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ティーカップパンダを探せ!

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【10・電波少女、真価を発揮する】

3日目 A.M. 10:00

 なななは、改めて宇宙警察へと連絡をとったが。
 一時でも連絡が途絶えていたことから、なななが窮地にあったことは事実だと宇宙警察は判断し。これより大艦隊による総攻撃を本格的に開始すると告げられた。
 これまで攻撃の気配がなかったのは、なななの無事を確認できていなかったからこそのことであり。こうして連絡をとれたのなら、なななを回収しだい殲滅命令がくだるとのことだった。
 それを聞いて、なななは崖の上へと歩みを進める。
 わかりやすいところに立って大艦隊に回収してもらうため……ではない。
「みんな。おねがい。攻撃を中止してください」
 なななはもう決意を固めていた。
 このパラミタには、厳しい人や嫌な人、変な人や変な熊もいるけれど。
 こんな自分に手を貸してくれて、力になろうと戦ってくれた人々が存在している。
「なななは地球やパラミタを愛してしまったんです!」
 だから、なななは『おねがい』をしていた。
 宇宙警察の人間としては失格とも言える行為であると、なななは自分で理解していたが。
「お願いです……なななにとって大事なこの世界を、どうか壊さないでください……!」
 それでもなお、なななは深々と頭を下げて。
 どことも知れない場所に存在している宇宙警察へと、電波を飛ばしていた。
 それからしばらく、なななは頭を垂れた状態のままでい続けた。第三者がみれば、とても滑稽に見えたかもしれないが。それでもなななは真剣に頭を下げ。やがてどんな電波を受け取ったのか、晴れやかな顔でアホ毛をピンと立たせていた。
「さあ、みんな! ここからはなななにお任せだよ! 暴走モードから、覚醒モードに移行したなななに、もう怖いものはないんだもん!」
 ハイ、更なる電波キタ――――!
 との勢いで、なななは喜びに打ち震えるように身体を揺らせたかと思うと、切り立つ崖の一角を、正確に指さして叫ぶ。
「あそこだよ! 繁殖期のティーカップパンダのオスが隠れてる! あそこを探して!」
 それを受けてレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)ミア・マハ(みあ・まは)は、岩壁にとりついて足場を確保しながら進んでいく。
「なんだか、ななな急に元気になったみたいだね」
「よしのではないか? 事情は知らぬが、色々苦悩するところがあったのじゃろう」
「あ、そういえばミア。何か作戦があるって言ってなかったっけ?」
「おお、そうじゃったのう」
 ミアは不敵に目をキラーンとさせると、おもむろにレキの背後へと回り、
 むにっ
 と、胸を両脇から寄せることで、いつも以上にたわわにみせる。
「………」
 レキはミアの突然の行動に固まり、文句のひとつでも言ってやろうかとしたが。
 そこへ。崖穴の中からもぞもぞと、這い出てくる影がみえ隠れする。
「きたのじゃ! きゃつは、カップから出ると胸の間に隠れる習性があるという。そのままの体勢でいるんじゃ!」
「え、あ、う、うん」
 ほとんど流されるまま、レキが我慢してそのまま立ち尽くしていると。
 青いティーカップが穴から転がり出てきたかとおもうと、目にも止まらぬ早業でそのなかにいたらしいティーカップパンダが飛び出してきた。
「よし、ここじゃっ!」
 ミアが、迎え入れるようにレキを押し出してやると。
 本当にその胸の内にパンダが治まった。
「わ、やった! ほんとに捕まえたよ!」
 くすぐったいのを感じながらも、レキはそのままじっと待機しつづける。
 ミアもこれで一安心。なななの電波には頭が下がる思いだったが、ふと、
 レキの胸から顔を出したティーカップパンダが、なんともいい笑顔で居るのがなんだかムカッときたミアは。
 かなり本気の拳で殴りつけた。
「わああ! な、なにやってんのミア!」
 レキが慌ててももう遅く、脳震盪でも起こしそうな勢いで殴られたティーカップパンダはそそくさと胸から飛び出し、別の岩穴へと潜り込んでいってしまった。
「ああっ。せっかく見つけたのにー!」
「む……す、すまん。どうにもムカッ腹が立ってしまったんじゃ」
 がっくりと肩を落とすふたりだったが、
 崖の下のなななは、青のティーカップを拾いつつ余裕の表情を浮かべて。
「大丈夫。ターゲットの拡散電波情報は記憶したから」
 アホ毛でピンピンと反応を探り、すこし離れた別の穴を指差した。
「きっとあっちから出てくるよ。たとえ地球の裏側に逃げても、今のなななにはわかるからね」
 次の指示にいち早く動いたのは空飛ぶ箒スパロウに乗るルカルカ・ルー(るかるか・るー)と、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)
 ふたりは出口前につくや、念のため自分のティーカップパンダツインや、僥倖のフラワシと友情のフラワシを従えておき。穴の前に砂糖が多めにしてある暖かい芋粥のポットを配置し。
 ダメ押しにルカルカは上着ボタンを三つはずし、胸に潜りやすくしておいた。
「うん、これで万全よね!」
「ああ。これで出てきてくれればいいが」
 そしてダリルのほうは、研究のために定点観測カメラを設置しておき。この一帯にいる小動物についてなにやらメモしていた。
「ルカさん、ダリルさんー。見つかったっていうのは本当ですかぁ?」
「縁、あまり慌てると危ないですよ」
 やがてルカルカからの連絡を受けて駆けつけたのは、光る箒のストロベリースターに乗る佐々良 縁(ささら・よすが)と、フライングポニーに乗った孫 陽(そん・よう)
 縁は、上空より周辺の情報を確認してノートに記述しておきながら。ルカルカのティーカップパンダツインに目を向けて。
「しかしほんとに最初からカップに入ってるのねぇ……ヤドカリっぽく空カップで釣れたりしないのかなぁ?」
「あは。それはさすがに無理じゃない? 似たようなことやった人が、失敗したって聞いたしね」
「へぇ。それにしても繁殖期のパンダさんかぁ……地球の通常サイズパンダでも珍しいんだっけねぇ?」
「そうらしいよ。かなり希少種になってるみたい。だからこそ、国のために数を増やさないとね」
 会話に花を咲かせるルカルカと縁。
 その傍らの陽はというと、
「しかし国益のため、ですか……まあ深くつっこんだら野暮ですかね?」
 軽くぼやきながら、待ちに徹しているダリルへと近づいて。
「ところで、ダリルくん。調査のほうはどうですか? ティーカップパンダを探すための、有益な情報があればお聞きしたいんですけれど」
「ん? いや、俺としてもまだあのパンダの生態には謎が多くてな。どうしてなななには位置の特定までできるのか、理解できないよ」
「あの不思議な少尉さんですか。やはり、彼女頼みになってしまったんですね」
「まあ、この先そうならないよう。俺たちが研究をすればいいだろう」
 こちらはこちらで、しばらく話が咲いていたが。
 やがて、粥の匂いにつられてか、先ほどのティーカップパンダが鼻をひくひくとさせながら穴から顔を出してきたので全員が緊張に身体をこわばらせる。
 だが相手は緊張どころか、今度も迷いなくルカルカの胸元へと入り込んでいた。
「わあ、ほんとに入ってきたよ。面白いね。あ、ちょ……やぁ……っ、くしゅぐった……」
 ルカルカは喜びつつも、ちょっと悶えて。
 それでも逃がさないようにしっかり捕まえておくのだった。