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SPB2021シーズンオフ 更改・納会・大殺界

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SPB2021シーズンオフ 更改・納会・大殺界

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【十 スタア誕生?】

 ツァンダ・ワイヴァーンズの球団納会は、オーナーであるスタインブレナー氏の自邸内にある大ホールで催された。
 このワイヴァーンズ球団納会の運営一切を任されたのは、歩である。
 他球団の選手ながら、歩は正子とは個人的な交友関係を持っている為、正子の協力を得て、ワイヴァーンズ球団納会に供する仕出し料理の選別について、様々なアドバイスを受けていた。
 その正子曰く、味見をする前にまず、厨房を見学させて貰え、というのが最初のひとことであった。
 よくラーメン屋などでは、綺麗な店よりも汚い店の方が美味いといわれることが多いと聞かされていた歩なのだが、こと仕出し料理に関してはその逆らしい。とにかくまずは、厨房が綺麗に掃除され、手入れも細かいところまで行き届いているかを見て来い、ということであった。
 正子の持論によれば、会席料理やコース料理を出す店で、厨房が酷く汚れている店は味も美味くないことが多いのだという。
 歩は正子からのアドバイスに従い、これはと見繕った仕出し料理屋を廻って、厨房を片っ端から見学し尽くしてきた。その結果、今回はツァンダの街中に拠点を構える郷土料理の老舗に納会の料理提供を依頼した。
 歩の選別に間違いは無かったようで、納会開始直後から、歩は選手ひとりひとりにお酌をしながら、参加者達の皿の動きをじっと観察していた。そして彼女の見るところ、非常に速いペースで空き皿が洗い場へと流れてきている。
(……よしっ!)
 歩は内心で小さな拳を握り締め、ガッツポーズを作った。
 そんなこんなでテーブルを廻っていると、やがてオーナーであるスタインブレナー氏の席に辿り着いた。
「スタインブレナーさん、今季は本当に色々ありましたけど、最後までお疲れ様でした」
「いやいや、歩君も初年度からいきなり、大変なシーズンを経験してしまったね。まぁ、こういうのも全て含めてプロ野球だよ。それにしても歩君、見事な目利きだね。大変に美味い料理だ。君に納会の運営を任せて間違い無かったよ」
 いつも辛辣な言葉を吐き続けるスタインブレナー氏が、珍しく褒め言葉を口にした。これには歩も、頭を掻いて照れるしか無かった。
「あ、ほら、始まりますよ、葵さんのステージ!」
 つい照れ隠しで、歩は色とりどりのスポットライトが華やかに舞うステージを指差した。
 丁度これから、葵が『突撃魔法少女リリカルあおい』に扮してのショーが開演しようとしているところであった。
「颯爽登場! 突撃魔法少女! リ・リ・カ・ル・あ・お・い♪」
 ワイヴァーンズ投手としていつも見せている気迫の投球姿とは打って変わって、まるで妖精を思わせる幻想的な衣装とメイクで、よく通る声を会場内に響かせる。
「いっくよぉー! みんなぁー! あたしの歌を聞けぇ♪」
 葵がマイクを握った右手を突き上げると、会場内からはやんやの喝采が上がった。ここからリリカルソングやマジカルステージが連続し、場は一時、ちょっとしたライブ会場へと変貌した。

 実はリリカルあおいとしてステージを賑わせている葵の他、ジェイコブ、オットー、あゆみを含めた四名を、来季のチームの顔として売り出す計画が水面下で進められている。その計画の主担当が円なのだが、今回の球団納会に於いて早くも、この四人にフォーカスを当てた球団PR記事の作成が始まっていた。
 球団納会開催の直前、円から納会レポート役に任命された理沙とセレスティアの両名は、まずは葵、ジェイコブ、オットー、あゆみといった面々のテーブルを次々に廻っていき、チームマスコットをモチーフにしたショートケーキを配りながら、その引き換えとして個人的に使用している小物を私物プレゼント用にせしめていた。
 更にその様子を動画に収め、インタビューまで取っているというのだから、理沙の行動力と発想力は、ただのマスコットガールを大いに凌駕しているといって良い。
 ちなみにワイヴァーンズのチームマスコットとは、ワイヴァーンのワイちゃんとヴァーンくん、というらしいのだが、いずれも理沙とセレスティアが考案し、スタインブレナー氏から正式な認可を貰ったばかりである。
「いや〜、大漁大漁。色んなものを貰っちゃったわね〜」
 理沙が上機嫌に笑うと、セレスティアは隣で苦笑を浮かべる。
 ジェイコブとオットーはあまり私物を持ち合わせていなかったのだが、葵とあゆみが何故かバッグの中に大量の小物を詰め込んでいた為、それらを片っ端から巻き上げてきたらしい。
 そんな理沙とセレスティアが次の獲物として狙いを定めたのが、今季のエースとクローザーである隼人と優斗の両名であった。
 双子でエースとクローザーというのは、これはこれで大きな宣伝効果を持つ。狙わない手は無い。
「はぁ〜い。おふた方、楽しんでるぅ〜?」
「あっ、悪い。ちょっと他を廻ってくる」
 理沙の意味ありげな笑みに動物的な勘で危機を察知したのか、隼人はコーチ陣へお酌をする為にそそくさと席を立って逃げてしまった。
 すると理沙は、優斗だけは逃がすまいと、セレスティアとふたりで優斗の席を左右から挟む形で押さえてしまい、にっこりと悪魔的な笑みを浮かべる。
「クローザーさん、ご指名入りまぁ〜す」
「あ、ははは……」
 優斗は乾いた笑いで、その場を誤魔化すしか無い。
「ご愁傷様ですわ、優斗さん。でも、チームの顔のひとりとして、務めを果たして頂きますわね」
 流石にこの時ばかりは、優斗の目にはマスコットガールのふたりが、日頃の小悪魔的なマスコットガール衣装から連想して、本当の悪魔に思えてならなかった。
「えぇっと……僕は何を、人身御供にすれば宜しいんでしょうか?」
 強張った笑みの中に優斗が怯えの色を見せると、理沙とセレスティアは顔を見合わせて、おほほほと甲高い哄笑を響かせたものだから、更に恐ろしかった。
「あらん、そんなに怖がらなくっても良いじゃない。天下のワイヴァーンズでクローザーを務める程のひとなんだから、心臓はきっと、ガッチガチに強い筈よねぇん」
「理沙ったら、はしたないですわ。もっとこう、お上品にいかないと」
 ふたりのマスコットガールの悪魔的な会話を耳にしながら、優斗は全身から嫌な汗を噴き出している自分を知った。
 何故だろう。僕は納会でチームメイトのひと達と飲食しながら、今季の思い出話に花を咲かせて楽しく過ごすつもりだったのに、いつどこで、運命の歯車が狂ってしまったのだろう――そんな不毛な自問自答が、優斗の頭の中でぐるぐると渦巻いていた。

 別のテーブルでは、イングリットがしきりに携帯を取り出し、出てくる料理を次々に撮影していた。
「はーい、皆、入って入って〜。一緒に撮影するにゃ〜」
 イングリットはほんのつい先程まで、葵のステージに乱入して連続バック転や両手と尾を駆使したボールお手玉を披露してきたばかりなのだが、戻ってきてみると特大のピザがテーブル上に姿を見せていた為、同じテーブルのリカイン、巡、光一郎、ショウといった面々を携帯カメラの中に写り込ませようと指示を出している。
「さっきから随分何枚も撮影してるけど、誰に送ってるの?」
 光一郎と並んでVサインを作りながら携帯カメラに収まっていたリカインが問いかけると、イングリットは嬉しそうに自身の携帯のLCDを四人に披露しながら笑う。
「ペタにゃーに送ってるにゃー。百合園でもしょっちゅう会うから、マイフォークの美的味的センスを送りつけてやってるにゃ」
 しかし、イングリットが見せたのは自身が撮影した画像ではなく、ペタジーニが返事の際に撮影した画像が携帯上に映し出されていた。
 見ると、左右に舞とブリジットを従え、妙に嬉しそうな笑顔を浮かべているペタジーニの姿がある。
「へぇ……何か、ワイヴァーンズに居た頃の彼とは、ちょっと雰囲気違うなぁ」
 ショウが感心したようにLCD上の画像を覗き込むと、光一郎が幾分渋い表情で、低く唸った。
「でもぶっちゃけ、ちょっと羨ましいじゃん……女の園ってぇだけで、黄色い歓声シャワーが約束されてる天国って感じィ?」
「いや……そういう訳でもないよ」
 光一郎の露骨な羨望に、巡は何ともいえない笑みで応じた。
 薔薇学でありながら、という表現が正しいのかどうかはともかく、光一郎の感性は、他の薔薇学生と比べても幾分ズレがあるのは、ほぼ間違い無いであろう。
 するとそこへ、理沙とセレスティアのバクシーシコンビが雪崩れ込んできた。
「はいは〜い! 納会恒例! ショートケーキと一品交換の時間がやって参りましたわよ〜ん!」
 まだ今回が初めての納会であるにも関わらず、いきなり恒例化してしまっている辺りが論理もへったくれも無いのだが、それでも勢いで押し切るのが、今の理沙とセレスティアのマスコットガール部隊である。
「オットーさんがおっしゃってましたけど、光一郎さんは、大リーグボール養成ギブス(但し薔薇の学舎風)なるものをお持ちなのだそうですわね」
 セレスティアが天使のような笑顔でしれっと訊ねると、ノンアルコールシャンパンを口にしかけていたリカインとショウが、口の中の液体を取り皿上に盛大な勢いで噴き出してしまった。
 一方、話を振られた光一郎は随分とご満悦だ。
「おぉっと、振られたからにゃあ黙ってられません。球界の宴会部長は俺様だ。球界ハッテンのためには、ひと肌脱がせて頂きますよぉ!」
 いいながら、おもむろにシャツのボタンを外して胸元をはだけさせようとする光一郎。
 傍らでは、イングリットが妙に興奮して携帯の撮影モードを最大画素に設定し、激写の態勢に入っている。
「やめんか!」
 どこからとも無くすっ飛んできたオットーが、光一郎が茨で身体を束縛した破廉恥な格好を披露する前に、耳を引っ張って会場裏へと引きずっていった。

 一部で、やや公序良俗に反する動きがあったような無かったような気がしないでも無いが、それでも楽しいひと時は滞り無く、たけなわへと進んでゆく。