イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

【重層世界のフェアリーテイル】オベリスクを奪取せよ!(後編)

リアクション公開中!

【重層世界のフェアリーテイル】オベリスクを奪取せよ!(後編)

リアクション

 ――、と一筋の閃光が靄を消し飛ばし、ロボットの巨体に大穴を開けた。
〈なん……だとぉっ!〉
 ハルが驚く。
 彼方から、フィーニクスが飛来する。
 マシュー機と随伴するテレジア機だ。
“遅いわよ! マシュー・アーノルド!”
 シヴァがうれしそうな声で文句を言う。
“皆よく戦ってくれた! もう少しだ、これで止めを刺すぞ!”
“しかし、中将。もう『ハルパー』の侵食率が限界です。一撃で、統括ナノマシンを壊さないといけません。ですが――”
 その場所がわからない。
“敵もその重要性をわかっているはずよ。コントロールの要なら、絶対に手放さいはず”
 そう千鶴が考える。
“なら、敵の本体が持っているってことよね”
 とマキナが結論に至る。つまり、ハルが統括ナノマシンを持っていることに成る。そして、ハルはあの巨人の中のどこかにいる。
“敵のコアをあぶり出すしかないな。皆やってくれるか!?”
 中将が皆に尋ねる。皆は無言で頷く。
 「敵本体への接近ルート構築。直接攻撃にいけるぞ!」
 エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が敵機の攻撃箇所からデータを解析し、攻撃の死角を割り出す。
「もしもの時は、ナノマシンの侵食をかたがわりします。相手は巨大です」
 プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)の言葉に紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が頷く。
「ああ、強力な攻撃で叩かないと、な! ザインリッター《加速》!」
 【空烈刀】を構えて加速する。
「唯斗に続くぞ! 風花! 全員にザインリッターの収集データを共有させろ!」
「各機にデータ送信しますぇ」
 データが共有化され、敵へと接近する道が示される。
〈やらせないんだからね!〉
 敵もビーム掃射でそれを拒む。
 バイヴ・カハがビームシールドと《フォースフィールド》でそれを阻む。
“今のうちにいけ!”
“マシュー教官はこの鬼羅様守るぜ!”
 鬼羅がマシュー機を狙った攻撃を妨害する。
“ミネシア。完全適合者のチカラ見せて上げるんです!”
“任せて!”
 ミネシアがBMIのシンクロ率を一気に引き上げ、シフが《テクノパシー》と《サイコキネシス》で巨人の行動を抑えこむ。
“今だ、ユイト、シオン!”
 コアの掛け声と共に、三体のイコンが【空烈刀】による同時攻撃が繰り出される。
「彗星! 一刀、両断切り!!」
 三体同時の攻撃に巨人の装甲が大きく割かれ、裂け目の中にハルの姿写った。
“そこだな!”
 マシューが『ハルパー』を構える。
〈そうはいかない!〉
 『ハルパー』の分解波が発射されるよりも早く、ハルが打って出た。
 ハルは『ハルパー』の侵食ナノマシンを内包した構造に気づいていた。そう、『ハルパー』の中に自分の操れるモノがあることを。
 『ハルパー』内のナノマシンが暴走し、侵食率が限界突破する。
 フィーニクス試作型への侵食が開始される。
“くそ、これは!”
〈馬鹿だね。わざわざ私の操れるものこさえて来るんだから!〉
「中将危険です! あなただけでも脱出してください! このまま『ハルパー』を使えば、中将はナノマシンに侵食されます。私なら――」
「私なら、大丈夫と? その命令は聞けないな」
 マシューは脱出用のレバーを引く。それはサブパイロットを脱出させるものだ。
「残念だが、私は部下を見捨てられる人間ではない。たとえそれが、心を持ったアンドロイドでもな」
 キャンピーが開き、アセトが射出される。
「中将!」
 アセトの声が空に掻き消える。
「それに残念だが、もう侵食は始まっているんだよ……」
 ここに来て一発目。その時には機体の侵食が始まっていた。マシューの片足が爪先から消えて行く。
 フィーニクスがハル目掛けて駆る。
「行くぞ! 我はミネルヴァの盾、そしてその矛だ!」
 決死の覚悟でマシューが突撃する。
 『ハルパー』が発射される。
 同時に――。
〈!〉
 巨人を『ハルパー』の光線が貫く。巨人は大穴を空け、流砂のように崩れていく。
 同時にオリュンズ郊外でもドールズたちが制御を失い、落ちていく。
 そして、フィーニクス試作型も。
「死なせないわ! マシュー・アーノルド」
 半分消失したフィーニクス試作型にシヴァが冷凍ビームを撃った。中のパイロットも侵食を受けて死にかけている。マシューを死なせまいと。
「勝ったのですか」
 と真人の疑問に答えが帰ってくる。
〈いいえ、まだよ〉
 地面に突き刺さる『ハルパー』の音と共に、黒いフィーニクスが現れる。
〈危なかった。まさか死ぬ気で撃つなんて。でも、残念。『OD-01』の最後の演算力で量子テレポートしたおかげでどうにかなったわ。再構築にはこの機体構造を模倣させてもらったけど〉
 その黒いフィーニクスは黒い靄の、ナノマシンのカタマリだった。周りにナノマシンが揺らめく。まだ統括ナノマシンが生きているのだ。
〈『OD-10』もなくなちゃって、これだけしかナノマシンを操れないけど、もう関係ないかな? わたしが直接このままRAR.を壊しに行けばいいし。ジャーね!〉
 黒いフィーニクスが超加速する。
 だが――
「そうはさせるかよ!」
「鬼羅ちゃん!?」
 『ハルパー』を拾って、鬼羅が黒いフィーニクスに組み付く。
「教官のためにも、このままてめぇをオリュンズに行かせてたまるか!」
 黒いフィーニクスを自分のフィーニクスごと『ハルパー』で貫く。もともと、剣としても使えるよう設計されていたそれは二機を串刺しにする。
「すまねぇリョシカ。このままこいつごと『ハルパー』で吹き飛ばすぞ!」
「何言うてるねん。鬼羅ちゃんが命かけるなら自分も運命共同体や!」
 二人は死ぬのを覚悟する。引き金を引いたら、侵食率の限界を超えた『ハルパー』がどうなるか分からない。
 それでも引き金を引く。
 だが、引き金が消えていた。
〈引き金を侵食で消させてもらったわ! あなた達もわたしに取り込まれなさい!〉
 ハルが鬼羅のフィーニクスを取り込もうとする。
“まだだ、鬼羅! まだ諦めるな!”
 バイヴ・カハが二機めがけて飛来する。そして、二機を貫く『ハルパー』に手を掛けた。
“真司!?”
“《テクノパシー》で『ハルパー』を起動させる! おまえはそのままこいつを抑えていろ! いくぞヴェルリア!”
“ええ! BMIシンクロ率最大!”
 なくなった引き金を引くため、《テクノパシー》で『ハルパー』のプログラムに干渉する。
〈やらせない! 絶対に!〉
 ハルもナノマシンで『ハルパー』の内部構造を分解して対抗する。
 シンクロ率が88、89,90%を突破。更に上がる。
 
 98,99、99.9999999999999999999999999999