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【ニルヴァーナへの道】泣き叫ぶ子犬たち

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【ニルヴァーナへの道】泣き叫ぶ子犬たち

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第八章 楽園震撼! 追いかけっことガチバトル!? 2

 さて、そんな追いかけっこのような微笑ましい(?)バトルだけでなく、実はあんまり微笑ましくないバトルも勃発していた。

「これっ、テノーリオ、放しなさい! この縄をほどきなさい!」
 なぜか縄でがんじがらめにされているのは、魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)
 もちろん、彼がこんな仕打ちを受けているのには、当然それなりの理由があったりするのである。
「こんなに豊富な食材を目の前にして、何もできないとは……この魯粛、一生の不覚!」

 ……食材?
 そう、勘のいい方はもうおわかりだろう……彼の言う「食材」とは、もちろんここにいる子犬たちのことである。
「羊頭狗肉」という四字熟語があることからもわかるように、中国、特に古代中国において、犬食文化はわりとメジャーなのである。

「四足で食べない物は机だけ、とか聞くけど、その線引きの仕方だったら、オレが獣化したときもヤバいじゃねぇか」
 そう言ってため息をついたのはテノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)
 今回はイコンに乗らないため、魯粛とともに子犬の護衛に回るはずだったのだが……何の因果か、その魯粛「から」子犬を守ることになってしまったのである。

「いつも通り、ちゃんと料理してあげますから! だからこの縄をほどきなさい!」
「いや、だから、そうじゃなくて……」

 とはいえ、これはこれで難しい問題ではある。
 どこからが「食べていいもの」で、どこからが「食べてはいけないもの」なのか、という線引きは、極めて文化的な要素を強く含むが故に、自分の判断、すなわち自分が属する文化圏の基準が絶対であるとは言い切れないし、また言い切ってはならない問題だからだ。

 ……と、そんな風に小難しく考えることもできるのだが。
 少なくともテノーリオの立場からすると、やはり魯粛に子犬を料理させるわけにはいかない。
 そもそも子犬を守りにきたわけであるし、一応この子犬はゲルバッキーのものであるし……何より、「かわいいもの好き」が集まるこの場においていきなり子犬料理など始めようものなら、社会的にも、それ以外の意味でも抹殺されかねない。

「先生! 食欲に負けちゃダメだ!!」
 そんなテノーリオの声は、思いは、しかし、魯粛には届かない。
「負けませんよ、縛られていようと!!」
 そう叫ぶや否や、サイコキネシスで愛用の槍を操り、自身を戒めていた縄を切断する魯粛。
「な……先生っ! とりあえずここに用意した新巻鮭で我慢してください!!」
「できません! 魚類を捌くのはここのところ飽きました!!」
 最後の切り札としてなぜか用意していた新巻鮭も不発に終わり、やむなくテノーリオは魯粛と戦う覚悟を固めた。
「む……来るのですか、テノーリオ!」
「先生、オレは先生が憎くて戦うんじゃない! オレが戦うのは、先生の『食欲』とだっ!!」

 かくして、二人の不毛なバトルの第二幕が幕を開けてしまったのであった。