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第三章 不意の挙動


 石像の動きは段々と鈍くなっていた。それは足の表皮を剥がされたからでもあり、腕を短くしたことでバランスを取りにくくなったからでもあり、
「うおおお、転べ――!」
「これ以上は行かせません」
 ローションを地面一体にばら撒くアキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)影野 陽太(かげの・ようた)による攻撃が足止めとなっているからだ。とは言えアキュートの攻撃の色合いは大分違い、
「く、予想よりローションの消費が激しい。持たぬか……」
『はあ……。悪いけれど、このゴーレム結構荒いから吸い込んだり隙間は行ったりして転ばないわよ』
 スピーカーからディティクトのツッコミを受けたアキュートはゴーレムの顔面当たりを指差し、
「お前、それでも芸人か――! というか最初の吐息は何だ吐息は。無粋にも程があるぞ!」
『はいはい。それじゃあ踏みつぶしていくわよー』
 言うが早いかゴーレムの足裏がローション地帯を踏みぬき、その衝撃でローションが波のように変化しアキュートを襲う。
「あ、この、卑怯にも程があるぞ!!」
 と、火術をゴーレムの膝にぶち込むが、膝をやや焦げさせる程度に留まり、
「うおあああ!」
 ローション津波に押し流されていく。
 そんな彼を後目に影野は木陰で左膝へ長銃の銃口を向けていた。
「連射は出来ない銃でこの場はキツイけれど、あの人は、俺が守らなきゃいけないんだ……」
 汗を頬から垂らして呟く彼の後ろ、そこから二つのモノが飛び出した。
 一つは影野の背後、巨木の天辺に登った少女の声で、
「皆、左足の崩壊が他の部位より進んでいるわ! 狙うならそこだよ!」
 月美 あゆみ(つきみ・あゆみ)が左手の甲に付けられたルーペでゴーレムを観察しながら発した声だ。そしてもう一つの突出物は人型で、
「いざ、参る!」
 シグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)が剣を片手に突っ込んでいく。
「こんな使いづらそうなデカブツ作るより、小型のを大量に用意した方が戦いでは使い勝手が良さそうなものだがね」
 彼はぼやきながらもゴーレムのまた下まで即座に辿り着き、
「……乱撃ソニックブレード!」
 左足首目掛けて連続の衝撃を放った。
 左右に身を振って剣を叩きつけるそれは最早斬撃というよりは打撃であった。
 一で右に、二で左に、そして三と続き、止まらず撃ちこみ続ける。効果は直ぐに現れ、
「いい調子だよ、そこの厳つい剣士さん。足首が削れ始めてる」
 全体像を把握するあゆみが報告をすることで、シグルズは与えた成果を自己確認したが、
「む……、このままでは踏みつぶされるな」
 歩行の為に動いたゴーレムの足を、大きな横っ跳びで回避。
 彼に変わって衝撃するのは影野で、
「距離良し。風向き良し。狙い良し。……全力で行きますよ!」
 担った長銃の引き金をひいた。
 放たれた弾は巨大な石像の膝下、様々な攻撃で疲弊していた部分へ直撃した。しかしそれでも、
『倒れないわよ、これ位じゃ……!』
『そうザマス。ここで動けなくなったら何のために大きく作ったか解らないザマスよ』
『……えーと、右に同じでさあ』
 三者三様の応じ方で、ゴーレムの健在を証明してくる。
 散々打撃した膝も、最初期に比べ半分以下の太さになったものの、操縦者の力量なのか上手くバランスをとって倒れない。
『このまま、行くわよ!』
 ディティクトは発進の意思をスピーカーで響かせた。
 けれど、その言葉に不敵な笑みで答える者が居た。
「ふむ、ゴーレムは丈夫なようだが、これはどうかな?」
 口の端を吊り上げたアルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)はゴーレムの前に立つと、徐に天のいかづちを叩き込んだ。
 胴体や脚部にではない。彼の狙いは、
「人形が固いなら、操り手を狙うまでのことだ」
 操縦席のある頭部だった。
 
 
 操縦席内には石の塊が避雷針の代わりとなって雷撃そのものは届かなかった。しかし光は別で、
「きゃあっ!」
「まぶしいザマスよ――!」
「……右に同じ」
 三人そろって目を瞑ることになった。その隙をクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)は逃さない。
 箒で飛びつつゴーレムの背後をずっと陣取っていた彼は、今が好機とばかりに後頭部へ猛接近。
 光で自分の目が焼かれないように石像頭部を光避けにしつつ、
「ゴーレムは壊したくないですし、犯人にはさっさと投稿して貰いましょう」
 石像の後頭部を掘り始めた。匠のシャベルはゴーレムに構成された岩石でも問題なく掘り進む。
 結果、やや抵抗はあったものの、拳ほどの穴が空いた。
「成功成功。ならば次はこれですよね」
 そしてクロセルは穴の中に煙幕をぶん投げた。これまた小さなものでありながら密閉された操縦席内には効果抜群で、
「ぎゃあ、何よコレ――! 煙たいし、前が見えないし、ああムカつく!」
 灰色の煙が操縦席を充満した。
「あだだ、踏まないで下せえ。どうせ直進だけですし構いやしませんでしょうに」
 操縦者のディティクトが暴れたことでゴーレムも挙動不審となり頭や腰を振りまわす。
「……っとと、これは一旦引いた方が得策ですね」
 不可思議な挙動の石像を避けつつクロセルは去るが、煙幕は去ることなく、
「げほっ! ホントに見えないんだけれど、空調、空調とかないのこのゴーレムは!?」
 ディティクトが大声を張り上げると、声を返すのはズラカリーで、
「あー、何かツブヤッキーによるとあるみたいでさあ。自分に場所は解りませんが」
「だったら当人に答えさせなさいよ。ツブヤッキー、さっさと空調を作動させて!」
 けほ、とやや咽ながらディティクトは叫ぶも、答えも空調の作動音も帰ってこない。
「……ちょっとツブヤッキー、返事をなさい。居場所が解らないでしょ」
「――あ、ありやした空調ボタン。いま押しまさあ」
 ズラカリーがボタンを押し込むと、途端に天井、つまりゴーレムの脳天が細かい格子状へ変化した。
 空気の流れは早く、また吸い込みと放出を繰り返すと一分もせぬうちに空気は完全循環される。
 煙幕が張れるのに時間はそうかからなかった。合計で二分、それだけで煙は操縦席から消えた。
 けれどそこに緑スーツの姿は全く無く、
「あの緑何処行った――――!!」
 操縦室内部にはディティクトとズラカリーが残るだけで、ツブヤッキーの姿など影形もない。
「ありゃりゃ、落ちちまったんですかね。まあ、どうせ腕一本使えなくなるだけですし、これも構わず行きましょうや」
 呑気なことを言うズラカリーだが、ディティクトの顔には冷や汗と脂汗が同時に浮かぶ状態までとなり、
「……へんちくりんなゴーレムで奇妙な機能が多い分、設計者がいなくなると物凄い不安なんだけど、――まあいいわ。女は度胸!」 少しのぼやきを零した後、交戦状態の者たちを踏みつぶさん勢いで振りきった。