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リアクション
「ククク……アーッハッハッハ! いいです、実にいいです。
これだけの魔法少女が集まる場で、私が悪の魔法少女である豊美ちゃんを倒せば、名実ともに最強の魔法少女になれるわけですね!
やってやります! この時のために編み出したハートフル必殺技『神速のマジカルアホ毛ストライク』で倒しちゃいます☆
もう誰も私に勝てない! 私が宇宙最強の魔法少女です!」
魔法少女な衣装に――髪の色と同じ色をベースにした――身を包んだレロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)が、最強の魔法少女であることを認めさせるべく、ぐっ、と拳を握りしめる。
「ダメだこのレロシャン完全に騙されている……こんなの絶対おかしいですよ!
違う、レロシャンの考えは間違っている! 本当の強さとはポジティブな向上心と日々の鍛錬の積み重ねの先にあるものです!
降って湧いたような話に騙されるな! ……もし、それでも貴女が間違った道を歩むというのなら、ワタシはその更に上を行く間違いで止めてみせる! そう……レロシャンがやっつける前に豊美ちゃんは、ワタシが倒す! 機動魔法少女ネノノに、誰も付いて来られるはずがない!」
そのレロシャンを止めようとしたネノノ・ケルキック(ねのの・けるきっく)が、止めるのが無駄だと悟るや否や、自らが引導を渡すべく機晶姫用のフライトユニットで飛び上がる。
「「……どうして、こうなった……」」
そんな二人を呆れるように見つめて、レロシャンのマスコット、北木 充、マスコット名『ミッチー』とネノノのマスコット、南川 名無、マスコット名『ナムム』、がどっと疲れたようにため息を吐く。
「ねえ、ボクと契約して魔法少女になってよ!」
「えっ、私が魔法少女になれるんですか〜。しかも最強の魔法少女に!」
「え? あ、いやその、最強かどうかは知りませんけど――」
「かわいいですよね、ゆる族さん。あ、ついでにネノノにも契約させますねー。
こんな私でも世界最強で世界一かわいいスーパーヒロイン魔法少女になれたら、それはとっても嬉しいなって思うんですー」
「いやですから、世界一かわいいとかスーパーヒロインとか知りませんけど――」
少し前に体験した出来事を振り返って、ミッチーとナムムが再びはぁ、とため息を吐く。
「……どうする? お前のとこの魔法少女はともかく、ウチの魔法少女……ぶっちゃけ強くないぞ」
「なんか、戦うというより、癒し系ってヤツですよね。まあ、魔法少女らしいっちゃらしいですけど。……何もなければいいですよね」
「いや、お前、この状況だぞ? 何も無いわけがないだろ」
ミッチーとナムムがそんな話をしているのも知らず、レロシャンとネノノは豊美ちゃんを倒すべく出撃しようとする。
「みんなの憧れを利用して騙すなんて、許せません!
そんな人は、教導団まで連れて行って逮捕してもらいます!」
そこに、『豊浦宮』の魔法少女、ミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)が立ちはだかる。
(私だって、ちょっとは戦えます! 今日のお仕事でほんの少しでもお給料をもらって、お兄ちゃんの生活費の足しにするのです!)
とても健気な思いを胸に、ミュリエルが天空から隕石を召喚する。降り注ぐ隕石が違わず、レロシャンを押し潰さんとする。
「契約早々、いきなりヤバいんじゃね? ロストは痛いんだよなあ、勘弁してほしいなあ」
「ミッチーさんの今の発言の方がヤバい気がするんですけど――」
二人がそんな話をしている前方で、しかし最大級にヤバい事態が発生する。
「私のアホ毛は、天を貫き、隕石をも貫くのです!」
そう高らかに宣言したレロシャンが、自慢のアホ毛を最大限伸ばし、言葉通り本当に隕石を貫いて真っ二つにしてしまったからである。人は「自分は出来る」と発言することで普段は出せない力を出せることがあるが、レロシャンの場合それが最大限に生かされた結果……かもしれない。
「神速のマジカルアホ毛ストライク!」
「きゃーーー!!」
そして、レロシャンの必殺技を食らったミュリエルが、勢い良く吹っ飛ばされる。背後に迫るビル、ぶつかる、と思われたその時、滑り込む一つの影。
「間に合ったか。大丈夫か?」
「……え、あ、お兄ちゃん!」
自分を助けてくれたのがエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)と知り、ミュリエルがパッと笑顔を浮かべる。しかし当のエヴァルトは首を振って、
「今の俺は、蒼空の騎士パラミティール・ネクサーだ!」
そう、高らかに宣言する――。
「……あーあ、言っちゃった。豊美ちゃんは……見てないみたいだけど。ていうか、見られてたら確実にお仕置きだよね……。
だって、合法的に変身したいって理由だけで魔法少女になったんだから……それもあんな、宇宙の騎士風ヒーローに……」
その様子を、建物の陰から見ていたロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)が、はぁ、とため息を吐く。最初にエヴァルトから『豊浦宮』へ所属する理由を聞かされたロートラウトは、ミュリエルはともかくエヴァルトは絶対無理と言ったのだが、
「……いいじゃないか、魔法少女の窮地を救うのがタキシードを纏った伝説の傭兵……じゃなくて仮面の男の代わりに変身ヒーローだって!
これが新しい魔法少女のスタイルだっ!」
とのたまうので、ダメだこいつ、もう手遅れだ……とロートラウトはそれ以上何かを言うのを止めた。
「でも、悪いことは見逃せないよね。『夢を奪い去る者は、どんな奴も許さない!』って歌もあるし。ちゃんとミュリエル助けてるし、もしかしたら『魔法少女の隙や死角を補う用心棒ロボ』に見えるかも」
自分を納得させる意味も込めて、ロートラウトが呟く。さっきから豊美ちゃんとガチバトルを繰り広げている魔法少女らしき存在を見ていると、まだ可愛い方なのかも、と思えてくるから不思議だ。
「今日でお前たち『INQB』の悪行も終わりだ! 覚悟しろ!」
エヴァルトが、レロシャンの背後にいるミッチーとナムムを指差して、啖呵を切る。彼の目には、二匹のゆる族がレロシャンをたぶらかして戦わせているのだと映っていた。
「受けてみろ! ネクサー・トルネード!」
エヴァルトの肩部装甲が開き、そこから竜巻を思わせる攻撃がレロシャンを襲う。猛威を振るったアホ毛も、風に煽られて効果を発揮しない。髪の長い人は、風の強い日が天敵なのである。
「こ、これは流石にヤバいよなあ」
「どうしますか、撤退しますか――え?」
顔を見合わせ話をしていたミッチーとナムムは、直後、自分たちがワイヤーに絡め取られていることに気付く。ワイヤーの先を持っていたのは、エヴァルトだった。
「お前たちの手はお見通しだ! さあ、俺と一緒に来てもらうぞ――」
「ワタシのことを忘れるなー! 飛翔音速斬(エアリアル・ソニックブレード)!」
しかし、ワイヤーはネノノの繰り出した必殺技で叩き切られ、ミッチーとナムムは解放される。
「くっ……戦うというなら、たとえ女性であっても!」
構えを取ったエヴァルトが、レロシャンとネノノに突っ込んでいく――。
「そうでしたか……分かりました、ありがとうございます」
既に治療を受け、動けるまでに回復した『INQB』のゆる族から、ここでの事態を把握したメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)がどこか悲しげな表情を浮かべ、思考に耽る。
(『豊浦宮』と『INQB』……いずれ争いが起きると思っていましたが、まさかその引き金を、私のようなフリーの魔法少女が引いていたなんて……)
フリーの魔法少女が『ゆる族狩り』を行い、それに『INQB』の魔法少女が断罪を加え、その現場を目の当たりにした豊美ちゃんたち『豊浦宮』が戦端を開いた流れは、確かにそれぞれの方針の違いからいずれは争い事になったかもしれないが、メイベルの想像していたものとは違っていた。
(結果として、争いは起きてしまった。……悲しいことです。悲しいことです)
自分もフリーの魔法少女として活動している以上、責任は取らねばならないだろう。出来る限り穏便に済ませたいが、既に戦いは始まってしまっている。多少の荒療治は、やむを得ないだろう。
「行こう、メイベル。僕たちには、これがあるんだから」
声にメイベルが顔を上げると、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が微笑んで、どこからか取り出した二本のバットのうち、一本をメイベルに渡す。見た目はただのバット、しかしそれは、彼女たちにとっては特別な意味を持つバットであった。
「……ええ、そうね。私は、二つの陣営の戦いを止めたい。どちらかに犠牲が出る前に、私は争いを止めたい」
セシリアからバットを受け取ったメイベルが、キッ、と覚悟を決めるように表情を引き締める。
またこのバットで、少なからぬ魔法少女を沈めてしまうかもしれない。だけど、それは必要なことだと信じたい。
「『撲殺天使』メイベル、行きます!」
「同じく、『撲殺天使』セシリア、行くよ!」
二人が魔法少女――撲殺天使が魔法少女のカテゴリに入るかどうかは怪しいところだが――な名乗りをあげ、『豊浦宮』と『INQB』の争いに終止符を打つべく、飛び込んでいく。
(この騒動、やはり、豊美ちゃんが進めている、正しい魔法少女像の啓蒙が一番なのでしょう。『INQB』の方だけでなく、フリーで活動されている魔法少女の方にも、意識を持っていただかねばならないでしょう)
その二人を背後からガードする役として振る舞っていたフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が、思いに耽る。『豊浦宮』と『INQB』の両者、そのどちらにも属さない第三勢力、その三方が何か一つでも共通した認識を持たねば、戦いは止まないだろう。
(ひとまずは『INQB』との講和を図れればよいのですが……例えば、豊美ちゃんと『INQB』の代表の方とのトップ会談など)
しかし、まずはここでの戦いを収束させねば、今の考えも実行に至らない。そう思い立ち、フィリッパは争いを止めるため、メイベルとセシリアと共に、戦場に介入する――。