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クリスマスの魔法

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クリスマスの魔法
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 イルミネーションを見に行きませんか、とパートナーに誘われ、神崎 優(かんざき・ゆう)は公園へやってきている。
 隣を歩いているのは、陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)だ。
 ふたりきりで出かけるというのは、あまりないことだ。けれど、誘ってきた時の真剣な顔が気になって、了承した。
「あの……」
 公園に入る直前、刹那が細い声で優を呼び止める。
「手を、繋いでもらえませんか」
「手? ……別にいいけど」
 確かに公園内はかなりの人出がある。はぐれても困るので、手を繋ぐというのは自然な選択に思えた。
 優はほら、と右手を差し出す。
 それをぎゅっと握って、刹那は一歩、優の近くへと距離を詰める。
 それから二人はゆっくりと公園の中へと入っていった。
 公園内は色とりどりの電飾で彩られていて、散歩しているだけで目を楽しませてくれる。
「綺麗、ですね」
「そうだな。ここまで徹底的にやってあると、見応えがある」
 優は穏やかに言って、辺りを見渡す。
 公園中の木という木に張り巡らされた電飾が織りなす幻想的な世界をゆっくりと楽しんでから、二人は公園の西側で足を止めた。
「優……話したいことが、あります」
 思い詰めた表情で、刹那が切り出す。
 そして、ごそごそと鞄を漁り、中から小さな包みを取り出すと、優に向かって差し出す。
「これ、クリスマスプレゼントです」
「あ、ああ……ありがとう」
 差し出されたそれを受け取ろうと手を伸ばした優の首に、刹那がぱっと抱きつく。
 そして、そのまま顔を寄せると、優の唇にそっと、触れた。
「……私、私の心を救ってくれたあのときから、優のことが……好きでした」
 震える声で言うと、刹那はそっと優から離れる。
「優が……零の事を想っているのは、知っています。それでも……この想いは、伝えたかったから……」
 俯いて、瞳に涙を溜めて、刹那はなんとか自分の思いを口にする。
 優が、今はもう妻となった人を心から大切にしていることは、よく分かっている。けれど、心に秘めたままで居ることは、刹那にはできなかった。
「好きです、優」
 刹那はそう言うと、顔を上げてまっすぐに優の瞳を見つめる。
 優はあまりに突然のことに、呆然とした様子で、顔を真っ赤にして刹那の顔を見ていた。
 けれど、優はすまなそうに後ろ頭に手を遣る。
「ゴメン。刹那の気持ちは嬉しいが、俺が心から愛してるのは、零だけなんだ。だから――零以外と、付き合うことはできない」
 優の想いは、あまりに一途だった。
 そこに刹那が割り込む隙間は無い。
 それを思い知らされて、刹那の目に溜まった涙がつ、とこぼれ落ちる。
「……俺にできるのは、これくらいだ」
 そんな刹那のおでこに、優がそっと、唇で触れた。
 そして、刹那の両耳に小さなイヤリングを付けてやる。
「あ、あの、これは……」
「俺の――大切なパートナーに、クリスマスプレゼントだ」
 髪の色に合わせた、クリスタルで出来た小さなクローバーが刹那の耳元で揺れる。
 思いがけない出来事に、刹那の涙がぴたりと止まった。
 それから、顔が真っ赤になり、口元を両手で覆う。
 再びこぼれそうになる涙をこらえて、刹那は優に抱きついた。その顔には、満面の笑顔が浮かんでいる。
「これからも、優のパートナーとして……傍に、居させて下さい」
 刹那の言葉に優もこくりと頷いた。
 暫くそのまま抱きついていたけれど、やがて二人は再び手を繋いで家路へとつくのだった。


■■■

 窓から冬の朝の日差しが差し込んでくる。
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は、布団の中でゆっくりと覚醒した。
 今日は久々の休暇。そうだ、クリスマスイベントをやっているという公園に行こうと思っていたんだっけ――
 そう思い出してからの、セレンフィリティの行動は素早かった。
 布団を蹴飛ばして起き上がると、隣で眠っている恋人、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)をたたき起こす。
「起きてセレアナ! 今日はクリスマスデートの約束じゃない!」
 一糸まとわぬ格好のまま眠っていたセレアナは――セレンフィリティもだが――、いきなり布団をはぎ取られて、寒そうに丸くなる。けれど、ベッドのスプリングをばいんばいんと跳ねさせながら出かけようよと騒ぐセレンフィリティの前に、渋々上半身を起こす。
 今日はデートだから、いつもの制服(※彼女達の場合、制服とは水着に上着を羽織った格好を指す)ではなくて、ごく普通の女の子らしい格好。少しおめかしをして、手を繋いで家を出た。
 目当ては、空京にある公園。
 イベントなどで何度か遊びに来たことがあるが、今日はまた一段と様子が違っていた。クリスマスの飾り付けがそこかしこになされ、いつも出ている露店はその数を大幅に増して、さながら本場のクリスマス市だ。
「お、やってるやってる!」
「ちょっと、あんまり引っ張らないでよ」
 手を繋いだまま走りださんばかりの勢いのセレンフィリティに少し呆れながらも、セレアナは楽しそうにその後をついて行く。
 二人で露店を冷やかしながら雑貨やアクセサリーを眺め、おなかが空いたら露店のお菓子や軽食をつまんで。
 お祭り気分で、楽しいひとときを過ごす。
 やがて、冬の短い日は傾いてきて、イルミネーションに光が入り始めた。
「ねえ、雪を見に行こうよ」
 中央広場では、人工の雪が見られるらしい。
 二人はホットココアを片手に公園の中央を目指して丘を登る。
「うわぁ……」
 広場に着くと視界が開け、ちらちらと舞い落ちている雪が目に入る。
 イルミネーションの光に照らされて色とりどりに輝く雪は、とても幻想的だ。
 二人は思わず言葉少なに、手を繋いだまま辺りをふらふらと移動する。
 こうしていると、去年のクリスマスの事が思い出される。
 去年も同じように、二人でクリスマスを過ごして居たっけ。
 こんな穏やかな時間の中では、いつまでも変わらない様な気がしてしまうけれど、二人はシャンバラ国軍の軍人だ。
 いつ、「死が二人を分かつ」かも分からない。
 そう思うと、自然と繋いでいる手に力が入る。
 二人とも何も言わないけれど、思っていることは同じなのかもしれない。
 ふとセレアナの顔を見る。
 するとどちらからとも無く、吸い寄せられる様に二人の距離がゼロまで縮まる。
 固く抱きしめ合って、互いの存在を確かめ合う。
 離れがたい想いが、胸一杯に広がる。
「セレアナ……あたし、セレアナと離れたくない……」
 なぜか瞳に涙が浮かぶ。
 これから死出の旅に出ようという訳では無い。明日も待っているのはいつもと変わらない、一般人よりは少し危険が多いけれど、二人に取っては日常のはず。
 頭の、どこか冷静なところでは分かっているはずなのに。
 セレンフィリティはセレアナの首筋に頭を埋める。
 それを受け止め、セレアナはパートナーの頭をよしよしと撫でる。
「……私もよ、セレン。あなたとは、離れたくない……」
 それだけ言うと、セレンフィリティの頭に頬を寄せた。
 それを合図に、セレンフィリティはゆっくりと顔を上げる。
 自然に、二人の唇が重なった。