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君と僕らの野菜戦争

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第三章:無農薬系超有機野菜ども

 ちょっと現在の趨勢を見てみましょうか。
 そもそも、コマチ農園の長でトマトのナポリオン・ボナパルト皇帝とジョージ農園の長、ナスのウェリントン公マーボー・ウェルズリーが、突然自我を持ち、成長促成剤の力も借りて始まったこの戦い。
 最初はほぼ互角でした。
 両陣営が多くの部下の野菜モンスターを擁し、激しくぶつかり合い一進一退を繰り返していましたが、コマチとジョージの救援要請に駆けつけた戦士たちの活躍で、兵力を大幅に減らしてしまいます。
 どの野菜がどちらの陣営だったかなど、この際もはやどうでもいいことです。
 いつしか、どちらがどちらの味方なのかわからなくなってしまい、農園は戦場というよりはバトルロワイヤルの舞台へと変貌していたのです。
 これにより、パワーバランスが大幅に崩れました。
 ナポリオンもウェリントンも疲弊し、劣勢へと立たされていきます。
 そして、ナポリオンとウェリントンを討つメンバーたちも、それぞれコマチ農園とジョージ農園の本拠地に迫ります。
 早くも戦争は終盤。
 ナポリオンとウェリントンの最期のときがやってきます……。



「敵襲! 敵襲! 全員戦闘配置につけ!」
 ウェリントンのいる本部ハウスでは、シソの草笛によるサイレンが鳴り響きました。
 篭城戦の構えになっているビニールハウスの周辺には幾重にも結界が張り巡らされ、それを取り巻くように野菜モンスターたちが守りを固めています。
 ネギとキュウリは遠方から矢を放ち、ゴボウはランスのように鋭い切っ先を突きたててきます。
 彼らは、数に物を言わせて押し切ろうという考えですが、果たして上手くいくでしょうか。
「早く守りにつけ! なんとしてもウェリントン公をお守りするんだ!」
「……」
 そんな野菜モンスターたちの間を、無言でかいくぐる影がありました。
 ウェリントンのいるハウスに真っ先に突入してきたのは、金髪ツインテイルのチビっ娘カーマル・クロスフィールド(かーまる・くろすふぃーるど)です。
 彼女は、神速で野菜兵士たちの間を駆け抜け、あっという間にビニールハウスにたどり着きます。が……。
「……結界? 野菜のくせに生意気な」
 ビニールハウスには魔法的な防御壁が張り巡らされているのがわかりました。
 破るのはさほど難しくなさそうですが、もたもたしていたら護衛の野菜モンスターがわらわらとやってきそうです。
「どうする? 別の入り口探す?」
「こんなの一発で粉砕できるだろ。ちょっと下がってな」
 カーマルのすぐ後ろからついてきていた、ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)が指をぽきぽきと鳴らしながら現れました。
「邪魔だ、のきさらせや、コラ!」
 彼は、魔力を拳に乗せビニールハウスに叩きつけます。
 ガシィッッ! ……ピシピシピシ。
 亀裂が走り、魔力の結界が割れるのがわかりました。
 なんか、魔法理論なども完全に無視したでたらめな強さです。
 ついでにビニールハウスもバリバリと突き破って温室の中に入ると、正面にウェリントンが王座に座っているのが見えました。
 全長二メートルを越す大物で、表皮は紫に艶光りし目鼻立ちはキリリと引き締まっています。とても美しいナスビです。
 傍には、ウェリントンには劣るもののこれまた綺麗な光沢を放つ護衛ナスビが二十人{?}ほど控えています。
「……いや、キモイって」
 ポツリとカーマル。
「ウェリントン、最期に何か言いたいことがあるなら聞いておいてやるぜ」
 ラルクの言葉に、ウェリントンはニヤリと笑いました。
「……ふむ。ナポリオンと戦っていたつもりが人間共がやってくるとはな。まあいい、暇つぶしに遊んでやるとするか」
「面白い台詞を吐くじゃねえか。それが最後の言葉でいいんだな?」
 言うなり、ラルクはウェリントンとの間合いをつめます。
 とっさに護衛ナスビが割って入り防御しますが、これはカーマルが引き受けてくれるようです。
 ラルクは護衛の間を抜け一瞬でウェリントンに接敵すると、容赦なく鳳凰の拳を叩き込みます。
 ドガガガッッ! と響く衝撃音。
「ぐああああっっ!」
「……あれ?」
 ラルクは目を丸くしてしまいました。
 あれだけ立派なナリをしていたウェリントン、あっけなくボロボロに砕けてしまったではないですか。
「なにこれ、本当にただのナスビじゃない」
 護衛もカーマルにあっけなく倒され、辺りにはなんともいいがたい白けた雰囲気が漂います。
 と……。
「くくく……。まだまだ終わらんよ」
 砕けたウェリントンの破片が浮かび上がり、凄い勢いで再生を始めます。
 やはり、ただでは死にません。
 いや、それどころか、変形して巨大化していくではありませんか。
 そしてそれは、護衛たちもです。
「そうこなくちゃな」
「我々が摂取した成長促成剤は、ただの促成剤とは違ってな。植物の生態系を根本から変える力を秘めているのだよ。誰が作ったかは知らぬが、もはや我々は不死身も同然」
「わざわざ解説ありがとうさんよ。だが、結果は同じだ。何度でも砕いてやるぜ」
「それはこっちの台詞だ。……食らえ、ナスビーム!」
「ふん、そんな攻撃食らうかよ!」
 ラルクは再びウェリントンを攻撃します。
 前よりは少し硬くなったものの、まだまだです。少し粘ったものの、ウェリントンはあっけなくやられてしまいます。
「ほら、また復活するんだろ。早く起きろよ。ちょっと待っていてやるぜ」
「もちろんだ」
 どういう構造になっているのか走りませんが、ナスはまたまた蘇ってしまいます。
「そろそろ何とかしないと、いい加減ウザくなってきたんだけど」
 カーマルは、護衛たちと戦いながら何か“核”になるようなものを探り始めます。
 まあたいていこういった手合いは、中心となる核があってそこから細胞が生成されたりするのです。
「チマチマやってられるか。ゴリ押しだぜ」
 それでも何度でも復活するウェリントン。
 結界が破られたおかげで、他の戦士たちもビニールハウスに入ってきました。
 さして広くないビニールハウスの中で、激しい戦いが繰り広げられます。