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闇鍋しよーぜ!

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●山散策

 辺りを歩くと、毬栗が落ちている。
 そんな栗の毬を剥いで籠に入れている、レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)
「こんなもんですかねぇ?」
 籠に大分入った栗を見ながら、レティシアはミスティに話しかけた。
「これくらいで大丈夫でしょう。他にもいろいろと取ってきている人はいるでしょうし」
 ミスティはうんと一つ頷いた。
「もし栗がいっぱい余ったら、栗ご飯にするのもいいかもしれませんね。どう思いますレティ?」
「そうですねぇ。ちょっと戻ってから相談してみましょうかねぇ」
 ミスティの話を聞きながら、レティシアは元来た道を戻る。
「鍋に入れても、茹でて頂いても美味しいですいねぇ。万能ですねぇ……栗」
 しみじみと秋の味覚の有能さに感心するのだった。

     †――†

 訓練である以上手を抜くわけには行かない。
 そんな思いと共に、クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)は、のどかな秋の山から見える景色に見とれそうになる自分を心中で叱咤しながら、食材になりそうなものを探していた。
 逆にパートナーである三田麗子(みた・れいこ)は、色んなところをきょろきょろと見回している。
「麗子、君はちゃんとやっているのかい?」
 クレーメックは麗子に尋ねた。
「やってるやってる。ちゃんと辺りも見回さないと、どこに何があるかわからないでしょ?」
「……確かにそうだな」
 そんな麗子は辺りを見回しながら、次々に食材を籠の中に放り込んでいく。
「このキノコ、食用だっけ……? ま、いーか」
「待て待て……それは図鑑にも載っていたが、毒キノコだ。他の人が取っても問題があるから、私が持っておくよ。気をつけないとダメだぞ」
 クレーメックは冗談めかして麗子に言う。
 そんな麗子も手抜きについて言及されなかったことに安堵してほっと胸をなでおろした。
「ジーベックは真面目ね……」
「訓練だからな。訓練といえど、これは任務の一環でもある。全力で当たらねばなるまい」
 淡々とクレーメックは言う。
「でも、食材採取量は私の方が多いわね」
 クレーメックに籠の中身を見せながら、麗子は自慢げに言った。
 そしてクレーメックは改めて自分の籠の中身を見る。
 最低限食べられる量しか入っていなかった。
 麗子の自慢に反論できる材料がなくて、クレーメックはぐっと言葉に詰まってしまう。
「ぐぬぬ……」
「まーまー、さっきみたいに食べれそうにないもの見つけてくれればいいからさ!」
 あははと笑いながら、麗子はクレーメックの肩を叩いたのだった。

     †――†

「マツタケはどこだっ!」
 血眼になりながらパラミタマツタケを探す、ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)
 彼は毎年この祭りに参加しているのだが、一回もパラミタマツタケをゲットできたためしが無い。
「今年こそは……今年こそはぁ!」
 と意気込んでいる。
 茂みを掻き分け、木の根元を探し、キノコの群生地まで覗く。
 しかし見つからない。
 そんな様子を式神を通してみていた天津麻衣(あまつ・まい)は最初こそ一緒に探していたが、途中からは、
『あ、美味しそう……』
 木にたわわに実っている果物を目にしてからは、ケーニッヒの手伝いを無視して、果物集めに没頭している。
 ブドウから始まり、梨にリンゴ、ラズベリーなど。
 様々な木の実を式神に持ってこさせてはつまみ食いをして、美味しい美味しいと言っている。
 勿論ケーニッヒが食べる分も残している。
 ただしこのことをケーニッヒに知らせれば、麻衣は怒られるだろうと考えていた。その上で、ケーニッヒのマツタケ探しには適当に付き合うのだった。


「そちらは危ないですよ」
 わき目も振らず一心不乱にマツタケを探すケーニッヒに叶白竜(よう・ぱいろん)は注意した。
「分かっている! うおおおお、マツタケはどこだああああ!」
「大丈夫でしょうか……」
 白竜の注意に答えただけ、心にとどめておいてくれればと思う。
「鍋、鍋か……。基本はキノコにしても、それは他の人も見つけるだろう」
 一人、山の中を歩き回りながら白竜は考える。
 秋の山で取れるものは大量にある。その中で鍋に入れるもの限定で考えると、大分絞られる。
 白竜は普段どおりのクールな装いだが、その足取りは山の中といえど軽く、周りを危なっかしそうに歩いている人を見れば助言をしてしまうくらいだ。
 山岳部を作るくらいに山歩きの好きな白竜は、すでにこの山のことを熟知している。
 どこに何が生育しており、どこへ向かえば危険地域で、どこまで歩けば風景の綺麗なところに出るか、など白竜に聞けば分からないことは余りないだろう。
「うむ、これだけあれば良さそうだな」
 大量の菜もの――ツルムラサキやクウシンサイなどを手にまだ進む。
「少しばかり歩いて回ろうか」
 そんなことを呟きながら、白竜は山の中を歩き回った。草木を痛めないように山に住む動物たちを不要に驚かさないように。
「ぜっ……はあっ……、ま、マツタケはどこだ……」
『ケーニッヒ、早く帰ってきなさいよ』
 息をせききらせて山の頂上から呟くケーニッヒに麻衣は言った。
「……おや、また会いましたね。多分マツタケはもう見つからないと思いますよ。早く戻らないと間に合いませんよ」
 丁度頂上まで登って来ていた白竜はケーニッヒに事実を突きつける。
「なん……だと……」
 悔しげに膝をつくケーニッヒ。今年もパラミタマツタケはゲットできなかった。

 ――そう、世界の意思は覆らなかったのだ。

 そして、ケーニッヒと白竜。二人は山の中を歩き回りすぎたせいで帰ってくるのが少しばかり遅くなってしまったのだった。