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【2021ハロウィン】スウィートハロウィン

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【2021ハロウィン】スウィートハロウィン
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リアクション

 カボチャや黒猫の飾り付けをした薔薇の学舎のサンルーム内。
 いつもは純白のスーツを着ているエメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)は、頭に耳を、尻には尻尾を、ジャケットを羽織りダメージジーンズを履いていた。普段の彼からはかけ離れた印象の狼男である。
「こうした飾り付けもいいものだな」
 と、今は少年化しているジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)が足を踏み入れるなり、感想を漏らす。街の賑わいともひと味違う、面白い空間となっていた。
「お褒めいただき、ありがとうございます」
 そう言ってにこりと微笑むエメ。彼のパートナーであるリュミエール・ミエル(りゅみえーる・みえる)は、銀色の耳と尻尾をつけた狼男に扮していた。ところどころにあしらわれたチェーンがハードロックに見せている。
「Trick or Treat」
 と、ジェイダスおよびラドゥ・イシュトバーン(らどぅ・いしゅとう゛ぁーん)へ声をかけるリュミエール。
「そう来るだろうと思った」
 少年の姿のせいか、あどけなく笑って手作りのクッキーを彼へ差し出すヤングジェイダス。それを受け取ったリュミエールは、次にラドゥへ目を向けた。
「ラドゥ様はお菓子、くれないの?」
「……用意しなくてはいけなかったか?」
 と、聞き返すラドゥに、リュミエールは笑った。
「お菓子くれないなら悪戯するだけだよ」
 と、ラドゥへ抱きついた。ぎゅうぎゅうと抱きしめられて戸惑うラドゥ。
 その様子を横目に、ジェイダスはエメの用意してくれた席へ腰を下ろす。テーブルの上にはエメとリュミエールの作ったお菓子が並んでいる。
「今日はゆっくり寛いでいって下さい」
「ああ、そうさせてもらうよ。せっかくのハロウィンだしな」
 一日限りのイベントを楽しむ気でいるジェイダスに、少し安心してエメは微笑む。いつも忙しい彼らに束の間の休息を、と思い、お茶へ誘ったのだ。楽しい時間を過ごしてもらえるなら、企画したエメたちも報われるというもの。
 悪戯されたラドゥがリュミエールにどんな悪戯をしようか考え込んでいる。抱きつかれたなら抱きつき返したいが、それではつまらない。何かいい案はないものか……。
 すると、早川呼雪(はやかわ・こゆき)ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)たちとともに遅れて到着した。
「ごめん、遅れちゃって。ちょっと、外で気になるものを見つけて」
「気になるもの、ですか?」
 と、紅茶を淹れていたエメが顔を上げる。
 呼雪は頷くと背後を振り返った。
「おいで、マヤー」
 促されるようにして中へ入ってきたのは、一見獣人に見える猫娘型機晶姫のマヤー・マヤーである。ハロウィンだからか、びしっと執事服を着て男装しているが、表情は暗い。
「パートナーと何かあったみたいで、ひどく落ち込んでたんだ。仲間に入れてもいいか?」
 男性しかいないその場を見て、マヤーは戸惑う様子を見せた。空京の屋敷ではメイドばかり見ているせいか、何となく落ち着かない。
 エメはジェイダスと、リュミエールはラドゥと目を合わせて、そしてマヤーへ視線を向けた。
「いいんじゃないか? こんな日に暗い顔をされては、楽しい気分も台無しだからな」
 と、ジェイダスが許可をした。
 残りの三人も口々に彼女を受け入れ、マヤーは呼雪に促されて椅子へ座る。
「あ、ありがとうにゃ。マヤー、部外者なのに」
「気にしないで」
 と、呼雪。
「では、気を取り直して始めましょう」
 と、エメとリュミエールが手分けして客人たちをもてなす。呼雪たちもまた、手伝えることは手伝いながら、パーティーを楽しみ始めた。
「そういえば、校舎が変わるとお聞きしましたが、どんな風に変わるのですか?」
 問いかけるエメ。
「呼雪、これ美味しいよー」
 質問の答えにあまり興味がないのか、クッキーを頬張ったヘルは呼雪の口元へそれを差し出す。
 呼雪はしぶしぶ口を開け、ぱくりと食べた。満足そうに笑うヘル。
 みんな楽しそうだ。拾われたマヤーは、今頃どこかで誰かさんと仲良くやっているであろうパートナーを思い出して泣けてきた。少しでも気を引こうと挑戦した男装も、結局何の意味も成さなかったのだ。
 はっと我に返ってぶるぶると首を振るマヤー。目の前に盛られたお菓子をやけ食いでもしようかと、手を伸ばして気がついた。
 エメの足元を何かが付いて行っている。箱に入ったぬいぐるみ型の機晶姫、アレクス・イクス(あれくす・いくす)だ。直感で同族だと悟ったマヤーは、席を立つなりアレクスの後を追った。
「マヤーも珍しいって言われるけど、箱形は初めて見たよ」
「にゃう?」
 と、マヤーに気づいて振り返るアレクス。
「同じ猫型でもいろいろあるんだねぇ。しかも可愛い……傷心のマヤーを慰めて欲しいにゃ」
「……同族なのに?」
「いやいや、同族だからこそっ」
「なるほどにゃうー」
 そばへ寄って大人しく抱き上げられるアレクス。マヤーはその毛並みを撫でながら、妙な安心感を覚えていた。

 お茶をひとしきり楽しみ、時刻を確認したジェイダスは席を立った。
「すまないが、人と会う約束があるので失礼するよ」
「どうかお気を付けて、行ってらっしゃいませ」
 と、エメたちに見送られてサンルームを出て行く。
 彼の向かう先はツァンダだった。
「コスプレコンテストで優勝すると豪華な景品がもらえるんです! ジェイダス様、三人揃って出場しませんか?」
 と、瞳をきらきらさせる師王アスカ(しおう・あすか)。その手にはすでに衣装が握られている。
 ジェイダスはそれを見つつ、少々答えに迷っていた。面白そうだが、三人揃って出たところで優勝できるものなのか? しかし、優勝してみるのも悪くはないか。
「本当にやるのか?」
 乗り気でない蒼灯鴉(そうひ・からす)がアスカへ問う。
「もちろん! ジェイダス様のコスプレ姿も見られるかもしれないし、優勝できれば景品よぉ? さあ、鴉はこの衣装でっ」
 と、半ば無理矢理に衣装を手渡される。
 何とも複雑な気持ちになる鴉だが、ジェイダスを『説得』し始めたアスカを見て、今さら拒否は出来なかった。


ツァンダ(3)

 時を遡ること数時間前――、十文字宵一(じゅうもんじ・よいいち)は怒られていた。
「何ですの、その衣装は!?」
「な、何って……憧れの、バウンティハンターの――」
「どうしてコスプレでそんなにダサくなるのです!? コスプレと言ったらこうでしょう?」
 と、ヨルディア・スカーレット(よるでぃあ・すかーれっと)は自分を指さした。彼女が着けているのは『たいむちゃんなりきりセット』だ。
「……そうなのか?」
「そうですっ!」
 宵一は彼女と自分を見比べてみた。額に着けたゴーグル、薄汚れた革のジャケットと手袋、そしてジーンズ。これこそが彼の憧れとするバウンティハンターなのだが、どうやら何かが違うらしい。
「ご、ごめんな」
 と、宵一がヨルディアへ謝ると、彼女は腕を組んでぷいっとそっぽを向いた。
「許しませんわ」
「悪い! 本当にすまなかった!」
 と、頭を下げた宵一を見て、ヨルディアは思いつきを口にする。
「そのままの格好でコスプレコンテストに優勝することができたら、許してあげてもいいですけれど?」
 かくして、二人はコンテストへ出場することになったのだった。

 コンテスト出場者控え室。小谷友美(こたに・ともみ)は自信たっぷりに鏡を見て最終チェックをしていた。
 すると、後ろから誰かに声をかけられる。
「おや、あなたは……友美さん?」
 振り返ると、仮面をかぶった執事が立っていた。
「あら……どなたかしら?」
 聞き返す友美に、執事は仮面を取ってみせた。
「ミス・セルシウス海水浴場コンテストではお世話になりました、獅子神ささら(ししがみ・ささら)です」
 知り合いだと知った友美は、すぐに笑顔を浮かべた。
「あの時はこっちこそお世話になったわね。あなたもコンテストへ出るの?」
「いえ、友美さんが出ると聞いたので、挨拶へ参った次第です」
「なるほどね」
 と、友美はささらの格好を上から下までじろじろと眺めた。あの時に受けた印象とは反対で、今日はささらが男に見える。男装の麗人という認識は間違いだったのだろうか。
 ふと、他の出場者が友美の方を見て言った。
「十二星華よりはマシだろ」
「そうですわね、あれと比べたらこちらの方がまだ……いけるかもしれません」
 その言葉の意味するものは、すぐに友美にも伝わった。
 室内に設置されたモニターが舞台上の様子を映し出したのだ。堂々と立つその三人組の衣装に、友美ははっとした。
 魔神ロノウェの衣装を着たアスカがなりきって言う。
「そこ、隊列が乱れてる! こら、静かにしなさい!」
 本物と同じ黒髪だけあり、良いコスプレだ。
 その隣に立つのは魔神アムドゥスキアスに扮したヤングジェイダスだ。
「ふっ……この絵の素晴らしさを理解出来ないなんて、ザンネンだよ」
 これもよく似合っている。
 最後は魔神パイモンの衣装を着た鴉だ。
「っ……み、み、み」
 顔を真っ赤にさせて決め台詞が上手く言えない。これは減点対象だ。
 しかし、それぞれのキャラによく合ったコスプレだった。特にノリノリなアスカは高評価だ。
 ぽかんとしている友美に気づいて、ささらは言った。
「友美さん、あの時も言いましたが……あなたの長所はひたむきな頑張り屋であるところです。だから、あなたのコスプレが流行に遅れているとか言う他人の流言に惑わされず、自信を持って挑みなさい」
「……そ、そうね」
 と、友美は返すが、脳裏には流行遅れという言葉が浮かんで消えなかった。最先端のはずだったのに、何という失態だ。
「あなたのその努力による美は、真実、美しいですから」
 にこっと微笑むささらを見て、友美は再び自信を取り戻す。――そう……そうよ、私なら優勝だって夢じゃない!
「ありがとう、ささらくん。私、頑張ってくるわ」
 そう言って笑顔を見せる友美に、ささらは言った。
「ふふっ……もしお相手がいないのでしたら、ワタシと付き合ってくださいませんか? 友美さん」
「え?」
 突然の告白に友美は目を丸くした。ささらの身体を再びじろじろと見て、考えあぐねる。今目の前にいる人は美青年だが、前は男装の麗人で、しかし告白してくるということは……?
「ええ、いいわ。付き合いましょう」
 迷いはなかった。ささらが男だろうが女だろうが、イケメンに見えることに変わりはない。それに自分は三十路を越えた身、相手のことを知らなくてもこれから知り合っていけばいい。
 ささらは友美の返答に、にこりと微笑みを返した。