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あなたの街に、魔法少女。

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あなたの街に、魔法少女。

リアクション



●例え雪の結晶だったとしても、世界がそんな風に出来てるとしても、足掻かずにはいられないのです。

「……あれ、電話ですね」
 着信を告げる携帯を取り出し、豊美ちゃんが電話に出る。
『申し訳ありません豊美ちゃん、先程空京で『ゆる族狩り』なる行いがされているとの噂が入りました。場所を今からお伝えしますので、確認に行っていただけないでしょうか』
「ゆる族狩り……それはもしかして、『INQB』を狙ってのことでしょうか」
『その可能性も否定出来ません。ともかく、行き過ぎた行為は魔法少女の評判を下げることに繋がりかねません』
「そ、そうですねー。分かりました、今から向かいますー」
『お願いします。こちらからも応援の魔法少女を手配しますので、事態の収拾に努めてください』
 連絡を終え、豊美ちゃんが馬宿から指示を受けた場所へと急行する――。


「ねえ大地、あたしたち、『イナテミスファーム』の宣伝のために来たのよね?」
「……品種改良の相談に、空京大学にも行った。ファームに研究所・試験場を作ろうかって話もした」
「ファームの野菜を使った料理の売り込みもしましたね。時間も大分過ぎましたし、そろそろ帰りましょうか、と思っていたのですが……」

 建物の陰で、イナテミスから空京にやって来ていたプラアシェットと共に、志位 大地(しい・だいち)がはぁ、とため息をつく。

「うふふ〜、ファームのマスコットキャラを確保しましたわ〜」
「シーラさん、その……こういうのは、両者の同意があって初めて成立するものではないでしょうか……?」

 そこに、何やらグッタリとしているようなゲッソリとしているようなゆる族を抱きかかえ、満足気に微笑むシーラ・カンス(しーら・かんす)と、懸命にシーラを宥めようとするメーテルリンク著 『青い鳥』(めーてるりんくちょ・あおいとり)がやって来る。
(そうです、この方たちの振る舞いで、とんでもない事態になってしまったのです)
 もう一度ため息をついた大地が、直前の出来事をフラッシュバックさせる――。

「へぇ、イナテミスファームか。俺もパラミタに来る前は、実家の手伝いで農業やってたんさぁ」
 大地とプラ、アシェットが『チェラ・プレソン』で用意した料理の試食とアンケートを行っていたところに、一人のゆる族がやって来て、農業経験者という点から話が弾む。
「おっといけねぇ、自己紹介もしねぇで、すいやせんした」
 そう言って彼が懐から名刺を取り出し、大地とプラ、アシェットにそれぞれ渡す。そこには『INQB』の社員であることと、権藤 勝吉という名前、『カツ』というマスコット名が記されていた。
(これは……件の『INQB』の方ですか。気をつけた方がいいですね)
 心に呟いて、大地が注意を促そうとプラとアシェットへ視線を向けると。
「どうすかお嬢さん、可愛らしいし、ええモン持っとるし、魔法少女にピッタリでさぁ」
「え、ほ、ホント、あたし、可愛い? きゃー、ど、どうしようかな〜」
 外見だけなら十分可愛いゆる族に可愛いと言われたのが嬉しかったらしく、プラがキャッキャとはしゃぐ。それにつられて、プラ曰く唯一の自慢らしい豊かな胸がプルンプルン、と跳ねる。
「……プラは魔法少女に相応しくない。わたしの方が魔法少女に相応しい」
 それを見たアシェットが、何やら対抗心を燃やすが如く割り込み、自分こそが魔法少女に相応しいとアピールする。
(……お二人とも、精霊なんですから相手の心が多少なりとも分かるはずでしょうに……。仕方ないですね、ここは俺が――)
 既に半分以上落ちかかっていたプラとアシェットを救うべく、大地が口を挟もうとしたところで――。

「誰も知らない、知られちゃいけない〜♪ 魔法少女が誰なのか〜♪」

 聞こえてくる歌声に、大地は嫌な予感がしたが、聞こえないふりをした。

「千雨ちゃんも魔法少女にならないとダメですわ〜。さ、お着替えお着替え〜」
「し、シーラさん、な、なんで私まで――んっ、ちょ、無理矢理ぬがさな、いっ……でください!
 わかりました! わかりましたやりますから! 着替えますから!」

 次いで聞こえてくる二人の声に、大地はとっても嫌な予感がしたが、聞こえないふりをした。

「魔法少女タイガーリリー♪」
「ま、魔法少女、ろわ……ロワゾーブルー……」
「千雨ちゃん、魔法少女な名乗りはしっかりしなくちゃいけませんわ〜」
「うぅ、わ、わかりました、だからそんな物騒なものを向けないでくださいっ。
 ……魔法少女ロワゾーブルー!

「…………」
 ついに、魔法少女な名乗りをあげるシーラと千雨に、大地がドン引きした顔を向ける。
「ち、違うの大地! これはあのその、シーラさんが……あうあう」
 大地の顔を見て、千雨が弁解をしようとして、一見笑顔に見えるシーラに見つめられて押し黙ってしまう。
「……あの、シーラさん、これはいったい……」
「…………」
 大地の呼びかけに、しかしシーラは反応しない。
「……た、タイガーリリーさん?」
「はい、なんでしょう〜」
 思い至った大地が呼び方を変えると、にっこりと反応するシーラ。
「その、何が目的で、そのような格好をしているのですか?」
「うふふ〜、ヒ・ミ・ツ、ですわ〜」
 勿体ぶった挙句はぐらかされ、大地が思わずズッコケそうになったのを横目に、シーラがつつ、とカツへ歩み寄る。
「あなた、『INQB』のゆる族ですわよね〜?」
「……そうさ、だからなんじゃい」
 シーラから漂う、他者を威圧する気に負けぬとばかりに凄んでみせるカツに、シーラは手にしていた『マジカルステッキ紅爛ちゃん』をビシッ、と突き刺すように向けて、ぽえぽえとした笑みのままこう告げる。
「命までは奪いませんわ〜。その代わり、私と契約してファームのマスコットキャラになってくださいませんか?」
「…………」
 これには、大地とプラ、アシェット、それに千雨までもが何も言えないとばかりに呆然とする。
「そ、そんな要求が飲めるかぁ! 無理矢理契約を迫る魔法少女なんて、わけわからんわぁ!」
 自分たちのことを棚に上げて、カツが反論を口にすると。
「……ダメ……でしょうか?」
「……ヒイッ!?」
 シーラが見せた悲しげな表情に、カツが引きつった顔で悲鳴を上げる。大地には、彼の目にシーラがどんな顔に見えているのかの想像がついたが、既に何も言う気になれず、ただ事態の推移を見守るばかりであった――。

 結局、シーラとカツの交渉という名の何かが終わるまで、大地とプラ、アシェットは建物の陰に隠れているしかなかったのであった。
「……お話は済みましたか?」
 大地がシーラに尋ねると、シーラはにっこりと笑顔を向けて答える。
「はい♪ カツちゃんとても喜んでましたわ♪」
「…………」
 口から魂が抜けかかっているような様子のカツを見、大地が同情のため息をつく。
(契約するのは結局、俺なんですけどね……。まあ、どうするかの余地は残されているわけですが)
 これからどうするにしても、ひとまずこの場を離れなければ、事態は好転しないだろう。そう結論付けた大地が、皆にイナテミスへの帰宅を促す。
「あ、あの、大地……?」
 シーラとカツ、プラとアシェットが先に行き、大地が後を追おうとしたところで、背後から千雨に呼び止められる。視線からなんとなく察した大地が、ため息混じりに告げる。
「……悪くないんじゃないですか。ゆる族の方から契約を申し出てくるくらいには、似合ってますよ」
「ほ、ホント?」
 パッ、と表情を明るくする千雨に、大地が微笑んで言葉を続ける。
「まあ、そのゆる族は大層マニアックな趣味をお持ちでしょうね」
「…………バカ!!」
 激昂して二丁の魔導銃を乱射する千雨を背後に、大地が先行した者たちの後を追う――。


「おい、カツさんから連絡のあったのは、ここか!?」
「カツさーん! 何があったんスかー!?」
 直後、複数のゆる族がやって来て、口々に何かを叫んでいる。彼らはシーラに拉致……ゲフンゲフン、見初められたカツが最後に残した連絡を受けてやって来た、カツを慕う『INQB』の社員たちであった。
「ダメです、どこにもいません」
「くそっ、また地球人のヤツらが無理矢理契約していったのか!? ともかく、六兵衛さんにこのことを連絡して――」

 そう発言したゆる族が、突如炎に包まれる。

「な、何だぁ!?」
 プスプスと黒煙をあげて倒れ伏す仲間を凝視する他のゆる族へ、一人の少女と一人の青年が姿を表し、名乗りをあげる。

「呻き、嘆き、嗚咽を糧に最凶の魔法少女トーフーボーフー・アル、ここに闇誕じゃん!」
「アハハ、ミーはトーフーボーフ・アルのマスコット怪人フェイスレス・ダークライダーですヨ!」


 魔法少女を名乗るアルハズラット著 『アル・アジフ』(あるはずらっとちょ・あるあじふ)と、黒のレサーライダースーツを纏い、目の部分を赤い炎で燃やした、アルの手下の怪人を名乗るアルラナ・ホップトイテ(あるらな・ほっぷといて)が、無作為にそして無慈悲にゆる族を攻撃する。
「炙り出せ、邪神アフーム!」
「ぎゃあああ!!」
「デモンズ・バインド!」
「ぐおぉぉぉ!!」
 炎と闇が飛び交い、ゆる族が次々と炎に焼かれ、闇に狂わされていく。

(豊美ちゃんは甘いのよ。悪は徹底的にヤラなきゃ終わらないわ)
 その様子を、離れた場所から天貴 彩羽(あまむち・あやは)がパートナーを通じて感じ取り、満足気に微笑む。『INQBマスコットを皆殺しにすれば犠牲者を防げる』という考えから、アルを魔法少女に、お供にアルラナを付け、マスコット狩りを命じていたのだった。

「カオス・トラペゾヘドロン、シュートォ!」
「ネームレス・ビースト・アタック!」

「うぎゃあああぁぁぁ!!」
 一方的な殺戮が繰り返され、辺りには無数の綿が飛び交う。
「ダメですヨ、悪いマスコットは地獄送りデス」
 あちこちに穴が開いたゆる族を蹴り飛ばして、アルラナが、そしてアルが邪悪な笑みを浮かべる。

「僕がゆる族なんて、ワケがわからないよ!
 僕が襲われたのも、『INQB』のゆる族がいるからだね! 絶対許さないよ!」
「……まあ、半分以上、自業自得な気がするけどな。悪魔のくせに「僕と契約して、魔法少女になってよ」なんて契約を迫るからだろ」
「あれは、ちょっとやってみたかっただけだよ。とにかく! 僕は復讐するんだ!」
 憤慨するティラミス・ノクターン(てぃらみす・のくたーん)を冷めた目で見ながら、花京院 秋羽(かきょういん・あきは)が桜餅を手に歩いていると、前方から何かが飛んできて秋羽の手に当たり、桜餅が地面にぼた、と落ちてしまう。
「うぅ、なんなんだよ、一体……俺たちが何をしたっていうんだ……」
 ボロボロになったゆる族の彼が、あちこちに穴が開いた自分の身体をさすっていると、自分を覆う影に気がついて上を見上げる。
「…………」
 そこには、無表情――いや、静かな怒りを湛えた――な秋羽の姿があった。
「あーあ、キミ、秋羽の恨みを買ったね。秋羽は食べ物の恨みにおいては人一倍なんだよね。僕も何度ヒドイ目にあったことか――」
「ぎゃあああ!!」
「……ほらね。ああ、怖い怖い」
 まさに他人事とばかりにティラミスが呟く、彼の背後ではボロ屑になったゆる族をゴミ箱に投げ捨て、『INQB』のゆる族を懲らしめんと決意した秋羽が、変身を行う。

「魔法少女? すうぃーと☆ブロッサム、華麗に推参」

 魔法少女な名乗りをあげ、秋羽がゆる族が飛んできた方向を見つめると、ちょうどその場での殺戮を終えたアル、アルラナと目が合う。
「あっ、あいつらだよ! あいつらが僕をゆる族と勘違いして攻撃してきたんだ!」
「何だと……?」
 ティラミスの発言を耳にし、訝しげな表情を浮かべる秋羽。
「あれー、まだマスコットがいたんだー」
「アル、アレはさっきアルとミーが取り逃がしたマスコットデスネ」
「アハハ、そっかー。じゃ、ここで死んでもらおっかなー」
 一方のアルとアルラナは、既に狙いをティラミスに定め、殺る気満々といった様子で近付いてくる。どうやら魔法少女同士の衝突は避けられそうになかった。
「ぐ……こ、このまま奴らをのさばらせていたら、『INQB』は終わりだ……」
 地面に伏せるゆる族が、震える手で携帯に手を伸ばす。
「魔穂香さんの護衛として雇われたっていう、『いけまさん』なら必ず、INQBを救ってくれる……いけまさん、お願いします……ぐふっ」
 ポチ、と携帯のボタンを押して、彼がバタ、と気を失う。
「さあ、覚悟してもらおうじゃん!」
「だから、僕はゆる族じゃないって言ってるのに!」
「悪いマスコットはミンナそう言いますネ」
「完全に自業自得だな……俺、行っていいか?」
 今にも一触即発の状態な、アルとアルラナ、ティラミスと秋羽。

『――――!!』

 そんな彼らの真ん中に、上空から何かが“落ちてくる”。
 いや、それは物ではなく、人の姿をしていた。

「……あら、豊美ちゃんはまだいらっしゃってませんでしたか。……まあ、いいです。いずれ豊美ちゃんとは、戦うことになるでしょう。
 今は、INQBの魔法少女として、仕事を果たすまでです」

 土煙の中から声が響いたかと思うと、龍の牙が煌き、四名を歯牙にかけんと迫る――。