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 第1章 いきなりVIP誘拐!?

■□■1■□■ 痴話喧嘩と、イナンナの受難

伝統パビリオンにて。

イナンナ・ワルプルギス(いなんな・わるぷるぎす)の案内をする
エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)は、
性別・年齢・種族問わず、相手を口説くことを日課としている。

「ふふふ、流石イナンナ様。お美しいですね」
「まあ、ありがとう」
イナンナは、微笑で応えた。
「まさに豊穣の女神、となりに居るだけで私の心も豊かになるようです」
「私もご案内いただいてうれしいです。
このような盛大なイベントにお招きいただいたこと、感謝します」
イナンナは、たおやかに会釈して見せた。
カナンの国家神、豊穣と戦の女神らしい、上品な立ち居振る舞いだった。

「こちらこそ、イナンナ様をご案内する光栄、身に余るものです」
エッツェルは、ひょうひょうとした態度で、
そのまま、イナンナのくびれた腰へと手を回そうとしたが。

「えっつぇるー……っ」
そこに、涙目の少女が現れた。
由唯・アザトース(ゆい・あざとーす)だ。

「由唯さん!?」
さしものエッツェルも、びくりとする。
由唯はエッツェルの妻……しかも、二人は、先日、結婚したばかりなのだ。

「これは何なのっ?
浮気なの?
女遊びなの?
私じゃ満足できないのっ!?」
「ご、誤解です。
私はイナンナ様の案内をですね……」
「言い訳なんか聞きたくないっ!」
由唯はエッツェルの両頬をむにいとひっぱった。
なお、こうして涙目になったり言葉責めしているのも、
すべて夫へのお仕置きの一環である。
少しでも罪悪感を持たせようというのが、由唯の策略であった。

「や、やめ、のびてしまいまうっ」
「うるさいっ!
どうせいくらやっても『痛くない』とか言うんでしょ、ばかあっ!」
「あ、あの……」
イナンナが、困惑しつつも、助け舟を出そうとする。
しかし。次の瞬間。

「む? カナンの国家神みたいな人が転がってるぞ。
まあ、本人じゃなくてそっくりさんだろう。

そっくりさんでもなんでも、
カナンの国家神っぽい人のパンツが手に入るならいいや」

「きゃああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

「あ……」
国頭 武尊(くにがみ・たける)により、イナンナがさらわれるのを、
エッツェルが呆然と見送る。
「ちょっと、聞いてるの!?
ちゃんと反省してるの!?」
しかし、由唯はそんな騒ぎにも気づかず、
夫に詰め寄る。

「もちろん、反省していますとも。
由唯さんに心配をかけてしまって申し訳ありません。
私には由唯さんだけですよ」
エッツェルに真顔で見つめられて、
由唯は、掴んでいた襟首を放した。

「つ、次、浮気したら……食べちゃうんだからねっ」
目を逸らして、頬を紅潮させながら言う。
「由唯さんに食べられるというなら、それもうれしいですね」
「ば、馬鹿っ!」

そうしたやりとりをして、仲直りする
エッツェルと由唯だったが。


「だれかあああああああああああああああああああああ」

2人の世界へと没入してしまい、
遠くでイナンナの叫び声が響いていたことには、気づかないのであった。