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リアクション
AM11:30
パラ実生たちがいる建物は、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)とエレオノール・ベルドロップ(えれおのーる・べるどろっぷ)とルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)、フィーア・四条(ふぃーあ・しじょう)と立花 眞千代(たちばな・まちよ)、杜守 柚(ともり・ゆず)と杜守 三月(ともり・みつき)の三組七名によって囲まれていた。
それぞれ建物正面、裏口、横手に分かれて突入の合図を待っている。
(よし、全員準備は整ったな)
(私はいつでもいいよ)
(私も大丈夫ですぅ)
(罠の準備はできてる)
(こんな罠にかかる奴がいるのかよ?)
(私も大丈夫ですよ)
(僕もだ)
エヴァルトの言葉に、エレオノール、ルーシェリア、フィーア、眞千代、柚、美月の順に返事が来る。
立花だけはやや不安げにしているが、ぐずぐずして彼らが逃げ出す前に救出を終わらせなくてはならない。
(作戦前にもう一度確認しておく。今回の目的は金元さんとさらわれた桜月さんの救出だ。内部に突入してパラ実生を混乱させている間に、二人を見つけて助け出す。彼女たちを助けた後はすぐに離脱。多少の混乱は外にも伝わるだろうけど、警備訓練の一環としてごまかしてもらえるから問題ない)
(そうだね。僕らが着ているコンパニオンの衣装がその証明になる。少なくともこの場を乗り切るには十分さ)
七名の中で衣装を着ているのは三名。エヴァルト、フィーアが【未来】、エレオノールが【現在】の衣装だ。全員が着ていないのがネックだが、フィーアが言うように当座をしのぐだけだからかまわない。
(フォルケンとシュライアの情報で、中にはかなりの人数いることが分かっている。相手が混乱している間にカタを付けるんだ。突入開始!)
即席チームのリーダーとなったエヴァルトの号令で、六人は建物内に突入した。
AM11:35
「なななさん、桜月さんどこだ。返事をしてくれ! 助けに来たんだ!」
マルトリッツさんが、捕まった二人に大声で呼びかけているが反応がない。
突入してパラ実生たちを混乱させている間に彼女を見つけるはずだったのに、思いのほか彼らは混乱しなかった。それどころかすぐに反撃に移ってきたくらいだ。
「おめぇら、さっきみたいに情けないところは見せるんじゃねぇぞ!」
「「「「「おう!」」」」」
「なんでか知らないけど対策を取っていたみたいね」
リーダーらしき蒼髪のモヒカン男の合図で私の方に向かってくる奴に、弓矢で反撃しながら全体を見渡す。
元々人数差を不意打ちでごまかす作戦だっただけに、一緒に突入した人達も苦戦している。
パラ実生たちがいたのは二十人近い人間が動きまわれる倉庫のような場所。
元々ほとんど物がなかった所に自分たちが使う物だけを運び込んだようで、身を隠せるような場所がとても少ない。
彼らはそこで自分たちの服装や髪形を普通のものに変えていた。
おそらくは自分たちが少しでも目立たないようにするつもりだろう。
私はあまり意味がないと思うのだけどね。
「あぶな〜い」
「うわっ!」
私が放った火術でエレオノールさんを狙っていたパラ実生は攻撃のタイミングを逃し、逆にエレオノールさんの弓で倒されました。
「ありがとう、ルーシェリアちゃん」
「どういたしましてですぅ〜」
槍を使う私と弓を使うエレオノールさんでうまくお互いをカバーできていますが、それも長くは続きません。
私たちと相手との人数差は三倍以上。
奇襲で動揺している間にすべてを終わらせなくてはならなかったのに、今は正面からのぶつかりあいになっています。
「なななさん、桜月さんどこですかぁ〜。返事をしてくださ〜い」
もうすぐ持ちこたえられくなる。
そう判断して、私も大きな声で彼女たちにに呼び掛けたときでした。
「誰か! 誰か! 早く私の髪に巻かれたアルミ箔を取って! そうしないと宇宙警察の人達がこの星に大攻勢をかけにきてしまいます!」
なななさんの叫びによって、その場の動きが止まりました。
「ななな君、落ち着くんだ! 君のアンテナは正常だ! 宇宙警察は来たりしない!」
突然叫び出したなななに、フィーア・四条が呼びかけた。
「おい、これってあの時の……」
「ああ、間違いない。以前ティーカップパンダを探しに行った時と同じ状態だ。理由は……寝ぼけているのか?」
大きな木箱の中で、なななは逃げることなく叫んでいる。
その口元には涎が垂れた跡があった。
状況からして手足は縛られていると考えるべきだろう。
つまりなななは救出を待つ間に眠ってしまい、今寝ぼけた頭で宇宙観隊が来ると勘違いして騒ぎ出し、救出に来た自分たちの足を引っ張っている。
「勘弁してくれよ」
「大物だな」
呆れ交じりの渋面でつぶやく眞千代に、僕も同感だった。
ただでさえ僕たちの方が人数が少ないのに、救出対象者が暴れていては難易度はさらに上がる。しかもその理由が寝ぼけているから。非常にアホらしい。
作戦失敗の文字が脳裏を掠め過ぎていくなか、事態は予想を裏切って進む。
「あん! アルミ箔だと! おら、取ってやったから黙りやがれ!」
「ああ、良かった。これでこの星の危機は去りました、ありがとうございます。」
先ほど号令をかけた蒼髪のモヒカン男が、何を思ったのかなななのアホ毛に巻かれたアルミ箔を取るような動作をすると、お礼を言ったなななは安心して再び眠ってしまった。
「そんな手段で解決していいのか!」
「アレだよ、フィーア。類は友を呼ぶ。電波キャラには馬鹿っぽい奴の方が相性が良いんだよ。以前もそうだっただろ」
この展開に憤慨するフィーアを、お前は馬鹿じゃないからと眞千代が慰める。
先ほどフィーアがしかけた罠(餌:高級芋ケンピ、材料:ざると棒、餌を取ると棒が外れてざるの中に閉じ込められる)を馬鹿にしたが、さすがに自分のパートナーが連中と同列扱いされるのはイヤだった。
「これであの罠にかかる奴がいたら、もうフィーアを馬鹿にするのは止めようかな」
余談だが、後日実際に罠にかかった奴がいたことを知り、眞千代は本気で検討することになる。
「お前ら全員撤収だ! これ以上面倒になる前にずらかるぞ! ティーカップパンダで金儲けする為には、こんなとこで捕まるわけにはいかねぇぞ!」
なななを黙らせたリーダーの指示に、何人かのパラ実生が煙幕をはった。
彼らにとって重要なのは、この場に自分たちを捕まえる人間がまだ来るかもしれないということだ。
ならばさっさと逃げ出すに限る。
「ゲホっ、ゲホっ、待て!」
十人ほどは自分たちが捕まえた。
しかし残りのパラ実生たちは、煙幕に紛れて逃走してしまった。
当然なななも連れて、だ。
さらに。
「待て! 柚を返せ!」
杜守三月の叫び声が聞こえた。
なななを救出するどころか、杜守柚が逆にさらわれてしまっていた。
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