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あなたの街に、魔法少女。

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あなたの街に、魔法少女。

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●事件の結末がこんななんて、絶対おかしいですわ!

 ある意味で平和な時間が過ぎる中、当初騒がれていた『ツアー旅行者の行方不明事件』も少しずつ人々の記憶から忘れ去られようとしていた。
 ……しかし、元はといえば、この事件が『豊浦宮』設立のきっかけとなり、また『INQB』との対立を生んだきっかけでもある。事件の真相を明らかにすることが出来れば、もしかしたら二つの組織の対立も、収束に向かうかもしれない。
 そんな思いを――それ以外にも思惑があるかもしれないが――抱きながら、事件の解決に動く者たちがいた――。

「お姉さん達、ちょっといいかにゃ?」
「……あぁ?」
 街の一角、陽の当たらない場所でやさぐれていた少女たちの集団に、ミディア・ミル(みでぃあ・みる)ディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)が話しかける。
「何よあんたたち、『INQB』のマスコット?」
「ううん、ミディーもディオちゃんもマスコットじゃないよ。ちゃんと意思を持ってる仲間だよ」
「仲間……?」
 少女が訝しげな表情で呟いたところへ――。

「誰かがあゆみを呼んでいる、お任せQX!
 皆のピンチに颯爽と現れるレンズビューティー、それがピンクレンズマン!」
「魔法少女で探偵です、魔法少女マジカルホームズ!」
「二人がいれば、恐れるものはなにもない!」
「ハッピーエンドへ向けて、レンズよ私達を導け☆ レンズ☆ユースティティア!」


 名乗りをあげ、月美 あゆみ(つきみ・あゆみ)霧島 春美(きりしま・はるみ)がそれぞれ天眼鏡とレンズをかざしてポーズを決める。

「……………………」

 それに対する少女たちの反応は、普通といえば普通であるし、当然といえば当然とも言える反応であった。
「なに、この空気……。痛いコ来た、みたいな目で見ないでよ」
「コホン……皆さんにお聞きしたいことがあります。皆さんは『INQB』のツアーに参加されたことと思いますが、どうでしたか? おかしなこととかありませんでしたか?」
 気を取り直し、春美が少女たちに聞き込みを開始する。
「……別に、なんもねぇよ」
「どんな些細なことでもいいんです、教えていただけると助かります」
 真摯な視線を向けられ、沈黙を決め込んでいた少女たちも居た堪れなくなったか、ポツポツと真相を語り始める。
「……最初は、このツアーに参加すれば、魔法少女になれるって信じてた。
 だけど、アイツら何て言ったと思う? 「キミの思っている魔法少女は幻想だ、現実はそんな生易しいものじゃない」よ?
 もしそうだったとしても、それでも夢を叶えてくれるのがアンタたちの仕事じゃないの!? って思ったわよ」
「ツアーに参加した何人かは、ゆる族の言葉が信じられなくて、無理矢理契約して街の外に出て行ったの。多分、自分は魔法少女になって何かできるはず、って思ってるんじゃないかな」
「え、それじゃ、地球人が行方不明になったってのは……」
「それ自体は嘘じゃないさ。ただ、言ってしまえば自分から行方不明になったって話。どこに行ったかまでは分からないけどね」
 あゆみの問いに、少女の一人が答える。『INQB』の社員が地球人を行方不明にしたと豊美ちゃんや馬宿が思っていたことは実は間違いで、実は地球人が引き起こしたことなのであった。
「どうして、そんなことを……?」
「そりゃあ、契約者が特別だからに決まってるじゃないか。契約者になれば何でも出来るんだろう? だからアイツらだって「ボクと契約して魔法少女になろうね」って言ったんだろうしさ。
 ……でも、誰もが契約出来るわけじゃないんだな。アイツらはそれが言いたかったんだろうさ。……認めたくはないけどね」
 ディオネアの問いに少女の一人が答えて、はぁ、と息を吐く。なんでも、ツアー終了後、自暴自棄になった少女たちは手当たり次第に契約を迫ったのだが、結局出来なかったとのことであった。
 少女の言う通り、地球人の誰もが契約者になれるわけではない。それは事実だが、だからと言って契約者が何でも出来るかといったら、それは嘘になる。確かに能力の向上は見込めるが、人智を超えた能力を手に入れられるのはごく僅かの者で、そして彼らが何でも出来るかといったら、そうではない。もしそうなら、契約者の恩恵を最も受けているシャンバラはもっと早く王国を再建し、パラミタの覇権を握っていたっておかしくない。
「契約者じゃないから何も出来ないなんてことはないわよ。魔法少女はいいとして、たとえばほんの小さな幸せを守ることなら出来るし、それはとっても大切なことだと思うのよね」
 ミディアの言葉に、少女たちの全員というわけではないが、一部は少しだけ希望を取り戻したような表情を浮かべ、座り込んでいた地面から腰を浮かせる。
「何か、『INQB』からもらったものとかありませんか?」
「うーん、ほとんど捨てちゃったからね……あ、これならあった」
 こんなものでよければ、と言って少女が春美に渡したのは、『魔法少女ツアーのお知らせ』と見出しのついたチラシだった。
「ありがとう、これからお姉さんたちはどうするの?」
「ま、ここに居ても仕方ないしね。帰っていつも通りの生活をするさ。……何もしないよりはマシだろうしね」
 ひらひら、と手を振って、少女たちがその場を後にする。ぺこり、と頭を下げた春美が、あゆみにもらったチラシを渡す。
「あゆみちゃん、このチラシをサイコメトって」
「分かった、これをサイコメトリすればいいのね?」
 頷いたあゆみが目を閉じ、チラシに触れる。傍目には何も変化がないが、今頃あゆみの脳内にはチラシに込められた想い、過去の出来事がヴィジュアルとして駆け巡っていることだろう。
「……ふぅ。終わったよ、春美ちゃん。あのね、『INQB』には魔穂香っていう、魔法少女のコがいるみたいなの」
 なんだかやる気無さそうな様子だった、と付け足すあゆみの発言を、春美が書き留める。
「なるほど……その魔穂香ってコが鍵を握ってそうね。じゃ、まずは『INQB』に行ってみましょ」
 春美の方針にあゆみ、ディオネアとミディアが頷いて、一行は『INQB』へと足を向ける――。


●シャンバラ大荒野

「へっへぇ、いいモン持ってんじゃねーかねーちゃん、ちょっと俺たちに恵んでくれねぇかぁ?」
「な、何するんですか!? は、離してください!」
「おっと、抵抗するとロクなことにならねぇぜ……五体満足で帰りたきゃとっとと置いてくんだな」
「た、助けてーっ!」

 王国が再建されるまでに復興が進んだシャンバラでも、街を一歩離れればまだまだ治安が安定しているとは言い難かった。ましてやシャンバラ大荒野においては、パラ実生――全員がそうというわけではないが、パラ実生は百万ともそれ以上とも噂されることもあって、割合的にパラ実生が多くなっていた――による無差別カツアゲが今も横行していた。

「くぅらぁぁぁっ!! 一束いくらの家族連れからちまちまむしってんじゃないわよこのボンクラ共!!」

「あぁ? なんだぁ?」
 今も、旅行者と思しき一行から有り金をむしり取ろうとしていたパラ実生が、上空から放たれる警告を含んだ声に訝しげな表情を浮かべて見上げる。
 彼らの視界に映ったのは、やけにゴツゴツとした岩だった。
「へ――」
 首を傾げる暇もなく、パラ実生の数名が隕石に押し潰される。
「に、逃げろーっ!!」
 異変を察知したパラ実生が散り散りに逃げようとするが、時既に遅し。ある者は天から降り注ぐ雷に撃たれ、ある者は魔力の奔流に撃ち抜かれ、そこかしこに大穴が開く。
「ふー、最近のパラ実生は度胸がないわね。やるならもっと大物を狙いなさいっての。……あ、マズイマズイ。お客さん怯えてる」
 一通りお仕置きをかましたことを確認して、地面に降りた伏見 明子(ふしみ・めいこ)がふるふると震える旅行者に向けて、にぱー……と営業スマイルを向ける。曲がりなりにも元百合園所属だけあって、立ち振る舞いはとても先程まで一方的な加虐……ゲフンゲフン、正義の鉄槌を下していたとは思えない。
「えー、危ない所でした。ご覧の通り街を離れますとシャンバラ大荒野は危険が一杯の新天地ですので、旅行は計画を練ってご利用下さい」
「は、はいっ」
 コクコク、と頷く旅行者一行。
「詳しくは『豊浦宮』の飛鳥馬宿までご相談頂けると助かります。今日は私が空京までお送りいたしますが……皆様、ネバーランドに行きたいと思った事はありますか?」
「え――」
 明子に尋ねられ、首を傾げる旅行者一行の身体が、ふわり、と宙に浮く。
「では、参りましょう」
「――――!!」
 瞬く間に上空へ、まるで砲弾のように飛んでいく旅行者一行は、悲鳴すらあげることも出来ずに空京へと向かっていく。

 ――そんなわけで、シャンバラ大荒野も最近は大分治安が改善されているようだが、まだまだならず者の住処となっていることは事実であった。