イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

夏だ! 祭りだ! また喧嘩神輿だ!

リアクション公開中!

夏だ! 祭りだ! また喧嘩神輿だ!

リアクション

 
 

白熊神輿

 
 
 さて、こちらは、白熊神輿の制作場所です。
「よいしょ、よいしょ……。ベア、そこを押さえていてくださいね」
 大きな白熊の御神体の中に潜り込みながら、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)さんが雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)くんに言いました。
「あ、悪い、御主人、ちょっと作戦会議」
「もう、ベアったら……」
 そそくさと行ってしまった雪国ベアくんに、ソア・ウェンボリスさんがちょっと唇をとがらせました。
「あっ、ヴィスカシアローゼンラディアータはソアさんの方を手伝ってきて」
 御神体を入れる神輿をアルラウネさんたちと作っていた多比良 幽那(たひら・ゆうな)さんが、お手伝いの幾人かをソア・ウェンボリスさんの方へと回しました。
「ありがとうございます。よろしくお願いしますね」
 しっかりと御神体を押さえてもらって、ソア・ウェンボリスさんが多比良幽那さんたちにきちんとお礼を言いました。これで、安定してあのギミックを取りつけることが出来ます。ふふふふふ……。
 一方、多比良幽那さんは、アルラウネたちの力を借りて御神輿本体の方を作っています。
「はい、これ切ってね」
 多比良幽那さんに頼まれて、オオクワガタの硬き稲光カラドボルグくんが大きな丸太をハサミでチョッキンしました。切れ味は抜群です。
 アルラウネのアコニトムさんとコロナリアさんが、台の上にその太い丸太を前後に四本ずつ斜めに取りつけていきます。重量級です。ごついです。すでに破城槌です。
 丸太には雪が積もっているようなデコレートがしてあります。ついでですから、人工雪が吹き出して御神輿の周囲に雪が舞うギミックも丸太の中に埋め込んでおきましょう。白熊神輿ですから、冷え冷えでなければいけません。
「ええと、いろいろと頼まれた物も取りつけないと……」
 緋桜 ケイ(ひおう・けい)くんに頼まれた物を台の下に取りつけます。次に、悠久ノ カナタ(とわの・かなた)さんに頼まれた魔女の大釜です。なんでも特殊な大釜だそうで、御神輿の胴の代わりだそうです。
 なんとか組み立てが終わったところへ、ソア・ウェンボリスさんとアルラウネさんたちが御神体を運んできました。全員で魔女の大釜の中へ御神体の白熊像をセットします。
 悠久ノカナタさんのリクエストで、最後に魔女の帽子を御神体に被せました。
 なんだか、魔女の大釜に白熊が載っていると言うよりは、魔女の大釜で白熊がぐつぐつと煮られているような印象です。
 とまれ、こうして白熊神輿は完成したのでした。
 みんなに報告に行きますと、担ぎ手の面々はまだ作戦会議中です。
「とりあえず、男性は前の方を担いで、女性は比較的安全な後ろを担ぐということでいいかな?」
 いろいろ議論した結果らしく、緋桜ケイくんが一応のまとめをします。
「いいけど、あたしは前面に立つもん。前面に立って、みんな跳ね返しちゃうよー。でも、多分三回ぐらいしかもたないから、後は頼むんだもん」
 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)さんがポヨンと小振りの胸を叩きながら言いますが、大丈夫なのでしょうか。普通だったら圧死です。
「おいおい、そんなこと言って大丈夫なのかよ。潰れちまうぜ」
「パラディンはだてじゃないよー。御神輿をぶっ飛ばすと反則だから受けとめるだけにするけど、並の装甲よりもかったいんだもん♪」
 雪国ベアくんの心配をよそに、ミルディア・ディスティンさんは自信満々です。
「ミルディアなら大丈夫だよね」
 パートナーのイシュタン・ルンクァークォン(いしゅたん・るんかーこん)さんに保証してもらって、ミルディア・ディスティンさんがうんうんとうなずきます。
「本人が大丈夫だと言ってるのですから、大丈夫ですわ。多分ですけれど……」
 ゴロゴロしながら作戦を適当に聞いていた織田 帰蝶(おだ・きちょう)さんが、これまた適当に言いました。どうも、ニートさんには表の太陽の光はちょっと眩しいようです。
「御神体を身体を張って守ろうとする、その心意気やよし!」
 太陽さん……、失礼いたしました、太陽その者とも言える天照 大神(あまてらす・おおみかみ)さんが、ミルディア・ディスティンさんを褒め称えました。織田帰蝶さんがちょっと眩しそうに目を細めます。後光でも直視してしまったのでしょうか。
「喧嘩神輿は、神々の戦いなのだよ。特に、空京神社は合祀されておるからな。その一柱として、この白熊神を奉納することに、他の神ではあるが、この私も全力で協力するものであるぞ」
 なんだか燃えています。さすがに火を噴き出したりはしませんが、分霊でなかったらあたり一帯火の海にしてしまいそうな勢いです。
「そうだ。頑張ろうではないか。出場するのであれば、トップを目指さねばならぬはずであろう。音頭はしっかりととるので、頑張るのだ!」
 ぎゅーんと、アンプ内蔵のエレクトリックベースギターをかき鳴らして、アッシュ・フラクシナス(あっしゅ・ふらくしなす)さんがみなさんを鼓舞しました。本当は笛か太鼓か三味線がいいのでしょうけれども、アイドルとしては担当楽器以外は無理なので、そのへんは笑ってごまかすようです。アッシュ・フラクシナス自身は担ぎ手としてのパワーはないでしょうが、応援はしっかりと務められそうですね。ファンの人たちからも声援があるかもしれません。
「それで、どんな神輿が完成したんだ。俺様のかっこいい御神体が……なんじゃこりゃあ!」
 作戦はだいたいいいと勝手に決めつけた雪国ベアくんが、完成した御神輿を見て叫びました。
「ふふふふ、完璧であろう」
 黒光りする魔女の大釜をペチペチと叩きながら、悠久ノカナタさんがニヤリと目を細めながら言いました。
「……くそう、カナタめ、俺様に何か恨みが……あるか……」
 ここしばらくのやりとりを思い返して、雪国ベアくんは自己完結して納得してしまいました。思いあたる節がたくさんありすぎたようです。