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【2021ハロウィン】大荒野のハロウィンパレード!

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【2021ハロウィン】大荒野のハロウィンパレード!
【2021ハロウィン】大荒野のハロウィンパレード! 【2021ハロウィン】大荒野のハロウィンパレード!

リアクション

「お姉ちゃん!?」
 青いパワードスーツネフィリム三姉妹を纏ったエクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)がセラフの方向を見て叫ぶ。
 巨大昆虫の群れに飲み込まれたらしきセラフに、手に持っていた照明をかざすエクス。
 そんなエクスの行動を緑のパワードスーツを着たディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)が咎める。
「エクス! 交代で照明を点灯、追い詰められないように注意しつつ昆虫を引きつけていくって作戦を忘れたの!?」
「でもでも……お姉ちゃんが!?」
「だから! 巨大昆虫を確認したら照明をつけて自らを囮にして、パレードの外に誘導、安全な距離まできたらあなたのランチャーで撃破て作戦を忘れたの? ……交代よ! そっちの照明を切って!」
「ディミーア、お姉ちゃんが心配じゃないの?」
「セラフ姉さんがあれくらいでやられるわけないわよ!」
 ディミーアが照明をつけて大型昆虫達の前に進み出る。しかし、中々照明の光に誘われてくれず、やむを得ず接近したところをディミーアも虫の足に捕獲されてしまう。
「何でパワードスーツ用の近接武器はないの!? えぇい、離れなさい!」
 投げ矢と格闘で何とか振り払おうとするディミーア。
 それを見ていたエクスが助けようとランチャーを構えるも、
「ここで撃っちゃうと下が……ああもう! 剣とかつけられないのコレ!?」
 葛藤するエクスを見たディミーアが大きく目を見開く。
「エクス!! 後ろ!!」
「え?」
 エクスの目の前に迫る大きな昆虫の顔。
「キャアアアァァァーー!!」
 不幸にも、唯一凶司と通信でき、自らも行動隊長が出来るセラフという司令塔を失ったエクスとディミーアは虫たちに捕縛されてしまうのであった。

「しまった! 間に合わなかったか!?」
 小型飛空艇を飛ばして追いついた淳二が到着すると、エクス、ディミーア、セラフの三姉妹が巨大昆虫の放った粘性を持つ唾液により捕獲されたところであった。
 淳二が妖刀村雨丸を手に持ち、飛びかかろうとすると。
「待て!!」
「え?」
 後方から聞こえた声に振り返ると未散、統、ハルが乗った小型飛空艇で急上昇してくる。
 未散が飛空艇の先端に立ち、風にはためくスカートを片手で抑えながら実況する。
「私は今、ハロウィンパレードの上空に来ています。皆さん。御覧いただけるでしょうか? なんと巨大昆虫達に、妖精さん達が捕まってしまっています!!」
 ハルがカンペを捲る。
「…………!?」
 未散が「マヂで? 神楽さん?」の表情で統を見ると、仁王立ちした統がグッと親指を突き立てる。ハルですら、自分の出したカンペを見て統を振り返っている。
『虎・ブル的な展開をしろ』
 それがカンペに書かれた極上のオーダーである。
『虎・ブル』とは? シャンバラで最もポピュラーな週刊マンガ雑誌。『週刊シャンバラ』に載っている、古くは『電源少女』等から続く所謂お色気担当漫画である。ブルのように熱烈に突進して主人公の少年を狙う活発なヒロインと、虎視眈々と虎の様にチャンスを狙う淑やかなヒロインがドタバタラブコメする内容であり、作者はその過激な表現の限界に挑んだがゆえ、現在は他誌での連載を余儀なくされたものの未だ人気の作品だ。
 要は、未散も三姉妹と同じくネバネバの中に入って組んずほぐれつしろ、という指示である。
「神楽さん。流石に未散くんといえども辛いんじゃ……」
 ハルがそう囁くも、一旦カメラを回すのを止めさせた統は未散をじっと見つめ、
「俺はお前が落語家として一皮剥けるようにわざと無茶振りしてるんだぜ? 言うなればこれは愛の鞭なわけだ。それとも……このままアイドルを続けたいのか?」
「そ、それは……」
 ハッパをかけるため統は敢えて厳しい言葉を投げかける。
「第一、おまえは歌が下手だ」
「!!」
「つっ立っているだけのアイドルなど綺麗な肉の塊に過ぎないぞ!!」
 未散にとっては落語家を目指す切っ掛けを作った憧れの人のムチャぶりな試練に、彼女の負けず嫌いの炎が燃え出す。
「……神楽さん……私は……」
 尚、カメラが止まっていると思われたのだが、スイッチャーのミスによりこの映像はお茶の間に垂れ流しになっていた。地上の中継基地ではグングン上がる視聴率のカウンターをレオンが見て、TVの画面端の文字テロップを『ハロウィンパレード生中継!』から『未散の決断は!?』に変更させていた。


 ツァンダにある自宅のリビングのソファーで淹れたてのコーヒーを飲みながら、ハロウィンパレードをTVで観ていた御神楽 陽太(みかぐら・ようた)は、何か緊迫感のある中継に、ふと「なななちゃん今度はパレードの警備員するの? じゃっ、わたしも付き合うよ! 一緒に頑張ろ?」と言って、元気よく出勤していったパートナーのノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)の事を思い出していた。
 ノーンのバイト先にはいつも客として訪れてみたり、一緒に仕事したりと色々見守ってきた陽太だが、今回はノーンの自主性を尊重して、敢えて現場に様子を見に行ったりはしていなかった。しかし、中継のテレビを観ていれば何処かに彼女の姿が映るのではないか、と思っていた。
「まぁ、TV中継があっても警備員が映る事なんて稀なのかもしれませんが……」
 そう呟く陽太。実際、先程までは華麗なパレードの中継ばかりであり、「ハロウィンパレードが無事に運行されるならノーン達が頑張っている成果だ」と解釈して視聴していたのだが……巨大昆虫の出現には流石の陽太も一抹の不安を感じていた。なお、一緒にTVを観ていた陽太の妻は「飽きた」と言い、パソコンの中の株価情報の海へ飛び込んでいったところである。
「……何か不安になってきました」
 腕組みしたまま唸る陽太。ノーンを心配する心と自主性を尊重する心の間で揺れる。例えるならば、帰りの遅い娘を待つ父親の様な心境であった。
「多少様子を聞くだけなら、良いでしょう」
 自分にそう言い聞かせた陽太は、パンツのポケットから携帯を取り出し、ノーンに電話をかけてみる。
「トゥルルルル……トゥルルルル……ガチャ!」
「もしもし、ノーン?」
「あ、おにーちゃん!! どうしたのー?」
「えっと……警備の仕事は順調ですか?」
 ノーンの声を聞いた途端、陽太は心配していた自分が少し照れくさくなる。
「うん! えーとね、今から頑張ってお仕事するんだー。わっ! 空から見るとパレードが凄くキレイだよ!!」
 ノーンが話す背後で風切り音が聞こえる。
「空にいるんですね……気をつけて下さいね。キマク辺りは何かと物騒ですから……」
「うん! あ、そろそろお仕事に戻らなきゃいけないから切るねー! バイバーイ!!」
 そこでノーンの電話は切れた。
 電話を切った陽太はノーンのいつもながらのフリーダムさと逞しさに感心してしまうと同時に、何かホッとした気持ちになり、笑みを浮かべてコーヒーを一口すする。

…………と。

「あーはっはっはは!! そこのRGB娘達も、何だかピンチなミニスカ白猫も、このスーパー警備員、金元なななが現れたからにはもう安全よ!!」
「あーはっはっはは!! ノーンもいるよーッ!!」
「ブッ!?」
 TVを観ていた陽太が思わずコーヒーを吹き出しかける。
 画面の中には、空を飛ぶパラミタヤマクワガタのステキ自然の背に並んで立つ、とんがり帽子をかぶりカボチャの模様をあしらった魔女のコスプレ姿のノーンと、お揃いの魔女のコスプレをした金元 ななな(かねもと・ななな)がいた。二人共、腕を腰に置いて堂々とした登場である。
「ノーンちゃん! ななな達もあの三人の様に、ネバネバの中に飛び込むわよ!」
「え? なななちゃん、助けに行くんじゃないの?」
「何言ってるの? こんなオイシイ場面、誰かに渡しちゃ勿体無いじゃない!!」
「……ステキ大自然。威嚇してくれる?」
 なななを軽くスルーしたノーンの呼びかけにステキ大自然の眼が煌き、破壊光線(生体レーザー)を放つ。
 ムシバトルの準優勝者でもあるステキ大自然のレーザーとその覇気に、大型昆虫達が圧倒される。
 そこを見逃さず、捉えられていたエクス、ディミーア、セラフを淳二が救出する。
「大丈夫?」
「ありがとう……うわぁ、ベタベタ……」
「本当、気持ち悪いわ」
「何か匂うわよぉ……」
 白いベタベタしたものを体に付けられつつ、拘束を解かれた三姉妹が再び空へと舞うのを、危機を脱した未散がマイクを持ち、実況する。
「おおっと!? 再び妖精たちが空へと舞い上がりました!!」
 その背後では、統が「折角のチャンスだったのに……」とやや愚痴ている。
「いい? ちょっと予定が変わったけど、二人とも、そいつら外に連れてくわよん! 場所は……」
 セラフがエクスとディミーアに地上攻撃可能地点までの誘導を指示していると、再び虫達が飛来し始める。
「セラフ姉さん! のんびり話している暇はなさそうよ! みんなが楽しむためにも私たちが頑張らなきゃね!」
「ディミーア、照明を点けてよ!! うわっ!! きたきた!!」
 エクスがそう言い、虫を回避する。
 その様子を凶司は近くの売店の小型テレビで観ていた。
「エクス! スーツの旋回性能を生かすんです!! あぁ! ディミーア、最高速度はキミが一番なんだぞ!? セラフ!! 指示をちゃんと出すんです!! ……そう。そうだ! いいぞ、それでこそ僕のネフィリム三姉妹だ!!」
 テレビを両手で掴みワシワシと揺する凶司を、屋台の店主が怪訝な顔で見つめている。
 空の巨大昆虫との戦いは、司令塔に戻ったセラフの指示により、なななとノーンのステキ大自然、そして小型飛空艇の淳二も加わって優勢に戦いを進めていた。
「セラフちゃん? 下まで虫さん達を誘って、そこでどうするの?」
 ノーンがセラフに問う。
「ちょっと派手な花火をあげるのよぉ!」
 そこにエクスが追いつき、ノーンに笑う。
「ランチャーでね! さぁ、来いこっちだよ!!」
 淳二も下で待機する芽衣に連絡する。
「援護攻撃をして下さい。ええ、そうです。一斉射撃で虫たちを焼き払うんです」
「ラジャー!! 待ってたで! その言葉!!」
「駄目だよッ!!!」
 小さな体のノーンが大声で叫ぶと、ステキ大自然を旋回させ、追ってくる虫達の方を向く。
「ノーンちゃん!?」
 セラフが驚きの声をあげる。
 虫たちに両手を広げたノーンが語りかける。
「虫さん達、聞いて!! わたし達は、あなた達の敵じゃないの! ただ、パレードの邪魔になっちゃうから離れてて欲しいだけなんだよ!」
「呼びかけるつもりですか……それは無理だよ!?」
 無防備なノーンの護衛にと、慌てて淳二が小型飛空艇を急旋回させる。
「虫に言葉が通じるわけないでしょ!?」と、ディミーアが叫ぶ。
 ステキ大自然に乗るノーンの方へ勢い良く突進してくる大型昆虫たち。
「エクス!! ランチャーを!!」
「駄目だよ、ディミーア!! この距離じゃノーン達まで巻き込んじゃう!!」
 手を広げたまま静かに目を閉じるノーン。
 突進してくる大型昆虫の群れが、その直前で止まる。
「嘘……本当に止まった?」
 マイクを持って実況していた未散が驚いて眼を丸くする。

 自宅のTV前で思わず立ち上がってその様子を観ていた陽太が、気の抜けた様にソファーに座り、暫し後画面に向かって小さく拍手を送る。
「ノーン……俺は君を誇りに思いますよ」
 同時に屋台のテレビを揺らし続けた凶司も、フンと鼻を鳴らしていた。
「奇跡なんて言葉、好きじゃないですが。まぁいいでしょう。パワードスーツのデータも取れましたから」

「みんな、わかってくれてありがとう!」
 ノーンがペコリと虫たちに頭を下げる。
 エクスとディミーアが大型昆虫達を誘導し始める。一匹、また一匹と旋回し、昆虫達が闇夜へ戻って行こうとしたその時……!!