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リアクション
巨大な、しかしボロボロになり始めたゴーレムからやや離れた地点。小型の池が少々の涼しさを与えてくれるそこに緑色のスーツと帽子、そして靴を履いた人の姿があった。否、居るのは彼、ツブヤッキーだけではない。
葉月 可憐(はづき・かれん)とアリス・テスタイン(ありす・てすたいん)がいるのだ。それもアリスはツブヤッキーを踏みつけて四つん這いにさせ、葉月は葉月で彼の尻に文字通り鞭を撃っている最中である。
「いけませんねツブヤッキーさん。一人だけゴーレムの背後から脱出なんて、性根がひねくれすぎですよー」
「そうだよねえ。まさかゴーレムのお尻に急に穴が空いたと思ったら、犯人が出てくるなんて思いもしなかったよお」
「……出てくる瞬間を抑えられるとは思わなかったザマスよ。姿と気配を消せる者もいることを失念していたわね」
四肢を地面に付けてなお神妙な顔をして悩むツブヤッキーを葉月とアリスは見下して、
「そんな人は鞭うちの計で決定ですよね。異議はありますかアリス」
「勿論、無いですよお」
「当事者だけで強制決定って超素敵――っておおう! 素晴らしいわこの痛み! ディティクト様に負けず劣らず、身体の芯に響く甘美な感覚!」
「ふふ、喜んで頂いてなによりです――よっ!」
身悶えするツブヤッキーに連続しても鞭を撃ちすえて行く葉月の顔には恍惚とした笑みが浮かんでいる。
とろけた様な顔で鞭を振るい、全身緑の男も喜びを表情にして受け続けていたが、やがて眉を下げて困った笑みに顔を変化させ、
「名残惜しいのですが、これでアタシはお暇する事にします。時間にも限りがあるザマスし」
と、踏みつけを押しのけて、彼女らからステップ一つで距離を取った。両手両足を使った獣のような飛び退きだ。
「……逃げられるとお思いで?」
にこやかな、それでいて迫力ある笑みで葉月は鞭をツブヤッキーに向ける。
逃がさない、とそういう意思が入った目を、しかし全身緑の男は微笑みで受け流し、
「ええ、勿論。とある人達以外、アタシは誰にも捕らえられないんザマスから」
言った瞬間、ツブヤッキーの姿がかき消えた。
「なっ!?」
まるで幻であったかのように、姿そのものがその場から消えた。
「……アリス、踏みつけた際に手ごたえ――いえ、足応えはありましたか?」
「え、と、うん。確かに足裏でぐりぐりした感触は残ってるから、さっきまでここに居たのは確かだよう」
彼女らは、既に人の影すらなくなったその場所を見る。
現状ここには、池と木々と少女らの姿しかなく、全身緑の男の姿など見ることは出来なかった。
「あの男、どうやら隠しごとか謀が得意みたいですね。正体が全く掴ませませんでしたし」
困った様に笑って葉月は言う。
彼女の視線は男が消えた場所と、そしてゴーレムの方に向けられていた。
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