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【重層世界のフェアリーテイル】オベリスクを奪取せよ(前編)

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【重層世界のフェアリーテイル】オベリスクを奪取せよ(前編)

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二人の科学者

 
 オリュンズは大きな地下街を有す。所謂ジオフロントというやつだ。
 有事の際に、多くの市民を避難させ、彼らの安全を確保するためだ。天井には強化プラスチック合板の天井から外の光が見える。
 もちろん、通常時でも街として機能している。もっとも、街の大半にあるのは軍事研究施設であり、一般市民の姿は疎らだ。
 彼らはそこにある一件の研究施設を尋ねた。彼らをボサボサ髪のメガネが招き入れた。
「やあ、いらっしゃい。君たちが異世界から来た人達かい?」
 エルメリッヒ・セアヌビスは柔和な笑顔で彼らを中へと招き入れた。
「君たちのことはロンバート大将から聞いているよ。バーデュナミスの開発を手伝ってくれるんだって?」
「はい。資材はスズカに詰めて、基地に送っています。ただ、こちらと、そちらでは技術力が違いますから、どれほど強力できるかわかりませんけど」
 と水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)が言うと、
「技術差は問題じゃないさ。機械構造の基本はそっち一緒で、使われている素材が違うだけさ。むしろ、僕らが君たちから教わることもある」
「これとかかい?」
 アルジャンヌ・クリスタリア(あるじゃんぬ・くりすたりあ)は雷管の無い【機晶爆弾】を見せた。
「そうだね。これに使われている。石。これが君たちのバーデュナミス、イコンを動かす燃料なんだろう? おまけに彼のようなアンドロイドに魂を吹き込む」
「……」
 鉄 九頭切丸(くろがね・くずきりまる)は喋らない。
「機晶技術、そして機晶石。どちらも僕らの世界にはない概念だ」
「そっちだって凄いだろう? バーデュナミス。イコンでもあれだけの細かい可変制御はできないよ」
 クリスチーナ・アーヴィン(くりすちーな・あーう゛ぃん)が賛辞を送る。
「あれは軍と僕ら技術者のワガママが形になったようなものさ。軍は飛行機としての性能を。僕らはロボットとしての性能を。おかげで色々と安定しないんだよ。だから、アセトのようなサポートアンドロイドが必要になる」
「本当はどんなカンジにしたかったの? フィーニクスは朱雀ってカンジだけど」
 朝野 未沙(あさの・みさ)が尋ねる。
「朱雀てより、不死鳥の方だよ。――もっと、ロボットらしくしたかったかな。他の研究者も言ってたよ。『なんで、ドリルが付いてないんだ!』ってね」
「それはなかなか無茶なことを考えますね」
 長谷川 真琴(はせがわ・まこと)は呆れ気味に言った。ドリルなんてロボットにつけたら、攻撃時の反動が大きすぎて横転してしまう。
「男のロマンではあるけどね。ところで、そっちのロボットの詳細とかあるかな? 見せてくれると嬉しいんだけど」
「これならそちらに見せても大丈夫ですが」
 真琴は持っていたイーグリッド、コームラントの資料をエルメリッヒ渡す。詳細な情報公開可能な二機のデータだ。
「他にもまだあるですぅ。未羅ちゃん、写すです」
「わかったの」
 朝野 未那(あさの・みな)に言われ、朝野 未羅(あさの・みら)はメモリープロジェクターで壁にアサノファクトリーが所有するすべてのイコン一覧を提示した。
 ほぼすべての種類のイコンとバリエーションが網羅されていた。
「ブラックボックス化している部分は解説できないけど、各機性能ならおまかせですぅ」
「これって全部そっちの世界で開発されたのかい?」
「いいえ、ほとんど発掘。それをあたしたちが修理して使っているのよ」と未沙。
「だから、一からフィーニクスを作っているこっちの技術が信じられないんだよ。あたいたいちは」とクリスチーナ。
「発掘したものを再利用しているわけか。効率的だ。こっちの世界ではそれはできそうにないよ。動力源の機晶石もないし」
「では、バーデュナミスの動力源には、何を遣っているんですか?」
 睡蓮が尋ねると、エルメリッヒは答えた。
「電気だよ。特定粒子物質を反物質にぶつけて、その時のエネルギーを電気として変換しているのさ」


 エルメリッヒに合う一方。もう一人の研究者に会っている一団がいた。
 エルメリッヒを当たりとするなら、こいつはハズレだ。
「よーぉく来た。お前たち。俺が世紀の天才科学者、キョウマ・ホルススだァ!」
 ただのヘンタイ白衣がいた。
 でも、間違いなく天才です。ほんとにほんと。
 エルメリッヒがロボット工学の天才なら、彼は物質工学の天才である。軍では兵器技術開発を担当しているらしいが、奇抜すぎてそのほとんどが採用されない。
「なんか、とんでもない人にあたった気がします」
 八薙 かりん(やなぎ・かりん)は少し頭痛を感じた。
「俺に不満があるのか? だが安心しろ。お前たちのバーデュナミスも俺がパワーアップ――」                                       
「どんなカンジに?」
「高速回転ビームドリルを3つ付けてやる! 頭と尻尾と両手に。」
「辞めて! てか、それ4つだよ!」
 葦原 めい(あしわら・めい)は自分のウサちゃんの末路に危機を感じた。多分この人に触らせたら、とんでもないことになりそうだ。
 兵器開発ならこっちだと聞いたのだけど、もう一人の技術者を尋ねたほうが良かった。
「それに、ウサちゃんはバーデュナミスじゃないんだよ。サロゲート・エイコーンを縮めてイコンて言うんだよ」
「『代理の聖像』か、なかなかのネーミングセンスだな」
「そんなことよりも、エヴァルトの体を治してくれるって本当だよね?」
 ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)が尋ねる。
「お前が中将の紹介したやつか?」
「ボクは違うよ」
「俺がエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)だ。この機晶石を使ってサイボーグから生身の体に戻して欲しいんだ。頼む!」
 エヴァルトとは左腕に嵌った機晶石を見せて言った。
「生身に戻るだけか?」
「できれば、超進化人類にしてほしい」
「頭にドリルとか――」
「それは辞めてくれ! どこまでドリル押しなんだ!」
 体が戻っても、今度は首から上が人外になってしまう。
「あの、出来れば私も体をメンテナンスしてもらえないですか?」
 試作型改造機晶姫 ルレーブ(しさくがたかいぞうきしょうき・るれーぶ)ことシャルロット・ルレーブ(しゃるろっと・るれーぶ)も頼む。
「お前、機晶姫とかいうアンドロイドだろう? 自慢じゃないが、俺は機晶石のこともよくわからん! 改造するにも中身を知らないとなぁ」
「ならちょうどいいのが居るよ」
「え? 自分?」
 自分は解体されたくないので、合身戦車 ローランダー(がっしんせんしゃ・ろーらんだー)を盾にするロートラウだった。
「喋る車か! 確かに解体しやすそうだな!」
 ヘンタイが嬉々としている。
「だが、その前に。お前」とエヴァルトを指して「先に体の再構築のために、病院で培養炉行きだ。7日もすれば元通りになる。その間に俺が超進化でも珪素生物化でもしてやる。」
「――わかった。その間は宜しく頼んだ」
「それじゃ、まずはそこの喋る車の中身をコトコトマカに見せてもらうか?」
 キョウマはワキワキと指を鳴らす。
「外装ならいいでありますが、中枢はやめるでありますよぉ――!」
 バラバラバラバラ