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【2021ハロウィン】スウィートハロウィン

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【2021ハロウィン】スウィートハロウィン
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空京(1)

 こちらは空京のハロウィンパーティー会場。
 平等院鳳凰堂レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)は、設楽カノン(したら・かのん)を誘って二人で歩いていた。
 海京と比べて空京市内は賑わっていた。はしゃぎまわる子どもたちもそこかしこに見られ、カノンも楽しげな様子だ。
「その衣装、似合ってるね」
 と、レオは先ほどから言いたくてたまらなかった言葉を口にした。
 あまり背丈の変わらないカノンをちらりと見るレオ。彼女は緑色のリボン飾りが施された淡いオレンジ色のクラシック風ドレスを纏い、それに合わせたヘッドドレスを着けていた。普段と違い、カノンの魅力を倍増させるような衣装だ。
「うん。せっかくのハロウィンだから、可愛い格好したくて」
「……可愛いよ、すごく」
 と、レオは言って顔を逸らす。――すると自分は、美しいお嬢さんを襲う吸血鬼、といったところだろうか? そんなつもりはなかったけれど、まるで打ち合わせたみたいだ。
 嬉しそうにドレスの裾をちょこんとつまむカノン。よほどお気に入りの衣装らしい。
 レオはそんな彼女を愛おしいと思いつつ、タイミングをうかがう。今日は他にも伝えたいことがあった。出来れば、どこか落ち着いたところで話をしたいのだが……。
 会場の中心部まで来ると、ものすごい人の数だった。休憩用の椅子なども至る所に設置され、音楽隊の生演奏まで聞こえてくる。
「カノン、ここでちょっと休まない?」
「ええ、そうね」
 と、二人は空いた椅子へ腰を下ろした。
 ビッグイベントだけあって、カップルの姿も多い。自分たちもそう見えるのだろうか……と、恥ずかしいことを考えてしまい、はっとするレオ。まだ自分たちはそこまでの関係ではないのだ。だからこそ、もう一度きちんと話を――。
「カノン、あの時はごめん!」
「え?」
「カノンが襲撃された時……傍に、いられなくて……」
 と、俯くレオ。その真意を、その好意を知っているから、カノンは口を閉じた。
「……これからは、ずっと傍にいさせてほしい」
 決意のこもった口調で言い、顔を上げるレオ。真剣な瞳をカノンへ向け、返答を待つ。
 カノンは少し戸惑うように視線を逸らした。
「……もう少し、もう少しだけ待ってて。最後に、あの女と決着、付けなくちゃいけないから……」
 何を考えたのか、見る見るうちに表情を変え、カノンは笑い出す。
「ふ、ふふ……アハハ、アーハッハッハ!」
 レオの気持ちは確かに彼女へ伝わっているが、まだ時間が必要らしい。彼女の言う「もう少し」という言葉を信じ、レオは待つしかなかった。

   *  *  *  *  *

 道行くカップルを羨ましげに眺めては、吉崎樹(よしざき・いつき)は背後へ忍び寄り声をかけた。
「とりっくおあとりーと。お菓子をくれなきゃイタズラするぜ?」
 振り返ったカップルたちはにこっと優しげに微笑み、ジャック・オ・ランタンに仮装した樹と魔法少年に扮したミシェル・アーヴァントロード(みしぇる・あーう゜ぁんとろーど)へお菓子を渡した。
「はい、どうぞ」
 お菓子を受け取るなり、樹とミシェルはその場から逃げ出す。成功だ!
「やったな、ミシェル」
「うん。でもみんなお菓子持ってるんだね」
 と、ミシェルは少し残念そうにした。せっかく悪戯が出来る日なのに、先ほどからお菓子をもらってばかりだ。
「今日はそういう日だろ? ほら、次行こうぜ」
 と、樹はお菓子をポケットへしまった。

「トリックオアトリート、お菓子くださいな」
 と、にっこり笑う白瀬歩夢(しらせ・あゆむ)。魔女衣装に身を包んだ彼女は、先ほどから道行く人々にお菓子をもらっていた。
 すでに二桁へ突入したお菓子をかごへ入れ、のんびりと歩き回る。
 歩夢のように、お菓子目的でハロウィンパーティーへ訪れている子どもたちはたくさんいた。そのためか、道行く大人たちのほとんどはお菓子を持っている。
「順番ですよー、押さないで並んでください」
 と、子どもたちに群がられている大人の男性を見つけ、歩夢は足を止めた。
 トリックオアトリートと叫ぶ子どもたちへ、小袋に入ったクッキーやマシュマロを渡していくルース・マキャフリー(るーす・まきゃふりー)
 そちらへ向かって歩いて行きながら、歩夢は彼の仮装が何なのか気になった。身体中に包帯をぐるぐると巻いているが、その上からびしっとスーツを着込んでハットをかぶっている。でもあれは、やっぱり……。
「トリックオアトリート、ミイラのおじさん」
 と、歩夢はルースへ声をかけた。
「違いますよ! 透明人間です。まぁ、ミイラでもいいですが……」
 と、ルースはお菓子を歩夢へ手渡す。
「ありがとう」
 にこっと笑う歩夢。
 それを見て、ルースは思った。なんて可愛らしい女の子だ、将来が気になる。だが、すでに配偶者のいる身、そんなこと口には出来ない。
 歩夢が去っていくのを見送ると、背後からまた子どもたちが声をかけてきた。
「とりっくおあとりーと。お菓子をくれなきゃイタズラするぜ?」
 くるり、振り返ってお菓子を探るルース。
「ちょっと待って下さいね、今……」
 ジャック・オ・ランタンの空いた穴からじっとルースを見つめる樹。隣にいる魔法少年もまた、じっと彼を見ていた。
「……あー、売り切れちゃいました」
 と、ルースは苦笑しながら言うと、最後の一つを樹へ手渡した。受け取るなり、逃げ出す樹。
「樹!? 僕、まだお菓子もらってないよ!」
 もちろん、その声は届かなかった。あわあわとルースと樹を交互に見るミシェル。
「え、えっと、イタズラ……えーっと」
「何でもどうぞ」
 と、待っているルースに、ミシェルは困った。樹を追いかけたい、でもイタズラしなきゃ……。
「……すみませんでしたぁ!」
 ミシェルはそう叫ぶと、すぐにパートナーの消えた方向へ駆け出した。――やっぱり、樹への愛には勝てないよ!

   *  *  *  *  *

 パーティー会場にほど近いショッピングモール。パーティーついでに訪れた買い物客で、ここも賑わっていた。
「もう当日だけど、お菓子はたくさん作らなきゃね」
 と、楽しそうに言う桐生理知(きりゅう・りち)
 彼女の隣では辻永翔(つじなが・しょう)がいくつもの荷物を持たされていた。
「お菓子って、どんだけ作る気だよ?」
「えっとね……まずクッキーでしょ、チョコクッキーも作りたいし、あ、チョコでイラスト描くのもいいよね。翔くん、イラスト得意?」
 と、聞いてくる理知にやや呆れ顔の翔。
「まぁ、得意ってほどでもないけど」
「じゃあ、どっちが上手に描けるか対決しよう。もちろん、お菓子が余ったら一緒に食べようね」
 そう言ってにっこり無邪気に笑う。
 呼び出されたから来てみれば、翔は荷物を持たされるばかりだった。これではただの荷物持ちのようだが、楽しそうにしている彼女に文句は言いづらい。
「そうだ、パンプキンパイも作ろうかな。そしたら、カボチャも買わなくちゃ。あ、ランタンにする用のも」
 と、理知が言うのを聞いて、翔は思わず苦い顔をした。
「これ以上買うのか?」
「うん。じゃないとパイが作れないし……」
 ふと彼の様子を見てはっとする理知。
「あっ、荷物持ちで呼んだんじゃないからね! 一緒に過ごせたら楽しいかなって、思ったからだよ」
 と、また屈託のない笑顔を向けられて翔は息をついた。この先が思いやられる。
 しかし今日は特別な日で、何事もない。どこの街もきっと平和だ。
「それなら、いいけどさ」
 と、翔は気を取り直した。
 すると理知が嬉しそうにする。
「よーし、じゃあ早く行こうっ!」
 と、翔の腕を掴んで駆け出した。急なことに慌てた翔だったが、こんなハロウィンも悪くはなさそうだ。