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夏だ! 祭りだ! また喧嘩神輿だ!

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夏だ! 祭りだ! また喧嘩神輿だ!

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喧嘩神輿開始

 
 
「さあ、今年も喧嘩神輿がやって参りました。混迷する社会情勢の中、若干開催も危ぶまれましたが、今年も猛者たちが自慢の神輿を持ち寄ってここ空京メインストリートに集まっています。実況は、私、シャレード・ムーン(しゃれーど・むーん)がお送りいたします」
 シャレード・ムーンさんの実況で、いよいよ喧嘩神輿が始まりました。
 シャンバラ宮殿前のオーロラビジョンに、各神輿が映し出されます。
 曳き山笠とは違って、喧嘩神輿にはスタート地点という物はありません。それぞれの御神輿はシャンバラ宮殿の前から空京神社の周囲を大きくぐるりと回ってくるメインストリートの好きな所に待機しています。そこから出発して、他の御神輿を見つけた時点でバトル開始です。
「では、参加されている神輿を紹介していきましょう。まずは、ロケットおっぱい鉄道神輿です!」
 シャレード・ムーンさんの紹介で、ロケットおっぱい鉄道神輿の姿がオーロラビジョンに映し出されました。それにしても、この長ったらしい名前はどうにかならないのでしょうか。気をつけないと舌を噛んでしまいそうです。
「全員、お揃いのショッキングピンクの半被を羽織っています。これは目にエロい、いえ、ちょっと痛いです。担ぎ手は四人だけですが、全員屈強な男衆です。おっさんはいないので、若いイケメン神輿となっています。御神体は、色っぽい女神様です。はたして、この女神様を奉納することが出来るのでしょうか」
 オーロラビジョンが切り替わります。
「続いては白熊神輿です。こちらは、青い衿の白い半被で揃えています。涼しげです。神輿は……これはなんでしょう、熊鍋でしょうか。何かの土着信仰なのかもしれません。担ぎ手は、男衆二人、女の子たち八人とお手伝い五株となっております。これはまたかしましい。華があります、花妖精もいます。実にロケットおっぱい鉄道神輿とは対照的です」
 実際、担ぎ手と御神輿のデザインが二組ともまったく逆です。男臭いロケットおっぱい鉄道神輿の御神体はたっゆんな女神様なのに、かしましい白熊神輿御神体は獣神です。はてさて、どういう結末になるのでしょうか。
「続いての参加は、ゴージャス神輿です。ですが、ゴージャスというわりには、金の折り紙を貼った神輿のようです。もしかして、予算が足りなかったのでしょうか?」
 オーロラビジョンには、お嬢様たちの御神輿が映し出されました。金ぴかという以外はごく普通の御神輿ですが、なぜか屋根の上に重役椅子のような物が載っており、そこにお嬢様が座っています。
「この御神輿はなんですの。もっとゴージャスに、もっと頑強に出来ませんでしたの?」
 上に乗ったお嬢様が、担ぎ手である執事君メイドちゃんにむかって言いました。三人とも、金ぴかの半被を羽織って、一応の統一感は出しています。
「そんなこと言われましても、予算が……」
「いいかげん、仕送りばっかり当てにしてるからこういうことになるんです」
「まっ……。し、仕方ありませんわね。お金で解決できない部分は、あなたたちの体力で補いなさいな」
 さすがに、思いあたる節があったのか、珍しくお嬢様があっさりと引き下がりました。
「はははは……」
「ふっ、めどいわ……」
 なんともやる気があるのかないのか分からない御神輿ですが、担ぎ手の二人は油断なりません。
「さて、次は海運会社からの企業参加で、海賊神輿です」
 オーロラビジョンに写ったのは、船をかたどった神輿でした。担ぎ手は、黒い半被を着て、思い思いの動物のお面を被っているので素顔は分かりません。が、どうやら屈強な獣人たちのようです。
「いいか、野郎ども。俺たちはまだ健在だとその筋にアピールするためにも、絶対に優勝するぞ。邪魔する奴らは、力で粉砕しろ!」
「おーっ!」
 豆柴のお面を被ったシニストラ・ラウルスくんに発破をかけられて、海賊さんたちが気勢をあげました。
「頑張った奴には、後で御褒美あげるかもよー」
「おおーっ!!」
 ミケにゃんこのお面を被ったデクステラ・サリクスさんに色っぽく言われて、海賊さんたちがさらに張り切ります。
「この差はなんなんだ……」
 半被の下のサラシから零れそうなデクステラ・サリクスさんの胸元を見て、シニストラ・ラウルスくんがちょっと苦々しく言いました。
「さあ、次にいきましょう。次の神輿は、キマクから参加された食堂神輿です」
 オーロラビジョンに写ったのは、御神輿の胴からナイフやフォークやスプーンが突き出た、なんとも物騒な御神輿です。まあ、キマクの蛮族の御神輿らしいと言えばキマクらしいわけですが。
「もうちょっと、ましなデザインは出来なかったのかい」
 いくらなんでもこれはないだろうと、お菊さんが食堂番長さんに言いました。
「そんなこと言ったって、こいつらがそんな難しいこと出来る頭持ってるわけねえだろうが」
「まあ、それはそうだねえ」
 そう言い返されては、お菊さんとしても納得するしかありません。食事代の代わりに担ぎ手にさせられたパラ実生さんたちは、何がいけないんだろうと首をかしげています。こちらは、半被というか、学ランを羽織って褌姿です。一応ステイタスですから、破れた学帽もちゃんと被っています。さすがに、お菊さんはエプロン姿に食堂の名入りの半被という姿ですけれど。
「さあ、続いては、イルミンスール魔法学校から小ババ様神輿です」
「こばー」
 世界樹型の御神輿のてっぺんに登った小ババ様が、ちっちゃな半被姿でちっちゃな扇子を振って気勢をあげます。
 担ぎ手は、緑色の半被で揃えた大神 御嶽(おおがみ・うたき)くん、キネコ・マネー(きねこ・まねー)くん、天城 紗理華(あまぎ・さりか)さん、アリアス・ジェイリル(ありあす・じぇいりる)さんの四人です。
「こういう肉体労働は、私は苦手なんですが……」
「何言ってるの、しっかりと担ぎなさい!」
 すでにヒーヒー言っている大神御嶽くんに、赤毛をポニーテールにまとめてキリッと鉢巻きを巻いた天城紗理華さんが発破をかけました。実におっとこまえです。
「白熊を粉砕するのですら〜!」
「やっちゃいましょう!!」
 キネコ・マネーくんとアリアス・ジェイリルさんはもうやる気満々です。特に、普段物静かなはずのアリアス・ジェイリルさんは、半被にサラシに短い股引と、ちょっと色っぽくも勇ましい格好で完璧でした。
「やる気満々のようですが、どうなりますでしょうか。さて、最後は、バイトさん仲間による女神輿です」
 オーロラビジョンに、オーソドックスな御神輿と、それを担ぐ女性たちが映し出されました。
「いいか、お前たちの使命は、他の神輿をすべて破壊することにある!」
「おーっ!!」
 ジェイス・銀霞さんの号令一下、普段とあまり変わらない格好の神戸紗千さんが元気に両腕を突きあげて答えました。
「え〜、無理ですぅ」
 担ぎ棒に半ば潰されそうになりながら大谷文美さんがへろへろと答えました。
「まあまあ、なんとかなるって」
 ちょっと苦笑しながら、キーマ・プレシャスさんが言いました。
「がんばるのだー、いくのじゃー」
 御神輿の上に乗ったビュリ・ピュリティア(びゅり・ぴゅりてぃあ)さんは、乗っているだけなので元気一杯です。
「みなさん、頑張ってくださいね」
 女神輿なのであぶれたジェイムス・ターロンくん――いや、男性ですが、歳から言ったらさんでしょうか――が、陰ながら応援しています。
「さて、では始めましょうか、喧嘩神輿!!」
 シャレード・ムーンさんが、大きな声で叫びました。
「わーい、もう始まっちゃうんだもん。どこかいい場所、いい場所……」
 人混みの中で、秋月葵さんがメインストリートを見られる隙間を探していました。けれども、どうしても見えません。
「こうなったら……」
 秋月葵さんが、空飛ぶ魔法↑↑で空に飛びあがりました。上から観戦するつもりのようです。
「やったー、ここならよく見えるよね」
 道路のど真ん中の上空にふわふわと浮かびながら、秋月葵さんが喜びました。でもそれも束の間です。
「そこー、危ないですから、道路上空からは、ずれて飛んでください!」
 また、警備の人に注意されます。あたふたと道路の上から避難したので、思わずヨーヨーやらわたあめやらを道路に落としてしまいました。
「ああ、もったいないんだもん」
 悔やんでも、さすがに拾いには行けません。残念。
「あっ、迷子の葵にゃ〜。おーい。にゃ〜、気がついてもらえないにゃ〜」
 目だったので秋月葵さんに気づいたイングリット・ローゼンベルグさんでしたが、お祭りの喧噪に声がかき消されて、気がついてはもらえませんでした。ちなみに、本当の迷子は、イングリット・ローゼンベルグさんの方です。