リアクション
●間奏曲・5
陣は一同に宣言した。
「なんとか事なきを得たが、もう今日は帰るとしようか」
反対はなかった。
それにしても、と陣は思う。
大黒美空、彼女のために、所属がばらばらの各校生徒が団結している。
自分たちは蒼空学園。
ローザマリアたちは教導団。
スカサハはイルミンスールで、
朝斗らは天御柱学院であり、
バロウズたちは波羅蜜多実業だ。
決して友好的な学校ばかりではない。それがこうして一つになっているのだから、美空には不思議な吸引力があるのかもしれない。
「じゃあ、また」
手を振って別れた。五箇所の方向へと。
物陰から彼らを見守りつつ、磁楠は思う。
(「小僧……お前たちはまた、歴史の分岐点に来ているのかもしれんな」)
少なくとも磁楠のいた世界に、これだけ分化した勢力が協力してことにあたるという光景はなかった。
(「……?」)
磁楠の思索は中断する。
大黒美空が、よろよろと、輪から離れて歩き出そうとしていた。数メートルは離れている。
ところが陣たちは気づいていない。ローザやスカサハ、バロウズを見送っているせいだ。
仕方ない。
磁楠は姿を見せて、
「一人で歩んでは迷子になるぞ」
と美空を止めた。
「……ぁー」
美空は言った。さきほどの興奮状態はとうに収まっている。
夢遊病者のような表情をしていた。しかし、
「……ぁー……ゆぅ、れでぃー……?」
瞬間、それが一変した。クランジの猫のような目に、貫くような光が宿ったのを磁楠は見た。
(「何っ!」)
磁楠ほどの戦士が、足が竦むほどの恐怖を覚えていた。
殺気、というような明確な殺意ではない。しかしそれは、塊にした『気』の玉を、直接ぶつけてきたような威圧感だった。咄嗟に、両腕を交差させて磁楠は防御姿勢を取った。腹の底に冷たいものを感じた。
だがそれは、出現したと同時に消えていた。
美空は、また、か細い声で「ぁー」と言うと、なかば摺り足で陣のほうへ戻っていったのだった。
磁楠以外、誰も彼女の変化に気づいていないようだ。
――夢だったのだろうか。
磁楠は立ち尽くした。