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サルヴィン地下水路の冒険!

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サルヴィン地下水路の冒険!

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第6章

「やった!」
 プールにぷかりと魔獣の死体が浮かび、大きく歓声が上がる。
 とどめをさした玄秀らは拍手をもって迎えられていた。
「やっぱり、チームワークこそが勝利の一番の決めてってやつだな」
 胸の下で腕を組み、フェイミィ・オルトリンデがうんうんと頷いている。
「あんたが言うな、エロ鴉!」
 ヘイリー・ウェイクがきっとフェイミィをにらみつけて、言う。
「ま、まあまあ、今回はみんな居たから、なんとかなったわけだし……フェイミィがいなければ、触手を1本倒すのにも、苦労していたかも知れないよ」
 と、リネン・エルフト。
「そうですわね。やはり、皆で力を合わせることが重要ですわ。改めて、お帰りなさいませ、フェイミィさん」
 そう言って、ユーベル・キャリバーンがそっと頭を下げる。
「い、いやー……ま、まあ、今後ともよろしく、ってやつかな」
 頭を掻きながら、フェイミィ。ヘイリーは肩をすくめる。
「変な意味じゃないでしょうね」
「なんだ、そっちも期待してるのか?」
「ちがーう! あんたが言うと、何でもそう聞こえるっていうの!」
「お、落ち着いてってば!」
 フェイミィに飛びかかろうとするヘイリーを、リネンが押さえる。ユーベルは、ただそれを見てほほえんでいた。


「いっててて……畜生、やっぱり不幸だ! 畜生畜生、全部俺以外のせいだ!」
 何もかもに向かって唾棄するようなセリフを吐きながら、ゲドー・ジャドウは、足下にたまたまあった石を蹴り飛ばした。そして、思った以上に重い石につま先をぶつけて悶絶する。
「くそ! これだけやってこれっぽちだと! ふざけんじゃネェ!」
 痛みがようやく治まってから、ゲドーが懐をまさぐる。なんとか懐に残っていたのは、水賊たちの宝のごくごく一部だけだ。
 ゼロよりはマシだ、という考え方ができない男であった。


「……あー」
 ざぱーん。
「そういえば昔は、下水に使ってたって言ってたなあ」
 ざぱーん。
 アキラ・セイルーンは、長い長い道のりを流され続け、ついに光の下に姿を現した。見渡す限りの水。しかも、しょっぱい。ということは……
「古王国の連中、昔は下水をパラミタ内海まで流してたのか」
 そんな無駄な労力を使ってりゃ、水賊だって住み着くわ。と、誰も聞いていないと知りつつも心中で呻いていた。


「できましたー!」
 葉月 可憐が食卓に並べた料理の数々を見て、一同が歓声を上げる。
「俺も腕によりをかけたからな。完璧なできばえだぜ」
 ロア・ドゥーエが自信満々に言う。
 食卓の上には蛸の魔獣から切り取った触手を使ったいくつもの料理が並べられている。
「ようし。では自分は、刺身からいただくであります」
 大洞 剛太郎は醤油だまりを手にして、盛りつけられた生の刺身へ箸を伸ばす。
「私は、せめて味のほどが分かって居るものからにしよう」
 レヴィシュタール・グランマイアはだしの色がうつった煮付けを取る。
「僕は、もちろんたこ焼きをいただきます」
 和泉 絵梨奈は、ほくほくと湯気を上げるたこ焼きを串で刺し、口元へ。そして、
「あーん……」
 一同が一斉に料理を口に運ぶ。そして。
「……うーん」
 一斉に、うなるような声を上げた。戦うときにはあれだけの弾力があったのに、今はどこか力なく、水気も薄い。そして、味の方はといえば、独特のこくが失われた、なんとも色気のない、なんなら無味と言ってもいいくらいの食べ応えのなさだ。
「そういえば、この蛸って、何千年も水だけで暮らしてたんじゃなかったっけ?」
 と、アリス・テスタインが呟いた。
「そうか。それなら、その間に養分が抜けてすっかり味気なくなっていても仕方ないな!」
 わっはっは、とロアが笑う。その目元に、ふとすればこぼれそうな涙が浮かびかけていたことを指摘しないだけの同情心くらいは、レヴィシュタールにもあった。


 和泉 猛は調査を終え、がりがりと頭を掻いた。
「要するに、水路に水賊が住み着いたころには、天候を操る女王器の研究はある程度進んでいた……と、類推できるな」
 情報をまとめて、推察を口にする。
「……とはいえ、無理に天候を操って雨を降らせたり晴れさせたりしても、収穫が上がるわけでもない。せいぜい、雨雲を移動させて行事の日に晴れさせたり、どうしても必要な地区に雨を降らせたりするだけ。それも、女王器を運搬する費用が高いせいで滅多に行われていなかった……と」
 やれやれとばかりに、肩をすくめてしまう。
 結局、前回破壊された招雨の宝珠は、古王国にとって、少々邪魔なものだったのだ。そこに降って湧いたような水賊の騒ぎで、ようやくこの女王器を活用する方法が見つかり、長雨の町に設置されたのである。
「……あの町が観光地になったのも、苦肉の策というわけか。あまり、面白い話ではないな」
 結果が出れば、承認を得て報道機関にでも情報を売ろうと思っていたのであるが。
 残念ながら、あまり面白い記事にはなってくれそうになかった。


 夜。水路の入り口の一つにふらりとエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)が姿を現し、もはや戦いの痕跡が残っていない水路に向け、目を閉じた。
「……危険だからと言って封印され、もはや相容れぬ時代になれば殺される……」
 もはや存在しない魔獣たちに向け、哀悼の言葉を継げる。
「私も、いつかは他の人間と相容れぬ存在になるのでしょうか」
 ぽつりと漏れた言葉。それから、ゆっくりと首を振った。
「魂達よ……作られしものゆえ、純粋であり、無垢であり、穢れなき魂たちよ」
 右手でゆっくりと五芒星を描く。周囲には、奇妙な安らぎを感じる闇が降り始めていた。
「怒るコト無く……迷うコト無く……狂うコト無く……苦しむコト無く……縛られるコト無く……」
 水路に流れる水の音さえ止んだように、静かな夜だった。
「旧き神々と古の支配者達の名において、汝らが新たな輪廻に戻るまで、安らかに眠れることを約束す」
 そして、誰も知らぬまま、エッツェルは鎮魂の祈りを終えた。
「……これもまた自然の摂理。せめてひとりは、弔うものが居た事に免じて、あなた方を手にかけた英雄たち恨むことなきよう」
 エッツェルが異形の翼を広げ、飛ぶ。奇妙な闇は去り、夜の闇が戻って来た。


「……以上だ」
 シオン・グラードが、ラズィーヤ・ヴァイシャリーへ向けての説明をそう締めくくった。口頭での報告と同時に、報告書にもラズィーヤは目を通している。シオンは各方面へ提出する報告書のチェックを、ラズィーヤにさせているのだ。
「なるほど、確かに、魔獣は掃討されたようですわね。地下水路の脅威は排除されたと言ってよいでしょう」
 珍しく、目元に小さく笑みを浮かべて、ラズィーヤが言う。
「現在は、複雑な情勢ですから。少しでも、内憂は減らしておきたかったところでしたの。これでわたくしも、今晩ぐらいは安心して眠れますわ」
 そして、報告書に自らのサインを書き加えた。
「……あれがヴァイシャリー湖に現れていたら、面倒なことになっていた」
「あら、お礼を言った方がよろしかったのですか?」
 報告書を受け取りながらのシオンの呟きに、皮肉めいてラズィーヤが言う。
「冗談ですわ。でも、一人にだけ聞かせては不公平になってしまいますから。報酬で我慢してくださいませ」
 そして、ラズィーヤがくすくすと笑った。
「何がおかしいんだ?」
 問うシオンに、ラズィーヤは口元を隠しながら、
「あなたのご存知ないところで、同じようなことを言っておりましたの」
 そう答えた。

担当マスターより

▼担当マスター

丹野佑

▼マスターコメント

 本シナリオのリアクション執筆を担当させて頂きました、丹野佑と申します。
 シナリオに参加していただき、あるいはリアクションを読んで頂き、まことにありがとうございます。

 今回、アクションの処理が楽しすぎたせいで分量が増え、それに伴って仕上げにかかる時間がかなり増加してしまいました。
 楽しみにしていただいたプレイヤーの皆様をお待たせしてしまって、申し訳ありませんでした。

 さて、今回、はじめて、他のシナリオと時系列的に繋がっているシナリオ、というものを担当させて頂きました。
 シナリオの中で関係性や物語が深まっていくキャラクターもいれば、どちらかにしか参加していないからこそ輝くキャラクターもいて、様々な人間模様を描かせて頂き、とても楽しんで執筆することができました。

 前作「永雨の町を救え!」と本シナリオは、せっかくの梅雨だからと水に関係したシナリオを運営チームに何本か提案したところ、「つなげればもっと面白くなる」というアドバイスを受け、内容が繋がったものにさせて頂きました。
 時間的には何千年(!)という昔から繋がったものであり、時間の進むことが、キャラクターたちと関わっているのだと感じて居ます。

 今回も、活躍や内容を踏まえ、何人かの方に称号を贈らせて頂きました。

 最後になりましたが、重ねて、ご参加頂いた皆様、ありがとうございました。
 このシナリオのさらに後日談、というシナリオは(今のところ)予定しておりません。間違いなく、契約者達の手で事件は解決いたしました。
 では、機会があれば、またマスターを務めさせて頂ければと思います。