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君と僕らの野菜戦争

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君と僕らの野菜戦争
君と僕らの野菜戦争 君と僕らの野菜戦争

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 また、反対側のビニールハウスでは、空京大学からやってきた宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が、独自に野菜を栽培していました。
「まさか、あの怪しい成長促成剤が手に入るなんてね。まあ、今回きりの分しかないけど」」
 水と肥料と共に成長促成剤を与えられた野菜は、すくすくと育っていきます。
 彼女の狙いは、冬野菜たちによる戦場制圧です。
 葱に韮に百合根、ほうれん草に小松菜に白菜……。どれも可愛く美味しそうに育っています。
 戦いが終わったら、そのまま食べてしまっても満足できることでしょう。
 やがて……。
 成長促進剤をたっぷりと与えたおかげで冬野菜はすぐに成長し一人前になりました。
 じっと見ていると、彼らは自我を持ち自分で動き始めます。あとは闘志を高めるだけで戦えるようになるでしょう。
「ママ」
 野菜の一つが祥子を見つけて擦り寄ってきました。
「ママ、ママ……」
 他の野菜たちも人懐っこそうに寄ってくるではありませんか。
 どの子もよい子のようです。とても素直で賢そうです。
「ま、ママ……?」
 祥子はちょっと照れてしまいます。
 なんだか子供が出来たような気分です。
「ママ、ぼくたち農園の悪の王、ナポリオンとウェリントンを倒しにいくよ」
「いままで育ててくれてありがとう」
 冬野菜たちは、悪を憎む正義の少年のように純真な口調で決意を述べます。
「あ、あう……」
「ママはぼくたちが途中で討たれても、また新しい冬野菜を作り続けてね。正義の願いはきっと届くんだから」
 おまけに真面目で勇敢ときています。目には一点の濁りもなくキラキラと輝いています。
「では、行ってきます。ママも健康に気をつけて」
「ちょ、ちょっと待ちなさい……」
 祥子はたまらなくなって、思わず引き止めてしまいました。
「?」
「べ、別に今すぐじゃなくてもいいんじゃないかな。他の人たちも来ているようだし、もう少し様子を見てからでも」
「どうしたの、ママ? ぼくたちが戦争に行ったらだめなの?」
「い、いやそうじゃないけど……それに、ほら。もしかしたら皇帝たちももうすぐ戦争を終えるかもしれないし」
「そんなことを言ってられないよ。それに、ぼくたちは戦争をするために作り出された野菜モンスターなんだから」
「あう……」
 祥子は言葉に詰まってしまいました。
 なんということでしょう。育てているうちに情が移ってしまったようです。
 根が心優しい祥子のことです。とてもじゃありませんが、可愛い子供たちを平気で戦場へと送り込む気持ちにはなれません。
「……中止にしましょう」
「え?」
「戦争は中止。……いいのよ、これで」
 祥子は成長促進剤を処分し、今育った子たちだけでも最期まで面倒を見ることにしました。
 その後、このハウスでは冬野菜が栽培されることになります。
 戦争が終わった後の野菜は喋りも動きもしませんけど。愛情をこめて育てれば可愛いものですよ……。