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リアクション
第3章 論じて思考を巡らせる必要もなし
「・・・で?そこまで言われてなお、まだ連れ戻したいと。“愚直”とはまさにお前のための言葉なのだろうな・・・」
何の迷いも無く十天君についていった魔女たちをまだ追うのかと、天 黒龍(てぃえん・へいろん)は嘆息する。
「今一度忠告しておく。少なくともお前が接触した魔女が己の意志で十天君に従っているのは事実・・・」
「えぇ・・・、分かっています」
「彼女らを救いたいと思うのは勝手だが、この先奴らに何が起きたとしても、それはこの道を選んだ自己責任だ。命を落とすことになってもな」
「だからこそ、これ以上犠牲になってしまわないように、連れ戻したいんです。死ぬかもしれない相手を放っておけというんですか!?」
「お人好しも大概にしろ、深く傷つくだけかもしれないのだぞ!」
まったく意思を変えようとしない沢渡 真言(さわたり・まこと)に苛立つ。
「( 黒龍・・・その言葉では恐らく、 お前の言いたい事は伝わっていないと思うんだが)」
今にも真言に掴みかかりそうな黒龍の肩をペンでつっついた紫煙 葛葉(しえん・くずは)が筆談で話しかける。
「(要は、連れ戻せなかったとしても自分を責める必要は無いということだと思う。俺たちも努力はする。言葉が足らずすまない)」
彼の言葉を補足してやろうとメモ帳に書き真言に渡す。
「責任感というわけじゃなく・・・ここで諦めたらきっと、後悔すると思うんです」
助けられる可能性が僅かでもあるなら、その希望に賭けたい彼女の考えは変わらないようだ。
「あの方角は・・・・・・?」
十天君たちらしき者たちが走り去っていく姿を見たグレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)たちは、逃げた先でまた何かを始めるつもりかと思いつつ後を追う。
「―・・・何だか封神台に行くとか、声が聞こえましたね。女の人の声でしたけど、おそらく研究所にいた十天君でしょうね」
「何人も仲間を葬られたあの場所で、いったい何をしようとしているんだ・・・」
「それならあいつもいるかもな」
「えぇ・・・いるはずですよ、ナタクさん。あの場所は、彼女の友が葬られてしまった場所ですし・・・」
彼の呟きにソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)が小さな声音で言う。
「(十天君の董天君さんとして会うのは、封神台が完成した時以来ですね。貴女にとって私達はまだ“憎い敵”なのかもしれませんが・・・)」
あの場所の下層部は永遠の死・・・つまり、彼女の友の命を奪うことに協力したことには変わりない。
ソニアたちなりの苦渋の決断だったが、まだ恨まれているはず・・・と顔を俯かせた。
「どっちにしろ・・・、ろくでもないことに協力させられそうなのは確かだ・・・」
「そうなる前に止めなきゃいけませんね」
「あぁ・・・向こうも大切な仲間を奪われただろうが・・・。報復に加担したとしたら・・・また命を狙われてしまうはずだ」
そう言うとグレンは誰も後をつけていないことを確認すると、小さな野花へ視線を移した。
「灰色の髪をした目つきの鋭い女を見なかったか?」
董天君が通りがからなかったか、人の心、草の心で話しかける。
「それと目は薄茶色で、めちゃくちゃイイ女だっていうことを、付け加えてくれ」
「―・・・ナタク、植物に人の同じ美的感覚があるとは限らないぞ・・・」
「あ〜、それもそうだな。あいつの良さを分からないなんて、ちょっと可哀想な気もするけどさ」
「なら・・・そういうことにしておこう・・・」
“俺が惚れた女は、世界一の女なんだぜ!”というふうな態度の彼の気分を壊さないために、グレンは言葉を濁して言う。
「で・・・・・・話を中断させてしまったが。その女を見なかったか・・・?」
「うーん、こわそーなおねえちゃんのことかな?ぽくふまれるかとおもって、ぶるぶるしちゃった」
「その怖・・・いや、そいつはどこにいったか分かるか?」
「えっとたしかぁ〜。そっちからみぎをむいたほーこーかなぁ」
「言葉しか礼をやれないが・・・ありがとう・・・」
「どーいたしまして♪」
初めて人と話した様子の野花は、嬉しそうに言った。
「皆もう封神台の中かな?乗り物にのっけてもらえばよかったね・・・」
レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)はフゥ・・・フゥ・・・と息を切らせながら必死に走る。
「無駄口たたいてる暇あったら、もっと早く走るアル!」
「そうはいっても、けっこう大変だよ」
「十天君や魔女たちも徒歩だったと思うし。妖精を発見されるにしても、まだだいぶ時間もあるはずアルヨ」
「研究所には乗り物っぽいのはなかったからねぇ。皆が先に見つけてあげてくれてたらいんだけど・・・」
「ねぇー、乗っていかない?」
小型飛空艇ヴォルケーノの速度を落とした小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、機体を2人の傍へ寄せる。
「乗せてくれるの!?ありがとうっ」
美羽に手を引っ張ってもらい、乗せてもらう。
「十天君はもう封神台の中にいるのかな?」
「レキたちも倒しにいくの?」
「うーん、ボクたちは妖精を助けるお手伝いをしようとね」
「捕まったりしていないといいアルな・・・」
2人が飛空艇に乗せてもらい向かっている頃・・・。
「皆さん、もう封神台へ行ってしまったのかしら・・・」
イナ・インバース(いな・いんばーす)は空飛ぶ箒に乗りながらイルミンスールの生徒を探し、崩壊した研究所の周りをウロウロと探す。
「イナ姉、見て!まだ人がいるよ」
片手で小型飛空艇のハンドルを握り、ビッとミナ・インバース(みな・いんばーす)が指差す方を見ると、封神台へ向かっている真言たちを見つけた。
「こらミナ!人を指差しちゃいけないのよ」
「そんなこと言ってる場合?早く声かけないと行っちゃいそうだし」
「えぇっ!?今置いていかれると、封神台にたどりつくのが遅くなっちゃうわ。待ってーーーっ、私たちも乗せてください!!」
「まだ人が残ってんのか。いったん止るか真言」
「こんなところで迷子になってしまうと可哀想ですからね・・・」
マーリン・アンブロジウス(まーりん・あんぶろじうす)に言われた真言は箒から降り、駆け寄ってくるイナとミナを待つ。
「弥十郎、これを着ておけ。見苦しい・・・」
着替えている時間がないとはいえ、ミニスカ姿のままの相手に渋面を浮かべた熊谷 直実(くまがや・なおざね)は、トレンチコートをズイッと佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)に渡す。
「ボタンは上の方だけ閉じておけばいいよね?」
「いや、スカートが見えないように全部閉じておけ。その方がマシだ」
「逆に危ない人に思われないかな」
「吹雪の風でそのスカートが・・・どうなるかわかっているのか。メンタルアサルトどころの悲劇じゃないぞ」
「そ・・・、そうだよね」
「またご一緒させていただきますね!―・・・それにしても弥十郎さんは、この暑い日にどうして厚着しているんでしょうか?」
「聞かないでやってくれ・・・」
コートを着ている弥十郎の姿に首を傾げるイナに、直実はため息をついて言う。
「ねぇ、おっさん。聞きたいことがあるんだけどいい?」
「何だ?」
「蓮生っていう人、知っている?」
「なぜ、出家後の名前をしっている?」
彼に教えた覚えがないのに、なぜ知っているのか疑問に思った。
「森の幻覚で蓮生によろしくって聞こえたんだよ」
「(妙だな・・・。弥十郎の過去に、わたくしを知る者がいたというのか?)」
「おっさん?ぼーっとしてると逸れちゃうよ」
「む・・・そうだな、すまない」
「一応、道に目印はつけてあるけど。置いていかれるとそれを探して飛ぶのも大変だからね」
弥十郎たちが封神台へ進んでいる頃、ゴーストから逃げ切った佐々良 縁(ささら・よすが)たちは、目印をたどって陣たちの後を追っている。
「んーこれはちょっとまずい状況みたいだぁねぇ?」
陣がずっと気にかけている者の命が狙われ、激ギレして叫んだ彼の声を聞いた縁は、ストロベリースターに乗り急ぐ。
「また凄いことになってるね・・・」
佐々良 皐月(ささら・さつき)は研究所があったらしき場所をちらりと見てぽつりと言う。
人の心、草の心で目印をつけられた木々の場所を聞きながら、レリウス・アイゼンヴォルフ(れりうす・あいぜんう゛ぉるふ)たちも、小型飛空艇ヘリファルテで封神台へ向かう。
「この辺りにリボンや矢印がつけられた草などがあれば教えてくれませんか?」
「んーとねぇ、あの木にリボンがついてるよぉ〜」
「ありがとうございます。ハイラル、真ん中の道を通ればいいみたいです」
「へぇ〜・・・植物の声が聞こえるって、結構便利なんだな」
「迷いそうになった時以外にも、誰かが通ったか聞けますからね。それにしてもなんだか皆さん、とてつもなく殺気だって行きましたね」
「そりゃそうだろう?あいつらに命狙われているやつがいるんだし」
「失いたくないなら・・・なおさらですよね」
「レリウス、お前まだ・・・」
沈んだ顔をする彼がまた幻影に苦しめられないか、ハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)は飛空艇を寄せて不安そうにちらりと見る。
「とにかく早くここから出なければ・・・」
「私を・・・置いてゆくのか?―・・・許さんぞ」
ぬうっとレリウスの背後に現れた幻影がニタリと不気味な笑みを浮かべる。
銃殺されたせいで、皮1枚で繋がっている手でレリウスの肩に、ギギギ・・・と爪を突き立てる。
「(どうして幻影がまた!?)」
「たとえ私が過去の存在だとしても、私という者がいてお前が殺したという現実は変わらない」
彼のせいではないが、幻影は心の傷に手を突っ込み、ミリミリと広げるように言う。
「私と共にナラカへ逝こう。そうすればお前のことを許してやろう」
「団長・・・・・・俺は・・・」
「耳を貸すなレリウス!こいつはただの・・・」
「あのような雑音など気にするな。さぁ、逝くぞ」
ハイラルの言葉を遮り、幻影はレリウスに手を差し伸べる。
「嫌です・・・俺はまだ・・・生きていたいんです。たとえ本物の団長だったとしても、一緒には逝けません・・・」
「この私に逆らう気か!?」
「わぁあっ!!」
背に爪をくいこまされ、ハンドルから引き離されてしまう。
「しつこいぞこの野郎っ」
ハイラルは飛空艇を乗り捨ててレリウスを抱えて草むらへ転ぶ。
「団長の命令だぞ・・・。私と共にナラカへ逝くのだ!」
幻影は蛇のようにぐねぐねと這い、生者の世界から連れ去ろうと気絶しているレリウスに迫る。
「ふざけるなっ!レリウスはオレと今を生きる道を選んだんだ。そんなに逝きたければおまえ独りで逝きな!」
パートナーをナラカへ逝かせるものかと、ルミナスワンドで頭部を叩き割り幻影を葬る。
「おいレリウス、起きろっ」
ぺしぺしっと彼の頬を軽く叩き起こしてやる。
「う・・・っ。・・・・・・幻影は?」
「おまえが気絶している時に消えちまったな。そんなことよりも、さっさと出るぞ」
また幻影が現れないうちにイルミンスールの森から出ようと、飛空艇のハンドルを握るとハイラルは彼と共に、限界速度までスピードを上げてかっとばす。
「やっと森から出られましたよ・・・・・・」
マーリンの光る箒に乗せてもらっている真言は、平原に出たとたん眩しそうに日の光を片手で遮る。
「(封神台か・・・。あの頃は、葛葉も声が出ていたのだったか・・・)」
黒龍は懐かしい景色を眺め、建設していた頃を思い出す。
「あれは遠野たちか?魔女と戦っているようだが・・・」
止めに入るのか真言に視線を移す。
「引き付けてくれている間に、封神台の中へ入りましょう」
「それでいいのだな?」
「はい・・・」
「なら急ぐとしよう」
苦渋の決断をした彼女から封神台へ顔を向けるた黒龍は対電フィールドを展開させる。
「歌菜さんたちなら魔女さんが殺される心配はありませんから・・・」
王天君に盾扱いされそうな者を救おうと、真言は迷わず封神台の中へ入ろうとする。
「ちょっとそこ!ここは通行止めよっ。ていうか、あのロンゲって。仲間の魔女がマドロンって呼んでいたヤツじゃないの?」
「―・・・いい加減、そのうるさい口を閉じさせてやろうか」
口を開けば暴言ばかり浴びせようとする魔女を黙らせようと、黒龍はガーゴイルに石化させる。
「私の友達を石に!?マドロンめ、あたしの魔法で仕返ししてやるぅう」
「見かけによらず、随分と乱暴な魔女さんですね」
飛空艇に乗ったままレリウスは幻槍モノケロスの柄で、ウィザードの魔女の背を殴り草の上へ叩き伏せる。
「なんにしても、魔法を使わせる前に倒さなきゃな。オレが足を狙うから、その隙にぶっ叩け!」
「えぇ・・・頼みます」
「また鬱陶しいのが増えたわ!ガキはさっさと学校に帰って、お勉強する時間よっ」
「―・・・はぁ、そう言われましても・・・。封神台に行く方々を通してくれないなら、あなたたちと戦わなきゃいけなくなりますからね」
小ばかにした悪口を聞き流し、封神台の中へ入ろうとする者を追おうとする彼女の行く手を阻む。
「じゃあ通したら帰ってくれるからしら」
「でも、仮に通してくれたとしても、その後で皆さんを追っていくのでしょう?」
安っぽい言葉に騙されるものかと飛空艇の速度を上げ魔女の腹を突く。
「あぁっ、何人か封神台に近づいてるわよっ」
「皆、八つ裂きにしちゃおう♪」
魔女はレリウスたちに気を取られている隙をつかれ、陣たちが八卦型の台へ箒をフルスピードで迫っている。
「陣さん!追いつけてよかったよ」
「急いで中に入るんや、エルさん!」
「ご主人様、お待たせいたしました」
「真奈、魔女が来る前に早くっ」
「ふざけんじゃないわよ。あんたらを行かせたら、不老不死になる方法を教えてもらえなくなっちゃうじゃないの」
「やかましい、失せろや!」
「失せろですって?あんたこそ失せなさいよ。火系しかとりえなさそうな芸のない無能のくせに!」
「んなっ、なんやと・・・」
「ただの挑発に乗るな、早く行け!」
陣に暴言を浴びせ足止めしようとする魔女の足をハイラルが氷術で凍結させる。
「悠長にお喋りをしている間はありませんよ、ご主人様」
「わかってるっつーの・・・」
箒に乗ったまま八卦型の台の上に浮かぶと、乾・兌・離・震・巽・坎・艮・坤の文字を示す線が、時計回りに輝き始める。
その光は彼らを囲むようにぐるぐると荒々しい嵐のように回る。
「オレらの体・・・だんだん薄くなってきてないか!?」
「なんか怖いよ陣くん・・・」
足元から消えていく様子にリーズは彼の袖を掴む。
「ぼ、僕の体も消えそうだよ?これって・・・」
「―・・・エルさんが!?」
エルの姿がスゥー・・・っと消えてしまい、驚いた陣が叫ぶ。
「落ち着いてくださいご主人様。おそらく封神台の中へ転送されていったんです。それに・・・これくらいで動じていては、アウラ様を守れませんよ?」
「せやな・・・」
後悔は十天君の封神計画の時に、もう終わらせたはず。
あの時どんな危険な場所でも、飛び込んで助け出そうと覚悟したんや。
今、その連れ出せる時が来たっつーのに、いちいち驚いてばかりじゃアウラさんにこんなオレを見られたら笑われるな・・・。
「(今度は死期の幻影か・・・。いやなものを見せられなければいいが)」
真言がもし深く傷つくとしたら・・・と、黒龍は彼女の方を見る。
「黒龍や陣たち、封神台の中に行ったみたいだな」
「そうみたいね。アウラネルクさんのことは任せちゃったから、私たちが今やらなきゃいけないことは・・・」
「魔女たちを殺さずに縛り上げることね?ある程度のキツーイお仕置きを含めてね♪」
歌菜の言葉につけ加えるようにカティヤが横から口を挟む。
「まぁ・・・自動的にそうなるな」
やっぱりガンガンいこうのモードなのか・・・と羽純は嘆息した。
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