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あなたの街に、魔法少女。

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あなたの街に、魔法少女。

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●もうワケが分からないッスよ!

 一方その頃、『INQB』本社では――。

「六兵衛くん! 私はキミが言った『制服の下にジャージはダサい』って言葉が許せない!」
「な、何スかいきなり!? ていうかどこから知ったッスか!?」
 社長室に忍び込んだ白銀 司(しろがね・つかさ)が、自分も魔穂香と同じ格好――魔法少女の格好で、スカートの下にジャージ着用――を晒し、魔法少女の杖を突き付けて六兵衛に迫る。
「謎の魔法少女☆ガンナー司に、知らないことなんてないの!」
「何それ……ガンナーの時点でもう魔法少女じゃないだろ……謎の、って言う割には名乗ってるし……」
 司の背後で心底かったるそうにしていたセアト・ウィンダリア(せあと・うぃんだりあ)が、直後司に引っ張り出されてくる。
「分からないかな!? このもっさり感が良いんだよ! それにほら、男の子がジャージを着ると、お色気パラが5割増しするんだから!
 見てよ、このエロカッコよさ! これで動きやすいんだから、履かない手はないよ!」
「お色気パラ、ってどこの言葉だよ……そして俺を例に挙げるな、いたたまれない……」
 司の趣味で着せられたジャージ姿を晒して、セアトが言葉通りに居心地悪そうな様子を見せる。
「別にジャージを否定してるわけじゃないッスよ。自分は魔法少女にジャージはナシだと言いたいッス。
 魔法少女はナマ足じゃなきゃダメッス! ニーハイソックスは邪道ッス! ジャージなんてもっての外ッス!」
 六兵衛が、ともすれば豊美ちゃんを敵に回しかねない――いや、既に敵に回しているが――発言をする横で、それまでソファーに寝っ転がっていた魔穂香がむくり、と起き上がり、気怠そうな表情のまま、司に近付く。ただならぬ気配に司が杖を構えた前で、スッ、と魔穂香が手を差し出す。
「……あなたとなら、友達になれそうな気がするわ」
「ああっ、魔穂香さん、そりゃナイっすよ!」
 落胆する六兵衛を置いて、司と魔穂香が固く手を取り合う。どうやらここに一つの共通項で結ばれた友情が生まれたようである。
「うんうん、話がわかる子で良かった〜♪」
「……って、え? 何、もしかして司、ジャージの話するためだけにINQBに潜入したの!?」
「今の私は司じゃない、謎の魔法少女☆ガンナー司なの!」
「……ああ、そう。はぁ……すっごく疲れた」
 言葉通りにどっと疲れた様子で、意気揚々と引き上げる司にセアトが付いて行く。
「はぁ……いきなり面会を申し込むから、何かと思ったッスけど、言いたい放題言って帰りましたね」
「そうね。……でもちょっと、面白かったかも」
 呟いて微笑む魔穂香を見、六兵衛が心底驚いた表情を浮かべる。魔穂香がこうして笑ったのを見たのは、もしかしたら初めてかもしれないとまで思っていた。
(これはもしかして、魔穂香さんがやる気になってくれるチャンスかも知れないッス! 円さん歩さんの提案してくれた魔法少女ツアーも、これからの展開次第では魔穂香さんを連れ出せるはずッス!)
 千載一遇の機会と踏んだ六兵衛は、魔穂香がその気になってくれるようにと、魔穂香に会いに『INQB』に魔法少女が来てくれることを願った。
「た、大変ッス社長! ま、魔法少女が!」
 すると、一人のゆる族が社長室に転がり込むように、魔法少女の来訪を告げる。これほど早く願いが通じるなんて、まさか裏があるのかと勘ぐった六兵衛のそのカンは、決して的外れではなかった。
「魔法少女が社内で暴れ回ってるッス!」


「いやー、突然のお誘いにも関わらず快諾していただいて、ホント、カナさんには感謝してます。ウチの社員も、魔法少女のアイドルが来てくれたと知れば、仕事に身が入ることでしょう」
「こちらこそ、誘っていただいてありがとうございます♪ 私、ホントに『INQB』所属の魔法少女になれるんですか?」
「ええ、それはもう、カナさんがお望みでしたらこちらは喜んで受け入れますよ。……あ、じゃあここで待っていて下さい、準備が出来ましたら改めてお呼びします。お手伝いの方はそのまま自分に付いて来てもらえますか」
「あ、はいっ」

 自分をここまで連れて来た『INQB』の社員を見送って、遠野 歌菜(とおの・かな)が部屋に入り、椅子に腰掛ける。
「……ま、ここまでは順調、だな。歌菜が『豊浦宮』所属であることを、向こうは知らないようだ」
 辺りに気配のないのを確認して、月崎 羽純(つきざき・はすみ)が口を開く。二人は事前に豊美ちゃんに『豊浦宮』所属を願った上で、【魔法少女アイドル】としてライブを行い、『INQB』の勧誘を待っていたのだった。そして無事に、歌菜は『INQB』社員によって勧誘され、マネージャー役ということになっている羽純と共に、『INQB』への潜入を果たすことが出来た。
「悪いことしたゆる族さん達には、かるーくお仕置きして、反省して貰わないとね♪」
「歌菜……くれぐれもやり過ぎるなよ?」
「大丈夫大丈夫、ちょっとで済むから」
 笑顔を向ける歌菜に対し、その『ちょっと』が怖いんだよ……と羽純は心に呟くのであった。

「これで準備は完了ですね。いや、手伝っていただいてありがとうございます。私たちはこんな身なりですから、準備に手間がかかってしまいますもので、本当に助かりました」
「ううん、実は私も『マジカル☆カナ』のファンなの。ライブが間近で見られるなら、これくらいどうってことないよ」
「なるほど、そうでしたか。では私は、カナさんを呼んできますので、少しお待ちください」
 一礼して、ライブ会場に指定した屋上から出て行く社員を見送り、女子高生風の格好をした久世 沙幸(くぜ・さゆき)と人間形態のウィンディ・ウィンディ(うぃんでぃ・うぃんでぃ)が、ここで作業をしている間に社員から聞いた話をまとめる。
「しかし、社長の六兵衛以外は契約したところで魔法少女にさせられぬとは、とんだ詐欺じゃの。噂には聞いとったが、直接話を聞けて確信を得た、というところじゃな」
 『INQB』の内部情報は、つい最近まで匿名の掲示板に書き込みがなされており――その後、社員が対策を施したか、書き込みがあっても即、削除されるようになったらしい――、二人もある程度の知識は得た上でここに潜入を果たしていた。
「行方不明者の捜索も、『INQB』所属の魔法少女がやってくれてるって話だね。……もしかしたらその人たちも合わせれば、ここは変わっていけるのかもしれないけど……」
 社員に勉強会を開いたり、内容を見直したツアー企画も魔法少女の協力で検討されている話を聞き、沙幸はただ一方的にお仕置きをするべきか、悩んでいた。結局のところ、『INQB』の社員の魔法少女に対する無知が、例の事件を引き起こしたのであって、故意にやったのとはまた違う。本業である自治体などのマスコット業が、様々な理由で不調になり、目をつけたのが魔法少女であるという流れを聞いた時には、契約者とそうでないものの生活の質の差を垣間見たような気がした。
「さりとて、魔法少女の何たるかを理解せぬまま、いたいけな少女を食い物にしたという風評はそうそう覆らぬ。潰すとまではいかぬとも、何らかの制裁は必要じゃろうて。ほれ、協力しとる魔法少女も言っとったじゃろ、「かるーくお仕置き」とな」
 ウィンディの言葉に、沙幸が悩みつつもうん、と頷く。所属が同じ、目的もほぼ同じだった歌菜とは口裏を合わせて、アイドルとそのおっかけという役回りを演じていたのだった。
「ま、その時には魔法少女として大いに立ち回るがよい」
「……や、やっぱり変身しなくちゃダメ?」
「何を言うておる、変身しないことがあっていいわけあるまい」
「で、でも、ほら、いっぱい見てるし、もしも……{small}裸になったり、ぱんつはいてないのが見えちゃったら……」
 最後は消え入りそうな声で、沙幸が懸念を口にする。ウィンディを纏って魔法少女に変身する際は、素っ裸にさせられる上にぱんつを履かせてもらえないのだ。
「それが魔法少女のお約束じゃろう? 躊躇うようなら、わしが強制的に着替えさせてしまうぞ?」
「うぅ、わ、分かったよぉ……」
 ちょっぴり涙目になったところで、社員が歌菜を連れて戻って来る。既に歌菜は変身済み、いつでも歌う気(と書いて、殺る気、と読ませるような気がした人は、気のせいである)万端だった。


「みなさーん、こんにちはー!」

 壇上に立った歌菜の挨拶に、集まったゆる族から歓声が飛ぶ。

「今日は私、魔法少女でアイドルの『マジカル☆カナ』が、皆さんを応援しちゃいます!
 最後まで楽しんでいってねー!」


 挨拶を終えた歌菜を見遣り、羽純がスタッフ――もちろん『INQB』のゆる族たち――に指示を出す。
 流れてきた音楽に合わせて、歌菜が得意の歌を披露する――。

 そして時間は流れ、あっという間に最後の歌を残すのみとなった。

「……ここで、皆さんに大切なお知らせがあります」

 歌菜の突然のフリに、会場にいたゆる族からざわめきが溢れ出す。もしかして『INQB』所属か、そんな声がチラチラと聞こえる中、歌菜が謝るように頭を下げ、声を響かせる。

「ごめんなさい! 実は私、『豊浦宮』所属の魔法少女なんです!」

 瞬間、会場が凍りついたような気がした。何せ『豊浦宮』は『INQB』にとってライバル――というよりは、命運を握られている――会社である。まさか、本格的に潰しに来たのか、そんな予感を抱いたゆる族は、次の歌菜の言葉に確信と、軽く絶望を覚えたかも知れない。

「そういうわけなので、皆さんにはかるーく『お仕置き』を受けてもらいますね♪」

 直後、会場がじりじりと燃えるような炎に包まれる。一番前を陣取っていた社員は瞬く間に炎に包まれ、ぷすぷす、と煙を残して地面に伏せる。
「に、逃げろー!」
 事態を悟った社員が、屋上から階下へ降りる階段へと一目散に駆け寄る。

「まじかるふぉーむちぇんじ☆彡」

 そこに声が聞こえ、女子高生の格好をしていた沙幸から光が弾けたかと思うと、次の瞬間には和服っぽい魔法少女衣装に身を包んだ格好で出現を果たす。

「あなたのハートに手裏剣一閃、まじかるくのいち☆さゆきちゃん、参上だよっ!」(み、見えてないよね……?)

 変身した時の裸と、ぱんつを履いてないのを見られていないか気にしながら、沙幸が魔法少女な名乗りをあげる。前に魔法少女、後ろにも魔法少女という形になった社員たちから、もうおしまいだ、といった声や、ただただごめんなさい、と許しを乞う声が聞こえてくる。
「歌菜、もう十分だ。彼らも魔法少女を怒らせるとロクな事にならないのは理解したはずだ――」
 抵抗せず泣き喚くゆる族たちを見て、羽純が既に十分と判断し、歌菜を止めにかかる。
「あ、貴方、かわいいですね! よければ私のペットになりませんか? 魔法少女にマスコットは付き物ですから!」
 その時歌菜は、燃え盛る炎の中心で、ゆる族の一人を捕まえて契約を迫っていた。歌菜は至極笑顔のつもりだったが、彼にはどうやら悪魔の微笑みに映ったらしく、ガタガタと身体を震わせていた。
「……歌菜、それはちっとも軽くないぞ……」
 結局、どこも『ちょっと』ではなかったことに、予想はしていたが羽純が溜息をつく――。