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ポージィおばさんの苺をどうぞ

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ポージィおばさんの苺をどうぞ
ポージィおばさんの苺をどうぞ ポージィおばさんの苺をどうぞ

リアクション

 
 
 
 
 
 
 光を弾く赤い宝石
 
 
 
「わー、どれから食べようかな♪」
 どこを見渡しても、苺、苺、苺。
 白銀 司(しろがね・つかさ)はどれから食べようかと目移りしながら苺を摘んでゆく。
「もう少し、寝ていたかったんだがな……」
 司に強引に連れてこられたセアト・ウィンダリア(せあと・うぃんだりあ)はいつものようにだるそうなそぶりだったけれど、それでもまあ、苺なら嫌いではない。仕方ないから付き合ってやるかと、苺を手に取った。
 セアトが1つ摘む間に、司は2つ3つと苺を摘んでいる。
「随分はりきって摘んでいるんだな」
「だって苺は美味しいし、可愛いから大好きなんだもん。そのまま食べてもいいし、スイーツにしても美味しいし。それに、お肌にも良いんだよ♪」
 そう言っている間にも次の苺をぷちんと摘んで、司は嬉しそうに笑う。
「肌がツヤツヤになれば、セアトくんのお色気レベルもアップ間違いなしだよ! ――痛っ」
 採った苺をはいと差し出す司に、セアトのつっこみチョップが炸裂した。
「だってほんとに、苺のビタミンCは美肌を作るんだよ」
 チョップされた頭をさすりさすり、司はセアトに差し出していた苺を自分の口に持っていった。
「肌には良いかも知れんが……あんまり食うと苺みたいにふくれあがるぞ」
「え、太る?」
 口に運びかけていた司の苺を持つ手がぴたりと止まる。
 食べたい。でも太りたくない。
 ちょっと考えた後、司は苺を口に放り込んだ。
「だ、大丈夫だよ、苺だもん! うん、そうだよ!」
 司はカロリーのことは考えないようにして再び苺を食べ始めた。
「八雲さんにもお土産の苺、持って帰ってあげなきゃね♪」
「オカマに土産? いらないだろ、そんなもの。苺のヘタでも食べさせておけよ」
「ひどっ」
 言いながら司は形の良い苺を、食べずにそっと籠に入れた。
「それがオカマへの土産か?」
「え? こ、これは……」
 司は特に美味しそうな苺を選んで摘み入れた籠を、なんとなくセアトの視線から隠すような位置へと動かし。
「ジャムにしてみようかなって……。セアトくん、帰ったらジャムの作り方教えてくれないかな? じ、実はプレゼントしたい人がいてね。その人甘いものが好きなんだって。それであの……美味しい苺で手作りのジャムを、って。セアトくんお料理上手だし、ダメ……かな?」
 口早に言う司をセアトはじっと眺め、
「男か?」
 とぼそりと聞いた。
「ど、どうして?」
「いや、なんとなくだが……まあいい。ジャムなら、砂糖とレモン汁ぶっかけておいて煮るだけだから、そう面倒でもないからな」
「ありがとう」
 恥ずかしそうに視線を泳がせる司に、セアトは真っ赤に熟した苺を指してみせる。
「ほれ、こっちのがうまそうだぞ」
「ほんとだ」
 司は大切そうに苺を摘んで籠に入れた。
 真っ赤な苺、おいしいおいしいジャムになぁれ。
 気になるあの人に喜んでもらえるように――。
 
 
 
 畑を渡る間に風は苺に染められ、甘酸っぱい香りとなって吹いてゆく。
「ネットにあった苺畑はここか……」
 摘みたての苺を味わえると聞いて、興味を持ったのはブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)の方だった。
 食材のほとんどは新鮮なものほどおいしい。ならば、畑で積んだばかりの苺はいかほどの味だろう。そう言ったブルーズに、ならば行ってみようかと黒崎 天音(くろさき・あまね)も乗り気になって、ここまでやって来たのだった。
「向こうではスイーツフェスタをやっているようだね。あちらも面白そうだ。ねぇ、ブルーズ?」
 問いかける天音の声の裏にその意図を感じ取って、ブルーズはお断りだと即座に却下した。
「我の目的は苺狩りだ。勿論フェスタで土産は買って帰るつもりだが」
 それでも天音は笑い含みにブルーズを眺めて続ける。
「ピンクのワンピースに白のエプロンドレスなんて、可愛いのにねぇ。妖精の女王以上に似合うと思うんだけど」
「だから断ると言っている」
 そんなものを着た自分の姿、それを見て面白がるに違いない天音の姿。思い浮かべてしまったその想像図を急いで脳裏から追い出すと、ブルーズは畑になっている苺を観察した。
 ぱっと見、あまりなっていないのかと思ったけれど、のぞき込めば葉の陰に大粒の実がたくさんある。緑、白、赤。色づく経過を見ているようで興味深い。
「苺狩りはしたことが無いな。ブルーズも初めてでしょ?」
「ああ。実際になっている苺を摘んだことはない」
 苺を食べる機会は多いけれど、苺狩りとなるとなかなか出かける機会は無いものだ。
 ブルーズは葉の間に手をやると、苺の粒を潰してしまわぬよう慎重に摘み取ってみた。これがはじめて自分の手で積んだ苺だ。
「ふむ。畑で取れる摘みたての苺というのは綺麗だな」
 つやつやと張りのある赤い表面に、ぷちぷちと小さな種のような果実が起伏をつけている。ちょこんと帽子を被ったような鮮やかな緑色のヘタは、食べ頃を示して軽く反っている。円錐型の苺の粒は、口に含んでくれと言わんばかりの瑞々しさ。漂う甘酸っぱい香りが私を食べてと誘いかけてくる。
 苺に誘惑されるように、ブルーズは一粒ぱくりと口に入れた。たちまち広がる芳醇な果汁は、ほのかに酸味を含みながらも甘い。
 口の中いっぱいに広がる甘みはブルーズの表情にまで幸せを広げる。
 天音はどうしているかと見れば、苺を器用にぷちりと摘んでいた。形の整った苺は小さな籠に入れ、少し形がいびつなものは口へと運ぶ。
 天音の口唇が真っ赤な苺をはさみこむ。苺から溢れる豊かな果汁が天音の口唇に艶を与え、指先を濡らす。果汁が垂れた指先を舐める天音の仕草にどこかいかがわしさを感じ、ブルーズは天音の傍に歩いていくと周りから見えないように自分の身体で壁を作った。
「本当に綺麗だね」
 隣に来たブルーズに天音は摘んだばかりの苺を見せる。
「ああ」
 ブルーズは気もそぞろに相づちを打つ。今は苺よりも天音の仕草の方が気にかかって仕方がない。もう少ししゃきっとして食べろと注意しようかと思った時。
「ブルーズの瞳と同じ色だ」
 深紅のダイヤモンド。そう呼ばれる苺を掲げて天音は微笑んだ。
 その姿に何だか満更でもなくなって、ブルーズは天音への注意を飲み込むと、掲げられた苺の赤を見やるのだった。
 
 
 
「どうして苺ってこうもテンションをあげてくれるんだろうねぇ」
 今年もやってきたポージィおばさんの苺畑。苺だらけの風景を味わうように、佐々良 縁(ささら・よすが)はうーんとのびをして思いっきり深呼吸した。
「苺の時季はこの畑に住んじゃいたくなるよぉ」
「まあ、縁さんったら」
 一緒に苺畑にやってきたクエスティーナ・アリア(くえすてぃーな・ありあ)がくすくすと笑った。
 今日はそれぞれのパートナー、佐々良 姫香(ささら・ひめか)サイアス・アマルナート(さいあす・あまるなーと)を誘っての苺狩りだ。
「さあ、今日は楽しもう〜……って、あっれ……ひめ〜、姫香?」
 さっきまでその辺りを、ピンクの服を着た姫香がちょこちょこしていたはずなのに、縁が苺に気を取られているうちにどこかに行ってしまったらしい。
 苺畑はやたら広いし、場所によっては立って苺が狩れるくらいに高い畝があったりで、見渡してみてもそれらしい子の姿は見あたらない。
「うわ、どうしよう〜!」
 迷子だと気づいた縁は慌てた。何といっても迷子になった場所が悪い。苺の花妖精in苺畑。物凄く見つけにくそうだ。
「大変ですわね。サイアス、私たちも一緒に捜しましょう……きゃっ!」
 ぱっと身を翻して走り出そうとしたクエスティーナが土に足を取られるのを、サイアスが素速く支える。
「クエス、足下に気を付けて下さい」
「ありがとう、サイアス」
 サイアスに礼を言うと、クエスティーナは今度は気を付けて姫香を捜し始めた。
 
「あれ、まま……?」
 姫香も自分が縁とはぐれてしまったのに気づいた。
 はぐれたらその場から動いちゃいけないと縁から言い聞かされているから、姫香はその場に立ち止まった。ちょっと心細いけれど、縁ならきっと見つけてくれる。
 姫香は苺たちとおしゃべりしながら、じっと縁たちを待った。
 そこに、
「あらあら、ここにいたんですのね」
 クエスティーナがにっこりと姫香に笑いかけた。
「あ、おねーちゃん。みつけてくれてありがとうー」
「まあ、姫ちゃんはなんて愛らしいのかしら」
 可愛いものに弱いクエスティーナは、姫香の金の瞳に見つめられると失神しそうに胸がときめいた。
 すりすりと身をすり寄せ、思う存分なで回すと、ぎゅーっと抱きしめる。
「ああ、なんて柔らかいのでしょう、ぷにぷにですわ……かわいい……です♪」
 クエスティーナの熱烈大歓迎に、姫香は目を丸くした。
「あうあうー!」
 このままにしておいたら何時までも止まりそうもないとみて、クエスティーナが一頻り姫香を愛でた頃合いを見計らってサイアスは声をかける。
「縁さんも心配していますから」
 姫香に夢中だったクエスティーナは、サイアスに頭を撫でられてはっと我に返った。
「あ……ええ、そうね。サイアス、良く見えるように姫ちゃんを肩車してあげて下さいな」
「かしこまりました」
 サイアスが肩の上に姫香を乗せて歩き出すとすぐに、気づいた縁が飛んできた。
「まま〜!」
「ひめ、良かった〜。クエスさん、サイアスさん、見つけてくれてありがとねぇ」
 これで一安心。
 ようやく苺狩りに戻れると、縁はさっそく苺に手を伸ばした。けれど、その服の裾がくいくいと姫香に引かれる。
「あのね、まま。あの子とかあっちの子がうんと甘いよって」
 何? と姫香の指す方を見れば、そこにあるのは苺たち。
「苺なみなさまにも、食べておっけぇなモノとかいろいろあるんだねぇ」
「うん。みんな、お話きかせてくれたの。おばちゃんがすっごく大切にお世話してくれてるから、こんなに大きくなれたんだよ、とかいろいろ」
「そっかぁ。んじゃ、有り難くいただこうかな。ありがとね姫香」
 礼を言って姫香の頭を撫でながら、縁は内心ほっとする。植物の声が分かるという花妖精が、苺狩りに対してどんな反応を示すのか、実は少々気がかりだったのだが、この分なら大丈夫そうだ。
「おねーちゃん、あの子がとってもおいしくなったから食べてって言ってるよー」
 縁に褒められた姫香は、クエスティーナにも甘い苺を教えた。
「これですね」
 サイアスが言われた苺をちぎると、クエスティーナはあーんと口を開けて待っている。
「はいはい」
 サイアスが口に入れた苺を食べ、クエスティーナは甘いですわと微笑んだ。
「姫ちゃんは植物とお話できていいですね。私にも聞こえたらいいのに……」
 クエスティーナは目を閉じて耳を澄ませてみた。
 聞こえてくるのは、さわさわと風に揺れる葉の音、苺狩りではしゃぐ人々の声……。
 そのまま苺畑で眠ってしまったクエスティーナを、姫香がのぞき込む。
「おねーちゃん、おひるねー?」
「はしゃぎすぎて疲れたのでしょう。いつものことですから心配はいりませんよ」
 サイアスは慣れた様子で答えると、持参してきていたカーディガンをそっとクエスティーナにかけてやるのだった。