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クリスマスの魔法

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クリスマスの魔法
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 コルネリア・バンデグリフト(こるねりあ・ばんでぐりふと)は、メイドである森田 美奈子(もりた・みなこ)アイリーン・ガリソン(あいりーん・がりそん)を伴って公園を訪れていた。
 雪景色を楽しむついでに、クリスマス市で買い物をするという予定で、美奈子とアイリーンはそのお付きとして連れてきている。
 しかし、コルネリアの本意は別のところにある。
 最近、この公園を訪れた同性の人たちは仲良くなれる、という噂が立っている。それを聞きつけたコルネリアは、日頃いまいち仲の悪い美奈子とアイリーンが、その効果で仲良くなってはくれないかと思い、二人をこの公園へと連れてきたのだ。
 噂に寄れば、その効果があるのは中央広場の人工雪。
 イルミネーションが点って人が多くなる前に、とか言い訳をして、真っ先に中央広場を訪れた。
「綺麗ですわね」
「そうですね」
 コルネリアの言葉に返事をしながら、美奈子はせわしなく瞳を動かして辺りの様子を探っている。
 ……妙に、同性のカップルが多いのだ。
 これは、撮りたい。
 盗撮癖というあまり褒められた趣味では無い癖の持ち主である美奈子は、そわそわと落ち着かない。
 けれど主の手前、勝手な行動を取るわけには行かない――
「アイリーン、私は少々、お手洗いに。すぐ戻りますわ」
と思った直後、その主が席を外した。
 いかなメイドとはいえ、トイレに行くという主の後をついて行くというのはいささかデリカシーに欠けよう。分かりましたとアイリーンが答え、美奈子が見えなくなると――
「神様ありがとう」
 口の中で呟いて、美奈子はどこからともなくデジカメを取り出した。
 そして、辺りでいちゃつく女性同士のカップルに狙いを定めてシャッターを切り始める。遠くからそっと、見つからないように。
 美奈子の去った方向をいつまでも見つめているアイリーンがちょっと邪魔だ。
 そう思って一度ファインダーから顔を上げた。
 アイリーンの横顔が目に入る。
――アイリーンって、見た目は悪くないですよね。
 不意にそう思った。
 なぜかはよく分からないけれど、唐突に。
――身長が高すぎるのと、胸がもっとフラットだったら尚良いんですが。あと、黙っていれば。
 ぼんやりとそんなことを考えているウチに、手元が勝手にアイリーンに向けてシャッターを切る。
 カチ、というほんのわずかなシャッターの音に、アイリーンが振り向いた。
「何をしているのです」
「え、あ」
 冷たい目でこちらを見ているアイリーンに、美奈子は手元のカメラを後ろ手に隠す。
「どうせろくでもない事でしょう。カメラを出しなさい」
 鋭く見抜いたアイリーンは、ずいっと美奈子に向けて手を差し出す。
 抵抗は無駄と判断したか、美奈子はおとなしくカメラを渡した。
 と、その拍子に、アイリーンは美奈子の髪から覚えのある香りがすることに気づいた。
「これは……お嬢様の整髪料の香り……くすねましたね?」
 主のものに手を出すなんて、とんでもないことだ。
 アイリーンは険しい顔で美奈子を見据える。
「本当にあなたはいけない子です。他にも何か隠しているかもしれませんね」
「そ、そんなことないですって」
 慌てる美奈子を捕まえて、アイリーンはぱんぱんと美奈子の全身を確かめるように触れていく。
 距離が近い。
 ボディーチェックをされるのはいつもの事なのに、今日はなんだか落ち着かない。美奈子は顔を赤くして、アイリーンを見つめる。
「何を見ているのですか……」
「えっ、いや、別に!」
 自分でもなぜそんな風になってしまうのか分からなくて、美奈子の声が裏返る。
 まったく、とアイリーンがため息を吐いた、その時。
「遅くなって、すみません」
 コルネリアがトイレから戻ってきた。
「何か、ありましたか?」
 二人の様子が変わっていたので問いかけてみる。けれど、二人とも何でもありません、と口を揃えた。
 けれど、何かあったのは間違いないだろう。二人の様子が少し違う。
 何かしら連れてきた効果はあっただろうか、と思いながら、コルネリアは二人を促してクリスマス市へとむかうのだった。


■■■


 リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)は、ぶらぶらと公園内を散歩していた。
 パートナー達はなにやら二人の世界を楽しんでいる。公園の様子を見学しようと思って着いてきたは良いけれど、やることもない。
 植物にイルミネーションが取り付けられて、祀られている姿はなかなか見ていて気持ちが良い。
――なんか、今日は男同士、女同士が多い気がするんだけれど? 動物共もようやく、私たち植物に近づいてきたってことなのかしらね!
 その、イルミネーションの下には多くのカップル達が手を取り合っているけれど、リリアの言うとおり男性同士、女性同士の、普段はあまりお目に掛からないカップルが多い。
 植物は雌雄同体も多いので、あまりその辺りは気にしない。
 そんなことを考えながら、公園をふらふらして居たところへ。
 どん。
 小さな音がして、衝撃が来た。
 倒れ込むほどでは無かったけれど、一瞬バランスを崩し、ぶつかった相手ともつれ合う。
「あっ、あの……ごめんなさい……私……」
 相手を見ようとすると、こちらが申し訳なくなるほど申し訳なさそうな声で謝っている少女が、自分に抱きついていた。
 どうやら、ぶつかった拍子にお互いを支え合った結果、抱き合う格好になってしまったようだ。
「大丈夫よぅ、気にしないで」
 はたはたと気軽に手を振ってやると、ぶつかった少女――白石 忍(しろいし・しのぶ)はそのままの姿勢でこくりと頷く。
「ンでも、出来たらちょっと離れてくれるかしら?」
 ぶつかられた事は気にしていないが、なぜか抱きつかれたまま、というのは少々気になる。
 しかし少女は、ぎゅうとリリアに抱きついたまま離れようとしない。
「あ、あの……ご、ごめんなさい……私……」
 自分でもどうしたら良いのか分からない、という様子で、忍は抱きつく手に力を込める。
 花の香りだろうか、良い匂いが鼻をくすぐる。
「そ、その……できたら、も、もう少し…一緒に……」
 忍は、抑えられない気持ちを自分でもどうしたら良いのか分からないまま、リリアの胸に顔を埋める。
 薬の効果が切れて忍が落ち着くまで、二人はその姿勢のまま抱き合って居たのだった。