校長室
衣替えパラノイア
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第五章 想いの行方 とまあ、そんなこんなでいろいろあって。 一段落してジョージアが工場入り口付近に戻ってくると、そこには五月葉 終夏(さつきば・おりが)たちが待っていた。 「どうかしましたか?」 尋ねるジョージアに、終夏はにっこりと笑ってこう言った。 「ねえ、ジョージアも服を着てみない? よかったら、他の警備ロボットたちも一緒に」 「私が、ですか?」 その発想はなかったのか、ジョージアがきょとんとした顔をする。 そこへ、たくさんの服を持った朝野 未沙(あさの・みさ)と、アルジャンヌ・クリスタリア(あるじゃんぬ・くりすたりあ)がやってきた。 「あたしもそれがいいと思うな。だって、この服もジョージアさんたちに着てもらいたがってるもん」 不思議そうな様子のジョージアに、未沙が続ける。 「服にも思いというか、『念』がある……なんてこと、ジョージアさんならわかってるよね? あたしは『サイコメトリ』が使えるから、そんな服の『念』がわかるんだ」 「それで、その服が、私に着てほしい、と?」 「うん。服に限らず、物って思いを馳せてくれる人に対して念がこもっていくからね。ジョージアさんが本当に服を大切に思ってる気持ち、服にもちゃんと通じてるんだよ」 未沙の言葉に、ジョージアが一瞬驚いた表情を見せ、それから嬉しそうに笑う。 「それじゃ、私が選ばせてもらっていいかな? さっきはジョージアに選んでもらっちゃったし」 終夏がそう言うと、ジョージアは嬉しそうに頷いた。 こうして、最寄りの試着スペースが新たな着せ替えパーティの会場となった。 「あんまり似合わないだろうなって思ってたから、こんな機会でもないと着ることもなかったと思うけど……」 「そんなことありません。とてもよく似合っています」 レースがいっぱい使われたかわいらしいワンピースを着て楽しそうに微笑む終夏。 「うん、似合ってる、カッコいいよ!」 「……うん、あ、ありがとな」 なぜか男物の服ばかり着せられてしまい、しかもそれが妙に好評なことに複雑な表情を浮かべるジャンヌ。 機晶姫の中では少女型に近いジョージアはわりといろいろな服を着られるタイプだったため、凛々しいスーツ姿からかわいらしいワンピースに始まり、やがては浴衣やメイド服などにもチャレンジしていく流れになる。 そしてそれはジョージアだけにとどまらず、次第に他の二人にも波及していく。 「あはは、こういう面白い服も結構好きなんだよね……って、アルジャンヌさんどうしたの?」 「どうしたの、じゃない……っていうか、何で今度はいきなりこんな服なんだよ?」 虎猫の着ぐるみを着ておどけてポーズをとる終夏と、その後ろに隠れようとするバニーガール姿のジャンヌ。 「もったいない、そういうのも似合ってるのにー」 「未沙、何言ってんだよっ! こんなの俺には似合わねえって!」 そんなことを続ける横で、終夏とジョージアは近くを通りかかった警備ロボットを呼び寄せては、彼らにも似合う「服」を見繕っていた。 ジョージアと違い、そのまま服を着るにはサイズや構造的にいろいろと支障のあるロボットたちだったが、例えば上着を羽織るだけ羽織ってみるとか、頭にリボンを結んでみるとか、工夫して「何か」を身につけさせていった。 「うん、あの子たちもきっと喜んでるよ。今までジョージアさんとあのロボットたちがどれだけ自分たちを大切にしてくれたか、みんなちゃんと知ってるから」 「そうだよね。それに、服はもともと誰かと寄り添うために生まれてきたんだから」 未沙と終夏の言葉に、ジョージアは何度も頷いたのだった。 そうして、いつしか日もすっかり傾き、仕事もほぼ終わりかけた頃。 「だいぶここにある服も減ったな」 華やかな振袖姿のケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)が―― もちろん、この服装もジョージアが指示したものである――ジョージアに声をかけた。 「はい。みんな大切にしてもらえるといいのですが」 まるで娘を嫁に出す母親のようなことを言うジョージアに、ケイラはこう言った。 「それで……まあ、今はこうしてたまった在庫もなくなったけれど、ひょっとしたら、またいつかたまってしまうかもしれない」 それは、もちろんジョージアもわかっていたのだろう。 「はい」 その時に、また今回のような騒ぎが起きることを、ケイラは危惧していた。 「だから、さ。もし使わない服が増えてしまうようなら、貸衣装にしてみるとか、あるいは気に入った人に買ってもらえるようにするとか、そういう仕組みを作れないだろうか?」 服の行き先を作ることで彼女を安心させたい、というのが理由の一つ。 そしてもう一つは、そうした接客の仕事などをはさんだり、店員を雇ったりすることで、彼女にも友達ができれば、ということである。 「貸衣装や、お店、ですか……」 何事か考え込むジョージアの背中を、終夏が押す。 「そうそう。ねえ、今日一日見回ってみてどう思った?」 「いろんな人が、いろんな服を着て。着た人も、それを見た人も、多くは楽しめていたんじゃないかな?」 さらに、そこに未沙も続いた。 「それに、ジョージアさん自身はどうだった? 服を着てもらうのはもちろん、服を着て楽しんでいる人を見るのも、自分が服を着てみるのも、どっちも楽しかったんじゃない?」 「……そう、ですね」 ジョージアはそう呟くと、一度頷いて、それからケイラたちにこう答えた。 「ありがとうございます。今度、機会があれば相談してみようと思います」 「うん。それだけ服を着てもらえることを喜べて、服のことを真剣に考えられるジョージアさんなら、もしかしたら受け入れてもらえるかもしれない」 ケイラの言葉に、ジョージアは明るく笑う。 その表情に、今朝見たようなピリピリした様子はすでにかけらもなかった。 「ココロのメンテも完了……かな」 そんなジョージアの様子を見て、未沙は小さく笑ったのだった。 ちなみに。 この騒動のあった数ヶ月後に、この倉庫の片隅に小さなアウトレットストアができることになる。 そのお店は、誰よりも服を愛する、しかしちょっと服選びのセンスが微妙な機晶姫の店長とともに、少しずつ話題となっていくのだが……それは、もう少し先のお話である。
▼担当マスター
三刀屋一馬
▼マスターコメント
皆様はじめまして、三刀屋一馬と申します。 この度は私のシナリオにご参加くださいまして、誠にありがとうございました。