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【なななにおまかせ☆】スパ施設を救う法

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【なななにおまかせ☆】スパ施設を救う法

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第四章

――とある日のスパ。時刻は十一時になろうとしていた。
 プールサイドには何人かの人たちが集まっている。
 彼らは、今日行なわれる『水鉄砲サバゲー』の参加者達だ。木本 和輝(きもと・ともき)の学校新聞で告知を出した所、参加希望者が何名か出てきたのだ。
 同じく告知を見たらしき観客も、ちらほらとだが存在していた。
「さて、それじゃルール説明を行なわせてもらう」
 日比谷 皐月(ひびや・さつき)が参加者の前に立ち、ホワイトボードにルールを記入していく。
 ホワイトボードには、このように書かれた。

・武器は貸し出している水鉄砲

・丸く切り抜いた段ボールが完全に濡れたらアウト

・フィールドは【50m温水プール】内。スライダーを含む

・ゲリラ&サバイバル戦。最後まで残っていた人が勝ち

・開催時間は十一時〜十三時の二時間

「設置してある段ボールバリケードは自由に使ってくれ。審判はオレが行なう。昼時だから他のお客さん達の迷惑にならないように頼む」
 皐月は言い終えると、時計を見る。間もなく、時刻は十一時になる。
「――よし、それじゃ開始!」
 皐月の言葉と同時に、参加者が走り出した。

『さあ始まりました第一回水鉄砲サバゲーINスパ。実況は私アロハが似合う男、セファー・ラジエール(せふぁー・らじえーる)で送らせていただきます』
【解説、遊馬 澪(あすま・みお)
『早速解説者がフリップで自己紹介とか聞いている人の事を全く考えちゃいませんがよろしく』
【喋るのめんどう】
『書く方が面倒だと思うのは私だけじゃないはず。さて、始まって参加者はそれぞれ配置についたようですが』
【見てなかった】
『解説者いらねーだろこれ……お、早速動きがありましたね』

 スライダーの麓。刹那・アシュノッド(せつな・あしゅのっど)の前にエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が立っていた。
「さて、私に何か用かしら?」
「その身のこなし、熟練の剣士とお見受けする。是非とも手合わせ願おうか」
「中々面白そうじゃない。受けて立つわ」
「よし、いざ勝負!」
 刹那、エヴァルトの両名が武器を構える。
「……何で私も武器持たされてるのかなぁ。水質調査に来たはずなのに……」
 エヴァルトの後ろ、ライフルタイプの水鉄砲を持ったファニ・カレンベルク(ふぁに・かれんべるく)が呟いた。

『さあ早速始まりましたが刹那選手とエヴァルト選手。お互い武器はハンドガンタイプですがそれぞれ違うみたいですね』
【刹那、スピード重視 エヴァルト、パワー重視】
『やっと解説っぽいことをしてくれました。この場合、戦局にどのように関わってきますかね?』
【知らない】
『お前帰れよもう』

「むぅ……」
 銃を握るエヴァルトの額を汗が伝う。
「貰った!」
「ちぃッ!」
 横から狙ってきた刹那の砲撃をかわす。
 狙おうと銃口を向けたときには、既にその場に刹那は居ない。
「何処を見ているの!?」
 声がした方を向いても、既に遅い。
 小柄な体格である刹那は、その身体を生かしスピードによるかく乱を主にした戦法を取っている。
「このままではやられるな……」
 エヴァルトは狙うことをやめ、刹那を目で追う。
「あら、諦めたの? なら、遠慮なく行かせて貰うわね!」
 真っ直ぐに、エヴァルトの懐目掛けて刹那が踏み込む!
「そこだ!」
 そのタイミングに合わせて、エヴァルトが銃口を向ける。行動を予測していたのだ。
 トリガーを引き、銃口から水が放たれる。
「うぉっ!?」
 大量の水が放たれ、反動により照準がずれる。
「おっと、いただきっ」
 水を避けると、刹那は再度懐を狙った。
「えいっ」
 そこへ、物陰からファニの砲撃が放たれた。
「うわっ、と! 二対一はちょっと厳しいか……ならこっちも二人で行かせて貰うわ! アレット!」

『アレット……そういや開始した後から見てなかったけど、何処に居るんでしょうかね?』
【真っ先にスライダーに隠れに行った】
『ほう、そういやライフルタイプの水鉄砲持っていたから、狙撃の為?』
【刹那がこっそりエロい水着とすり替えておいたからねぇ】

 スライダーの滑り台入り口、アレット・レオミュール(あれっと・れおみゅーる)は麓にいる刹那達を見下ろしていた。
(うぅ……呼ばれましたが、こんな格好で人前なんて出られませんよぉ!)
 そして自分の姿を見る。白い紐タイプのビキニ。それがアレットの体を纏っている布だ。
(け、けど何かしなきゃ……)
 再度、麓を見下ろす。それぞれ、何処に誰がいるかは確認できた。
「よ、よし……」
 アレットは自分の水鉄砲を構える。狙撃による援護なら出て行かなくてもいいと判断したのだ。
「……ここからじゃ、狙えませんね」
 構えながら、狙えそうな位置を探す。中々、いいポジションが見つからない。
「よし、ここな……ら?」
 見つけたと思った瞬間、つるっと、足を滑らせた。スライダーすべり口の、濡れていた足元に気づかなかった。
「あ、あああああああ!」
 そのままアレットはスライダーを転がるように滑り落ち、出口のプールへと放り出された。大きな水しぶきを上げ、着水する。
「……ぷはっ! ……あれ?」
 浮かび上がったアレットの視界に、見知った物が入る。
 白い布だった。それは、先程アレットが身に着けていた物に良く似ていた。
 ゆっくり、視線を下げる。

『皆お待ちかねポロリがきたあああああああああ!』
【いえーい】
『あーっとアレット選手、『もういやー!』と泣いて逃げてしまいましたね。戦意喪失でリタイアです』
【まあ、仕方ないねぇ ※残り四人】

「む、何だ今の音は?」
 スライダーの陰になり、アレットに起きた出来事が見えていないエヴァルトはアレットが着水した音に、気を取られてしまった。
「よし、もらった!」
 その隙に、刹那は懐に入り込み、
「うぉっ!?」
手に持った銃の引き金を思いっきり絞る。
「エヴァルト選手、アウト!」
 皐月による判定が下されると、エヴァルトは薄く笑った。
「……いい戦いだった。後で飲み物の一つでも奢らせてくれ。礼儀だ」
「そんな、悪いしいいわよ」
 そう刹那が笑みを浮かべた瞬間、ぴゅーと水が飛んできた。
「「あ」」
 水は刹那の段ボールに直撃。視線を向けると、そこにはライフルを構えたファニがいた。
「……その、すいません。隙だらけだったもので」
「えーっと……刹那選手、アウト」
 申し訳無さそうに皐月が宣告する。
「……後で奢らせてくれ」
「いえ、今のは自分も悪かったわ……」

『さて、あっという間に残り人数が二人になってしまいました』
【打ち切り漫画の最終回レベルで展開早すぎ】

「……本当に展開早すぎよ」
 バリケードに隠れたルクセン・レアム(るくせん・れあむ)が呟いた。
「まさか隠れて狙っている内に二人になるなんて……でもまぁ、考えようによっちゃ好都合ね」
 結果的には残る一人が失格になればレアムが優勝だ。
「トラップも仕掛けたし、後は隠れて待っていれば……お?」
 その時、ファニが歩いてくるのをレアムの目に入った。
「うーん……どこだろうなー、さっさと終わりにしたいのにー」
 キョロキョロと周囲を探りながらファニは歩いていた。
「……よし」
 レアムがライフルを構える。ファニは気づいていない。
「今だ!」
 ファニの段ボールが見えた瞬間、レアムが強く引き金を引いた。
「ひゃっ!?」
 レアムが放った水はファニの段ボールに届きはしたが、少し距離がありすぎた。僅かに濡らした程度で、失格までには至らない。
「あ、そこね!」
 逆に、今の攻撃でファニはレアムの居場所を特定する。
「くっ……まずい、あの辺りにトラップは無いのよね!」
 レアムは立ち上がり、距離を取ろうとする。
「逃がさないよぉっとぉ!?」
 追いかけようとした瞬間、ファニは何かに足を取られ、転んだ。
(……あれ? 確か何も仕掛けてなかったと思うんだけど……)
「あたたた……ん?」
 ファニが足元を見ると、水溜りが出来ていた。先程の届き切らなかったレアムの放水が、僅かながら水溜りを作っていたのであった。
 滑った際、その水溜りに突っ込んだようでファニの体が少し濡れていた。段ボールも。
「……これ、失格?」
「まぁ……そうなるよな」
 皐月が頷く。

『……と、いうわけで第一回水鉄砲サバゲー優勝者はルクセン・レアム選手です!』
【お疲れでした】

「……なんか、釈然としないわ」
 レアムが複雑な表情で呟いた。

「こっちは終わったぞ」
 バリケードに使った段ボールを抱えたマルクス・アウレリウス(まるくす・あうれりうす)が皐月に言う。
「ああ、こっちももうすぐ終わる」
 バリケードを剥がしつつ、皐月が言った。
「しかし、今回はマルクスにも色々とやってもらったな」
 しみじみと皐月が言う。
 今回、マルクスは色々と裏方に専念していた。バリケードやライフゲージの段ボールの確保に設置等、色々と尽力してくれたらしい。
「何、大したことではないよ」
「そういや、大会中は何やってたんだ?」
「ああ、写真を撮っていた。広報で使えるかもしれないからな」
「へえ、ちょっと見せてくれよ……って、これ何時の間に撮ったんだ!?」
「大会中だが。何を当たり前の事を」
「いや、オレ審判やってたけど、お前見てないんだけど……このアングルとか、絶対無理だろ……どうやって撮ったんだ?」
「普通にだが」
「……納得いかねー」
 平然と答えるマルクスに、皐月は釈然としない表情で呟いた。