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葦原明倫館の食堂・秋の新めにゅ~開発企画☆

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第9章  料理対決夕食乃部


「さぁ、いよいよ夕食部門のはじまりでござる!」
「そうだな。
 みんな、ファイトだぜ!」

 ラストのインタビュアーは、佐保と匡壱の2名らしい。
 昼間は昼間で、誰とは言わぬが、働かされていたというのに……可哀想だ。。。

「もうじゃんじゃん訊いていっちゃうからね!
 料理名と、お料理にたいする想いなんかを教えてほしいでござるな!」
「はい、マイク持って」
(それにしても佐保、意外にノリノリだな……)
「わたくしどもがつくるのは、『みちるの秋野菜☆カレー』でございます。
 この企画は、未散をクッキングアイドルとして売り出す足がかりでもあります。
 ねらうは、教育的こども向けお料理番組の座でございます!
 お料理だけではなく、未散の可愛さにもご注目ください……」
「アイドルじゃない!
 勝手に料理の名前まで決めてるし……」
(それに私、いままで家事はすべてハルにまかせきりだったんだぜ?
 料理なんてもちろん、掃除も洗濯もしたことないのに……どうしよう。
 でもできないってバレたくない……なんとか乗り切るしかない、か……)
「わたくしは撮影スタッフとして、ビデオをまわさせていただきます。
 皆様のお邪魔はいたしませんので、どうぞご了承くださいませ」
(ん?
 そういえば、未散くんが料理してるところ、見たことありませんね……まあ大丈夫でございましょう!
 知名度を上げるため、がんばってくださいね!)

 若松 未散(わかまつ・みちる)のメイド服は、事務所の命令によるものらしい。
 出演や服装をいくら拒否しようとも、逆らえない運命。
 マネージャーっぽいハル・オールストローム(はる・おーるすとろーむ)との二人三脚で、危機を乗り切ってほしい。

「材料だが、新鮮な秋野菜とカレールーだけ。
 今回は、さつまいも、山芋、れんこん、春菊、きのこ、にんじんの6種類を準備してみたぜ」
『くるっとターンと、にっこりポーズ!』
「なっ……」
(ウザっ……けど、しかたねぇか……)
「じゃあまず、さつまいもを輪切りにしていくからな」
『気をつけて』

 カンペの指示に従いながら、未散は調理を進めていく。
 離れて見る分には、可愛らしいメイド服姿のアイドルが料理をしている図。
 だが近づくと、特に手元がとてつもなく危なっかしくて怪しい。
 心配になり、ハルも思わずカンペで注意を促した。
 その後もポーズや表情の注文が続き、だんだんと未散が不機嫌になっていく。
 空気まで、少しどんよりしてきたような。。。

「さ、あとは盛り付けだ。
 器にご飯をよそって、カレーを……これ誰が食べるんだ……」
『カメラに向かって完成コール!』
「ぁ……『みちるの秋野菜☆カレー』、できあがりだ!」
「……はい、オッケーでございます!
 お疲れさまでした」
「なぁ……」
「はい?」
「これ、本気で誰が食べるんだ?」
「審査員の方々に……」
「いや、無理だろ、これ」
「あ、あははは……」
(どうしましょう……正直な感想を申し上げた方が、未散くんの今後のためにも……?
 いやでも傷つけてしまったら……)
「やっぱり、私には料理なんて無理だったんだ……。
 せっかく張り切ってくれて、いい材料も買ってきてくれたのに、ごめんね」
「でっでは、わたくしが味見をしてみましょう。
 それからのち、審査員の皆様にお出しするとよいのではないかと思います。
 いただきます……」

 できあがったそれは、ある種の現代アートのよう……見た目残念なお料理になってしまった。
 未散の美的センスで、盛り方はとても美しい。
 しかし、なんだかよくわからないゲテモノには変わりないわけで。。。
 城下の高級青果店で購入した最高級のお野菜達が、まったく活かされていない。
 だがハルは、しゅんとする未散にときめいたり。
 愛の力か……1滴残らず、カレーもどきをたいらげてみせた。

「2組目はこちらのお4名でござる」
「ほぼ下ごしらえは完了していると見た!
 かきょうへ入る前に、料理名と意気込みを教えてくれ!」
「おぅよ!
 料理名は『熱血マグマ豚汁おでん』だ!
 なんでかっつーと、俺が最近、豚汁とおでんにはまってるから。
 手軽につくれるし、和食だし、葦原明倫館にはお似合いだと思わねぇ?
 思うだろ?
 こう見えても、俺はかつて無差別料理コンテストで4位をとった男だ!
 料理好きとしては、必ずチャンスをものにして、食券10枚ゲットしてやるぜ!
 っと、マグマは一切入ってねぇから、安心しな!」
「みっ、みなさんも一言ずつどうぞでござるよ……」
「料理大会とくれば、お姉さんの出番よね!」
「わたくし、今回もがんばりますわ!」
「あ、久しぶりの料理大会で、ドキドキしています!
 全力を尽くしますね!」

 佐保と匡壱の問いかけを受け、健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)の言葉に熱がこもる。
 文栄 瑠奈(ふみえ・るな)セレア・ファリンクス(せれあ・ふぁりんくす)天鐘 咲夜(あまがね・さきや)もかと思いきや。。。
 ちゃんと一言二言で終わって、なんだかほっとしてしまった。

「ちなみに、下処理方法なんかを紹介してほしいでござるよ」
「なんか工夫とかあれば、それもぜひ!」
「俺は、豚肉を切るのに、この『ヒートマチェット』を使ったぜ!
 切るのと同時に加熱できるし、まさに一石二鳥だろ!?」
「私は野菜のカット担当です。
 大量でしたので、【チェインスマイト】でぱっぱと切っちゃいました!
 大根は皮を剥いて、3mm厚さのいちょう切り。
 にんじんは皮つきのままで、3mm厚さの半月切りに。
 れんこんは、皮付きのまま5mmの厚さのいちょう切りですね。
 豆腐は食べやすい大きさで大丈夫です」
「しらたきはある程度の長さにカット。
 こんにゃくも適当な大きさで、形は三角になるように切りました。
 工夫としましては、味のしみにくい材料に隠し包丁を入れてありますわ。
 大根やこんにゃくなど……ほら、このように……」
「材料はいま出たもののほかに、おでんのだしに昆布と鰹節、豚汁用のおみそ、隠し味のマトを使うのよ。
 すべて、城下のスーパーで購入いたしましたの」

 勇刃、咲夜、セレア、瑠奈の順に、ここまでの過程を説明する。
 器具やアビリティなども駆使しつつ、方々に工夫が散りばめられているのが素晴らしい。

「あとは頼みますね、セレアさん、瑠奈さん!」
「ここからわたくしが、これらの材料をおでんにしていきますわ。
 大きな鍋で、汁はたっぷり、ゆったりと。
 煮えにくい、味の染み込みにくいものから順番に入れますの。
 弱火でじっくり煮て、だし汁が濁りましたらできあがりですわ!
 煮すぎは禁物ですのよ?
 はい、瑠奈様、どうぞ!」
「勇刃くんと咲夜ちゃんが切ってくれた食材、そしてセレアちゃんがつくってくれたおでん。
 最後の煮込みはお姉さんに任せてね!
 豚汁のだし汁を入れて火にかけ、沸騰したら豚肉を入れるわ。
 アクをすくいとりながら、2、3分ぐらい煮込むの。
 そのあとお野菜とお豆腐を全部入れて、野菜が柔らかくなるまで10分ほど。
 このとき、沸騰したら弱火に落とすのがポイントかしら。
 最後はみそを入れて溶かして……軽く混ぜたらできあがり!
 さ〜て、一体どんな味なのかしらね?
 楽しみだわ〜」
「おでんの具入り豚汁って、なかなか面白いと思うんだ。
 早く食べたいぜ。
 な、咲夜、瑠奈姉、セレア!?」

 咲夜からのパスを受け、セレアがおでんをつくる。
 そしてこのおでんを、瑠奈が豚汁風に加工。
 食欲を誘う香りが、勇刃のお腹の音を鳴らした。

「さて、3組目のペアも完成したようだな」
「いまさらですまぬが、料理名と意気込みを教えてほしいでござる」
「はい、素早くつくれるような料理が理想的だろうと思いましたので、『とんかつ定食』にしました。
 俺達は、魔乳の秘密を解き明かすために、いまこの場に立っているのです」
「どういう意味でござるか?」
「ふっふっふ……このとんかつ定食の売りは、材料の入手先です!
 ハイナ奉行の専属コックに【根回し】をして、レシピを訊き出してきました。
 ちなみに、料理の材料もすべてその方から融通していただいたものです。
 なんと、三大魔乳と噂されるハイナ奉行の家から産地直送……」
「なんでありんすとっ!?」
「つまり、一度の食事をそのまま再現したわけで……あの魔乳の秘密がここにあるのです!
  まぁ、脂肪の塊のどこがいいのか知りませんけどね!」
「牙竜はちぃぱい派だもんね〜。
 あっ、買いとった食材の代わりは、ハイナ奉行のツケで補充しておいたんだよ!
 夜食の心配はしなくていいからね!」
「ふっ、ふさひめぇ〜」
「なんですか、ハイナ?」
「妾の食事がバレたでありんすよ〜」
「よいのではございませんか?
 情報公開は奉行としての務めだと思いますわ」
「そうかのぅ……」

 挑戦状をたたきつけるかのごとく、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が宣言する。
 リリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)も、けらけらと笑みをこぼした。
 それもそのはず。
 房姫は、このことを知っていたのだから。
 牙竜にウインクをして、リリィにも……と思ったが笑い転げているので諦めて。
 ハイナだけが、なんだか呆然としていた。

「料理としては、なんの変哲もないとんかつ定食でござるな。
 とんかつにキャベツの千切りを添えたものと、ご飯と味噌汁。
 やはり材料がいいのでござろうか……」
「佐保、気になるのか?」
「えっ、まぁ……大きいに越したことはないでござるからな。
 じろじろ見るなでござるっ!」
「ぁいたっ!?」
「材料は、豚ロース、衣用の粉とか卵、胡麻、キャベツです。
 ご飯と味噌汁は、まぁ適当に」
「なんだろうね。
 ソースに入っている胡麻がポイントなのかなぁ」

 佐保と匡壱の会話に、リリィだけでなく牙竜も大笑い。
 気をとりなおして。。。

「あのね、お野菜はあたしが切ったのよ!
 まず、丸太を中華のまな板のように削るでしょ。
 このとき、真ん中に、槍の先端のように鋭く削った棒を残すようにしてね。
 それで、この棒に食材を……今日はキャベツを丸ごと1つ刺すの。
 あとは『血煙爪』のエンジンに火を灯して、狂ったような笑い声をあげながら一気に切り刻むだけ。
 どうやったのか、ちょっと見せてあげるね……」
「ぉい、やめと……」
「キャハハハ……キルキルキル……キャハハハ……魔乳は滅びろ……キュルキュルキュル……ヒャハハハ……」
「あぁ……だからやめときなさいって言おうとしたのに……」
「はい、できあがり♪
 血煙爪マスターとして、繊維を潰さず綺麗に切ったよ!
 ……あれ?」
「リリィがあまりにも怖いから、みんな離れてしまいました。
 あなた、これまで包丁を持ったことありませんでしたよね?
 なにで切るつもりかと心配した矢先に、これですよ。
 周囲の方々にまで恐怖体験させないでください」
「ふぁ〜い、ごめんなさい。
 けどやっぱり血煙爪ってすごい!」

 牙竜に軽くお説教されて、しゅんとうなだれてしまう。
 ただ切り替わりが早く、次の瞬間にはいつものリリィに戻っていた。

「さてそれでは、お料理が出そろったのでござるよ」
「試食タイムと洒落こもうか!?」
「ちょっと待って!
 あたしにも、試食やらせてちょうだい!」
「食堂であれだけ食べてきたあとなのに、よく食べられますね。
 そのうち太りますよ?」
「だ〜いじょ〜ぶよ。
 どうせ教導団の厳しい訓練で、今日食べた分のカロリーは消費されるって。
 だから無問題♪
 ん〜っ、秋はなにを食べてもおいしいよね☆」
「やれやれ。
 確かにそれは事実だけど、食べすぎはよくありませんよ」
(しかもよく考えたら、自分たちは他校生のはず……いいのかしら)

 佐保と匡壱に続いて喋ったのは、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)とともに押しかけてきた、審査員希望者である。
 今回は前例があったため、ハイナにもすんなりと認められた。

「よかったわね、たくさん食べられるわよ」
「えぇ、嬉しいわ」
「けど、セレンフィリティがお料理をつくる側で参加したいと言い出したときは、正直どうなることかと思ったわ。
 思いとどまってくれて、本当によかった」
「あっはははは……そ、よね。
 自分がお料理できないことは、前の大会で身にしみて分かったもの。
 同じ轍は踏まないわ」
「それでこそ、私のセレンフィリティね。
 楽しそうなセレンフィリティを見ていると、私も幸せになれるの。
 私も嬉しいし、心が癒されるわ」
「セレアナ……ありがとう。
 しっかりコメントさせてもらうわ。
 みんなのお料理の腕を上げるお手伝いができれば言うことなしよ!
 それじゃ、あたし達もはりきって審査させていただきますか!」

 セレンフィリティ、もともと料理はさっぱりできない。
 レトルト食品ですら、なにを間違ったか、人外魔境の食べ物と化してしまうほど。
 ゆえに、セレアナの言葉は心の底からの安心表現だったに違いない。 
 2人も加わり、涙あり、笑顔ありの、充実した審査会となったのであった。