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乙女の聖域 ―ラナロック・サンクチュアリ―

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乙女の聖域 ―ラナロック・サンクチュアリ―

リアクション

     ◆

 一方、雅羅達一行はウォウルの部屋に到着し、辺りを見回しているところだった。
犯人の足取りを掴めるような手掛かりを探している一行ではあるが、特に怪しい点と言えば、ラナロックが先程この部屋を後にする際に蜂の巣にした机と、そしてその机の上に置いてあった脅迫文。
「ねぇ…ちょっと聞いて良いかしら」
 緋葉は絶句、と言った面持ちのまま、出入り口付近に座るラナロックの方を見やる。
「……なんでしょう?」
「これ、あんたがやったの?」
「これ、とは?」
「このヒントになりそうだった物……ほとんど原型のない紙切れと、この机っぽい物とか」
 ああ、と、漸く聞かれている事がわかったらしいラナロックが、少し照れながらに頷いた。
「少しばかり頭に血が昇ってしまいましてね、つい」
「それは確かにねぇ……って! おい!」
 緋葉がすかさず突っ込みを入れる。
「おい緋葉、ちょっとは真剣に手がかりを探せよ」
「もう! 勇刃まで! あたしちゃんと探してるもん! でも犯人の唯一のヒントがこんなになってたら誰だって聞くでしょ?」
「まぁまぁ、お二人とも、落ち着いて」
 柚の仲裁により、勇刃と緋葉の言い合いは停止した。と、薫が何かを見つける。
「あれ、これって――」
 思わず一同が彼女の元に集まり、彼女が見つけた物を覗き込む。
「メモ帳の切れ端? ……何かの地図、みたいだけど」
「本当だ、なんだろうね」
 三月が薫からその紙切れを受け取り、まじまじと見つめた。
「確かに何処かへの地図っぽいけど……」
「もしや犯人さんの居場所じゃないですか?」
 三月の隣で、彼の持つ紙切れを覗き込みながらさゆみが呟く。友見もさゆみとは反対側からその紙切れを覗き込み、そんな事を言った。
「……でも、そんなに簡単に犯人の居場所がわかるのも……不自然ですよね」
「罠、って言う線もあるしね」
 夜舞と託が難しそうな顔をしながら呟き、再び一同が沈黙する。
「えぇい! 何かもっとヒントはないのか? って言うかこれが男の部屋か? 随分と綺麗すぎる気がするんだが……」
 勇刃は若干苛立ちを見せながら周りを見渡すと、黙って様子を見ていたラナロックがそこで口を開く。
「ウォウルさんは病的な潔癖症ですからね。特に自分の部屋に関しては。本とかも、ちょっとでも本棚からはみ出たりするとすぐその本を捨ててしまいますし、埃を見つければその段階で何時であろうが大掃除を始めますの。だから綺麗だと思いますわ。それと三月君……貴方が今持っているそのメモ書きはただのメモ。犯人とは関係ないと思いますわよ」
「何だか凄い先輩だな……」
 ラナロックの説明を聞いた勇刃が思わず身震いした。話を聞いていたアキュートも「やれやれ」とでも言いたそうな顔をする。
「そっかぁ…なんだ、少しは役に立つかと思ったんだけどな」
 そんな事を言いながら、三月は近くにあったテーブル(だった物)へとそのメモ書きを置く。
「じゃあ、この地図は何の地図だ?」
 孝高の疑問にラナロックが頭を抱え、暫くの後に「ああ」と呟き、一同へと言った。
「“随分と会ってなかった友達の住所”とかなんとか言ってましたわね。それが誰かは存じませんが」
「なぁ、雅羅とやら」
 壁に取り掛かり、一同の行動を見ていたヴァルが雅羅に声を掛けた。小声のそれは恐らく、誰かに聞かれたくないからだろう。当然名を呼ばれた雅羅は、彼の方を向く。
「あの御嬢さん……ラナロック嬢と言ったか。あれは誰なんだ? 先程の彼女とは全然雰囲気が違う気がするんだが……」
「えっと……先輩は多分、あっちが普通なんだと思います。“怒ると人格変わっちゃうぞー”みたいな」
「……そうなのか。いやはや、怖いな、女は」
 つくづく、と言った口ぶりで腕を組みながら、ヴァルはそう呟いた。
「あら、怖くはないですわよ。帝王さん」
「…ぬっ!? す、すまない」
 少し冷静になっているラナロックの地獄耳は健在である。慌てて目を逸らしたヴァルと、相変わらずだな、などと思いながら苦笑を浮かべる雅羅。
そしてそこで、彼女は一つ提案をした。
「行き詰ったらまずは休憩! って事で、なんか人数分適当に飲み物買ってくるから、リクエストがあったら言ってー」
 一行がリクエストを挙手しながら述べ、彼女はそれを確認してから部屋を後にする。その際しっかりとラナロックに「あとでウォウルさんに請求なさいな」と言われながら。
「さて、じゃあ雅羅が帰ってくるまではちょっと休憩だな。にしても、暑いなこの部屋」
 孝高は手を団扇宜しく仰ぎながら、部屋一帯を見回す。
「それに……学生にしては随分と贅沢な生活してんじゃねぇか……。此処の兄ちゃんはよ」
「あの、牧師さん……暑くはないんですの?」
 アデリーヌは心配そうな面持ちでアキュートへと尋ねる。
「うむ、アキュートは我慢強い男なのだ。これしきの事では根をあげん。そうだろう? アキュートよ」
「おいおい、そいつぁないぜ。俺だって暑いもんは暑い。勝手に決めんで貰いたいねぇ」
 此処までの道中、ウーマの姿を疑問の眼差しで見ていた面々は、しかしウーマが突然声を発した事に驚きを見せた。まぁ当然と言えば、当然な反応である。
「ねぇねぇ、それでさぁ、ラナロックさん。ウォウルさんとはどのくらいまで連絡が取れてたの?」
 託がふと、そんな事を呟く。
「連絡――ですか……確か、ですけれど。とても曖昧な表現でありますけれど、そうですねぇ……確か昨晩までは、取れていたかと」
「って事は、何者かに連れ去られたのは今日、もしくは昨日の深夜って訳、だねぇ」
「そう言う事になりますわね」
「今朝って言うなら見た人もいるでしょうけど……夜中ってなったら目撃者を探すのも大変ですよね」
 託とラナロックの会話を聞いていた友見は顎に手をあてて考える。どうやら聞き込みを考えていた様だ。
「と、なればあとはやはり、何かヒントとなる様なものを見つけ出さない事には何とも――」
 セレアが言いかけた時、部屋の扉が開く。どうやら飲み物を買いに行っていた雅羅が戻ってきたらし。が、足音が明らかに多い事事に気付いた全員は思わずドアの方を見やった。
「ただいま」
 言いながら部屋に入ってくる雅羅の背後には、新たな協力者の姿がある。手に彼女が買ったであろう飲み物が入る袋を下げた閃崎 静麻(せんざき・しずま)葉月 可憐(はづき・かれん)アリス・テスタイン(ありす・てすたいん)。更に氷室 カイ(ひむろ・かい)雨宮 渚(あまみや・なぎさ)が「お邪魔しまーす」と言いながら、部屋に入ってきた。
「おー! 五人も協力者が増えたんだね! 心強いや」
 斎が万歳をしながらに笑顔で彼らを歓迎し、そして薫、孝高、柚と三月で彼らの持つ飲み物を受け取った。
「みんな、もうちょっと詰めてー! もっと来るから」
 雅羅の言葉に首を傾げる一同に対し、彼女の代わりに静麻が説明を始めた。
「俺たちはまぁ、偶然自販機の前にいた雅羅と会ってな、事情を聞いて協力するって事になったんだが、そしたら六人? だったかがどうやらその先輩の知り合いらしくて、彼等も協力しようと思ってたらしいんだ」
 彼の言葉に続けてカイが口を開く。
「俺等もそんな感じでばったり会ったんだがな、とりあえずサンダースが困ってるって事だったから協力しに来た訳だ。その時は大量の飲み物を買うって言うから荷物持ち、ってな感じで此処まできた。よろしく頼むぜ」
「そう言う事。みんな、今日はそのウォウルさんって人を探すの、一緒に頑張りましょ!」
 カイの隣にいた渚がぐっと拳を握りしめ、胸の前でそれを小さく掲げ意気込んだ。
「それより雅羅様、飲み物早く配らないとぬるくなっちゃいますよ!」
「あ、私も配るの手伝おうかなぁ」
 可憐とアリスは今まで持っていた袋から飲み物を取り出し、全員に配り始める。と、そこで再び扉が開き、真人、セルファ、北都、リオン、結と淳二が部屋に入ってきた。
「お邪魔します」
「ってうぁ……やっぱすごい人。ってか何この部屋……すっごく綺麗なんだけど」
「へぇ…なんかウォウルさんの部屋が綺麗って以外かもー」
「こらこら北都、そんな事は言ってはいけませんよ」
「わーい! いっぱい人がいるね!」
「こ、こんにちは」
 彼等はそれぞれ挨拶やら部屋の感想やらを呟きながら入ってくる。と、すぐその後ろには林田 樹(はやしだ・いつき)林田 コタロー(はやしだ・こたろう)の二人がいた。
「へぇ……! ヘラ男の奴、案外部屋綺麗なんだな」
「みなしゃん、こんちゃ。こたもおてつらい、すうろ!」
「あ、コタローちゃんだぁ」
 樹とコタローの姿をみた託が玄関へと向かった。
「またあったね、コタローちゃん」
「こ、こんちゃ……おにいしゃ…」
「あっはっは、コタロー。何顔赤くしてんだよ」
 託が不思議そうな顔をしながらコタローに顔を近づけると、すぐさま樹の頭によじ登り、隠れてしまった。
「あれぇ……嫌われちゃったのかなぁ、僕」
「ん、まぁそれはねぇと思うが…気にしないでやってくれ」
 全員が部屋に入ったのを確認した樹は、そう言いながら扉を閉める。
「さて、それで? この状況が俺たちにはわからないんですが……」
「えっとですね、まずは――」
 柚をはじめとし、今来た面々に今までの経緯を説明し始める一同。ラナロックはその間、何故だかにこにこしながらその状況を見つめていた。
「へぇ……でもラナさん、機嫌いいよねぇ」
「ですね。にこにこです」
「今だけ、じゃない事を願うよ」
 北都とリオンの感想に対し、げっそりした面持ちの孝高が呟いた。
「わーい! コタローちゃん、次は何して遊ぼうか!」
「いいねぇ、僕も混ぜてよ」
「こた、とらんぴゅ、おうちにわすれてきしゃった、れす……」
「よかったな、コタロー。遊んでもらえて」
 結、託とすっかり仲良くなり、ほんわかムードを楽しんでいるコタローに向かい、樹が微笑みながらそう言った。樹はそのまま雅羅を向き、すっと表情を一変させる。
「それで? これからどうするのさ」
「そうなんですよね……どうするか……」
 深く考え込む雅羅に、ウーマが近付き声を掛けた。
「うむ。そのお嬢ちゃんの持っているパソコンで情報を収集し、更に協力者を増やす。と言うのは如何か」
「いっ!? 何? マンボウ喋ってるんだけど!?」
 セルファが最初に声を上げた。声を上げ、思わず後ずさる。
「……コタローが女だって、良くわかったな。マンボウ」
「うむ。キュートなリボンでピンときたのだよ」
 ウーマにすれば、恐らくそういった見分けは簡単らしく、さも当然とばかりに言い放った。
「こた、ぱしょこんでしらべもの、しゅゆれす」
 とんとん、とパソコンのキーボードを叩きパソコンを立ち上げた彼女は、周囲が驚きをみせる程のタイピング速度で再びキーボードを弾きだした。
「す、すげぇ…」
「我よりパソコン、使い慣れてるよね」
 驚愕する静麻と、ちょっと悲しそうな顔でコタローを見る薫。
「なぁに、ならばこの帝王。自慢の『帝王ネットワーク』で更に情報を得るとしよう!」
 窓際で壁に凭れ掛かっていたヴァルも携帯を取り出し、次から次へと連絡をし始める。
「まじゅ、けいじびゃんに、かきこみしゅうろ」
 何処かの掲示板に書き込みをするコタロー。文面は、普段の彼女の口ぶりからは想像もつかない程に普通のそれだった事に、何より結と託が驚いていた。