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第四章:これで元通りのアゾートちゃんだね

 それぞれの『敵』を倒した学生たちは、戦いが終わってしばらくした後、不思議な光に包まれた。そして、気がつけば、巨大な書庫を思わせる部屋に立っていることに気付く。どうやら、戦いを終えた後でこの部屋に転送されたらしい。
「ご苦労。見事な戦いぶりであった。我は汝等を称賛しようぞ」
 学生たちが集まったのを見計らうように書庫の奥から声が響き、それとともに書庫に足音が反響する。声と足音のした方向を学生たちが一斉に見ると、その先に立っていたのは一人の魔法使いだった。
「ほな、魔法使いはん。なしてこんなことしよったんや?」
 泰輔はかねてからの疑問を魔法使いにぶつける。
「よかろう。汝等は我の課した試練を乗り越えた。聞く権利も、知る権利も十二分にある」
 そう前置きすると、魔法使いは静かに語り始めた。
「我、そして我と試練となる者たち、そして我等のいるこの世界――即ち、この『本』はかつて、魔法を修める者たちの学び舎……イルミンスールと称される学舎に属する、一人の学究の徒によって書かれたものだ」
「学究の徒……? なによそれ?」
 話を聞いていた学生の一人であるセレンフィリティは思わず呟いた。
「今の言葉で言えば、『学生』という意味よ」
 すかさず隣に立つセレアナが小声で補足する。
「あ、そうなのね。ありがと」
 同じく小声で礼を言うと、セレンフィリティは再び魔法使いの言葉に耳を傾ける。
「その学究の徒はこの『本』を記し、著す際にとても強い思い――愛着をこの『本』に抱き続けた。そして、そのあまりにも強い思いがこもったこの『本』はいつしか不可思議の力を内包するに至ったのだ」
 そこまで語り終えると、魔法使いは一旦言葉を切った。そして、ほどなくして語りを再開する。だが、その瞳はどこか哀しみに揺れているようだった。
「だが、その学究の徒はいつしか学問を修め、その学舎より巣立っていった。そして、後には持ち主と離れ離れになったこの『本』が残り、この『本』もやがてはイルミンスールの有する蔵書の中に埋もれていったのだ」
 学生たちがじょじょに事情を理解していくのを感じながら、魔法使いはなおも語り続ける。
「この『本』を著した学究の徒が去ってからも、この『本』はこれを偶然にも見つけた学究の徒を中へと引き込むという事件を起こしていたが、結局、我の課す試練を乗り越える者は現れなんだ」
 そこまで語ると、魔法使いは柔らかな微笑みを浮かべ、学生たちへと告げる。
「だが、ようやく汝等が我の課した試練を乗り越えてくれた。おかげでもう、思い残すことはない。長かったが、我と、『試練』として我に仕える者たち、そして、この『本』自身はようやく役目を果たしたのだ――」
 そして、魔法使いは満面の笑みを浮かべると、姿が消えゆく中で学生たちに最後の一言を告げた。
「最後にこんなにも大勢の『読み手』と関わることができて、なかなかに楽しかった。感謝する――礼を申すぞ」
 その言葉を言い終えた時には、もう魔法使いの姿はどこにもなかった。そして、次の瞬間。周囲の光景が一瞬にして白一色の光へと変わっていく。
 白一色の世界に立っていることを学生たちが自覚したのは一瞬。気付けばもうその時には、学生たちは見慣れたイルミンスールの図書館に戻っていた。
 こうして、本に宿っていた念は昇天し、引き込まれていた人間は全員外へと出ることに成功したのだった。
「なるほど。そういう目的だったとはね。これでようやく、胸のつかえがとれたよ」
 相変わらずニコニコした目でノグリエは呟く。ずっと引っ掛かっていた疑問が氷解し、心なしかいつもの彼よりも一層ニコニコしているようにも見える。
「アッシュちゃん、アッシュちゃん」
 何かに気付いた様子で歩夢はアッシュへと話しかける。そして、何かを受け取った歩夢はアゾートへと歩み寄ると、アッシュから受け取ったものを差し出した。
アッシュから受け取ったもの――『本』に引き込まれた時に外れたアゾートの首飾りをつけてやりながら、歩夢は満面の笑みで言った。
「これで元通りのアゾートちゃんだね」
 無事に全員が生還し、安堵感に包まれるイルミンスールの図書館は、図書館らしからぬ喧騒に包まれる。その喧騒の中で終夏は一人で小さく呟く。その声はあまりにも小さく、喧騒の中ではかき消されてしまう。
「もし寂しかっただけなら、こんな風に強引に呼びこまなくても、一緒に遊ぼうって言ってくれたら良いのにね。私は大歓迎なんだけどなぁ」
 されど、終夏はその呟きが、もうここにはいない相手へと届いている気がして、優しく微笑んだのだった。

 なくしたものはページの先に 完

担当マスターより

▼担当マスター

影山リョウガ

▼マスターコメント

 こんにちは。お初にお目にかかります。ゲームマスターの影山リョウガと申します。
 今回は、蒼空のフロンティアにおける私の初シナリオにご参加いただき、誠にありがとうございました。
 さて、今回のシナリオはお楽しみいただけましたでしょうか? もし、そうならば幸いです。
 これからも、皆様にお楽しみいただけますよう鋭意努力し、精力的に活動していきます所存ですので、これから影山リョウガを一つどうぞよろしくお願い致します。

 影山リョウガ