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リアクション
《9・どんなに凄くても、世間に認められるとは限らない》
ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)、ブラダマンテ・アモーネ・クレルモン(ぶらだまんて・あもーねくれるもん)の三人は開始からずっと、緑色のゴーレムをほぼ狙い撃ちして戦っていた。
それがなぜかと尋ねれば、
グロリアーナは「何故緑色か、それは妾の中に流れるウェールズの血がそうさせるのであろうな。ウェールズの旗の鮮やかな緑色こそが、妾の色なのだ――故に、緑色のゴーレムが妾の相手に相応しい」と、ムツかしい言い回しをするところだが。
簡潔に述べると、地球人では倒すことのできないゴーレムというのは兵器としてかなりの重要性があると考え。実戦テストに協力しようということであった。
そして今、一体の緑ゴーレムがローザマリアを壁際に追い詰めていた。
ローザマリアは曙光銃エルドリッジを乱射するが、ゴーレムはまるでこたえない。
「やっぱりあまり効かないわね。一体どういう仕組みなのかな」
もっとも。地球人の攻撃では多少のダメージを与えられる程度で、絶対に倒すことができないという事実はゲーム序盤でとっくに把握していたりする。
これは彼女が囮となって注意を惹きつけ、
「解き放たれし戦争の猟犬ども、か……」
「戦争の猟犬――ジュリアス・シーザーですの? 確かに、これは現代の戦争の猟犬と言えますわね」
それでできた隙をついて、残りふたりが仕留めるという策なのであった。
ローザとの間に割って入ったライザは、ブリタニア(ウルクの剣)を使ってのブレイドガードでゴーレムの拳を受け止める。歴戦の防御術も使っているため、1ダメージほどしかくらわない。
緑ゴーレムは、つづけて反対側の腕を振り回そうとしてくるが。その前にブラダマンテことブランによる、カタールをつけた斬り×叩き攻撃がヒットし、ぐらりとよろめかせる。
「さて。わらわの番か――成敗!」
そして再びライザが絶零斬でゴーレムの脚を凍らせ地面に繋ぎ止める。これでもう相手は動けない。その上でエイミングで狙いを定め、さらに疾風突きまで使う念押しで、最後は一気に核を粉砕させた。
まったくの油断もなく敵を倒した三人は、息も乱さず迷路を歩きつつ今後のことを話し合っていた。
「ライザ、ブラン。これで倒したゴーレムの数はいくつだったかしら?」
「緑のゴーレムは今ので4体なのだよ」
「あとは青色が1体と、桃色が1体ですわ」
そのことを踏まえ、ふむと顎に手をやり考えるポーズのローザマリア。
「そう。開始からもう3時間回ってるし……他の参加者が緑を過半数倒していると考えれば、そろそろ桃色や茶色狙いに切り替えたほうがいいわね」
と、そんな三人の行く手にものものしい赤銅色の扉が。
ここがなにかまだ知らない三人は不可解に感じながらも、中へと入ってみる。
「やあ、いらっしゃい。ずっと見てたけど、やけに緑ゴーレムばかり狙ってたね。なにか理由でもあるのかい?」
ろくな挨拶もせずに、いきなり会話に直行してくる博士。
どうやらゲーム観戦は楽しくとも、おしゃべりできないのはつまらないらしい。
「闘う機会が来たなら、最も手強い敵と戦う――喩え、それが神と悪魔の闘争であっても、妾は介入し双方と刃を交える事を躊躇しない」
一応ライザが答えを告げると、博士はふぅんとなんか感心した様子で。
「言い回しが詩的だね。シェイクスピアとか好きだろう?」
それから一、二分ほど会話に花を咲かせたものの。
ゴーレムがいないのなら長居は無用なので、お暇しようとしたが。最後にひとつだけ、と前置きしてローザは気になっていたことを質問してみる。
「人間が絶対に倒すことのできないゴーレムというのがあるわよね。それを今後、兵器として応用するつもりはないの?」
「いいや。そう簡単にはいかないのさ」
「というと?」
「緑ゴーレムの機能には、ちょいと特別な材料が必要でね。おかげで量産が難しく、それでいてやっと出来上がっても動かせるのはさほど強くもない人型ゴーレムがせいぜいだ」
「…………」
「おかげでまー、お偉いさん方の目にはとまらなくってねえ。こうして趣味に活用するのがせいぜいなのさ。はっはっは」
声は笑っているが、博士の目はあまり笑っているようには見えず。どうやら道楽だけで生きているような彼にも、過去には色々あったらしい。
なのでローザはそれ以上深くつつくのはやめ、部屋を後にした。
三人が去ったあと。
博士は珍しくふと疑問顔になって。
「あれ。判別のメガネはいらないのかな……てっきり貰いに来たのかと思ったのに」
その後の三人のことを語ると。
殺気看破で警戒をしていたローザが、青色ゴーレムの接近に気がついて。
ローザがすかさず銃撃して相手を惹きつけ。さらにライザが歴戦の防御術でガードに入っている間に、ブランがライトニングブラストでとどめをさす。まさに流れるような連携を披露して核を破壊したものの。
『アナタはコピーの核を破壊してしまいました。残念ながらゲーム終了です。手持ちの核とメガネはその場に置いて、こちらの案内に従い一旦ここから退席をお願いします』
コピー対策をしていなかったので、あえなくここまでとなったのだった。
そんな彼女達へのアナウンスを近くで聞いていたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)。
「コピーで脱落するのは、絶対に避けないとね」
「ええ。私たちは、早めに助手の人と会えてよかったわ」
語り合いつつ、助手と遭遇したときのことを思い出す。
「はい。これが専用のメガネやで。にしても……あんたらえらい奇抜な格好しとるなぁ」
「いや、そっちのメイド姿もそこそこの格好だと思うわよ」「同感だわ」
回想終了。
二行で済むほど短いやりとりだった。
事実、セレンはビキニの水着にパレオの姿。セレアナはワンピース水着。いくらゲームだからってそんな格好でいいのか? という疑問の声もあがりそうだが。実は彼女たちにとってはそういうのが普段着だったりする。
だから問題はなく(そうか?)。彼女らとて、決して不真面目にやってなどいない。
「あっ、セレアナ! 来たわよ!」
「うん、わかってる!」
いまも、現れた桃色のゴーレムに相対した瞬間。目つきが変わった。
セレンとセレアナはまず女王の加護で守りを固め、そこからまずセレアナがランスを手に前へ出て、ランスバレストによる突進でゴーレムの右肩を破壊して縫いとめる。
動けなくなったところをセレンが対物ライフルでのシャープシューター狙撃。頭部へともろにヒットし、ぐらついたところで――とどめの一撃をくらわせていった。
こうして核をゲット。
「ふふん。あたしのセクシーさに見惚れる暇もなかったみたいね☆」
「はいはい、それよりコピーじゃないならはやく壊して。これでえっと、七体目だったわよね」
「そうよ。ラッキーナンバーね、なにかいいことあるかしら」
言いながら、核を破壊した直後。
新たなゴーレムが通路の陰から姿を見せた。
そいつは、虹色のゴーレムだった。
「……えーと」
「まあ、人によってはラッキーだけど。私たちには嫌な相手よね」
なんとなくガッカリしながらも、早々に逃げることにしたふたりだったが。
走っているうちに十字路にさしかかり。まっすぐ突っ切ってすぐ、ふと相手が追ってきていないことに気がついた。撒いたにしてはいくらなんでも早すぎ、なんだか気がかりなので一度引き返してみれば。
「ルールを何度も読み返せば、自然と対処法が見つかりますわ……それに『抜け道』も」
「私たちにとっては、虹色のゴーレムは大歓迎よ」
「そういうことだ。運が悪かったな」
十字路のところで誰かの話し声がした。
遠目に見えたのは中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)の姿。
パッと見ではひとりかと思ったが。声が三種類響いている。どうやらパートナーの漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)を纏い。そして中願寺 飛鳥(ちゅうがんじ・あすか)が憑依した三位一体の状態になっていると理解できた。
しかし驚愕すべきなのは、三人でいる筈なのに今まさに虹色のゴーレムを破壊し、核をみっつ取り出したことだった。
そのあと、十字路の一方から緑のゴーレムがやって来た際にも。
はじめ綾瀬が嵐のフラワシや僥倖のフラワシで倒せないかどうか試していたものの、どうやらダメだと理解するなりドレスが一時魔鎧の状態を解き。ファイアストームや闇術を放ち、倒して核を手に入れていた。
そっちの核は虹色のとは別に風呂敷に包み、飛鳥が非物質化を行なって他者の目には触れないようにしておいた。
「さて。次の相手は誰でしょうか」
やがて去っていった三人をしばらく眺めていたセレンとセレアナだったが。
ぽつりと疑問を口に出さずにはいられなかった。
「どういうことよ。あの三人、どうして虹色のゴーレムを倒すことができたの?」
セレアナはしばらく考えていたようだったが、ルールの『抜け道』を改めて考えてみてひとつの事実に気がついた。
「あの三人、たぶん同じチームじゃないのよ。きっと別々に参加申請をして、そのうえで協力してるんだわ」
「え。それっていいの?」
思わずセレンがモニターへ問いかけると、
『ええ。べつに何の問題もないよ。まあチームではない以上、優勝賞品の称号を貰えるのはひとりだけになるけどね』
けらけら、と面白そうに笑っている博士。
どうやら綾瀬たちが行なっていることは、まさにルールの抜け道として考えられていたことだったらしい。
「そっか。単独で動くプレーヤー同士で組めば、撃破条件が競合しているはずの茶色と虹色のどちらも倒すことが可能になって、全色のゴーレム撃破さえも可能になるわけね」
「そういえばルールに、茶色ゴーレムは『2人以上の同時攻撃でなければ倒せない』とは書いてあったけど『チーム内の2人以上』とは一言も書いてなかったしね」
だが、そういったことを理解してなお。
ふたりは自分たちもその戦法をとっておけばよかった……とは思わなかった。
「あの三人、いくつ核を集めてるかはわからないけど。かなりの強敵みたいね。でもあたしたちだって負けやしないわ」
「ええ。私たちはあくまでも、ふたりで優勝を目指すのよ」
こうして決意新たに、行動を開始していくふたりであった。
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