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ティーカップパンダを探せ!

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ティーカップパンダを探せ!

リアクション



【2・残り43時間】

1日目 P.M. 14:00

 なななの指示と、レジーヌの情報を踏まえてやってきた竹林。
 林のなかはレジーヌ、近くの崖にある穴ぼこ密集地にはアキラとアリスが捜索にあたっていた。
 ちなみに、イコナは迎えにきた鉄心たちに連れられて涙目で帰っていった。
「そっちはどうだ、アリス」
「全然ヨー。ティーカップパンダどころか、ミミズもいないネー」
 人が入れないような小さな岩穴も、アリスの体型を生かして潜り込んでいるものの。ただ時間だけが刻々と過ぎるばかりだった。
 そして。
 なななたちと合流したセオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)は、同じ探索のメンバーへと高級芋ケンピを配りつつ、なななとなにやら話し込んでいた。
「そうですか。ナナナさんの好物は海老ではないんですか」
「うん。なななは七草粥が好きだよ」
 おいおいそれはネタなのか? という疑問はひとまず心にしまいつつ、
「ところで、ナナナさん。さきほど伺ったプロフィールが、とあるピュア紳士達の社交場にいる未来人と似ているですが……なにか関係があるんですか?」
「? ピュア紳士? 未来人って、なんのこと? なななはM76星雲からやってきた宇宙刑事だってば!」
 芋ケンピを食べつつ、首をかしげるポーズになるななな。
「む。そうですよね、やっぱり関係ないんですよね。あとM77じゃなくて76なのには何か訳が?」
「あはは。べつになななの名前と星雲の名前は関係ないよー。そこまでわざとらしかったら、自分の妄想に浸ってるアブない子みたいじゃない」
 いや実際そのとおりじゃないか? とセオボルトはのどもとまで出そうになった。
「そ、それじゃあM76星雲で流行ってる挨拶とかってあります?」
「うーん。まいにゅ――じゃない。まいど、とか流行だよ。なぜか知らないけど、関西圏がブームみたいだね」
「ちょ、待っ……今なにか気になる口癖言いませんでしたか?」
「んー、なんだかティーカップパンダのじゃなくて、別の電波受信しちゃってるかも」
 思い悩みはじめたなななの隣で葦原 めい(あしわら・めい)、そしてパートナーの八薙 かりん(やなぎ・かりん)はキラーラビットのウサちゃんに乗って待機しつつ、
 もらった芋ケンピをほおばるミリー・朱沈(みりー・ちゅーしぇん)に話をしていた。
「それでですね。この国では軍人さんも、そうでない人も、戦える人は皆戦います。我が国の歴史は苦難の連続でした。おそらく、これからもそうでしょう」
 言葉を続けているのは主にかりん。めいは耳を傾けながら周囲の警戒をつづけている。
「でも、自分達がこの国の明日を支えているという実感と誇りを強く持てる国は、他にはそうそう無いと思いますよ」
 自らの心中を吐露するかりんに、
「んー、そうだね。みんなこうしてがんばってるもんね」
 ミリーはなんだか難しい話だなあと思って聞いていたが、だいたい言わんとするところはわかったので笑顔で感想を述べておいた。
(ボクとしても、なななにいたずらしたいのをこらえて、パンダ探しに協力しているんだしね)
 ミリーは、あらためて手に握った二本のロープを握りしめなおした。
 そのロープが続く崖下では、なななのように命綱でつられたフラット・クライベル(ふらっと・くらいべる)と、なぜかパンダの着ぐるみを纏ったアシェルタ・ビアジーニ(あしぇるた・びあじーに)がいて。アキラたちと同様にティーカップパンダを探している。
「それにしても、その格好どうにかならないのぉ?」
「これですか? かわいいでしょう。これでティーカップパンダも仲間意識を持ってくれるはずですわ」
「いや、フツーに恐いと思うけどなぁ」
「え……こ、恐いですって……? そんな事はありませんでしょう……? ねえ?」
 側にいたアキラとアリスに話を振ってみるが、ふたりともあからさまに目を逸らせる。
 それもそのはず、その着ぐるみは妙にリアリティを追究していて、口はギザギザの歯で目も鋭く爪もギラリと光っている。しかもあきらかに動きにくそうであった。
「ふん、もういいですわ。それより、ななな」
「わあ! あ……な、なに?」
 近くに下りてきたなななも、思わずびっくり声をあげていた。
「な、なんですの。『わあ!』だなんて」
「いやだから、アシェルタの着ぐるみが恐いんですってばぁ」
「それはもういいですから。そんなことより、本当にこのあたりにいるんですわよね?」
「うん、きっと……多分……おそらく」
「なにー? なんだかあいまいだけど」
 上で待ってるミリーは、なななのロープつんつくつついて揺らせてみる。
「きゃ。ちょっ、やめてよ。ただでさえ風に揺られやすいんだから」
 なななはすぐまた上へと戻り、抗議の声をあげる。
 ここですこし説明しておくが。飛空船からなななに伸びているロープは、身体と接着している部分にハンドルがついており。そいつを回すことで上下に動かすことができる仕組みなのである。
「なななさん。竹林のなか、だいたい見て周りましたけど。それらしい動物はいませんでした」
 やがて戻ってきたレジーヌの言葉に、どうにも電波受信に不安がよぎるななな。
「もしかしたら、探しに来た俺らに怯えて逃げちまったのかもな。どうする? べつのとこ探してみるか?」
 アキラとアリスもあがってきて、そう提案をもちかけられ。
 なななはどうしたものかとアホ毛をさすりはじめた。
 そのときだった。
「あぶない!」「なななさん!」
 最初に気づいたのは、めいとかりんだった。
 話の最中でも警戒を怠らなかったため、すぐに機体を動かし岩場のかげから飛来したスナイパーライフルかなにかによる狙撃を、脚部に被弾させて防御することができた。
 アキラも殺気看破ですぐに敵を感じ取り、アリスと共になななの前へと陣取る。
 レジーヌもオートガードを発動させて、同様になななを守りながらすかさず飛空船へと連絡をはかった。
 ミリーもまたすぐさまフラットのロープを引っ張りあげ、アシェルタは召喚で崖上にあげる。
「ちょっとミリー! いきなり呼び寄せないでくださいませ!」
 その際アシェルタからの抗議があがったが、すぐに事態を把握して口を閉じる。
 おのおの反応は早いほうだったが。
 唯一反応が遅かったのは、セオボルトだった。
 突然のことを頭が理解する頃には、次なる弾丸が至近距離まで迫ってきていた。
 バズン という衝撃音が轟いたときには、セオボルトは強制的に仰向けに倒れさせられていた。
「ぐぅっ!」
 胸元を押さえてうめくセオボルトに、誰もが息をのみ。誰かの悲鳴があがった。
「だ、だいじょうぶ!?」
 駆け寄りたくても、左右移動ができないなななは声をかけるしかできなかったが。
 他の誰かが助け起こすより先に、セオボルトはすぐにむくりと身体を起こしていた。
 たしかに当たった筈なのに? という疑問の答えは、服の下からポロポロとこぼれ落ちた芋ケンピの残骸が示していた。
「芋ケンピを懐に忍ばせていなかったら死んでいた……」
 おもわず一同、唖然。
「ぼんやりしてる場合じゃないよ!」「みんな早く逃げてください!」
 しかし幸運が何度も続くとは限らないと、めいとかりんはウサちゃんのコクピットから外のみんなへ警告する。
 すでに飛空船は移動をはじめていたので、引っ張られる形でなななは連れられていき。
 アキラとアリス、レジーヌはなななを囲んだ状態で共に退散していく。
 セオボルトも芋ケンピに感謝しながらあとに続いた。
 そしてミリーたちも逃げようとしているものの、なにぶんアシェルタの動きが鈍重で。のたのたという効果音がしっくりくるほど遅く、ミリーとフラットに呆れられていた。
 めいはそれ以上みんなの確認はせず、ウサちゃんに装備させていたマジックカノンを、銃撃のきた岩場へと向けて放った。
 威嚇ではなく、岩ごと粉砕させられるよう正確に狙って。
 すると一発目で岩が砕けたのと同時に一匹のワイバーンに乗った、つぎはぎだらけの鎧を着た男が飛び出してきた。
「あれが例の泥棒龍騎士みたいね」
「けれど、索敵した限りでは近くに仲間はいないみたいです。おそらく独断専行か、こちらの戦力把握といったところでしょう」
 かりんの分析を聞きながら、めいは再び相手に狙いをつける。
 傭兵男はスナイパーライフルを構えてはいるものの、イコンの装甲相手には無駄だと踏んでかどう攻めるか考えているようだった。
 ならば態勢を整えるよりさきに落としてしまおうと、めいはワイバーンめがけてマジックカノンを発射させる。
 だが、機動力ではやはりワイバーンは負けておらず。上下右左へと旋回し銃撃をかわしていく。
「ちっ。これじゃ、お互い攻めきれねぇな。けどこのまま尻尾まいてたんじゃつまらねぇよな。すこしでも成果をあげておきたいとこだが」
 傭兵男は、上空からどうするかを思案していき。
 結果やはりと言うべきか、視線は逃走を図っているなななたちをとらえた。そのさい最後尾のパンダ着ぐるみのアシェルタがやはり目にとまる。
「なんだあのグロテスク極まりない物体は……あれがティーカップパンダ、なわけはないよなぁ」
 そんな感想を抱きながら、男は迷わずそれを背後から撃ち抜こうと銃を構えるが。
 めいたちのマジックカノンによる攻撃を避けながらでは、さすがに難しい。そこで男はワイバーンを操り、ちょうどシャンバラ教導団の飛空船が後ろにくるところまで来させる。
「へっ、これで思うように撃てないだろ。さあて、これからはずっと俺のターン……ん?」
 勝ち誇った男が、ウサちゃんのほうを見てみれば。
 まっすぐこちらに移動しながら、装備していた射撃武装を突然すべてパージし、代わりにウサ耳ブレードを手にしたのがわかった。
 左右に移動するなら、射撃位置を変えるためだとわかるが。なぜ直進し、しかも空を駆けるワイバーン相手になぜ近接武器なのかと言わざるをえなかった。
「え?」
 そして、そうこうしているうちに理解のときは訪れた。
 男には、目の前のユーモアあふれる機体についての知識が中途半端にあった。
 ウサギを模した機体のわりに、キラー・ラビットは他のイコンよりも重量型で。ラビットという割には飛んだり跳ねたりするのには向いていない。だからこそ、攻撃が届くことはないと安心していた。
 ただ、向いていないからといって出来ないわけではないということを理解しておらず。
「いまです、めい!」
「ラビット隊隊長、葦原めい、いっくよー!」
 理解したころには、加速2と高速機動で走りこんできたウサちゃんが、助走を生かした勢いのままに跳びあがっていた。
 ウサちゃんは地面から50メートル近くジャンプし、さらに腕を上にあげ、ブレードでも距離を稼いで。おかげでブレードは、ワイバーンの翼に到達できるまでになっていて。
 避けるにも遅すぎ、そのまま男は叩き落された。