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【2021ハロウィン】大荒野のハロウィンパレード!

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【2021ハロウィン】大荒野のハロウィンパレード!
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「ってコレ、絶対制服じゃないですよね!?」
 846プロ所属の茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)が用意された衣装を見て一言漏らしたのは、まだハロウィンパレードが始まる前、出番を待っていた時であった。
 流行に乗ったのか、空京たいむちゃんの男性服アレンジに兎耳を付けた伊藤 若冲(いとう・じゃくちゅう)がフッと笑う。
 若冲は画家のセンスを生かしてスタイリストをしていたのだが、周りに可愛い仮装をした女の子達がいっぱいなせいで、仕事にあまり身が入ってない模様である。
「衿栖さん。今までの固定観念をぶち壊すのがアイドルってものでしょう? 少なくともオレはそう思っています」
「……」
「固定概念! あぁ、その忌まわしさにより、今までオレの様な優れた芸術家達の前衛的な取り組みがあっさりと片付けられてきたのです!!」
「……本当のところは?」
 若冲をジト目で見る衿栖。やや不穏な空気を感じたのか、謙虚になる若冲。
「ええ、実は警備会社のスポンサーサイドによる要請なのです。ほら、ハロウィンだし?」
「で、そのスポンサーってどこなんです?」
「えーと、ア……いや違う……セ……」
「まさか……セルシウス?」
「あ、それです!」
 若冲が衿栖に「大正解」とばかりの顔をする。
「全く、セルシウスさん、いつの間にそんな会社を!?」
 呆れる衿栖。頭に浮かぶのはトーガ姿の精悍な金髪男。これまで色々プロデュースしてきたのに付き合ってきたせいか、あっさりと納得する。
 だが、確かに警備会社はエリュシオンの出資は受けているものの、セルシウスは噛んでいない。つまり、若冲のアドリブであった。
「スポンサーの意向では仕方ないですね」
 衿栖が自分の衣装を姿見に映して確認する。
 黒猫を模したフワフワした毛並みで出来ている真っ黒なその衣装は、胸元がはだけ、一部の人間が泣いて喜ぶ絶対領域まで兼ね備え、更に、首元にはピンクの大きなリボンがアクセントとして付いている。当然、猫耳と尻尾も装備済みだ。
 そんな黒猫コスプレに身を包んだ衿栖が、若冲より渡された『一日署長』の襷をかけ、両頬を軽く叩いて気合を入れる。
「さぁアイドルのお仕事開始! ……て、あれ? 未散さん?」
 衿栖が見渡すと、その場から脱兎の如く逃げ出していた若冲をネックハンギングする白猫コスプレ姿の若松 未散(わかまつ・みちる)がいる。
「そりゃあ衿栖と一緒の仕事は楽しいし……アイドルとしても板に付いてきた……ってそれでいいのか、私!? どうしてこうなったッッ!?」
 首を持ち上げられたまま未散に心情を吐露される若冲の顔色が、肌色から赤色、そして青色になっていく。
「未散さん? 若冲さんが本気で死にそうなんですけど……」
 衿栖が止めたため若冲を離し、ハァハァと息を切らす未散。
「第一、猫のおまわりさんってどういうことだよ!? それを言うなら犬のおまわりさんじゃないのか!」
「フッ……未散。今の貴方達はアイドルユニットのツンデレーションなのです。ツンデレと言えば猫と相場が決まっているのです!!」
 蘇生した若冲が未散をビシィと指さす。
「確かさっき、固定観念は捨てろと……」
 衿栖が呟くも、若冲は大袈裟な咳をしてそれを誤魔化す。
「……まあ、衣装は可愛いからいいけど、なんでこんなにスカート短いんだよ!」
 未散が自分の衣装を見る。衿栖とは対照的な白猫のコスプレであり、上下がセパレートになっておヘソが見えている。下はスカートであり、かなりギリギリなミニである。
「未散。折角ユニットを組んでいるんです。同じタイプの衣装を揃えても仕方ないでしょう? 考えても見なさい。漫才だって同じ背広で登場するコンビの時代は終わったのです!」
「……わかったよ。ったく、転ばないように気をつけないと……」
「衿栖、未散、二人とも……準備はいいか?」
 後ろで束ねた金髪を揺らし、スーツで決めたレオン・カシミール(れおん・かしみーる)が二人の元へやって来る。その背後にはTVカメラやガンマイクを持ったスタッフがいる。
 レオンはパラミタのTV局に根回しして、シャンバラ大荒野初のハロウィンパレードの中継を依頼した。勿論、TV局的にもかなりの視聴率が期待できるコンテンツであり、決定は早かった。そして、何より846プロのアイドル・茅野瀬衿栖マネージャーとして、この機会にメディアを通して846プロとツンデレーションの宣伝を出来たらと思っていたのである。
「カメラにはもちろんツンデレーションの2人を追ってもらえるように調整したが、くれぐれも気をつけろ」
「レオン? あなたはTVの人たちと一緒には来ないの?」
 衿栖の問いかけにレオンが頷く。
「私は、今回裏方で動かねばならないんだ。それに、売店担当の朱里からグッズ作成の手伝いを頼まれているので、テクノクラートの技術と知識を使ってこれにも協力しなければならないしな」
「心配だな……」
 未散がそう言うと、レオンが肩をすくめ苦笑する。
「問題ないだろう。二人には頼りになるボディガードとディレクターとADが同行するんだ」
「それって……誰?」
 未散がぼやくと、狼男の仮装をしたハル・オールストローム(はる・おーるすとろーむ)と九尾の狐の仮装をした神楽 統(かぐら・おさむ)が颯爽とやってくる。
「おまえらかい……」
「未散くん。大船に乗ったつもりで安心して下さい。ADとしてこのカンペで完璧にフォローしますよ!」
 パッとスケッチブックのカンペを見せるハル。興奮しているのか、付けた狼男の尻尾と耳がパタパタと動く。
「その船、泥船じゃないだろうな?」
 自信たっぷりのハルに未散が呟く。
「俺がディレクターをするんだ。間違いないぜ」
 統がそう言い、「ハロウィンって合法的に悪戯し放題の日なんだろ?」と付け加える。
「神楽さん……ちゃんとやって下さいね?」
「しかし、スタイリストとマスコットが行方不明になったりと、いきなりトラブル続出とは! 胃が痛いですね……神楽さん?」
 ハルが言うと、統は腕組みしたまま口元に笑みをたたえる。
「なぁに。おまえは俺が事前に用意したそのカンペを捲るだけでいいんだぜ? そう、捲るだけでな……」
 そこに、赤ずきんちゃんのコスプレ姿の茅野瀬 朱里(ちのせ・あかり)がやってくる。
「レオン。そろそろ売店をオープンさせるわよ……あら、カイは?」
「え? 知らないわよ?」
「おかしいわねぇ……獣化して二人のボディガードをお願いしたのに」
 朱里の言葉にレオンの表情がやや引きつるのを衿栖は見逃さなかった。
 そこに、ハルの声が響く。
「はい、カメラ回りまーす!!」
 カメラが回ると、流石はアイドル、手馴れた様子でマイクを持ち、未散は微笑む。
「TVの前のみなさーん、こんばんはー! 今日のハロウィンパレードをお届けする、若松未散と?」
「茅野瀬衿栖です! 二人揃ってぇ……」
「「ツンデレーションです!!」」
 こうして、ハロウィンパレードの中継放送は始まったのであった。


 その頃。
 若冲と共に、パレード会場を獣化した南大路 カイ(みなみおおじ・かい)は歩いていた。
 頭には朱里に被らされた警備員帽がチョコンと載っている。
「若冲。キミを疑いたくはないが、私はこれで良いのであろうか?」
「カイさん……芸術家というのは、その短い生涯に自身も客も満足出来る作品等2つか3つしか生み出せないんです」
「ん? どういうことだ?」
「一つの仕事が終われば次の仕事を考えなきゃいけないんです。それがどんな満足したものでも不満足であってもね……オレのスタイリストとしての仕事は終わりました。次は、ナン……ではなくて絵のモデル探しなんですよ?」
「……成程。だが、私は朱里から、2人はアイドルなんだからボディーガードが必要でしょ?とか、元の姿のままだと目立っちゃうから、獣化してボディーガードしてね?と言われていたのだが……」
「カイさん。このまま誰かの傀儡になってしまっていいんですか!?」
「!!!」
 若冲の熱い言葉で、カイの頭に電撃が走る。
「キミの言う事も一理あるな……」
 カイがそう言った時、「あ、可愛い犬!」とハロウィンパレードを見に来ていた魔女の仮装した女性客が走り寄る。
「ねー、触ってイイ?」
 飼い主と思われた若冲が頷く。
「わー、すっごいモフモフしてるー。可愛いー!」
 カイが若冲を見つめ「嫌がっていいか?」とアイコンタクトを送るも、若冲はそれを否決し、「可愛いお嬢さん?」と、声をかける。
……。
…………。
………………。
 若冲のファーストナンパは失敗に終わった。
 だが、彼はめげない。
「同じ警備員の金元なななさんとか可愛いですよね〜! あのアホ毛とかオレの創作意欲掻き立てまくりですよ! はっ! 隣にカイさん並べたら可愛さ倍増なんじゃ!?」
 そうまくし立てる若冲に、カイが疑惑の眼差しを向ける。
 しかし、やはりカイ目当てにモフモフしにくる女性は多かった。
「ていうか、カイさん今回も女の子ホイホイじゃないですかー! オレもモフモフされたりしてみたいよー!」
 若冲の嫉妬の叫びをカイは黙って聞くのであった。
 この夜、散々若冲のモデル探し……という名のナンパ行脚に散々付き合わされたカイは、生き別れになった妻子の姿を思い浮かべると共に、自身の存在意義を満月を見ながら一晩考えたそうである。


 衿栖と未散は、その後、レポーターの仕事と並行して、パレードの移動車両に乗り込み、観客の前に笑顔で現れていた。
 道中、一日署長の仕事として、警備の人に「頑張って下さいね!」と応援することも忘れていない。
「みんな、可愛いコスプレしてますねー?」
 衿栖が言うと未散も頷き、
「本当。私、こんな賑やかなパレードは初めて!」
 そう言うと、未散達の前にいる統が、しゃがんだハルにカンペを捲るように指示する。
『ボケて!』
「……」
 笑顔のまま、未散が眉をピクリと動かす。
「で、でも……こうやっていると、まるでお化けの国に来たみたいだねー?」
「え? えぇ……そうですね」
 衿栖が突然のフリに戸惑い、前のカンペを見やる。
『突っ込みとして胸をモミモミ』
「……」
 ハルが衿栖の表情を見て、慌てて次のページを捲る。
『視聴者サービスは重要』
 衿栖はフゥと一息つき、
「来てくれた観客のみんなには楽しんでいって欲しいですね!」と、笑顔でスルーをかます。
「……駄目だ」
「は?」
 統が小声で漏らした言葉にハルが振り向く。
「もっと、危機的状況にならないと、俺のカンペは輝かない」