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【EATER×EATER】進撃! キメラーメン!

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【EATER×EATER】進撃! キメラーメン!

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第十七章:ドクター・ハデス&高天原 咲耶&ヘスティア・ウルカヌス&アルテミス・カリスト

「フハハハ! ご家庭の食卓は、我ら秘密結社オリュンポスが支配する!」
 海京の中心街に、大声が響き渡った。道行く人々は誰一人として欠かさず一斉に振り返り、声の主であるドクター・ハデス(どくたー・はです)を凝視する。
 白衣を纏い、大仰なポーズで宣言する彼を前に、既にキメラーメンという驚愕すべきものを見た後である筈の海京市民すらも、開いた口が塞がらないほどの驚愕を禁じえないようだった。
「秘密結社SON団の怪人ラーメン男だと!? (違います)ならば、我ら秘密結社オリュンポスも対抗だ!」
 そう声高に宣言するや否や、中心街に進撃してきたキメラーメンの群れに対して指を突きつける彼の姿はやはり周囲の目を引いていた。
「SON団とやらめ、怪人を使って食卓を征服しようとするとは、我ら悪の秘密結社オリュンポスへの挑戦だな! よかろう。この天才科学者ドクター・ハデスが相手になってやろう!」
 ハデスは小池鬼滅羅に一方的に対抗心を燃やしているようだった。
「ラーメンの味にこだわった怪人などナンセンス! 我ら科学者がラーメンに求めるのは、3分間でお手軽にできて、研究室から出ないで食事を済ませられるというインスタントさ! すなわち、インスタントラーメン怪人こそが、食卓を征服するのにふさわしいのだっ!」
 実里塩ラーメンで頭脳が強化されたハデスは、独自の哲学を元に、インスタントラーメンの怪人を作り出した。とはいえ、さすがに実里塩ラーメンの能力で一から怪人を作ることはできないので、部下たちに無理矢理インスタントラーメンの服・鎧を着せて、インスタントラーメン怪人を名乗らせたのだが。
「フハハハ!さあ行け、インスタントラーメン怪人よ! ご家庭の食卓をオリュンポス印のインスタントラーメンで征服するのだ!」「兄さん、なんですか、インスタントラーメン怪人って! 絶対そんな格好しませんからね! ……って、インスタントラーメンがっ!?」
 ハデスの近くで声を上げたのは、彼の部下の一人である高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)。インスタントラーメンが無理やり咲耶の身体に巻き付き、悪の女幹部風ビキニアーマーの形で身体を覆って乾麺化していく。
「うう……なんでこんな格好を……と、とにかく、3分以内にキメラーメンを退治します!」
 なお、ハデスが咲耶に食べさせた実里とんこつラーメンによって、咲耶は『3分間だけ大きく戦闘力が大きく上がるが、3分経つと乾麺アーマーが(インスタントラーメンなので)ただのラーメンになってしまう』というリスキーな能力を使用できるようになっている。
 ゆえに、彼女が焦るのも無理は無かった。何せ、3分経ってしまえば、ただでさえ人通りの多いこの中心街であられもない姿を晒すことになるのだから。
「怪人ラーメン男さん! ご主人様……じゃなかった、ハデス博士の作った、このインスタントラーメン怪人が相手ですっ!」
 ちゃんと『怪人』と言ってくれるのは、ハデスの言うことを素直に聞くヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)だけだ。ちなみに、乾麺のメイド服も自分で着ていたりする。
 それはともかく、ヘスティアは『自分たちの能力を説明することによって、仲間の麺能力を強化する』という変則系麺能力を使用し、仲間のサポートにかかった。
「私たちは実里さんのラーメンの能力で乾麺鎧を強化しているのです! なお乾麺鎧を装備するには、それ以外の衣服を身に付けないという制約を守る必要があります! ちなみに弱点は……素材が乾麺である以上、食べられてしまうと強制的に武装解除されてしまうという点で――」
 ヘスティアが口上とともに説明していると、その横で悲鳴が上がった。
「オリュンポスの騎士として、平和を脅かすキメラーメンは許せません! ハデス様、我らも正義のために出撃しましょう……って、きゃあっ!」
 その悲鳴の主はハデスの三人目の部下――アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)だ。
「そこまでです、キメラーメン! オリュンポスの騎士アルテミスがお相手します!」
 キメラーメンと遭遇するなり、そう威勢良く啖呵を切って戦いを挑んだアルテミスは、素肌の上に直接乾麺鎧という格好を恥ずかしがりつつも、『乾麺鎧の防御力が上昇する』という、実里しょうゆラーメンで得た能力を活かして前衛に立っていた。
 だが、そんな彼女の計算外だったのは。防具の素材と、相手の攻撃方法だった。キメラーメンの麺を防具で受け止め、その防御力に任せて正面から突撃しようとしたアルテミスは、自分の防具に起きた異変に気付き、悲鳴を上げたのだ。
「その程度の攻撃、効きませんっ! ……って、きゃあっ、乾麺がキメラーメンに食べられてるっ!?」
 防御力が上がっても、やはり素材が乾麺である以上は食べられてはしまうようだ。
 折りしも、丁度アルテミスの防具が食べられた瞬間に、ヘスティアが説明を終えたのは、きっと偶然だろう。そう、きっと偶然に違いない――断じて、ギャグオチを狙ったなどということはない……はずだ。
「ええい! 怯むな! インスタントラーメン怪人たちよ! 地球、パラミタにおいて並ぶものなき我がオリュンポスの科学力を見せつけるのだ!」
 ブラトップを食べられてしまったせいで、片腕で胸を押さえて隠しながらという、片手だけの戦いを強いられるも、何とかオリュンポスの部下たちはドクター・ハデスの指令通り、キメラーメンを殲滅することに成功した。
「流石は我が部下たち、そして、我がオリュンポスの科学力だ!」
 倒されたキメラーメンを満足げに眺めながら、ハデスは頭上に両手を広げると、今までよりも一層芝居がかった所作で口上を述べる。
「フハハハ! オリュンポスの科学は世界一ィィィィィィィィィィッッッッッ!」
 彼が口上を叫んだその瞬間だった。彼の手首でデジタル時計がアラームを鳴らす。
「うむ。どうやら3分経ったようだな。もっとも、我がオリュンポスの科学力を前にはキメラーメン相手など3分も要らなかったようだが」
 満足げにハデスが何度も頷いていると、不意に彼は誰かに肩を叩かれる。勝利の満足感に気持ちよく浸っていた最中ということもあり、最初はそれを無視していたハデスだったが、その誰かはなおもしつこく肩を叩き続ける。
 勝利の満足感に浸るのを邪魔され、若干不機嫌になったハデスは、睨みつけるような目で肩を叩いていた相手を振り返るとともに、糾弾するような口調で言い放つ。
「何者だ! 先程からこのハデスの偉大なる勝利に水を差すとはなんたる無礼! 貴様! 俺を偉大なる秘密結社オリュンポスの幹部と知っての狼藉かァッ!」
 中心街全てに響き渡るような大声で言い放ったハデスは、そこでようやく自分の肩を叩いていた相手が誰であるのか気付いた。
 青い制服に同色の制帽。腰には警防と拳銃が挿され、ベルトに取り付けられたポーチには銀色の輪と鎖――手錠も見て取れる。
「君、あの子たちは未成年だろう? 一体、どういうことか署で説明してもらおうか」
 自分が凄んでしまった相手が国家権力の一員――警察官であることに気付き、ハデスは一瞬硬直する。しかし、ハデスもさるもの。すぐに平伏することなどせず、相変わらずの超然とした物腰を崩さない。
 もっとも、もはや引っ込みが付かないだけかもしれないが。
 警官が指指すと、その先には顔を真っ赤にして蹲った三人の部下の姿があった。3分経って防具がただのラーメンとなってしまったのだろう。そのせいでずり落ちた防具では大事な部分を隠せず、已む無く殆ど裸の状態でその場にうずくまって、何とか上と下の前を隠しているようだった。
 先程からの口上、もとい奇行を見て誰かが通報したのだろう。しかも、警官はたった今駆けつけたようで、部下たち三人が防具を装着している姿も、キメラーメンと戦っている光景も見ていないのだ。即ち、いまひとつ事情を知らないのである。
 そんな状態で現場に駆けつけてみれば、奇行に走る青年と、あられもない姿でうずくまる少女がいたのだ。別に、この警官でなくとも、ハデスに職務質問をしたくなるだろう。
 だが、やはりハデスはハデスで普段の物腰を崩そうとしない。
「あの者たちは我が部下! 貴様にとやかく言われることではない!」
 その剣幕に一瞬、呆気にとられるも、警官はすぐに我に返ると、用心深く警戒するような目つきで、再び問いかけた。
「部下? 何か、集まりみたいなものなの?」
 特におかしいところはない警官からの質問。だが、ハデスは大仰に首を振って肩をすくめると、再び両手を頭上に広げて口上を盛大に言い放った。
「集まり? 集まりだと! 我らが偉大なる秘密結社オリュンポスをそんな低俗な言葉で言い換えないで頂きたいものだッ!」
 超然と言い放ったハデス。だが、警官は意に介した風もなく冷静な所作で、ハデスの肩に置いていた手を彼の右手に移動させると、手首を掴み、更にもう一方の手をベルトポーチに収納された手錠にかける。
「ちょっと署まで」
 その目は本気だった。このまま滅多なことを言い続ければ、間違いなくこの警官はハデスの手首に手錠をかけて、有無を言わさずに連行するだろう。
 この危機を前にハデスの判断は早かった。
「……私設サークルです」
 先程の口上が嘘のように、消え入りそうな小さな声でそう訂正すると、警官もハデスの手と手錠にかけていた手を離して、警察手帳にメモを取る。
「私設サークルね。それで、君の氏名と職業は?」
 だが、ハデスもこれしきのことではめげない。すぐについさっきまでの調子を取り戻すと、再び超然とした物腰で、大仰なポーズと共に口上を述べる。
「フハハハ、我が名は天才科学者、ドクター・ハデス!」
 しかし、やはり警官は冷静にハデスの右手とベルトポーチの手錠に手をかけると、淡々と言う。
「ちょっと署まで」
「……高天原 御雷。大学生です……」
 またも消え入りそうな小さな声で訂正するハデス。すると再び警官は手を離して警察手帳にメモを取る。
「高天原 御雷さん。大学生――と」
 警官が手を離したことで、三度超然とした物腰に戻ったハデスに、警官はなおも質問を浴びせる。
「一応、本籍を聞いておくけど、いいかな?」
 その質問に対し、ハデスは上機嫌であることを思わせる物腰で超然と答えた。
「ほう? 俺の居城について知りたいのか? 本来ならば貴様のごとき俗物など知るに値しないのだが、今日の俺は機嫌が良い。よかろう、特別に教えてやろうではないか。我が居城――オリュンポス・パレスは超越的科学力により建造され、十次元と十一次元の狭間に位置する難攻不落の要塞で――」
 嬉々として語り出したハデス。しかし、警官はそれを全て聞き終えるよりも早く、ハデスの右手と腰の手錠に手をかけた。
「ちょっと署まで」
「……東京都墨田区です……」
 やはり消え入りそうな小さな声でハデスが訂正したのを警官はメモすると、警察手帳を閉じてポケットにしまい、諭すような声音で言った。
「確かに若いうちはやんちゃしたくなるのも解るし、そういうふざけが許されるのも学生の特権みたいなものだけど、あんまりやんちゃしすぎたら駄目だからね。今回は見逃してあげるけど、ほどほどに」
 そう言ってハデスの肩を軽く叩くと、警官は苦笑して去っていった。
 しばらくして周囲からの視線を感じたハデスは慌てて、超然とした物腰を取り繕う。彼に突き刺さる視線が、心なしか『可愛そうな人を見る目』という要素を含んでいる気がしないでもないが、きっと気のせいだろう。
「ん、おほん! さあ、行くぞ! 我が部下たちよ! 貴様らのことだから解っていると思うが、先程は世を忍ぶ仮の氏素性を告げたに過ぎん。あのような矮小な俗人など、相手にするまでもないからな!」
 あえて周囲の通行人たちにも聞こえるように言うと、ハデスはアルテミスを鎧として纏い、咲耶には白衣を、ヘスティアにはボタンシャツを貸して、その場をそそくさと立ち去ったのだった。