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学園祭に火をつけろ!

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学園祭に火をつけろ! 学園祭に火をつけろ!

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 そのウォウルは、調理場が空くまでの間、更には祥子が来るまでのあいだ、フロアにいる。
「ようこそ、スカイホリディへ」
 何処か含みのある彼の言葉の前に、一人の客が呆れた様な、面白い物を見たような、やはり含みのある笑顔を浮かべる。
漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)を見に纏った中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)。彼女はウォウルに案内されたせきにすわり、彼から手渡されたメニューを受けと取ると、言葉を放った。
「ねぇ、ウォウル様? 確かに貴方様は愉快な、非常に興味深い方ですわ。ですが事ある毎に私を呼ぶ必要はないのではありませんこと? 生憎私、そこでは暇ではありませんわよ?」
「これは参りましたねぇ……しかしお付き合い頂けているのは光栄ですよ、綾瀬さん」
 やや歪に見える挨拶も、彼女、彼にしては極々丁寧な、極々親切なやり取りであることに、互いが互いに理解出来ているが故のやり取り。
「お紅茶、いただけますかしら?」
「銘柄は何を?」
「貴方様にお任せ、しますわ」
「えぇ、承知しました」
 そこで一同、二人の会話は終了する。奥へと消えていくウォウルと、今までのやり取りがなかったかの様に、ただただそこに座り、静かに店内の様子を伺っている綾瀬。
「本当に、面白いお方」
 そう呟いた彼女は、再び沈黙し頼んだ紅茶をただただ待っている。暫くすれば、コタローが奥から現れ、綾瀬がたった今頼んだ紅茶を持ってきた。
「あら、あの蛙さんは確か……」
 それに気付いた綾瀬はコタローの方を向く。彼女の元へとやって来たコタローは懸命に背伸びをしながら紅茶を綾瀬の前へと置いた。
「おまちろしゃま、れす。こーちゃ……うっと、なんとか、て、うー、こーちゃれす」
「ありがとうございますわ」
 コタローの頭に手を置き、にっこりと口元を緩めた綾瀬は、そう言うと早速紅茶の入ったカップを手に取った。
「あら、何だかとても――良い香り、ですわ」
 一口飲み、ソーサーの上にカップを置いた彼女は、暫く動きを止めると、再びくすりと笑みを溢した。
 暫くの間、ただただ紅茶と雰囲気を楽しんでいた綾瀬だったが、どうやらそれも飽きたのか、彼女は懐からタロットカードを取り出し、机の上にそれを並べ始めた。何を占っているかは、当然綾瀬本人にしかわかるはずもない。と、そこで――昼時になる前に店を出た託がやって来る。
「ちょっと休憩にまた来たよーって、ウォウルさん。戻ってたんだ」
「えぇ、先程戻って来ましてねぇ。おや? その口調からすると……」
「さっき来たんだ。ほら、顔見せようと思ってねぇ。でもウォウルさんたちいないからさ、ちょっと回ってきてたんだ。うん」
「そうでしたか、まぁ、ごゆっくりしていってください。僕はそろそろ調理場に行きますけどねぇ」
「そっかぁ」
 会話をしながらウォウルにコーヒーを頼んだ託が、そこで綾瀬を発見する。何やら面白そうな表情で彼女の座る席へ向かうと、声をかけた。
「えっと……綾瀬さん、だったっけねぇ」
「えぇ。貴方様は確か、永井様。永井 託様、でしたわね」
 いきなりの託の言葉に対しても別段驚いた様子もなく、綾瀬は淡々とカードを机に並べ続ける。
「うん、そうだよ。へぇ、占い、出来るのかな?」
「趣味程度、ですけれど」
「良かったら占ってくれないかなぁ」
 ふと、綾瀬が手を止めると自分の前、空いている席へ託を促した。
「先に申しておきますが、これはあくまでも趣味の領分ですわ。それに、占いは所詮は占い。当たるも八卦当たらぬも八卦――」
 良いながら、広げていたカードを一枚ずつ回収し始める。
「指針にはなれど運命その物ではなく、標にはなれど道に非ず――です事を努々お忘れなく」
「うん? えっと………」
 要領を得ないと言った様子で首を傾げる彼に、笑顔を浮かべる綾瀬。
「要は『信じすぎないでくださいませ』と申しただけですわ」
「成る程ねぇ」
「それで――何を占いに?」
「うーん……そうだね、今日一日、って言っても後半分しか無いんだけどねぇ」
「承知しました」
 うっすらと笑顔を浮かべる綾瀬は、テーブルにタロットの山を置き、それをバラバラと混ぜ始める。
「へぇ、ただ並べるだけじゃないんだねぇ、てっきりトランプと同じ感じかと思ったけど」
「確かにトランプの元にはなっていますが、タロットには正位置と逆位置での意味合いがありますわ。全てが同じ向きだと正確な意味が変わりますの」
「だから一回、そうやってバラバラに混ぜるんだねぇ……面白いんだねぇ」
 随分と疎らになっていた店内に響く二人の会話。休憩を取っていた一同や、他の客たちも興味を持ち始めたのか綾瀬と託の回りに集まり始めた。
「さて、では簡単に占って見ましょう」
 そう言うと、彼女はカードを三枚、託の前に並べる。
「このやり方は私の独自の占い方ですが、直感的には結構当たりますのよ。託様、この三枚が今日一日の貴方様のキーカードですわ。まず一枚、朝から今までの事を考えて貴方の左側へと手繰って下さいませんか?」
「朝から今まで………ねぇ。こう、かな」
 言われた通りにカードを一枚選び、裏のままに自分の左側へと手繰り寄せる。
「次に、今の事を思いながらもう一枚。それを一枚目の右隣、貴方様の中心へと」
「今………今、ねぇ。うん、こんな感じ」
 良いながら、彼は最後の一枚を手繰り寄せようとして綾瀬に止められた。
「確かに残りのカード、貴方様のお考えの通りの場所には置きますが、午後への希望を考えながらお引きください」
「あ、そっか。ごめんねぇ」
 苦笑しながら綾瀬に言われたように、午後、どうしたいかを考えながら最後の一枚を二枚目の更に右、一番右側へと手繰った。
「それでは先ずは左の一枚を捲って見てくださいませ」
「うん。…………これは?」
「『太陽』の正位置……ですか。此処に来る前、朝から今に至るまでに素敵な出会いがあったようですわね」
「……………確かに、あったねぇ」
「あとは……強いてあげれば仲のよい人に悪戯、などはしていません?」
「………………………えっとぉ、次に行きたいなぁ……あはは」
 託の苦笑に首を傾げながら、しかし綾瀬は二枚目のカードを捲るよう、彼に促す。
「『運命の輪』の逆位置……成る程」
 託がカードを捲るや、綾瀬がクスクスと笑い始めた。
「託様、それほど後悔なさらずに。これはあくまでも占い、ですから」
「へっ!? うん、えっとぉ…うん」
 彼女はやや混乱気味の託を気にする様子もなく、託に最後の一枚を促した。
「……良かったですわね、『節制』の正位置。きっと何か、これからやろうと考えているのでしたら良いことがあると思いますわ」
「そう…なのかねぇ?」
「えぇ、上手く噛み合う、という感じが一番しっくり来ますわね」
 全てを占い終わると、いつの間にか託の後ろに列の様な物が出来ているではないか。
「わぁ…何か知らない間に行列が。でもまぁ、面白かったし、綾瀬さん、ありがとうねぇ」
「えぇ、ってあら? 何故だか人が沢山……」
 その列は、今の今まで綾瀬が託を占っていたのを見ていた客である。面白そう、という事で、どんどん客足が延びていた訳であり、ただただそれを呆然と見守るのはミリーネとコタロー。
「なぁ、コタロー殿。占いとは――恐ろしい物だとは思わないか?」
「う……おもう、れす………」
 勿論、それがきっかけで再び集客率が上がったのは、言うまでもない。