司のその声に、その場に居た者が一斉に動いた。
 そして、僅かな間の後。
 けたたましい轟音と共に、遺跡ごと吹き飛ばす勢いの爆発が巻き起こった。



「随分と、派手にやったね」
 遺跡から、かなり離れた場所で、立ち上る炎と黒煙を見ながら天音が博士に向かって呟いた。
 気配を感じさせない天音の出現にも関わらず、博士は動揺せずに前髪をかき上げながら、薄く笑う。
「……イコンの装甲には特殊な強化プラスチックが使われているから、総重量も随分軽い。空を飛べる機体が作れるくらいにはね。イロンVの更なる進化のヒントは、ロディマ……いや、『静岡県』」
 そう言い残して、天音は何処へとも無く歩いていった。
 後を着いて歩き出そうとしたブルーズが、何かを思い出したように振り返り、博士に向かって軽く会釈をした。
 苦笑いを浮かべながら、博士がブルーズに向かって、挨拶代わりに手を上げる。

「……これから博士は、どうするの?」
 気を失っている助手を適当に寝かせながら、アリスが博士に問いかけた。
 博士が、少しの思案の後に口を開く。
「しばらくは派手に動く事も出来んからな。どこかに身を潜めて、次の計画を立てる……それもまた一興だろう? お嬢さん」
「そうだねぇ。しばらくは、ひっそりと……あ」
 アリスが唐突に、何かを思いついたように手を打った。
 その動きに、博士が片眉を上げる。
「秘密結社名……ハーミット・イデアとか、どうかなぁ?」
 それを聞いて、博士は目を閉じて、笑った。

「悪くない……かもしれんな。考えておこう」

担当マスターより

▼担当マスター

歌留多

▼マスターコメント

 歌留多です。まず、参加して頂いたプレイヤーの皆様。有難う御座います。
 そして、リアクションの公開が、かなり遅れた事について、お詫び申し上げます。本当に、すみませんでした。

■以下、頂いたアクション・本リアクションについて
 貴重なアクション欄を使っての激励のお言葉や、ご指摘をいただけた事、大変嬉しかったです。
 また、バトルともコメディとも言い難い、とのお言葉なども、それなりに頂きましたが、読後は如何でしょうか?
 コメディだな、と言う方は、遠慮なく「ジャンル違ぇ!」とご指摘下さい。多分、真相は『ややバトル』です。
 それでは、また何処かで。