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君と僕らの野菜戦争

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第二章:別のお仕事をしている人たちもいます


 さて、野菜戦争が続く中、新たな影がうごめき始めていました。
 騒ぎを収めるでもなく、野菜を収穫して食べるでもなく、己が信念や野心のために農場を支配し陣取ろうとする一派です。
 そんな中の一人が、種もみ剣士の戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)です。
「ヒャッハー! おい見ろよ、こんなところに種もみ剣士がいやがるぜ!」
「ゲハハハハ! その懐にしまいこんだ種もみをよこしやがれよ、ゴルァ!」
 農園の片隅で、小次郎はモヒカンに襲われていました。
 いや、正確には、モヒカンのように葉を生やしたカブやニンジンたちです。
 彼らは、元々ただの暴れん坊な野菜モンスターにすぎませんでしたが、種もみ剣士を見つけるなりモヒカンに変貌したのです。
 姿形だけではなく、心までモヒカンになろうとは、なんと恐ろしいモンスターたちなのでしょうか。
「な、何をする。この種もみは、種もみ王国の礎となるもの。おいそれと渡すわけには行かぬ」
 種もみ剣士の安住の地を作りたい……。
 そんな思いで一人で黙々と稲作に精を出していた小次郎はモヒ化モンスターたちを追い払おうと悪戦苦闘していました。
「グゲゲゲゲ……。この稲、いっちょ前に芽が吹き出てやがる。生意気だぜ、引き抜いてやれ」
「貴様ら、田んぼを荒らすな! 米だって立派な野菜の一種なんだ。ぽっと出の野菜たちと歴史が違う!」
 稲を踏みにじられ怒った小次郎は、救世主を呼び出しモヒ化モンスターを倒し始めます。
 ところが、闘争本能に支配された野菜モンスターたちは次から次へとやってくるではありませんか。
 しかも、種もみ結界(?)に入るや、凶暴化し葉っぱがモヒカンになっていきます。
「モヒッ! モヒモヒッ! ……ヒャッハー!」
 なんという生命の神秘でしょうか?
 今、小次郎は変態進化論を目の当たりにしているのです。
「う、ううう……、このままでは……」
 呼び出した救世主たちも、数に押されて大変そうです。力尽きるかもしれません。
 ああ、彼はこの地で誰にも知られずにひっそりと土に返るのでしょうか……。
 その時。
「出来たお米、いくらか分けてもらえませんかね? こっちは食材がいくらあっても足りない状態で」
 野菜狩りをしていた一人が小次郎を助け出してくれます。
 天御柱学院からやってきていた紫月 唯斗(しづき・ゆいと)です。
 彼は、モヒ化野菜モンスターをあっさりと片付けて小次郎に向き直ります。
「こんなところで田植えをしていると危ないですよ。ご覧の通り物騒なことになっていますから」
「……おお」
 小次郎は、感激のあまり唯斗の手を握りました。
 世知辛い戦国農園で、親切に声をかけてくれる人がいるとは思ってもいなかったのです。
「米が欲しいなら種もみだけ残してありったけ持っていってもらっていい。俺たち種もみ剣士は、植えて生やして育てることに意義を見出しているので」
「そうなんですか。それはありがたい」
 唯斗は、小次郎をまじまじと見つめていましたが、何か思いついたようにぽんと手を打ちます。
「どうです、手を組みませんかね? 失礼ですが、あなたの傍にはたくさんのモヒカンが寄ってくるらしい。それは野菜も同様です。一緒にいれば、わざわざ野菜を探しに行かなくてもすみます」
 唯斗の言葉通り、こりもせずモヒカン化した様々な野菜が種もみを狙ってヒャッハーとやってきます。
 ザクザクザクザク……。
「おお、大量大量」
 来れば来るだけのモヒカン野菜を刈り取って、唯斗は満足気味に微笑みます。
「モヒカンで葉の生え方がちょっと変わってるけど、まあ実の方は同じでしょ。いずれにしろ、あいつにかかればどれも上手く料理してくれるでしょうね」
 唯斗は別のところで料理の準備をしているパートナーのことを思い出し、米もあれば喜ぶだろうと考えます。
「どうです? 一緒に料理で天下をとりましょう」
 いつの間にか、野菜取りより料理の方に気が行ってしまっている唯斗。よほどパートナーが気になるようです。
「いや、天下には興味ないが力を貸してくれるならありがたい」
 小次郎は、もう一度唯斗の手を握りなおします。
 こうして、二人による農園開拓作戦が始まったのでした。
 この後、小次郎たちはこの農園を借り受け、広大な田園を開拓していくことになるかもしれません。