校長室
【ロリオとジュエリン】アンノルドル・ルージュ
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第3章 noisily Aimez l’histoire-どたばた恋物語- 「ンフフッ、どう使おうかしらね♪やっぱりあれしかないわよね!」 数ヶ月前にジュエリンの屋敷で、月崎 羽純(つきざき・はすみ)たちに女装させたと歌菜がカッティヤに話したら、めちゃくちゃ興味を持ってしまったのだ。 鴉からかっぱらったルージュを握り締め、ニヤニヤとどす黒い笑みを浮かべる。 パピリオがアンノルドル・ルージュを作ってもらいに行ったことを図書館で知り、“今行く直ぐ行く、ゲットよ歌菜!”と暴走特急の如く彼女の手を引っ張って屋敷へやってきた。 「まったく私を置いていって皆だけで楽しむなんてずるいじゃないの。どんな姿になるのか楽しみだわ、特に羽純の格好が・・・ね♪」 ルージュで唇を怪しげなグリーンに染め、ターゲットの男子どもを待ち構える。 「何ごとなく連れて戻れるといいんけどな。はぁ・・・」 彼女たちが命令させる口紅を手に入れに行ったことを知った羽純は、暴走するカティヤの姿を想像しながら嘆息する。 それを手に入れてしまったことを知らない彼は、もはや自ら生贄になりに行く子羊のようなものだ。 「素直に言うことを聞いてくれるような相手か?」 「他の人に迷惑なことしようとしているなら、なんとしてでも止めないとな」 ブラッドレイ・チェンバース(ぶらっどれい・ちぇんばーす)の言葉に、被害者が出ないうちに即連れて帰るというふうに言う。 「(そう上手くいかないのがカティヤなんだがな)」 カティヤの幼馴染のブラッドレイは、そう簡単にいくはずないと心の中で呟き、首を左右にふるふると振り失笑する。 「この屋敷だったか。まさかまた来ることになるとは・・・」 お姫様が住んでいそうな貴族の屋敷を見上げ、羽純は心底嫌そうにため息をつく。 「カティヤたちが迷惑をかけているそうだな。被害が出る前に連れ帰らないといけないんだ。中に入らせてもらう」 羽純が監視モニターの前で言うと門が開かれた。 「暴走してなきゃいいんだが」 彼女たちに遊ばれる犠牲者を出さないために屋敷内へ駆け込む。 しかし1度来ただけで、だだっ広い敷地で人を見つけるなんて、米粒を見つけるようなものだ。 「どの部屋にいるんだ、まったく・・・。ん・・・、3階か?」 何時間も探すことになるんだろうな、と思っていた2人だったが、あっさりカティヤたちを見つけることが出来た。 「やっと来たのね!」 カティヤは階段から怪しい笑みを浮かべて見下ろす。 「なんだ・・・その気色の悪い口紅は」 「―・・・フッ、色なんか問題じゃないわ」 顔を顰める羽純に彼女はクスリと笑う。 「どういう意味だ・・・?」 「(何だ、この無駄なやる気と強さは!)」 勝ち誇ったように言う彼女の態度にブラッドレイは冷や汗を浮かべる。 「だって、これは化粧品だけど化粧品じゃないのよ」 いまいち状況を脳内で理解出来ていない彼らに、歌菜はにっこりと可愛らしく微笑む。 「さぁ、私に平伏しなさい♪」 「な・・・っ、何だ。体が勝手に!」 「来て早々、この仕打ちはなくないか!?」 カティヤの前に跪かされた羽純とブラッドレイが抗議の声を上げる。 「次は、このメイド服を着てもらうわ♪」 「―・・・は?どうして俺たちがこんなフリフリのメイド服を着なきゃいけないんだ?くっ、体がいうことを聞かない・・・」 衣裳部屋なんかに行くものかと羽純が柱にしがみつくものの、自ら部屋の中へ入ってしまう。 「私の命令は絶対よ。はい、これ♪」 「誰が、こんなもの・・・っ。―・・・俺たちに女装させて何が楽しいんだ?」 丈の短いスカートを受け取ってしまい、試着室の中で着替えてしまった。 「そうだった、カティヤは昔からこうだったな」 1度暴走し始めた幼馴染の彼女を、止めることなんで出来なかったことを思い出したブラッドレイは、忘れていた自分のミスだと自らを責める。 「せっかくだからお化粧でキレイにしてあげるわね♪化粧をさせなさい!」 「やめろ、やめてくれ・・・。そんな趣味はない・・・!」 「羽純・・・悔しいが、今のカティヤにはどう足掻いても逆らえないっ」 彼女の命令に抵抗しようとするが、身体の自由が利かない。 「いい出来栄えね♪」 命令されるがままに大人しく化粧させられた2人の姿に、カティヤは満足そうに笑顔を浮かべる。 羽純に大人可愛い系のメイクにし、ブラッドレイにはフェミニン系のメイクをした。 「2人ともとってもキレイよ♪」 美女のような2人を歌菜がじっくりと眺める。 「記念撮影させてにらうわね。そんな仏頂面しないで、笑顔になって!」 写真を撮ろうとカティヤは、館で借りたポラロイドカメラを向ける。 「覚えとけよ、お前ら・・・!」 「最悪な日だな、まったく」 無理やり笑顔を作らされた羽純の傍ら、もう1人の犠牲者は苦笑して嘆息する。 「ねぇ、カティヤさん。ちょっとだけ・・・ルージュを借りたいんだけどいいかな?」 「ん?分かったわ、どうぞ♪」 顔を真っ赤にして言う歌菜の態度で、何に使いたいのか乙女心を察知したカティヤはニコッと微笑み、彼女に貸してあげた。 「(今度こそ先に言うんだからっ)」 羽純にバレンタインのリベンジをしようと歌菜は意を決して唇に塗る。 「―・・・あのね、羽純くん。私が言う前に絶対・・・、絶対に喋っちゃ駄目だからね?私・・・羽純くんのことがね・・・。えっとね、羽純くんのこと・・・」 せっかく自分から言えるチャンスなのに、カティヤやブラッドレイがいる前では、最後の一言が恥ずかしくってなかなか言い出せない。 「カナ、素直に羽純に告白しろ!」 もじもじと躊躇ってばかりの歌菜の姿をじれったく思ったブラッドレイが、彼女の手からパッとルージュを奪い自分の唇に塗ってしまう。 「好き・・・大好き、羽純くん!」 命令された歌菜は2人の目の前で、大きな声で告白してしまった。 「わ、私・・・その・・・っ」 緊急脱出ルートがあれば即、逃げ込みたいほど急に恥ずかしくなってしまう。 逃げ場のない部屋で足をふらつかせ、沸騰寸前な真っ赤な顔でぺたんと床に座り込んだ。 「―・・・こ、ここでいきなり言うのか・・・」 2人が傍にいる状況で突然告白された羽純は、ほんのり照れてしまった。 その言葉の後、気恥ずかしくなったのか、何も言い出せなくなる。 「そ、そういえば、羽純くんの今の格好・・・」 「・・・出来れば、こんなメイド姿じゃない時に聞きたかったぞ」 彼女の言葉に、はっと我に返った彼は自分の格好を思い出し、思わず笑ってしまう。 「確かにそうねっ。あはは!」 告白の場にしては何だかおかしな感じだと、羽純につられて笑ってしまった。 「やれやれ。やっと言えたな」 「はっきりした気持ち、伝えられたわね歌菜♪」 ブラッドレイとカティヤは恋人たちを身も守るように見つめた。