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狙われた少年

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狙われた少年

リアクション

   十四

「九十九がいねえなら、仕方ねえ! てめぇで我慢してやらあ!」
 氷藍はライトブレードを六黒に突きつけた。ムッとしたのはドライアで、
「師匠、こいつは俺に任せてくれ! ぶっ飛ばしてやる!」
「阿呆。こ奴はわしをご指名なのだ。断ったら失礼ではないか」
 六黒はにやりと笑った。
「それに貴様にも、相手がおろうが」
 六黒が顎をしゃくった先には、家康と幸村が立っていた。
「二人もおれば、十分であろう。それとも一人を相手に、わしが勝てぬと?」
 そう言われれば、ドライアには返す言葉がない。第一、負けるどころか苦戦するとすら思っていない。その点、ドライアの六黒に対する信頼は盲目的であった。
 それに、二人を任されたというのは、これは六黒の信頼に他ならない――とドライアは思った。
「よし! じゃあ、おまえたちは俺が相手だ!」
「じゃあ」と言われたことに、家康はカチンときた。そこへ更に幸村が、
「家康殿、貴殿の読み違えでござったな」
と言ったものだから、更に不機嫌になる。
「ぬかす暇があったら、とっとと討ってこい!」
 頭上から、バッサバッサと羽ばたく音が聞こえてきた。かなり大きな鳥だ。――いや、
「ペガサスか!」
「いかん! 上にいかすな!」
 家康が素早く命じる。
「遅えよ!」
 幸村のハルバードを飛び上がってかわし、ドライアはそのままペガサスに跨った。蛇腹剣である虚刀還襲斬星刀を伸ばし、ムチのようにゆっくり回し始める。次第に回転が速くなり、軌跡が螺旋状になっていく。
「いくぞ!」
 家康は頭上へ向け、碧血のカーマインを構えた。弾は正確にドライアに向かったが、回転する斬星刀に弾き返されてしまう。
斬星螺旋突!」
 ドライアはペガサスに乗ったまま、二人へ突っ込んだ。


「いくぜ、名無し!」
 氷藍は【ソニックブレード】を放った。
 六黒は【一刀両断】でそれに対した。黒檀の砂時計、ハイパーガントレット、それに勇士の薬を使うことにより、氷藍より僅かに速かった。それでも衝撃で、後ろへ吹っ飛ばされた。
 氷藍は【スウェー】で受け流したが、もんどりを打って引っ繰り返る。
 直後、ドライアの斬星螺旋突(ランスバレスト)で、家康と幸村も吹っ飛んだ。
「ち、畜生……家康、幸村、大丈夫か!?」
 ライトブレードの刃が消え、氷藍は柄の部分を杖代わりに立ち上がろうとしたが、足に全く力が入らない。
 辛うじて一人立ち上がった家康は、舌打ちした。
「余計な真似を!」
 幸村が【ディフェンスシフト】で咄嗟に守ったのだった。しかし、当の幸村は指一本動かせぬほど、まともに衝撃を食らっていた。
 幸村は辛うじて口の端を上げた。
「仲間でござる故な……」
 家康は右腕を見下ろした。感覚がほとんどないが、しっかり銃を握っている。だが、代わりに引き金を引くことも出来ない。
「師匠!」
 ドライアは家康の攻撃を警戒して、降りることが出来ない。六黒は折れた木の幹に寄りかかり、立ち上がった。
「他人のことより、己の身を案じよ、未熟者」
「そんなこと言ったって、師匠、ボロボロじゃんかよ!」
「ふん。わしが本気を出したら、こ奴ら全員、息をしとらんわ。これぐらいでちょうどよいのだ」
 六黒は龍骨の剣を左手に持ち替えた。右の掌を何度も握り、開いた。ゴキゴキと鈍い音を立てていた指は、二〜三度で滑らかに動くようになった。
「――さて、続きをやろうか?」
「わしが相手じゃ」
 家康が立ち塞がった。
「よ、よせ、家康……」
「休んでおれ、氷藍。わしは徳川家康ぞ。こんな時こそ、わしがやらずにどうする」
「ほう、おぬしは徳川家康か。これは面白い。天下人とはいえ、戦はともかく、剣を交えるのはどうかな?」
 家康は幸村のハルバードを拾った。
「試してみるか?」
 その時だった。
「氷藍殿! 家康殿、幸村殿!」
 交代で休憩を取っていた真田 佐保が、影月 銀、御凪 真人と共にやってきた。
「おお、佐保殿!」
 喜んだのは幸村であるが、その佐保が家康の上から覆いかぶさったのを見て、ちょっとショックを受けた。
 それも束の間、真人の【雷術】が六黒を直撃する。
「ぐっ!!」
【歴戦の防衛術】で辛うじて堪えた六黒であるが、遂に膝をついた。そこへ銀が【毒使い】を使った鉤爪で斬り掛かる。
「師匠!」
 ドライアが放った【毒虫の群れ】が銀を襲う。銀は素早く六黒から距離を取った。その隙に、ドライアは六黒の体を引っ張り上げ、ワイルドペガサスに乗せた。
「余計な真似をするな!」
「余計でも何でもする!」
 ドライアはワイルドペガサスの首筋を軽く叩いた。嘶きと共に、二人を乗せたワイルドペガサスは高く高く駆け上がり、林の向こうへ姿を消した。
「逃がしたか……!」
 銀が舌打ちし、次の瞬間振り返り様にクナイを投げつけた。

 ガツッ!!

 木の幹にクナイが突き刺さり、春が地面にへたり込んでいた。
「まだいたか!」
「ち、ちょっと待った。私らは敵じゃないって! ただの通りがかり!」
 瞬が慌てて春の前に出た。春は座り込んだまま、ぱくぱくと魚のように口を開けている。
「忍者を見かけて何だろうと思ったわけよ。そうしたら凄い戦いが始まって、動けなくてねえ」
「……そうか。それはすまなかった」
 銀は警戒を解かぬまま、近づいてクナイを抜いた。そして春に謝りながら手を差し出したが、
「ところでキミ、可愛いね。嫁にこない?」
 瞬のその言葉に凍りついた銀は、春に引っ張られて一緒に転んだ。