校長室
【ロリオとジュエリン】アンノルドル・ルージュ
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第5章 Tout est suis pas bon-全てがけしからんっ!- 「着せ替えさせてくれる人がいるってこのおやしき?まことにーちゃん、はやく入ろう!」 自分も着せ替えてもらいたいと彼方 蒼(かなた・そう)はしっぽをふりふり元気にはしゃぐ。 椎名 真(しいな・まこと)にコスプレが大好きなジュエリンのことを聞き、“自分も行きたいー!つれていって、つれていってー。つれていってくれなきゃいやだ、まことにーちゃーん!!”と、ダダをこねてつれてきてもらったのだ。 「こんにちは、ジュエリンさん。どうしても蒼が着せ替えて欲しいって言うから連れてきちゃったんだけど。いいかな?」 「あら、可愛い子ね♪いいですわよ」 「ジュエリンねーちゃんのぼうしーにゃんこー!かわいいー!」 「ウフフッ、ありがとう♪」 「まことにーちゃんにかわいいーおようふくきせたんだよね?自分にもきせてほしいーっ」 「ライオンとかどうですの?」 「わぁ〜なんかつよそう!それがいいーっ」 「ちょっと待っててくださいね」 クローゼットの扉を開けたジュエリンが蒼に合うサイズを探す。 「ありましたわ!」 「たてがみツンツン〜ッ」 猛々しいたてがみつきフードを被せてもらった蒼が嬉しそうにわしゃわしゃと触る。 「手袋とブーツのサイズもピッタリですわ!」 「ふかふかであったかーい」 肉球つき手袋をはめてもらい、ブーツもわんこにぴったりなサイズを履かせてもらった。 「わぁ〜ひらひら〜」 「フフッ。猛獣ですし、マントはこの色合いがいいと思いますわ」 闘争心の象徴のレッドカラーのマントを蒼に羽織らせる。 「なんだかつよくなった気がするー。がぉお〜っ」 わんこから百獣の王に変身し、大きな声で吼えてみる。 「まことにーちゃん。きねんさつえいしてー!」 「よーし、撮るよ」 「がぉおお!」 パシャリッ。 骨つき肉の人形を抱え、ちびっこライオンになりきる。 「よく似合ってるよ、蒼」 「えへへー♪ねぇ、まことにーちゃんも何か着ようよ!」 「―・・・え?いいよ俺は。この前・・・着せてもらったし」 「んーー・・・」 一緒に着せ替え撮影したいのにと、ちょっぴり寂しそうな顔をする。 「ねぇ、これあげようか?」 通りがかった透乃が、蒼にルージュを渡してしまう。 「なにこれ」 「口紅だよ、見たことない?」 「うーん。くちべにーは“べにいろ”ってにーちゃんがいってたー。だからみどりのあれはクレヨンだよね―」 「あはは、クレヨンじゃないね。唇に塗るんだよ」 「だってみどりいろだよ」 「まぁ、口紅にはいろんな色があるからね。皆、これが欲しくってうろついてるから、気をつけてね!」 パートナーに見つかってお仕置きされないうちに逃げようと、さっと立ち去った。 「みんなこのくれよんさがしてるのー?らくがきしちゃだめだよねー」 らくがきは悪いこと、みんなメッ!というふうに蒼が顔を顰める。 「でもジュエリンさんにはこっちの色の方が合うと思うんだよね」 グリーンはなかなか合う人がいないからと、真が淡いピンクの口紅を勧める。 「ルージュの製造過程でこの色にしかならないんですの。普段は別の色を使ってますわよ」 「そうなんだ?」 「あくまでもロリオを着せ替えさせるためだけに使うだけですもの」 「ところでほんのりオレンジのチークとか塗ったら可愛くなると思うんだけど。どうかな?」 「えぇ、それなら着せ替える方にも合うかもしれませんわね」 「マスカラとかつけたら、もっと目がぱっちりしてるように見えるんじゃないかな」 「うーん。そういうのは衣装を着せてからの方がよさそうですわね」 「(どうしてその話題から離れてくれないのかな!?)」 無限ループのように逸らしたい単語が“ただいま!”と帰ってきてしまう。 「あなたにはこの衣装なんか似合いそうですわ」 「(わぁああ〜、やっぱりーー!!)」 着せ替えさせられる危機が再びやってきてしまった。 「これ私のルージュですの。お返しいただけません?」 「ん?ジュエリンねーちゃんのなの?」 「蒼、それを返しちゃ・・・っ」 「えー?」 「フフッ。真さん、この衣装・・・着ていただきますわよ」 「いや、本当にそういうの合わないから。無理、・・・無理だからーーー!!」 ルージュを塗ったジュエリンに命令され、純白の四角い気ぐるみを着せられてしまう。 「ほら、よくお似合いですわ♪」 「うぅ。酷い・・・あんまりだよ・・・っ」 「まことにーちゃん。まっしろーいおとーふ!とっちゃえーっ」 「わっ、蒼!やめてーーっ」 パシャッ。 わんこによって苦い思い出に残る1枚をカメラに撮れてしまった。 「ごめんください!」 この前はちょっとやりすぎてしまったからと佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は手土産を抱えて、ロリオの屋敷の前へやってきた。 “彼女もいるし、気まずい”と思い、実家から届いたポンカンでタルトを作って持ってきた。 「どちらさまですか?」 ジュエリンから逃れてきたロリオが眉を潜める。 「あっ、その・・・」 「何かご用でしょうか、不審者ならはったおしますけど?」 「―・・・・・・うわぁあ!?」 ロリオにフルボッコされた記憶が傷の痛みと共に甦り、思わず悲鳴を上げて逃げてしまう。 どうして逃げるのかと仁科 響(にしな・ひびき)は、ぽかーんとした顔をする。 「謝りに来たのに、逃げ出してどうすんだよ!」 思い出したように小さく“あっ”と声を上げ、我に返った響は呆れ顔に変えて嘆息する。 「ロリオ、お待ちなさい〜♪」 「うわっ、来たし!絶対に着ませんからねっ」 命令される前にジュエリンから逃れようと、ロリオが全力疾走する。 「―・・・・・・あっ。あの」 幸か不幸か逃げる先が一緒になってしまい、弥十郎は気持ちを落ち着かせて彼に話しかける。 「あぁ、前回はごめんなさい。いやぁ、君を困らせてみようとおもったんだけどね。ははは」 まだ怒っている彼に苦笑いをして謝る。 「困らせていったいどうしようっていうんですか」 「んまぁ、ちょっとね。それにしても、どうして逃げているんだい?もしかしてまた着せ替えさせようとしてきてるのかな」 「そんなところですね・・・。ジュエリンが選ぶ服は、オレの体格にまったく似合わないですから」 「君も・・・偉く彼女に愛されてるんだね」 「それが愛なんて、オレにはまったく理解出来ませんね・・・」 「愛の形は人それぞれなんだよ。その表現もね♪」 ジュエリンから逃げつつ弥十郎が恋愛トークを始める。 「だからって、命令をして言うこと聞かせるなんてありえませんよ」 「ふむふむ。命令されちゃうと駄目なんだねぇ。僕だったら、命令されちゃう前に唇を塞いじゃうかな」 その言葉に沈黙の空気が流れてしまった。 「あ、僕の彼女がやるならだけどね」 空気を呼んだ弥十郎はあくまで自分の場合だと、言葉をつけ加えた。 「分かってます。特に返す言葉もないので、あえて黙っていたんです」 「えぇ〜本当に?婚約者なら別にいいと思うんだけどね」 「そういうもんでしょうかね・・・」 「自然の流れに身を任せるのもいいけど。他の人に取られたくないならちょっと考えた方がいいよ」 「う〜ん、どうなんでしょうね・・・」 「タイミングも人それぞれだよ」 まだ14歳くらいじゃ難しいかな?というふうに心の中で呟く。 「そうだ。お土産にタルトを作ってきたんだけど、どうかな?」 「遠慮しておきます。プロテインが含まれていないと、食べられないんですよ」 「うーん、そっか。それじゃあジュエリンにあげるね」 「そうしてください」 「響、後よろしくね♪」 「え・・・?」 弥十郎から無茶振りのように、タルトを託されてしまった。 ロリオと弥十郎が逃げきった後、婚約者を探しているジュエリンに響が声をかける。 「前回はすいませんでした。これはつまらないものですけど」 「ありがとう、いただきますわ。少しお茶にしましょうか」 持ってきてもらったタルトを一緒に食べようと、ジュエリンが響をテラスに案内する。 「その口紅、なんか凄い色だね」 「これを塗ると、相手に言うことを聞かせることが出来るんですのよ」 ジュエリンはナイフでタルトを小さく切り、上品に口へ運びながら言う。 「そんな効果があるんだ・・・」 「塗ってみます?」 「ボクが使うとロリオのどこが好きかを簡潔に述べよとか聞いちゃうよ」 「えぇっ、そ・・・それは困りますわっ」 「何か気になるなぁ。誰にも言わないから、僕にだけ教えてくれないかな?」 「でも・・・」 「ね、1つだけいいから教えてよ」 「ごめんなさい・・・。ヒミツですっ」 「うーん、そっか残念だなぁ」 恥ずかしそうに顔を俯かせる少女に、無理やり聞いちゃうのもいけないかと、ひとまず諦めた。 「あらあら、油断たいてきですよ?」 まったりお茶をしていたジュエリンの手から、明日香がルージュを奪い取る。 「そんな危ないもの、さっさとこっちに渡して!」 ルージュが悪用されてしまうと思った美羽はバタバタと走り、3体の僥倖のフラワシを放つ。 「そんなスローな狙い方では無駄ですね」 「ちょろちょろ空を飛ぶなんてっ」 「どうしましょう、美羽さん。これでは取り上げられません!」 慌てて制服に着替えた彼女たちは、間違って互いの服を着てしまったせいで、いつもの動きがまったく出来ない。 「(少し下りてきたわね。これなら念力で狙えそうだわ!)」 「あらら〜取られてしまいました」 美羽にサイコキネシスでルージュを落とされてしまう。 取り戻される前に粉々に破壊しようと、ベアトリーチェは恥ずかしそうにミニスカートを押さえ、魔動銃でルージュを狙撃する。 「相手に命令するだけで、言うことを聞かせられるルージュ・・・・・・。もしこんなのが悪用されたら、大変なことになるよね」 美羽はバラバラに砕けたルージュを見下ろしてぽつりと呟く。 「フフッ。さぁ、どうぞエリザベートちゃん」 「ありがとうございますぅ。さすが明日香ですねぇ♪今日から大ババ様のおやつは、ぜーんぶ私のものですぅ!」 明日香にキレイに拭かれて渡された本物のルージュを、唇に塗ったエリザベートがアーデルハイトに命令をする。 「え、そんなっ。確かにベアが破壊したはずなのにどうして!?」 「ルージュをちゃんと壊してますよ?でも、ルージュはルージュでも、SPルージュです♪」 「な、なんですって!?」 イージーミスをしてしまった美羽は驚愕の声を上げる。 「あむっ。ごちそうさまでした♪(は、ここここれってかかんせつっ)」 本物を丸呑みしてしまった明日香が、ぼふっと顔を真っ赤にする。