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Blutvergeltung…悲しみを与える報復

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Blutvergeltung…悲しみを与える報復

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第7章 1年と数ヶ月越しの想い・・・

「あの4人どっちに行ったんだ?ていうか、こっちの道でいいのか、イナ姉」
「たぶんね」
「おいおい、たぶんかよ・・・」
 ミナは呆れたようにため息をつき、乙女の感で進んでいるイナについていく。
「頭に血が上っている人がいたから早く合流しなきゃね」
 何事もなければいいのだけど、とイナは足早に進む。
「そこに・・・・・・いるんですか?」
 ガサガサッと草むらが蠢く音が聞こえ、そっと近づく。
「イテッ!」
 何かに足を引っ張られたミナが、すてんと転ぶ。
「―・・・蔓?うわ、何だこれ・・・離れないぞ。えっ、こいつ生きてるのか!?」
 足に絡まっている蔓を取ろうとしたその時、それにズルズルと引っ張られる。
「イナ姉、助けてーー!!」
「う〜ん・・・きゃわっ」
 彼女の手を掴み助けようとするものの、鬱蒼と多い茂る木々の方へ一緒に引き摺られる。
「土の上に口が!?」
 食人植物の蔦に捕まり、口の方へ連れて行かれそうになる。
「マンドラゴラがいるってことは、近くに妖精さんがいるかもしれませんね」
 真言は憂うフィルフィオーナの糸を蔦に絡ませ、ブツンッと引き斬る。
「―・・・マンドラゴラ!?やっぱり食べられそうになってたんだ・・・」
 ミナは腰が抜けたようにへなへなと地面に座り込む。
「本物とは違いますが、食べられでもしたら相当ダメージをくらってしまうかもしれませんから。気をつけてくださいね?」
「あぁ・・・うん。助けてくれてありがとうな」
 彼女は手近な木を支え変わりに、ぐねりと蠢く蔦を警戒しながら立ち上がる。
「確か本物って、略奪者のせいで凶暴化したんですよね?」
「えぇ、そうですよイナさん。元々、血を栄養にして育つ植物ですが。心無い人たちを食べ続け、食人植物になってしまったんです・・・」
「アウラネルクさんの命令っていうわけじゃなって。自らの身を守るために、そんな進化をしちゃったんだろうね」
「今はエルさんが代わりに護っているんでしたっけ?」
「そうだよ。略奪者たちが完全に立ち入らなくなることはないね。一攫千金なんてしないで、ちゃんと働いてほしいよ」
「その・・・マンドラゴラが人を・・・襲って食べたりってことは?」
「一応、食べないように注意はしてるけどね。僕の目が届く範囲だからさ・・・」
 いくら犯罪者でも命があるんだから、と心配そうに言うイナにエルは曖昧な返事を返す。
「お金のためや無用に乱獲する人ばかり来るものだから、アウラネルクさんの心が荒れてしまって、本当の優しさを隠してしまったんだろうね」
「妖精さんって小さいのかな?」
「えーっと・・・陣さんより数センチ低いくらいかな?」
「一般的なイメージとは違うんですね」
 仲間の会話が耳に入らないほど、陣の方は必死にアウラネルクを探している。
「どこにいるや、アウラさん。頼む・・・出てきてくれ。じゃないとやつらが来てしまうんや!」
「―・・・〜アウラさぁああん!!」
「んなっ!?なんでそんなデカイ声で呼んだリーズッ」
「え〜?だって呼ばないと分からないじゃない♪」
「そりゃそうだけど、もしも十天君が聞いたらこっちに・・・」
「また略奪者がきたのかぇ?こりぬやつらめ」
 聞き慣れた懐かしい声音に陣は言葉を途切れさせ、まさか・・・とゆっくり振り返る。
 救いきれず封神台に送られてしまい、逢いたくても逢いに行くことすら出来ず、もう2度と声すらも聞こえないと思っていた。
「アウラ・・・さん?アウラさんなのか!?」
「わらわに近寄るな。マンドラゴラ、こいつらを追い払え!」
 魔法草は森の守護者に従い、彼らに襲いかかる。
「待つんや、話を聞いてくれ!」
「人間の言うことは嘘ばかり・・・。おぬしらもそうなのじゃろう?」
「―・・・何も覚えていないのか?オレらのことまで・・・」
 記憶がまだ再生しきっていない妖精に敵意を向けられ、話すら聞いてもらえない・・・。
「やっと遭えたんや。行かないでくれ、オレたちは略奪者じゃないんや。頼む・・・信じてくれ!」
 マンドラゴラの蔦を掻き分け、冷たい眼差しのまま離れていこうとするアウラネルクを追いかける。



「あれ〜・・・やっぱり封神台の中じゃ無理なのかな」
 レキは封神台の状況を知らせようと銃型HCで入力したが、そのデータが消えてしまっている。
「外とは違うアルから、いつものようにはいかないアル、レキ」
「う〜ん・・・外でも使えない時があるからね・・・。ボクたちだけでなんとかしなきゃいけないみたいだね」
「それにしても皆はどこにいったアルか?」
「先に行っちゃった人がけっこういるみたいだね。ん・・・・・・あれ何だろう?」
 じっと目を凝らして見ると、ぐねぐねりと森の中で蔓が獲物を探して蠢いている。
「ここって妖精の記憶を再現した領域だよね。だとしたら、皆そこにいるのかも!」
「あわわ、待つアルよレキ〜」
「ねぇこの植物、生きてるよっ」
「マンドラゴラの蔓アルよ」
「チムチム・・・ボク考えたんだけど・・・」
「さすがレキ!この状況で何か思いついたアルね?」
「後、お願い♪敵が来たら教えにきてねっ」
 チムチム・リー(ちむちむ・りー)に可愛らしくウィンクすると森の奥へと駆けていく。
「はっ薄情者ーっ!!」
「まぁまぁ、そう言わずに行かせてあげましょう?」
 ぽんぽんっとベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)に肩を叩かれ、置き去りにされた怒りを抑える。
「ごめんねー!ここには来れないけど、北都さんのことも思い出してほしいんだよっ」
 ぎゃあぎゃあと文句言うチムチムに謝り、オメガの護衛をしているため来れない彼のことを伝えようと妖精を探す。
「忘れたままなんて悲しすぎるよ・・・。思い出させてあげなきゃ!んもぅ、どこいっちゃったのかな・・・」
 目を凝らしキョロキョロと薄暗い森の中を見回してると、聞き慣れた若い男の声が聞こえてきた。
「―・・・アウラネルクさん、待つんだ!」
「そっちにいるんだね」
 真っ暗な森の中でも目立つ金髪のエルを発見し、彼の後を追いかける。
「お願いだから逃げないで話を聞いてよ」
 バーストダッシュで先回りしたリーズが通せんぼする。
「なんじゃおぬしら。わらわを囲んで倒す気か?」
「違うってばっ」
「(僕たちを略奪者と間違えるなんて何か妙だ・・・)」
 ひょっとして記憶を失ってしまっているのか?と、エルは怒りに満ちたダークブルーの瞳を見る。
 あの時と同じように、まずはこっちの本心を見せなきゃね。
 言葉だけじゃ分かってもらえなかったから・・・。
「今もマンドラゴラを護ろうとしてるんだね・・・懐かしいな。初めてであった時のことを思い出すよ。例え記憶を失ったとしても貴方の本質は優しいあの頃のままだ」
 得物を草の上へ放り投げ、傷つけるようなものは持っていないよ、と両手を広げて見せる。
「武器を持っていちゃ、そう見られて当然だからね」
 皆にも捨てるように目配せする。
「あれが妖精さん?かわいいっていう感じとは違うし、ちょっと冷たそうな性格に見えるけどキレイね!」
 踵までありそうなほど長いパールグリーンの髪をした妖精をイナが見つめる。
「いつまでも眺めていないでよイナ姉、あたいたちも捨てよう」
「そうね、ミナ・・・」
 元々誰かを傷つける気もないが、護身用に持ってきたコンポジットボウを捨てる。
「もう一度、ボクを・・・いや、人間たちを信じて欲しい!」
「信じれば裏切られるだけの繰り返し・・・。そんなもの・・・どうやって信じろというのじゃ?」
「貴方の後を継ぎイルミンスールの森を守護してきたけど、森は広いね・・・ボクだけでは駄目なんだ、貴方の力が必要なんです!」
「どうしておぬしがあの森を?それをわらわが頼んだとでもいうのかぇ」
「そうです・・・それは・・・・・・」
「思い出してもらうためですから、順番に話しましょう」
 その後で起こったことを話そうと、真奈が白銀の雪祭りのことを語り始める。
「アウラ様・・・凍った湖面の近くで、雪祭りをしたことを覚えていますか?」
「いや・・・祭りという賑やかな場所に行った覚えはない」
「ご主人様と一緒に行ったんですよ。手土産の輸血パックの血は、マンドラゴラが飲んでしまいましたけどね」
「魔法草が人を襲わず、帰ったというのか・・・。信じられぬ」
「でしたらこんな話はいかがでしょう?真言様が淹れてくださったジンジャーティーをいただきながら、私が作ったアップルパイを食べてくれたんですよ」
「真言とは・・・?」
「病にかかった方々を治すために、魔法草をいただいたお礼をかねて逢いに来てくれた執事の女性です」
「わらわが人に与えたというのか!?」
「はい。エル様がさきほど言いました通り、略奪者でないことをわかってくださって与えてくれたのですが・・・」
 武器を捨てて卑しい感情も何もないと理解してもらったと話す。
「思い出してもらうには、楽しいこと意外にもいろいろと話さなければいけないのですけど・・・」
「ドッペルゲンガーの森で傷を負って十天君に捕まったレヴィアさんを、オレたちとアウラさんが一緒に助けに行ったんや」
 真奈に代わって陣が語り始め、孤島の施設でのことを聞かせる。
「水路で無能になりかかっていた陣くんにアドバイスをしてくれたよね?」
「無能いうなっつーの。リーズの戯言はほっといて・・・その方法って正直難しかったんやけどね。魔法って一瞬のスキルやし」
「結局、ボクとアウラさんの雷系の技でフォローしてあげたんだよ。陣君の炎がプシュゥ〜ンって、水しぶきで消えちゃったからさ」
「いらんことまでっ」
「だって全部思い出して欲しいじゃん?陣くんのお笑いシーンだけカットしようなんて甘いよ。もしかしてカッコィイ思い出ばっかり思い出させようとしてる?ありえなーい!」
「ご主人様・・・そうなんですか?」
「いやっ、違うっ違う!!」
「じゃあ〜、かっこわるぃ〜ところも話さなきゃね」
 それも記憶だし正直に話さなきゃね、とリーズはにんまりと黒い笑みを浮かべる。
「アウラさん・・・えっと、たまーにやけどこんなこともあったんや。あはは・・・」
 本当にそんな焔使いだったのか、という目で見る彼女に陣は笑ってごまかす。
「ゴーストとか・・・いろんな邪魔が入ったんやけどな。最下層でレヴィアさんを見つけて助けたんや」
「ふぅ〜やっと追いついた・・・。ボクも話すね・・・。黒髪の執事の北都さんや、獣人の昶さんのこと覚えてる?水門を開けるために、一緒に行動出来なかったんだけどね」
 レキは姿を見せて得物を素捨てて、オメガの屋敷にいる彼らのことを話す。
「北都・・・昶・・・・・・?誰じゃ、そやつらは」
「孤島の施設に入る前に、どんな木がボートにいいのか2人に教えてくれたんだよ。聞いた話を伝えてるんだけど・・・でも本当のことからね!」
「本当にそうなのか?わらわがその者たちに・・・。思い出せぬ・・・」
「今、リュースさんも一緒にオメガさんの護衛をしてるんや。魔力のタンクをぶち壊しに行ってたみたいやから、一緒にいなかったんやけどね」
「皆であいつらの企みを潰そうとね。レヴィアさんは陣くんと金髪の女の子のルカルカさんが、水の中に飛び込んで助けてくれたんだよ。ボクはバルブを回す役割だったけどね」
「おぬしらがレヴィアを・・・?―・・・何じゃ、この記憶は・・・。何かの建物の回りを人のような者たちが守っておる・・・」
「縁さんや皆の手引きのおかげで、ボクたちその中に入れたんだよ」
「わらわは水の音がする薄暗い道を進んでいた・・・。その先にレヴィアが捕らわれていたのか?」
「うん、思い出してくれた!?」
 青色の瞳を輝かせたリーズは、苦しそうに頭を抱えるアウラネルクの様子を見る。
「確かに助けにいったようじゃ・・・。しかし・・・おぬしたちや、他の者たちも思い出せぬ」
「レヴィアさんにこれを託したことは覚えているッスか?」
 陣はモーント・ナハトタウンで渡された珊瑚のブレスレットを妖精に見せる。
「自分に何かあるかもしれないからって、代わりに渡すように頼んだって聞いたッスよ」
「森の護りとなる前に珊瑚を持ってきたのだが・・・。どうしてわらわがおぬしに渡すように言ったのじゃ!?」
「孤島でオレたちに協力したから十天君に逆恨みされて、目をつけられたかもって思ったんスッよね?」
「レヴィアさんを救出した後、貴方は十天君に捕まり魔力を奪われてしまったんです。もう森を護ることが出来なくなってしまうかと思って、ボクに役割を頼んだんですよね?」
 警戒心を解けきれていないが、ゆっくりと近づきながらエルが言う。
「かなりの重傷でしたし、頼ってくれたのは嬉しかったですけど・・・。正直いうとあの時、こうなってしまうんじゃないかって嫌な予感はしていました」
「何をでたらめなことを!わらわはそのようなことを、人間に頼んだ覚えないぞ。わらわはこの森を護るためにいるのじゃ・・・。マンドラゴラの養分にされたくなければ、さっさと立ち去れ!」
「ここはイルミンスールの森ではありません。そして、十天君たちの魔の手がオメガさんやレヴィアさんに迫ろうとしています・・・アウラネルクさん、思い出してください!」
「―・・・友情の証を受け取る資格がないなんてことを言って、封神台にいってしまったことも覚えていないんッスか!?」
「友・・・?わらわの友は海にしかおらぬ・・・」
「ボクたち・・・友達だったんだよ!?思い出してよアウラさん!」
「私たちは貴女の敵ではありません、お友達なんですよ。今までも、そしてこれからも。それにご主人様とっては、とても大切な・・・『初めて出来たパラミタの住人の』お友達なんです。どうか・・・思い出して下さい、アウラ様!」
「出口の方に行きながらはなそうよ?封神台に入ってからここにくるまで、結構時間かかったからね」
 皆が妖精に思い出してもらおうとしている様子に、レキが遠慮がちに言う。
「この中は紛い物の死期を見せらて、苦しみを受ける空間なんだよ。お友達が苦しみところなんて見たくないんじゃない?誰かが苦しみ始めたら、本物のイルミンスールの森じゃないってわかってくれる?」
 ちょっと卑怯だったかな・・・と思いつつ、出ようとしない彼女を説得しようとする。
「―・・・・・・もし偽りならば、その時は容赦せぬからな」
「うん・・・信じてくれてありがとうね」
「僕の後ろにどうぞ」
 エルはエターナルコメットに乗るように勧め、彼女の手を引き乗せてやる。
「レキーーーー!!十天君のやつらが来たアル、早く逃げるアルヨ」
「うわぁ〜何それ。いい感じだったのに・・・きちゃったわけ!?」
 記憶を取り戻してもらおうと、妖精と話しながら出ようとしていたレキは膨れっ面をする。
「しっかり掴まっていてくださいね」
 チムチムの話にエルは得物を拾うと、急いで出ようとかっ飛ばす。
「(外にも魔女がいたわね。作戦が失敗したとわかったら、何を仕掛けてくるか分からないわ)」
 イナたちも同行しようと信頼を得るために手放していた武器を拾う。
「アウラさん・・・ちょびっとずつ思い出してくれているようやけど。オレらのことはまったくわからんのかな」
「―・・・エルといったか?」
「ん、そうですよ。どうしました?」
「おぬしは魔法学校の生徒なのか・・・?会った時からずっとイルミンにいますよ」
「ふむ・・・。やつは陣・・・だったか?」
「そうッスよアウラさん!」
「そのブレスレットは確かに、レヴィアに渡すよう言ったようじゃ・・・。炎の魔法を得意とする者に・・・」
「あぁ、それオレ!」
 思い出しそうなのかと思い片手をぶんぶんと振る。
「後はいじられることだけがとりえの、陣くんだよー」
「愉快そうなやつじゃな・・・」
「どーぞご自由にいじっていいからね」
「ちょっ、オレを何だと思ってるんやっ」
 ご自由にお取りくださいとケースに書かれている氷とかと一緒にすんなっと陣が怒鳴った。