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第四章 ストアハウス・ファッションショー 2

「あ、ジョージアさんこっちこっち!」
 倉庫内を巡回中のジョージアを、リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)が呼び止めた。
「どうかしましたか?」
 尋ねるジョージアに、リアトリスと、ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)がこう答える。
「せっかくだから、ジョージアさんにもっと服を選んでもらいたくて」
「うんうん、ミーナも可愛いお洋服ならいろいろ着てみたいのです!」
「そうですか。それでは」
 幸い倉庫内もだいぶ落ち着いてきており、ジョージアがずっと巡回している必要もない。
 ジョージアは嬉しそうに笑うと、二人に似合いそうな服を選び始めた。

 着られないまま捨てられる服があるかもしれない、というのが不安なら。
 どんな服だって必要とされているし、どんな服だって人を喜ばせられるということを示してあげれば、少しは不安もなくなるかもしれない。
 そう考えて、リアトリスはジョージアを呼んだのである。
 どんな服が来ても着てあげよう、と思って。

「わ〜! ミーナこのお洋服好きなのです!」
 フリルのたくさんついたワンピースを着て、ミーナが嬉しそうにくるりとその場で一回転する。
「これはダンスの衣装だね。なんだか少し踊りたくなってきたかな」
 そう言って、軽くフラメンコを踊ってみせるリアトリス。
 そんな二人の様子に、自然と回りには笑顔があふれていった。
 
「ねえ二人とも、次はこれなんかどうかな?」
 そう言いながらやってきたのは、大量のメイド服を抱えてきたユーリ・ユリン(ゆーり・ゆりん)である。
 彼はしばらくの間いろんな種類のメイド服を堪能していたのだが、そのうち自分で着るだけでなく人にも薦めてみようと思い立ち、こうして人が多く集まっていそうなところにやってきたのである。
「はーい! さっそく着てみるのです!」
 機嫌良く受け取るミーナにつられるように、リアトリスも何となく受け取ってしまう。
 ジョージアも機嫌よさそうにしているし、受け取った以上は着てみよう、ということになる。
「うん! 二人ともとってもよく似合ってる!」
 ユーリの選んだメイド服は、確かに二人によく似合っていた。

 こうした状況下において、「人が多い」ということは、それだけで「さらに人を呼ぶ」理由になる。
 一人ファッションショーも悪くないかもしれないが、どうせならみんなでワイワイやりたいものなのだ。
「盛り上がってるねー! あたしも仲間に入れてよ!」
 そう言いながらやってきたステージ衣装のアルカネット・ソラリス(あるかねっと・そらりす)
「紫翠様、私たちも混ぜていただきましょう?」
「はぁ……ええ、もう好きにしてください」
 心底楽しそうな笑顔を浮かべたスーツ姿のレラージュ・サルタガナス(れら・るなす)に、おそらく彼女の手によって着せられたと思われる紫色のミニ丈チャイナ姿の神楽坂 紫翠(かぐらざか・しすい)
「あっ、ジョージアちゃんここにいたんだ!」
 ジョージアの姿を見てぱたぱたと駆け寄ってきたのは、パラ実の旧制服を着た筑摩 彩(ちくま・いろどり)
 こうして人が増えると、ますます服を選ぶ側のモチベーションも上がってくるし、自然と服も集まってくる。

「女物でも紫翠様って、線細いし、美形ですから、何着せても、よく似合いますわ」
 嬉しそうに紫翠に着せる服を選んでいるレラージュは、当然のように女物「しか」選んでいない。
「ねえ、この衣装はどうかな?」
 歌姫志望のアルカネットが選ぶのは、アイドル風のステージ衣装系が大半だ。
「一気に需要がなくなったから、各学校の旧制服は余っちゃいそうだよね。ファッション的に言うと、制服ってだいたいみんなデザインは洗練されてると思うんだけど」
 すでに自分では一通り試着し終わった彩は、他の面々にも制服を勧めている。

 と、そうしていろいろと着替えていると。
「あらあら、皆様とても素敵ですわ〜。
 これはバッチリ記録しないわけにはいきませんわね!」
 そう言いながら、カメラとビデオカメラを構えたミナ・エロマ(みな・えろま)が紛れ込んできた。
「……ってミナ! 何やってんだ、勝手に撮るな!」
 それから少し遅れて、ナース服姿の泉 椿(いずみ・つばき)が追いかけてくる。
 ところが、ここには約一名を除いて、特に撮られたくないと思うような者はいなかったのである。
「ん? ミーナならいっぱい撮ってもらっていいのです。でもかわいく撮ってほしいのです!」
「アイドルたるもの、カメラアピールもそれなりにできないとね!」
 カメラを構えるミナに、自分からアピールするミーナとアルカネット。
 他の面々も、自分からアピールこそしないものの、ほとんどがカメラを向けられると笑顔で応対している。
「ええと……さすがに、これは、恥ずかしいのですが……」
 唯一少し困った様子を見せるのは、いつの間にか紅い和風のゴスロリに着替えさせられた上、すっかり薄化粧までされてしまった紫翠だったが、そんな弱々しい拒絶が通じるはずもない。
 それどころか、逆にレラージュがこっそり焚き付ける始末である。
「どんどん撮ってくださって構いませんわ。その代わり、後で焼き増しをお願いしますわね?」
「承りましたわ〜♪」

 ともあれ、そんな様子にすっかり気勢をそがれてしまった椿。
 やれやれとばかりに一度ため息をついて、何気なく辺りを見回す。
(しかしいっぱいあるな……ステージ衣装にメイド服に旧制服。パラ実のセーラー服まであるし……え?)
 あまりに普通に置かれていたせいで危うくスルーしかけ、ついつい二度見する。
「パラ実のセーラー服!?」
「え? うん。さっき見つけてきたんだ」
 にこりと笑う彩に、椿も満面の笑みで答える。
「そうか、やっぱりあったのか! パラ実のセーラー服はレアだから、コスプレだけでもしてみたいと思ってたんだが……」
「うんうん、わかるわかる! ほとんど誰もまともに着てないから、きっとレアだよね」
 パラ実セーラー服の話題でいきなり意気投合する二人。
 となれば、あとは椿のやることは一つしかない。
「サイズは……っと、あった。なあ、これ着てみてもいいかな?」
 彩やジョージアはもちろん、誰も反対する者などいるはずもなく。
 椿は大喜びで簡易更衣室へと入ったのだが……。

 ……この隙を、ミナが見逃すはずがない。
「ところで皆様、次はこんな衣装はいかがかしら?」
 椿の目がなくなったのをいいことに、いきなりセクシーな衣装をみんなに押しつけようとするミナ。
「え? こ、これは……」
「一応、これもメイド服だけど……」
「これは……アイドルはアイドルでもグラビア系じゃ……」
「あら? 紫翠様、いかがかしら?」
「い、いえ……さすがにそれは……」
 動揺する一同だが、ジョージアがいることがかえって仇となり、あまり強い拒絶はできない。
「最初はみんな恥ずかしがりますけど、慣れれば見られるのが快感になりますのよ☆」
 その容姿に似合わぬ妖艶な笑みを浮かべながら、カメラを構えるミナであった……が。
「ミナ! ちょっと目を離した隙に何やってんだ!」
 突然後ろの更衣室のカーテンが開き、中から着替えの終わった椿が飛び出してきた。
「椿、暴れたらバイト代が弁償に消えますわよ?」
 そう言って牽制しようとするミナであったが、今の椿はその程度では動じない。
「ああ、バイトだから暴れちゃいけねえのはわかってる。でも、お前を縛っておくのは問題ねえよな?」
「……え?」
「つーわけで、とりあえずちょっとお仕置きしてくる」
 それだけ言うと、椿はミナを捕まえたまま去って行った。

 ちなみに、ただ一人全く迷うことも疑うこともなくミナのお勧めのセクシーな水着に着替えてしまったミーナが更衣室から出てきたのは、それからすぐ後のことである。
「あれー? せっかくミーナが着替えてきたのに、ミナさんどこ行ったのですー?」