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君と僕らの野菜戦争

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君と僕らの野菜戦争
君と僕らの野菜戦争 君と僕らの野菜戦争

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「やれやれ……。散々なナス退治だった……」
 思い出しただけでげんなりして、シャンバラ教導団の朝霧 垂(あさぎり・しづり)は、小さくため息をつきます。
 ピザを作ろうと思い立って、トマトやナスを集めにはよかったのですが
 ナスが化け物に変身するとは思わなかったのです。あんなもの素材として使いたくないでしょう。
 子分のただのナスモンスターばかり集めてきたが、味はどうでしょうか。
「これだって十分にいけるよ。ルカルカさんたちが取ってきたトマトも絶品だし」
 トマト皇帝、美味しいよと味見をするのは、ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)だ。
 それ以外にも、マッシュルームやピーマンなどピザを作るのには十分すぎる野菜が集まっていました。
 予め準備してあったドウ(ピザ生地)にお好みの素材を乗せてしっかり焼くだけ。
 香ばしい匂いととろけそうな舌触りの上モノピザの出来上がりです。
「うん……、確かに違う。ナポリオン皇帝の言うとおりだったな」
 共にピザを作っていたルカルカが一口食べて呟きます。
「最初から食べられることをわかっていて戦っていたんじゃないかな、彼らは」
 垂は言います。
「そもそも、野菜の戦いがなければ、これだけの人たちも集まらなかったわけだし。天の恵みといえば安直だが、きっと俺たちに与えられた祝福だったのではないのか?」
「野菜の美味しさも再認識してくれるようになったしね」
 わいわいと楽しみながら食べる人たちを見渡してライゼは微笑みます。
「これからは、もっとありがたく食べよう。当たり前だけど、野菜だって生きているんだって思ってさ。今日刈ったあの野菜たちの顔を忘れずに、な」
 それが、自分たちに与えられた責任なんだ、と。
 今日死んでいった野菜モンスターたちに対する、鎮魂でもあるのでありました。
 なんとなく垂は青い空を見上げます。
「またいつでも会えるさ。食卓でな」


「全く、何だったのですか、今日の騒ぎは」
 雪だるま王国女王の赤羽 美央(あかばね・みお)は、何の収穫もなかったのでおかんむりです。
「結局野菜祭りを遠くから見ていただけでしたわ」
「まあ、いいじゃないか。雪だるま王国の名誉が失墜したわけでもあるまいし」
 ずっと暇そうにしていた日比谷 皐月(ひびや・さつき)がようやく口を開きます。
「ところで、クロセルはどこに行ったんだ? ボーナスをくれるといっていたので来たのだが」
 いいつつも、皐月はボーナスをもらいに来たのではありませんでした。
 あるいやな予感がして、予防のためにこの場にやって来ていたのです。
「ワタシもクロセルさんがボーナスを配ると言うので、いやな予感がしてます」
 傍にぴったりとくっついてマークしている少女は、レイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)です。
 彼女は雪だるま王国の住人たちの回復役をかってでたのですが、ちょうど今その活躍のときとの予感です。
「……どうせ、ヤるんでしょ?」
「なんだ、もうわかっているのか?」
「まあ、自業自得とはいえ、見捨てては置けませんので」
「今回を逃したら、あの“巨悪”を討つタイミングを逸する。これは王国のためなんだ」
「人類の敵って、本当にいるものなんですね」
 そんなことを話していますと。
「やあやあ、皆さんお待たせです」
 ややあって、大きな箱になにやらつめた{ SFM0002941#クロセル・ラインツァート}が満面の笑みを浮かべて意気揚々とやってきました。
 ボーナスを待ち望んでいた王国の住人たちも「おお!」と歓喜の声を上げます。
「お疲れさん。さて、ちょっとその箱の中を見せてもらおうかな?」
 クロセルの肩をポンポンと叩きながら、皐月はニッコリと微笑みます。
 そもそも、本当のボーナスならこんな木箱に入っているはずがありません。
「まさかとは思うが、ナスに棒をさしてボーナスって言うんじゃないよな? まさか、クロセルともあろう者がそんなことはしないよな?」
 半ば棒読みになりながら、皐月は箱の蓋を開けます。
 レイナも覗き込んで黙り込みます。
「……」
「……」
「……何か言うことは、クロセル?」
「お前は甘い。間違っている。俺はさらにこれを手で持ち上げて『ボーナスあ〜げた!』というつもりだったのだ」
「ちょっとこっちへこようか。さしもの俺もブチキレちまったよ」
「あ、おい、ちょっと、そんなに引っ張るな! どこへ連れて行こうって言うんだ。いや待て、関節が変な方向に曲がろうとして……ぐあっ!」
「はいはい、まだ大丈夫ですよ、クロセルさん。ワタシの出番ではありませんのでじっと見てますね」
 どうやら何かトラブルがあった模様です。
 雪だるま王国のボーナスは支給されることはありませんでした。

 かくしてなんだかんだドタバタのうちに、野菜戦争は終わったのでありました。